リボルト#08 飛び散る火花たち Part8 その名は「ユーシア」
目映い光は更に激しく頻繁に閃き、その明るさの前で俺たちは瞼を閉じざるを得なかった。
そしてビューと大きな音が響いた後に、しばらくすると女の子の声が聞こえる。
「ん……んんっ……ここは、どこ……?」
長い眠りから目が覚めたのか、女の子の声がぼんやりしている。新しい仲間は一体どんな姿なのかを知るべく、俺たちは恐る恐ると少しずつ目を開ける。
そして俺たちは、とんでもない光景を目撃した。
なんとそこにいるのは、ライム色のセミロング髪と幼くかわいい顔立ちをしている女の子だった。見た目は……十四、五歳といったところか。プログラムとはいえ、すげえクォリティーだな、これ。
って、そんなことより裸じゃねえか! 服はどうしたんだよ!
羞恥心と驚愕で身を震わせている俺たちは、思わず慌てる。それでユーシアも気付いたのか、頭を下げて自分の一糸纏わぬ体を目にしてしまう。
「ひゃあっ! な、なんで私はスッポンポンなんですかぁ~!?」
自分のあられもない姿を見て、ユーシアは慌てて自分の手で大事な部分を隠す。傍らで見ている直己は、女の子の瑞々しい体に目がないためじっと見つめて堪能しようとするが、早くも名雪のハリセンで張り倒された。
「ほら、これで少し我慢してね、ユーシアちゃん!」
「あ、ありがとうございます!」
その時に菜摘は機転を利かせて、自分の腰に巻いてあるカーディガンを外してユーシアに被せた。サバイバルバトルの時で、俺が服を貸してやったことを思い出したのか。まさかここで経験を活かすことになるとはな。
「あら、何を慌てているの? 生まれたばかりの子供が、服を着てないのは普通でしょう。それに男子って、結構こういうの好きそうだし」
開発者の一人である靄は、ウフフと笑い声を漏らしながら、意味深にウインクをしている。
けどさ、さすがにその理屈はおかしいだろう! プログラムなんだから、服を着せてやることぐらいはできるはずだろう! そこまでリアリティーを演出する必要があるか?
「ふっふっふ、ワタシの今までの豊富な知識によると、女の子のはずかしぃ~姿ほど、男子の妄想を煽り立てるものはないですからねー! やっぱり効きましたね、今のサプライズ!」
そしてもう一人の茉莉愛も、まるで凄い定理でも発見したかのように自慢げに言っている。お前ら一体何がしたいんだよ。
「まあ、こういうこともあろうかと思って、予め色んな服装のプログラムを用意しておいたわ。メニュー画面を開いてみて。そこに『Costume』って書いてあるでしょう? そこからこの子に着替えすることができるのよ」
靄の指示に従って、俺はメニューからコスチュームの変装画面に入った。すると一番上に、「Equipment:Naked」と書かれている。なるほど、赤裸々ね……思わず苦笑したぜ。
さてっと、この可哀想な新生児に、何か服を着せてあげないとな。
って、ビキニ、バニーガール、レースクイーン、ナース……なんでこんなマニアックなものばっかなんだよ! これじゃ全裸より恥ずかしいだろう! それにこんな大勢の前でやると、俺は直己みたいに変な性癖があると思われるかもしれねえし!
「どうしたのですか、秀和君? 早くユーシアさんに何か着せてあげてください!」
「そうだよ、秀和くん! 風邪を引いちゃうかもしれないし!」
「くっ、今やってるから、そう急かすな!」
ああ、まったく! こんな時に俺を追い詰めないでくれよ! それにプログラムは風邪を引かないだろう!?
くそっ、こうなったら一番マトモな服を……あった!
俺は本能に身を任せて、何も考えずにスクリーンを押した。するとユーシアの白い肌が緑色に光り、あっという間に彼女の体が紺色のシスターのドレスに包まれていた。
この緊急事態が収まったことにより、俺たちはやっとふうと胸を撫で下ろした。
「どう? 新しい仲間の誕生にドキドキしたでしょう?」
「ああ、色々違う意味でな」
靄の笑えないジョークに、俺は顔の筋肉を引きずりながらそう答えた。
しばらくすると、ユーシアは千恵子と菜摘に支えられながら、ぎこちなく立ち上がった。続いて彼女は敬礼し、自己紹介を始めた。
「え、えっと、皆さん初めまして! 真実の標所属ぽ、ポケット・パートナー、ユー……ユーシアと申します! ほ、本日より皆さんの仲間の一員として、頑張りたいと存じます! あの、まだまだ未熟者ですが、何卒宜しくお願いします!」
緊張しているせいか、まるで忘れかけている原稿を必死に思い出すように、ユーシアはどもりながらもなんとか自己紹介を終えた。そんな健気な彼女を見ていると、俺たちは拍手せずにいられなかった。
「……ところで、私のマスターはどちら様でしょうか?」
大勢の前でまだ少し上がっている彼女は、自分の運命の相手を探そうとキョロキョロしている。俺は何も答えず、ただ黙って自分を指さした。
「えっと……あなたは、私のマスター?」
「ああ、脱兎組のリーダー、狛幸秀和だ。訳あって真実の標と協力することになって、そっちの幹部に君を託された。まあ、これからも仲良くやろうぜ、ユーシア」
「は、はい! 宜しくお願いしますね、マスター……あたっ!」
ユーシアは敬意を見せるために勢いよく前にお辞儀をしたが、頭が柱にぶつかってしまった。赤く腫れている額を押さえて、しゃがみながら涙を流しているその姿は何とも労しい。
「ああ、言い忘れてたわ。この子には『ドジっ子属性』を付けておいたので、世話をする時は気を付けてちょうだいね、うふふっ」
「うんうん、やっぱりドジっ子は説明不要の萌えですな~まあ、その割には結構素直でいい子なので、組長がそんなに苦労することはないと思いますよ~」
開発部の二人は、相変わらず減らず口を叩いてやがる。まあ、人間らしいところがあるのはいいんだけど、もう少し強くして欲しい……なんて贅沢は言えないか。無条件でこんな凄いものがもらえるだけで、ありがたいことだし。
「うう……痛いです……」
「あら、おでこが痛いの? それは大変だわ! アタシが揉んであげようかしら?」
まだ痛みが治まっていないユーシアを見て、美穂はとても心配そうにしている。けどその声がわざとらしくて、どう聞いてもただの演技にしか聞こえない。あっ、もしかしてこれって……
「い、いいんですか? お、おねがいします!」
もちろんまだ生まれたばかりのユーシアには、美穂のその真意を知ることができない。
「ええ、いいわよ……隙あり!」
「ひゃあう!?」
いつも通りに、美穂は熟練の手付きで指をユーシアの体に絡め、スキンシップを始めた。
「あーあ、また始まっちゃった」
今まで何度も美穂によるセクハラを体験してきた菜摘はその光景を見て、彼女も苦笑せざるを得なかった。
「あーら、大きさはまだまだだけど、なかなかのいい質感じゃない」
「だ、ダメですよ! こんな恥ずかしいところを……ああん!」
プログラムなのに、何故か普通の女の子のように桃色の吐息を吐き出すユーシア。さすがに生まれたばかりの頃はこんなことを体験したことがないだろうか、同じポケット・パートナーであるムムとネネは同情しているような目でユーシアを見ている。
「ん? これはちょっと、おかしくないかい?」
何かに気付いたのか、哲也は突然声を出した。
「どうした、哲也?」
「僕はある不自然な点を感じたんだ。君も分かっているはずだろう、秀和」
「ああ、さっき美穂がムムを触った時に手が体の中に刺さっていたけど、今度は普通に触れてるな」
そういや、新型とか言ってたけど、まさかこれが……
「あら、よく気付いたわね。これが新型の凄いところよ」
俺たちの考えを読んでいたかのように、さっきからずっと黙っていた、というより口を挟むチャンスがなかった十守先輩がやっと会話に復帰できた。
そして、副幹部の静琉先輩も。
「新型の子は、体の中に精神粒子を生成する器官が入っているため、濃度も旧型より高くなって、ネガコレみたいに実体を持つようになったわ。これでピンチに陥る時も、ステキなパートナーさんに助けてもらえるわよ」
「へー、そうなんですか」
静琉先輩のテレビショッピングみたいな説明に惹かれた俺は、頷いて納得した。確かに一人っきりで瀕死状態になる時は、これを使えば安全な場所に連れてもらえるよな。まあ、その前に気絶してなけりゃいいんだけど。
「あと、さっきも言ってましたけど、チップを挿入すればパーツを強化できますよ」
そしてまたしてもチョコバーを貪っている碧は、温度差のない声で新型の機能をもう一度紹介している。
「そうそう! それが見たかったんだよ!」
さっきチップの話をしてからずっとウズウズしていた菜摘は、碧の言葉にまた反応した。
「オレもオレも! せっかくこんなすげー機械を目にすることができるんだ、たっぷり味わわねーとな!」
そして機械オタクの聡も、心の興奮を押さえきれずにチップの凄さをこの目に焼き付けようとする。
「はぁ……物好きな先輩方ですね。仕方ありません、それではお見せしますね」
ジト目で俺たちを見ている碧は、大きなため息をつき、適当にパーカーのポケットを探り始めた。
「はい、これです。作るのに結構大変でしたから、大切に使ってくださいね」
碧が渡してきたのは、かなり薄いが少し長い金属製の板だった。俺はチップを受け取り、じっくりと観察する。
銀色の光を放つそれは、現代の技術では生じ得ない高級感を俺たちに覚えさせる。そしてその真ん中には、白い砲弾らしき球体が描かれている。このチップの効果を示すアイコンのようなものか。
「分かった。で、使い方は? このチップをデバイスに付いているスロットに差し込めばいいんだな?」
「はい、その通りです。でもまだ試作品なので、安定性は保証できません。今からトレーニングルームに移動しましょう」
そう言うと、碧をはじめ他の真実の標のメンバーは体を動かして移動を始めた。
「よーし、盛り上がってきたよ! ワクワクしちゃうね」
「ああ、そうだな! 新しい技術とやらの凄さを、この目で確かめようじゃねーか!」
テンションが高ぶる菜摘と聡の二人は、すっかり工場見学気分になってしまった。
まあ、正直俺も少しは期待してるけどな。これから共に行動する大切なパートナーに秘めている謎の力は、どれほどのものだろうか。
「あいたっ! うう、転んじゃいましたぁ……」
ユーシアの悲鳴を聞いて、反射的に振り向く俺たち。今度彼女は尻餅をついて、まるで赤ちゃんのように頭を上げながら泣いている。
やれやれ、先が思いやられるな……
しかし、そんなユーシアを見て、千恵子は何故かくすっと微笑んだ。
「どうしたんだ、千恵子?」
「うふふっ、ユーシアさん、何だか赤ちゃんみたいで微笑ましくて、つい……」
そうか、この数日間の出来事で、千恵子の内心は不安になってるんだな。そんな彼女が見せる笑顔は、実に珍しくて、美しかった。
だからこそ、一刻も早くこんな茶番を終わらせて、みんなのやすらぎを取り戻さねえとな。
恋蛇団やブラック・オーダーの連中は確かに強いけど、こっちだって心強い味方がいる。てめえらなんかに、負けるものか!
そんな決意を胸に、俺はぎゅっと右手を握り締める。その弾みで、俺の右手に稲妻が迸る。
「ところで秀和君、先程のお怪我はもう大丈夫かしら?」
心配そうな千恵子の声に反応して、俺は無意識に頬を触る。そういえばさっきあいつらとの戦いで、瓦礫が飛んできて俺の頬を切ったっけ。色々話を聞いて、ど忘れしたけどな。
すると、千恵子の口から思わぬ情報が。
「あら? いつの間にもう治っているわ! 傷跡も残らずに……」
「えっ、そうなのか?」
「ええ……信じられない話だわ……」
瓦礫に頬を切られて、普通ならこんな短い間に治癒するはずがない。たとえ止血が出来ても、傷跡も残るはずだ。しかし千恵子のその反応を見ていると、とても嘘を付いているように見えない。
そしていくら指を頬の上に滑らせても、傷跡特有のザラザラ感が一切覚えない。
一体どういうことだ? もしかして、これも俺の資質の一つなのか?
「何してるの、秀和くん! 早くトレーニングルームに行こうよ!」
「そうだそうだ! そんなすげーもんを、マスターのおまえが見届けねーでどうすんだよ!」
菜摘と聡は、左右から俺の腕を引っ張って、そのまま俺をトレーニングルームに連れて行こうとする。
「はいはい、自分で歩けるから」
俺は二人にそう言ったが、テンションが高すぎるため完全にスルーされた。
「へー、凄い活気ね~やっぱりこれって青春って感じだわ!」
「あらあら、何オバサンくさいことを言ってるの、十守」
「う、うるさいわね! これでもまだ10代よ!」
そばで俺たちを見守っている十守先輩と静琉先輩は、またしても漫才会話を始めた。
そんな楽しそうなみんなを見ていると、俺は思わず小声でこっそり言った。
「ったく、これほど楽しい人生はねえな」
「ん? 何か言った、秀和くん?」
「何でもねえよ。ほら、早く行こうぜ」
すぐ近くにいる菜摘は微かに俺の声が聞こえたようだが、俺ははぐらかしてみんなに進むよう促した。
およそ2分間後、俺たちは走っている棒人間が描かれている扉の前に止まって、静琉先輩が扉を開けるのを待つ。
今から始まる、新たな力の鼓動。果たしてそれが俺たちを窮境から救い出す決め手になるのだろうか……?
「さあ、中に入って」
トレーニングルームの扉を開けた静琉先輩の後に続いて、俺たちは足を踏み入れた。やべえ、ワクワクが止まらねえぜ。
ムム「ユーシアちゃん、初めまして! 同じポケット・パートーのムムです♪」
ネネ「そしてアタシはネネ! ムムと同じくポケット・パートナーだよ♪」
ユーシア「そ、そうなんですか!? えっと、先輩……ではなくお姉さんでしょうか……この場合だと」
ネネ「まあ、アタシはどっちでも構わないけどね~」
ムム「好きなほうで呼んでいいよ、ユーシアちゃん」
ユーシア「マスターはどう思いますか!?」
秀和「そこ俺に振るのか? まあ、『お姉さん』でいいんじゃねえ? みんな、家族みたいなもんだし」
ユーシア「家族……いい響きですね! これからも宜しくお願いしますね、ムムお姉さん、ネネお姉さん!」
ムム「はーい、改めて宜しくお願いしますね、ユーシアちゃん」
ネネ「ついにアタシにも妹が……お姉ちゃんすごくうれしいよ~!」
ユーシア「もう、いきなりそんなに抱き着いてきて……でも嬉しいです♪」
愛名「これはこれは……薄い本になりそうだね♪」
宵夜「輪廻の輪で繋がる、三つの麗しき魂よ……これは新たな伝説の予感だわ」
秀和「おいおい、いい加減空気を読めよ、二人とも」




