リボルト#08 飛び散る火花たち Part9 しかと見よ、このチップの威力を!
扉の先にあるのは、スタジアムほどじゃないが、体育館に比べるとかなり大きな空間だった。バスケットボール場のような広いスペースや、様々な機材が備わっているジム、そして奥のほうに訓練用のブースまで並んでいる! ますます本格的になってきたな、こりゃ。
他のみんなもこの場所の凄さに驚いたのだろうか、目を見開いて周りを見渡している。
「なんだこれは……トレーニングルームにいしては凄すぎだろう! 一体どれだけお金と時間がかかるんだよ!」
ハイテンションの聡は、いちいちリアクションが大きすぎて、その声が広い空間の中でこだまする。
「うふふっ、ここならライブをやってみるのも悪くないかもしれませんね」
笑顔を浮かべている冴香は、アイドル魂を燃やして大好きな歌をもう一度響かせようとしている。
「はいはい、ビックリするのはこれぐらいにして、これからはもっと凄いものを見せちゃうんだから、ついてきなさいよ!」
仰天している仲間たちを余所に、とっくに広いスペースの奥まで行った十守先輩は手を叩きながら俺たちに呼びかける。 ああ、そういえばユーシアのチップの威力を確認するんだったな。トレーニングルームの凄さのせいで、すっかり忘れちまったぜ。
というわけで、俺たちは十守先輩のいるところに近付き、彼女の前にいると足を止める。
「さて、ユーシアちゃん、あなたの新技はどれほどの威力か、ここで見せてちょうだい。でも、まだ初めてだし、下手したら他の新人くんたちを撃っちゃうかもしれないから、もう少し前に出てきてもらえるかしら?」
「はっ、はい!」
十守先輩の指示を受け、ユーシアはぎこちなく前に進む。まだ歩くことに慣れていないその足は、何度も地面を踏み外して横にズレてしまい、いかにも転びそうな予感だ。見ているこっちがヒヤヒヤするぜ。
そんな彼女を見守っていて約3分後、ついに彼女は俺たちから離れた場所で体勢を整えて、待機する準備に入った。
「よーし、どうやら準備ができたみたいね。それじゃ秀和くん、さっき碧ちゃんからもらったチップを、ポケット・パートナーのスロットに入れてみなさい」
十守先輩は俺に声をかけ、これからやるべきことを教えた。しかしスロットが多すぎて、ざっと見ただけでも5つぐらいがある。どれに入れればいいか迷っちまうぜ。とりあえず、俺は左側にある、「LH」と書かれているスロットにチップを入れてみた。
すると、信じられない光景が目の前に起きた。なんとユーシアの左手から白い光が放ち、そして大きな爆発音と共に空気が激しく揺れる。静かなトレーニングルームが、吹き荒ぶ一陣の風に乱される。
「すげえな、おい……俺の『千里の一本槍』といい勝負になりそうだぜ」
ユーシアのその超人的な技をこの目で確かめた俺は、興奮した気持ちが一時収まらなかった。
「何今の!? こっちまでに風が吹いてきたよ! ああ、見入っちゃてて写真を撮るの忘れちゃった~!」
感情豊かな菜摘も、興奮した気持ちが抑え切れずに、ビックリしっぱなしだ。両手でデジカメを構えてこの奇跡の瞬間を写真に収めようとするも、ユーシアは既に衝撃波を撃ってしまった。
「やりましたね、碧さん! 『衝撃波爆撃』が大成功であります!」
その威力の強さに満足しているのか、可奈子は高く跳ね上がった後、側に立っている碧をぎゅっと抱き締めた。
「ほほーう、これはなかなかの出来ですね。ですが、まだまだ伸ばせる余地がありそうです」
可奈子にキツく抱き締められながらも、目の前の目覚ましい成果にすっかり心を奪われた碧は手をあごに当て、目線を変えずにまっすぐ見ているとドヤ顔を見せる。
「ふむふむ、なかなかやるわねユーシアちゃん……あっ、もう戻っていいわよ~」
「はっ、はい!」
もはや何をすればいいのかも分からず、ユーシアはただ大声で返事をして、言われるがままに行動を繰り返しているだけだ。まあ、まだ新生児だから仕方がないか。
そういえば、さっきチップを左側のスロットに入れたら左手から衝撃波が出てきたけど、じゃあ右側のスロットに入れれば右手から出るということになるな……となると、この上にある「H」のスロットはなんだ?
好奇心に駆られて俺はチップをそれに入れてみたが、次の瞬間にとんでもないことが起きちまった。
なんと今度はユーシアの口が白く光り、そこから出てくる衝撃波の反作用でユーシアの体が奥の壁に向かって飛んでいった! もちろん強風もそのまま吹いてきて、俺たちに襲いかかる。間一髪で俺たちは両側に体を伏せて、何とかこの危機を凌いだ。
……なるほど、「H」は「頭」の意味か。これでやっと納得したぜ。
「おい、急に何をすんだよ! オレたちを殺す気か!」
聡は不機嫌になって、俺の不注意をたしなめた。まあ、無理もないか。
「わりぃ、こいつの機能が色々凄すぎて、つい夢中になっちまったぜ」
「気持ちは分かるけどよ、そんなの自分の部屋に戻ってやれよ!」
機械が大好きな聡は一度フォローしてくれたものの、性格の荒い彼はさすがに焦りを隠せなかったようだ。
「おお、今のバッチリ撮れた! 私ってもしかして撮影の才能があるかも~」
シャッターチャンスを無事に手にしたのか、菜摘は伏せているままで嬉しそうにデジカメを見つめている。緊張感なさすぎだろう、おい。
「これで分かったかしら? 違うスロットにチップを入れると、そのスロットに対応した部位からチップの機能を果たすのよ」
安全地帯にいる靄は、爽やかに髪を掻き上げると、俺をからかうかのようにクスッと笑っている。
「じゃあ、この下の『LF』か『RF』にこいつを入れると、どうなるんだ? 足から衝撃波が噴出してスーパーマンみたいに飛び回るのか?」
「さあ、どうなるかしらね? もう一度試してみたら?」
「やめとくぜ。あんまりやりすぎるとユーシアが可哀想だ」
靄の悪知恵を見破った俺は、彼女のバッドアイデアを一蹴した。
「あら、案外優しい一面があるのね。とてもその不良そうな顔から想像できないわ」
「……君も、随分と失礼な言い方をしてくれたものだな」
靄の余計なコメントを聞いた俺は、額から何かが浮き上がるような気がする。
「うう……口の中がヒリヒリします」
そして一番の被害者であるユーシアは、ふらついた足取りで俺たちの方に近付いてくる。
「だ、大丈夫か、ユーシア?」
そんな辛そうな彼女を見ていると、俺の心は申し訳ない気持ちでいっぱいになる。それでも俺は彼女に心配をかけないように、無理して笑顔を作った。
「だ、大丈夫ですマスター! ちょっと口が激辛の麻婆豆腐を食べた気分になっただけです!」
「キツいジョークだぜ」
おいおい、何だよその余裕たっぷりの返事は。心配した俺はバカだったぜ。
「さ~て、悪ふざけはそれぐらいにして、そろそろ本番と行こうかしら」
十守先輩はゆっくりとこっちに歩いてきて、何やら意味深なことを言った。
「本番? 何のことですか、先輩」
「そりゃ、資質の修行に決まってるでしょう! 他の仲間たちも資質が使えるって、君もさっき自分で言ったじゃない」
「あっ、そう言えばそうでしたね」
「それじゃ、さっさと訓練ブースに行くわよ! ささ、『善は急げ』っていうでしょう」
そう言うと、十守先輩は歩くスピードを上げて、何かを期待しているかのように歌を口ずさんでいる。その様子は、まるで新しく発売された洋服が飾られているショーウィンドウに向かっていく、ごく普通の女子高生みたいだ。
……何でそんなに喜んでるんだろう。資質を習得する人は先輩じゃないのに。あっ、もしかして逆に教えてるのが楽しみでしょうがないのかな?
まあ、正直なところ、これから共に戦場に赴く戦友たちがどんな凄い能力を身に付けるのか、リーダーの俺としては実に興味深いことだぜ。
そんな熱い思いを胸に、俺も先輩の後に付いていく。ここから先が起こる奇跡を、密かに楽しみにしながら。
次回予告
聡「やったぜ! ついにオレたちもあのすんげー資質を習得して、あの生意気な野郎どもに返り討ちにしてやれるぜ!」
広多「そう舞い上がるな。あれだけ強力な能力だ、そう簡単に身に付けられるとは思えん」
聡「や、やってみねーと分かんねーだろう!」
広多「その根性論で無駄骨を折るつもりか? 努力すれば結果が出てくるとは限らないぞ」
聡「じゃあ、アイツらにやられっぱなしでいいのか! おまえは悔しくねーのか!」
広多「ふん、滑稽至極だ。お前が一々そうやって表情を顔に出すから馬鹿にされるんだ」
聡「ムカつく野郎だぜ……アイツらを始末する前に、まずはおまえからぶっ潰す……」
広多「俺のこの大鎌に挑む気か?」
聡「うわっ! あぶねーじゃねーか!」
広多「なんだ、まだ始まってもないのに怯えているとは……所詮お前もその程度だな」
聡「秀和! 頼むからアイツを黙らせてくれ!」
広多「今度は他力本願か……まったく情けない奴だな」
聡「ぐぬぬ……もう限界だぞ! うおおおおおおおおお!!!」
広多「くっ……何だこれは!?」
茉莉愛「おや!? 聡の様子が……」
秀和「とんでもねえオーラだぜ、これ……! これでやっとあいつらに対抗できる能力が……」
聡「ふう、スッキリしたぜ」
直己「結局ただのオナラかよ!? 何という最悪なオチだ~!!」




