リボルト#08 飛び散る火花たち Part5 オペレーターツインズ
天井に埋められている白い蛍光灯で照らされる室内の中で、大きさの異なる様々なスクリーンが宙に浮かんでいる。数え切れない文字や写真が泉のように絶え間なく流れていき、姿を変えまくる。
しかし、もっと驚くべきなのは、こんな大量の情報を処理しているのは、なんとただ二人の若き乙女である。しかもその顔立ちからすれば、俺たちよりは年下のようだ。わ~お、こいつはすげえぜ。
そして俺たちの気配に気付いたのか、二人のオペレーターは椅子から立った。
「あっ、幹部さんと副幹部さん、そしてムムさんとネネさん、お疲れさまであります!」
軍服っぽいドレスと帽子を着用しているおさげの子は、敬礼をした後に大きな声で俺たちに挨拶した。いわゆる軍人口調だが、とても真面目で素直な子だな。
「みんな、お帰りなさい。今のところは異状がありません」
一方もう一人のオペレーター子は、髪は水色で、燕の翼のようなツインテールをしている。そして身に包んでいるのは、パーカーやシャツといったラフな衣装だ。その眠そうな目つきと口に銜えられている棒形クッキーはいささか不真面目そうに見えるが、すぐに状況を伝えるところはポイントが高い。
そして新しいメンバーの到来に気付いたツインテールの子は、十守先輩と静琉先輩に質問した。
「誰ですか、この人たちは」
「ああ、この子たちは新しい仲間なのよ。今日からここは賑やかになりそうよ~ささ、早く自己紹介してちょうだい!」
テンションが上がりっぱなしの十守先輩は、爽やかな声で二人に自己紹介を促すと、おさげのオペ子は先に前に出て、ドレスの裾を叩くと素早く手を挙げて敬礼する。
「はい! えっと、遠城 可奈子、14歳であります! 『真実の標』ではオペレーターを担当しているであります!」
先輩の前で格好悪いところを見せられないと思って緊張してるのか、可奈子の声は少し上擦っている。
「先輩たちの武勇伝、かねて聞いているであります! この度初めてお目にかかれて、とっても光栄であります! これからも何卒、よろしくお願いするであります!」
可奈子が送ってきてる尊敬の眼差しは、直視できないほど眩しい。目をそらしたいが、あどけない後輩の前でそんなことはできるはずがない。それにしても、まだここに来たばかりなのに、もう武勇伝ができたとは……ムムとネネは、一体どんなストーリーを作ったんだろう?
でもまあ、本人に悪気はないし、ここはあんまり深く考えないほうがいいかな。
「あ、ああ……よろしくな、可奈子」
少し気疲れしてる俺は、可愛い後輩に気を使わせないようになるべく口元を上げて、笑顔を浮かべた。そして彼女が差し伸べた手を軽く握手し、友好の証を示す。
「はい、よくできました。それじゃ、次はあなたの番よ、碧ちゃん」
「了解です」
静琉先輩の指示を受けたツインテールのオペ子は、軽く敬礼をすると手を下ろし、さっきと変わらない眠そうな目付きでこっちを見ている。
「森内 碧、15歳です。1年生なので、後輩ということになりますね。こちらでは戦況及び地形分析を担当させて頂いています。まだまだ不慣れなところがたくさんあると思いますが、まあ適当に仲良くしましょう」
可奈子と違って、碧からは堅苦しい雰囲気を全然感じ取れず、むしろ気さくでフランクな感じだった。そしてその簡潔な内容も、くどい印象が残らない。
しかし、俺は返事をしようとした時に、何故か碧はこっちに近寄ってきて、小さな頭を上げると俺をじっと見つめている。
「ど、どうかしたのか?」
突然彼女が出る予想外の行動を俺が理解できず、少し戸惑って問いかけた。それでも彼女は俺の声に応じず、俺の見つめ続ける。
「ふむふむ……なんてたくましい体……さすがは十守先輩たちが見込んだだけのことはありますね」
あごを手に当てながら目を輝かせている碧は、さっきのだるそうだった顔も、まるで新大陸を発見したかのようにイキイキし始めた。
「あ、碧?」
あんまりにも女の子とは思えない大胆すぎる彼女の行動に、さすがに俺も落ち着いていられない。
「はっ、すみません、私としたことが……言い忘れました、私の趣味は人間観察です。だからたまにはこうして我を忘れることもありますが、あんまり気にしないでください」
ようやく我に返った碧は、目を見開くとそそくさと後ろに下がり、理由を説明してくれる。慌てて顔を赤く染める彼女の意外な一面は、何とも愛おしい。
「そっ、そうか」
何とか納得できた俺は未だにこの気まずい空気から抜け出せず、ぎこちなく返事をした。
「でも、先輩って面白い人ですね。これからも、観察させて頂きますね」
碧は意味深な笑顔を浮かべると、更に意味深なセリフを口にした。思わず全身に悪寒が走る。この子、無気力に見せかけて意外と小悪魔な性格してるな。
「う、ううう……」
そして突然、何故かいつも穏やか冴香が俯きながら、体を震わせている。
「ど、どうしたの冴香さん?」
そんな冴香を見ている菜摘は、思わず驚きの色を見せて声を上げた。しかし冴香は返答せず、腕を大きく振りながら二人のオペ子に接近する。
「か、かわいいです~!!」
テンションが上がる冴香は、いきなり可奈子と碧の間に立って、二人をぬいぐるみのように抱き締めると顔を擦る。
「な、なんだか恥ずかしいでありますね~」
「くすぐったいのでやめてください」
二人は冴香の不意打ちのスキンシップに戸惑っているが、何だか満更でもなさそうだ。
「まあまあ、そう言わずに~」
それでも冴香は二人を放す様子はまったくなく、しっかりと抱き締める。その微笑ましい光景を見守っていると、三人はまるで家族のように見える。
「一体どうされたというのでしょうか、冴香さんは?」
冴香のその意外な一面に、さすがに千恵子も驚かずにいられなかぅた。彼女は片手を口元に当て、目を見開いて冴香のほうを見つめる。
「ああ、それがね、冴香は5人兄弟の長女だから、あれで郷愁になったのかもしれないわね」
同じユニットのアイドル仲間である優奈は、俺たちの疑問を解いてくれた。
「へー、そうだったのか」
納得した俺は、思わず相づちを打った。
「ほら冴香、二人とも困ってるみたいだし、そろそろ放してあげて」
まだ夢中になっている冴香を、優奈は彼女の肩を叩いて注意した。
「スリスリスリ……ああ、すみません! 私ったら、一体何をしているのでしょう……はっ!」
我に返った冴香は、慌てて両手を赤い頬に当てると、そそくさと顔の向きを明後日の方向へと変えた。
しかしその視線の先に、カメラを持ってにっこりと微笑んでいる菜摘がいる。
「な、菜摘さん!?」
「えへへ~、冴香さんの意外な一面、発見~」
新歓パーティで千恵子を励ました時に自動販売機でのやりとりは、まさかここで再現されるとは。だが今回は二人の立場が真逆になった。
「もう菜摘さん、いきなり写真を撮らないでくださいよ~まあ、撮るだけならいいんですけど、ネットにアップするのはダメですからね?」
「さすがにそれは分かってるよ~といっても、ネット繋がらないんだよね、ここは。先生たちは思ってたより厳しいんだから」
菜摘はカメラをしまうと、ポケットから携帯を取り出していじり始めた。だが左上にある「圏外」の二文字は、彼女の明るい笑顔を曇らせる。
そういえば、俺も最初ここに来た時に、親父から全然連絡がないと思えば、ここは圏外だったのか。まあ、こんな荒野の真ん中だし、電波が届くような範囲じゃなさそうだな。それであの時は、千恵子が両親に連絡が取れてないとぼやいたわけか。
だが、先輩たちの心強い言葉は俺たちをこの苦境から抜け出してくれる。
「それなら大丈夫よ! ここであたしたち特製のルーターが使えるわ!」
「えっ、マジで?」
十守先輩の高揚した声を聞いた俺は、驚きのあまりに思わず目を見開く。
「本当よ。確かに今の時代だと、ネットに繋がらないのはもどかしいわね~。それじゃ、ネットワークとパスワードを教えるから、ちゃんと聞いててね」
その重要な情報を聞いた俺たちは、すかさずポケットに入っているスマホを取り出して、ネットを繋ぐ準備に入る。
静琉先輩の言われた通りにパスワードを入力すると、あっという間にスマホの画面にお馴染みの扇子形のマークが現れる。するとどうだろう。通知が滝のように画面に流れていって、しばらく止まることはなかった。
「うへ~すげー! これでやっとネットに繋げるぜ! この日が来るの、ずっと待ってたー!」
機械オタクの聡は、体がスマホの振動と共に震え始めて、興奮が冷める様子はまったくない。
「お母様とお父様からのお電話が……!! 早く掛けなくては……!」
一方千恵子は、両手で丁寧にスマホを持ち、目を動かさずに画面を凝視している。絶え間なく表示される不在着信の通知は、彼女の心を動揺させる。
「あっ、それは無理よ。ここじゃ、外部への連絡ができないわよ」
「何故ですか? どうせなら、外部へと連絡できるようになさったほうがよいのでは……?」
十守先輩の残念なお知らせに、疑惑の色を見せる千恵子。その質問は、俺たちが思っているのと同じだ。
すると、十守先輩は手のひらを開いて、大きく溜め息をつくとそう答えた。
「あたしだって、できればそうしたいわよ。けどネットワークをテストしてた時は、何故かアクセス制限がかかってるのよ……きっとあのモンスターたちが、あたしたちが外に助けを求められないようにしてるのよ! コンチクショウ!」
そういうと、十守先輩は怒り心頭に達して、今度は強烈なキックでまた無実な壁を傷つけた。
確か俺が最初にここに来た時も、哲也と菜摘も似たような話をしてたな。少し時間が経ったから忘れかけてたが、改めてこの学校の胡散臭さに俺は眉をしかめる。
「あらあら、怒りたい気持ちは分かるけど、秘密基地を壊したら私たちの居場所がなくなっちゃうわよ、十守」
十守先輩を静かに見守っている静琉先輩は、またしてもクスクスと笑っている。
「あっ、でもここにいるメンバー同士なら普通に連絡できるみたいだから、そこは大丈夫よ」
だが気分屋の十守先輩は、すぐさま立ち直って、俺たちにもう一つ大事な情報を教えてくれた。
「そんなことより、早くニュースを確認しようぜ! きっと何かあるはずだ!」
頭の回転が早い直己は、スマホを持っている手を高くあげて、俺たちに次にやるべき行動を提案する。
「そうだな。こんな情報時代のことだ、後れを取ってしまうようでは淘汰されてしまうからな」
直己の意見に賛成してる広多は、既にスマホをいじり始めて情報を集めている。
「へっ、珍しくいいこと言うじゃん、広多」
聡は不敵な笑みを浮かべて、広多に向けてそう言い放った。
「ふっ、お前と違っていつも足踏みをしているわけじゃないからな」
「くっそ~、相変わらずムカつくやつだぜ……おっ、待ちに待ったシリーズの最新作が発売されてる! 早く手に入れねーと!」
「おい、今はそんなことをしている場合か」
聡と広多の二人は、相変わらずいつもの張り合いをしている。やれやれ、まるで漫才みたいに面白すぎて全然飽きないぜ。
「あ、あわわわわ……」
そんな時に、スマホの画面を見ている千紗は、なぜか険しい表情を浮かべて、両手が震えている。その慌ただしい声が、何か深い意味が含まれているようだ。
「ん? どうしたの千紗?」
仲間の異状が気になる優奈は、千紗に近付いて画面を覗き込もうとする。
「ううん、何でもないの! なんでも! ただ思ってたより通知が多くて、ちょっと驚いただけだよ!」
「なによ~、ちょっと見せるぐらいでいいじゃな~い。千紗のケチ~」
千紗はそそくさとスマホを持っている両手を後ろに隠し、必死に頭を横に振って平気を装う。
だが俺には分かる。あれは絶対に何か裏がありそうだ。そして自称超能力者の美穂も、何やら意味深に口元を緩めている。きっと彼女も何か気付いているはずだ。
しかしそんなことより、まずはここの謎を解いてかねえとな。あの化け物たちの目的や、正体不明の女子二人組……分からないことだらけだ。やれやれ、長い授業になりそうだぜ。
碧「…………」
可奈子「どうしたでありますか、碧さん?」
碧「いえ……せっかく私たちの初登場シーンなのに、何故か出番が少ない気がして……」
可奈子「確かに、Wi-Fiでネットに繋ぐくだりが多かったでありますね。でも大丈夫でありますよ! きっとそのうちに増えていくでありますよ!」
碧「無理ですね。私たちはオペレーターである以上、前線に出ることはないですから」
可奈子「あっ……でもポジティブに考えましょう! ほら、スピンオフ作品とか!」
碧「あっ、その手がありましたね。よし、私たち二人だけのスピンオフ作品を作りましょう」
可奈子「えっと、どんなお話にしましょうか?」
碧「…………おやつにしましょう」
可奈子「考えてなかったでありますね」(苦笑)




