リボルト#08 飛び散る火花たち Part4 秘密基地へようこそ
しかし、しばらく歩いていると、何故か俺たちがたどり着いた先はいつものショッピングモールだった。不思議に思う俺たちは、疑惑の顔を浮かべる。
だがこれも彼女たちの予想通りだろうか、俺たちの警戒感を振り払うために、二人は笑顔でこっちに話しかけてくる。
「まあまあ、そんなに緊張しなくてもいいんだよ~隠れ家なんだから、人目の付かないところにあるのは普通でしょう?」
「そうですよ! ちょっと変わった人たちもいるんですけど、みんないい人ですから大丈夫ですよ~」
正直、これもブラック・オーダーの罠なのかは少し不安だけど、今の俺たちには他に頼れる場所はない。それに、いざとなったらみんながいるし、きっと何とかなるだろう。
そんな根拠のない自信を胸に、俺は足を動かして先に進む。するとムムとネネは、俺たちを倉庫に案内した。薄暗い室内の中に、たくさんの箱が積まれている。そして一番奥に、何やら鉄製の扉と、その隣にあるオレンジ色のパネルらしきものがある。
なるほど、そいつは秘密基地へと繋ぐエレベーターってわけか。ここから先に何があるか、考えるだけでワクワクするぜ。
「はい皆さん、今からドアを開けますので、少々お待ちくださいね~」
ムムは服の中からICカードのようなものを取り出すと、それをパネルにスキャンする。更にパスワードを入力し、これでようやく扉が開く。
その光景を見ていた直己は、無意識にヒューと口笛を吹いたが、女の子たちは容赦なく恐ろしい眼光で彼を睨みつけた。それでもムムはまったく気にせず、いや、気付いていないというべきか、彼女はさっきと変わらない眩しい笑顔のままで俺たちの目を眩ます。
「どうぞ、中にお入りください、皆さ~ん」
ムムは扉の中に入ると、エレベーターガールのように礼儀よく手を上に向けて、俺たちを招き寄せている。
俺たちは黙って互いの顔を見合わせると、何かの決意を感じて頷いた。そしてついに、すべての真相を知ろうと、俺たちは真実への扉に足を踏み入れた。
「よーし、これで全員だね。それじゃ、隠れ家にレッツゴー!」
ハイテンションのネネは、乗り遅れた人がいないかをチェックし、勢いよくボタンを押して扉を閉めた。するとエレベーターはゆっくりと下に向かって動き始め、徐々にスピードが早くなっていく。薄暗かったエレベーターの中も、次第に壁から発した青と白のライトにこの空間を近未来風に染められていく。それを見ている仲間たちは、キョロキョロとあちこちを見渡して、話す言葉も見つからない。いつもの騒がしい声が聞けなくなって、何だか拍子抜けするな。
静かな空間では、時間はいつもより長く感じてしまう。エレベーターが減速し始めた時はもう5分過ぎたのかと思いきや、時計を確認するとまだ2分しか経ってなかった。
そして目的地に到着したエレベーターは、おもむろに開いた。その先にあるのは、モノクロの空間だ。金庫を彷彿させる頑丈そうな扉が銀色の光を放ち、不可侵の雰囲気を漂わせる。真ん中に丸いディスクのような部分が付いていて、更にその中央部にカメラがはまっている。ふーん、結構手が込んでるな~、これ。
ムムとネネはウサギのようにぴょんぴょんと可愛く跳ねながら、扉の前に近付いて敬礼した。
「ムムです! ただいま戻りました~」
「ネネです! 例のウサギたち、連れてきたよ~」
二人は明朗な声を出して、自分が基地に到着したことを示している。
「お帰りー! 二人ともよくやってくれたわ。さあ、早く入りなさい!」
すると扉から、爽やかな女声が響く。聞いた限りは、俺たちよりは年上か。気を引き締めないとな。
解錠された扉は、ゴゴゴと大きな物音と共に動き始めて、四等分になってX字に離れていき、基地の中身を余すとこなく見せた。
そして一番手前にいるのは、腕を組みながら長い足を人の字のように立たせ、自信満々の笑顔を浮かべている女性だった。腰まである黒いストレートロングと左側になびく波のような前髪は、光を反射させて白い艶を出している。身に包んでいるのは、俺たちが着ているのと違って黒と白の制服だ。
「『真実の標』へようこそ! あたしはここの幹部、加柔 十守っていうのよ。よろしくね、新人諸君♪」
幹部と名乗った女性は、くるりと自分の髪を指に巻き付けて、ウインクを送って自己紹介を送ってきた。まるで事前にリハーサルでもしておいたかのように、彼女の言葉に淀みがなく、自信に満ちたその声はアナウンサーのように聞き取れやすい。
「わあ、すごくキレイ……しかもスタイルもとてもいいね」
「素晴らしい笑顔ですね……わたくしも見習わないといけませんね」
「いい声もしてますね……歌も上手でしょうね」
菜摘、千恵子と冴香の三人も、彼女の放つ大人の魅力を思わず賞賛した。
「あらあら、生気の溢れる子がたっくさん……とっても心強いわ」
幹部の後ろから、もう一人の女性が姿を現す。凛々しい幹部と違って、こっちのほうはおっとりして落ち着いている。青のかかった黒色のショートカットのボブは、彼女の大人しい性格を物語っている。
「あっ、ごめんなさいね、自己紹介を忘れていたところだったわ。私は、副幹部の麻未 静琉よ。十守のお友達でもあるの。この子、ちょっとおっちょこチョコちょいところがあるけど、根はいい子なのよ。仲良くしてあげてね」
副幹部の静琉先輩は、両手を膝のところに置いて丁寧にお辞儀すると、片手を上に向けながら十守先輩のことを簡単に紹介した。
「ちょっと静琉! せっかくあたしが新人たちに先輩としてのいいイメージを植え付けられるチャンスなのに、これじゃ台無しじゃないの! あと、『ちょこ』が一つ多いわよ! いくらチョコが好きだからって……」
目立ちたがりの十守先輩は自分の痛いところを突かれて、少しむすっと頬を膨らませるとツッコミを連発した。
「あらあら、そのほうがもっと親切感が湧いていいんじゃないかしら?」
それでも静琉先輩は決して揺らぐことなく、にっこりした笑顔は依然として輝く。
「ま、まあね……はぁ、やっぱ静琉の前じゃ、調子が狂うわね」
先ほどの落ち着きがなく、大きな溜め息をつく十守先輩。しかしそれも一瞬だけの出来事で、彼女はすぐさま自信の満ちた笑みに戻り、格好良くポーズを決めると髪を掻き上げる。
「さて、気を取り直して、他の隊員を紹介するわね」
「あっ、今さり気なく流したな」
十守先輩が誤魔化しているのに気付いたのか、聡は思わずその一言を口に出す。しかしその一言は、自分の身を滅ぼすことになるとは誰も知らなかった。
その時、何故か十守先輩は素早く姿を消して、一陣の風を起こす。そして俺たちが気付いた時、聡はいつの間にか頭が十守先輩に腕で固められ、苦しそうにもがいている。
「ん~? 今なんて言ったかなぁ~?」
「がはっ……何も言ってまへん! 早く放して……!」
「ダメよ。このあたしを怒らせたらどうなるか、た~っぷり教えてあげなきゃね!」
十守先輩の容赦ないヘッドロックは、聡の首を締めている。息をするのもままらなず、やがて咳が出るようになった。
そんな時に、聡をピンチから救い出したのは直己の言葉だった。
「ワオ、あんな風にマッサージしてもらえるなんてずるいぜ! しかもあの柔らかそうなマシュマロが顔に当たって、なんて羨ましい……じゃなくてけしからん……ぐわっ!」
新しい標的を見つけた十守先輩は、またしてもさっと移動し、直己の下からアッパーを繰り出して彼のあごに直撃した。まったく捕捉不能の動きに直己はかわす余裕がなく、まともに喰らってそのまま仰向けで床に倒れた。
そして十守先輩は何事もなかったかのように手を叩くと、満面の笑みを浮かべて俺たちを見ている。しかしその笑みから黒いオーラが溢れ、とてつもない威圧感を放っている。
「君たち、さっきのことを見なかったことにしてちょうだい。もし他の人にバラしたら……分かってるわよね?」
そう言いつつ、十守先輩は壁を殴り、デカい爆発音と共に壁に大きなヒビが入って凹んだ。それを見た俺たちは、思わず鳥肌を立てて大人しく頭を縦に振った。
これからはあんまりこの人を怒らせないほうがいいな、うん。
「あらあら、相変わらず元気いっぱいね、十守は。さあ、行きましょう」
ビビる俺たちに比べて、静琉先輩はまったく動じずにクスクスと笑っている。一体どういう神経しているんだ、この人は。
まあ、そんなことはさておき、まずは他のメンバーたちと挨拶をしておかないとな。
長い廊下を渡っている途中、何かを思い出した俺は、二人に声をかける。
「あの先輩、ちょっといいですか」
「ん? 何かしら?」
「あのムムとネネって子たちは、先輩たちとどんな関係ですか? さっき扉を開ける時にやけに親しそうだったんですけど……」
「あら、気になるの? そうね~、そんな大事な秘密を聞いたら、命の保証はないわよ」
「ゑっ?」
十守先輩が口走ったとんでもない言葉を耳にした俺は、自分の呼吸が一瞬止まった気がした。そんなに聞いちゃまずいことなのか?
「あらあら、相変わらず冗談がキツいわね、十守。大丈夫よ秀和君、さっきのはただの冗談だから、気にしないで。後でちゃんと説明するからね」
「は、はぁ……」
そうだよな、本気で言ってるわけがないよな……ん?
「あの、どうして俺の名前を……?」
「うふふっ、ムムちゃんとネネちゃんから、あなたたちの色んな面白いお土産話を聞いたわ。ずっと前から、あなたたちのことに深~い興味を持ってたの。まさか早くもこんな近い距離で話すことができるなんて、私はとてもうれしいわ。そうそう、この前に稲妻を出したんですって? 何だか凄そうな話ね」
「は、はぁ……それは光栄です」
静琉先輩は落ち着いた口調で理由を説明し、親切感の漂う雰囲気が俺の警戒心を追い払う。
それにしても、やっぱりあの二人はただものじゃなさそうだな。もしかしてその名前も、正体を隠すための二つ名か? まあ、そのうち説明してくれると思うし、今はあんまり深く考えないでおこう。
突然、後ろから視線が感じる。俺は振り向いてみると、そこには不思議そうに俺を見つめている菜摘と哲也がいる。
「な、なんだよ」
そんな怪しい視線を向けられると、いくら友人とはいえ、心が落ち着くわけがない。俺は白目で二人を見ながら、小さな声で恐る恐る質問を投げた。
「秀和くんが敬語を使うの初めて聞いた! なんだか新鮮だな~って」
「確かにね。まさかいつもぶっきらぼうな君があんな丁寧な話し方をするなんてね」
二人は少し驚いた表情を浮かべながら、自分の考えていることをはっきりと話す。当の俺はあんまり意識していないが、どうやら別人からすればとても驚くようなことだ。
「いや、だってあの二人は先輩だろう? 目上の人にはちゃんと敬意を払わないと」
「それなら、どうして先生たちの前であんな乱暴な言い方をするんだい?」
「だってあいつらは『敵』だろう。あんな腐った連中には尊敬に値しねえよ」
哲也の疑問を、俺は何も考えず当たり前のように解いた。
「なるほどね。実に君らしい答えだな、秀和」
俺の答えを聞いた哲也もすぐ納得し、これ以上質問をしなかった。
「さあ~、着いたわよ。ここはオペレーター室よ」
そして十守先輩はレーダーのシンボルが描かれている青い扉の前で足を止め、俺たちに次の目的地を示す。
静琉先輩は一歩前に出て扉を開けると、そこにあるのは俺たちの想像を超えた光景だった。
十守「いや~それにしても、今年の後輩はどれも生き生きしてて安心したわ~やっぱりこれって青春ね!」
静琉「あらあら、まるで年を取ったような言い方をするわね、十守って」
十守「ち、違うわよ! これでも20代手前なのよ!」
静琉「うふふ、相変わらず面白い反応をするわね、十守は」
十守「まったくもう、本当にアンタの天然さには負けるわね……」
ムム「えっ? 今のって天然なんですか?」
十守「いや、天然を装って実は腹黒って可能性もありそうね」
ネネ「さ、さすがにそれはないと思うよ……うわ!? 何するんですかマスター!?」
静琉「あらあら、手が滑っちゃったみたい。この鞭は、なかなか言うことを聞かなくて~」
ネネ「なんて恐ろしい……アタシのマスターはある意味、十守さんより怖いかも……」




