リボルト#08 飛び散る火花たち Part2 恋蛇団(ウロボロス)の実力
「ハッ、ついに姿を現したか、ネズミどもめぇ」
ハイになっていたイカレ野郎は俺たちの存在に気付き、不敵かつ邪悪な笑いを浮かべて俺たちを見据えている。
「随分と派手にやってくれるじゃねえか、おい。この学校の連中は俺たち以外は、全員こんなイカレてるやつしかいねえのかよ」
「それはこっちのセリフだぜぇ……まさかここから出ようとする愚か者がいるとはなぁ!」
聞き苦しいダミ声を唸りながら、イカレ野郎はこっちにガンを飛ばしてきやがる。
俺たちは愚か者だと? 一体何を言ってんだよ、あの野郎は。
「どういう意味だ? こんな地獄みてえなところに、誰が残りたいってんだよ!」
昨日起きた様々な惨劇を思い出した俺は、大声でやつらに問いかけた。
「そう思ってるのはテメェらだけだろうが、クソッタレどもめ! やることがなくなって早く外に出たいのか? いいザマだぜ、リア充どもが! マジメシウマ……うひゃひゃひゃひゃひゃ!」
爆弾魔は手中のボムを弄びながら、血眼を浮かべている。そのおぞましい奇声が無垢な青空を汚染し、あどけない小鳥たちも驚いて逃げ出す。
「こんないいところから出ようと思うなんて、あなたたち頭がおかしいの!? 私の大切な居場所を守るために、あなたたちの好きにはさせない!」
山ガールは金棒を乱暴に床に立てると、俺たちに指差してこっちに睨みつけている。ここがいいところだと? ますます意味が分からなくなってきたぜ……
「おいおいお嬢ちゃん、どういう風の吹き回しだ? ここの先生たちは、人を殺すような化け物ばっかりだぜ?」
「それはあなたたちが先生たちに刃向かってるからでしょう! あんなバカげたことさえしなければ、こんなことにならずに済んだのに……これだからお金持ちは……」
直己が山ガールを指摘するも、早速反論を喰らってしまった。どうやらあの娘には、この場所は強い思い入れがあるようだ。そして、「お金持ち」という言葉には敏感らしい。
「まあまあ、落ち着いて話しましょうよ、真寿司」
突然、何故か友美佳が前に出て、山ガールに話しかけた。これは白熱しそうな展開だ。
「あら、友美佳じゃない。まさかここであなたに出会うなんて……そんな連中と絡んでるのを見たら、反吐が出るよ」
しかし山ガールは旧識である友美佳を見たとたん、蔑んだ目で彼女を見ている。笑顔を浮かべているが、その裏に隠れている嫌味が丸見えだ。
「真寿司! どうしてそんなことを言うのよ!?」
もちろんそんな敵意剥き出しの言葉を聞いた友美佳は、動揺せずにいられないだろう。彼女は驚きの声を上げて、山ガールに問いかける。
「ふん、分かってるくせに……お金持ちが全員敵だからに決まってるじゃない。今度は私がせっかく見つけた居場所を壊そうとするなんて、本当に最低だね」
山ガールは腕を組んで、こっちを見下ろすように頭を少し上げた。彼女のワンパターンのセリフにはもう聞き飽きたが、ところどころ意味深な発言には思わず眉間にしわを寄せる。
「居場所を壊す? あたしたちはただここから出ようとするだけで、別にそんなつもりじゃ……」
まだ真意の知らない友美佳はごく自然に質問したが、初っ端から彼女にレッテルを貼った山ガールはそれを聞くと、何故か大きな溜め息をついた。
「あなた、まさか知らないの? ここにいる先生全員が倒れたら、この学校自体がなくなるんだよ」
初めて聞かされる真実に、俺たちは無意識に目を見開く。そしてすぐさま小柄女子が山ガールの後に続けて、その言葉に付け加えて説明を入れる。
「そう、それはまるで土台を失った、崩壊する理想郷のように……取り返しのつかない悲劇になるわね」
……なるほど。ここにいる生徒たちは、みんな俺たちのようにここから出ようと思っている連中だけじゃないってことか。つもり敵も、あの化け物たちだけじゃないことになるな。俺としたことが、こんな大事なことを忘れていたとは……
「これで分かってもらえたかな? あなたたちがよかれと思ってやっている『ヒーローごっこ』は、私たちにとって迷惑なの。もうこれ以上は、余計なことをしないで」
流れが自分のほうに傾いたと思っているのか、山ガールは勢いに乗ったつもりで強気に出る。
「まあ、どのみち俺様は全員をぶっ殺すけどなぁ、ふへへへへへ」
イカレ野郎は、ヤク中みたいに頭を小刻みに震わせ、空気に不気味さを漂わせている。拳ほどの大きさがある黒い炎が、そのテンションに合わせてデカくなる。
「ダメだ土具魔! この見手呉 目立様が、まだ自慢の仕掛けを見せてねーんだぜ! ここで殺しちまったら、オレの見せ場がなくなるだろうが!」
それに対して爆弾魔が、イカレ野郎のふざけた考えを遮った。一時マトモなやつかと思いきや、早くもその後の恐ろしい発言によって、俺のこの考えも泡のように散っていった。
それにしても、ドグマとかメダチとか、何なんだそのDQNネームは? 名前を付けた親の顔が見てみたいぜ。
「貴様の意見なんて聞いてねーよ。俺様がリーダーだからよぉ、ちゃんと人の話を聞けぇ!」
口答えされたイカレ野郎は、額に青筋を立ててキレていやがる。あんなやつがリーダーとは、この世も末だな。
「おい、テメェらの中で誰が一番モテるんだ?」
「この野郎、無視しやがって……」
しかしそんないかにもチームワークが悪そうな連中では、話がまとまるはずがない。爆弾魔がイカレ野郎の指示をスルーし、勝手に話を進めた。
「おれー! おれだおれだおれだ!」
そしてそんなどうでもいい話に乗るやつが、うちのチームにいることも事実だ。直己は率先に前に出て、自分を指差しながら第一人称を連呼している。
しかし口は禍のもと。またしても後先を考えずに発言した直己に、大きな災難が降りかかる。
「へー、そうかそうか……確かに超モテそうな顔だな……なんて憎たらしい! まずはテメェから料理してやる!」
案の定、怒り心頭に発した爆弾魔は握りしめている手榴弾の安全ピンを外して、何も考えずに思いっきりこっちに投げてきやがった。幸い直己の反射神経は鋭く、かろうじて爆撃から免れる。
「おい! 危ないじゃないか!」
「テメェのようなリア充は、この世に生かしておくか! 爆発するがいいぜ!」
変な言いがかりをつけて、爆弾魔は周りをお構いなしに手榴弾を投げ続けている。爆風で飛び上がる瓦礫の数が、また増え始めた。
そしてその中の一つが、俺の顔に掠って傷口を開けた。襲ってくる痛みと共に、赤い液体が滲み出る。ヒリヒリと刺激する神経が、俺の心を揺るがす。隣に立っている千恵子を見やると、彼女の顔も一瞬にして悲しみに溢れて、全身が震えているのが見える。
「いいか、みんな……これは戦争だ!」
さっきまで何とか理性を保とうとしていた俺は、やりたい放題をしている連中の悪ふざけすぎた行動の前ではついに制御できず、銃を構えてトリガーを引いた。だが、大きな音に反応したイカレ野郎は早くも黒い火花を飛ばし、俺の銃弾を正確に撃ち落としやがった。ちっ、口だけ達者なトーシロじゃねえってわけか。
他のみんなも攻撃を仕掛けたが、連中の反撃も思ったより激しく、なかなか通らない。このままでは、俺たちが押されるのも時間の問題か。
そんな時に、聡の一言が俺に打開策を与えてくれた。
「おい、秀和! 例のアレを使えよ、アレ!」
そうだ、俺にはまだ「奥の手」があるじゃねえか。昨日はあんな手強いやつも倒せたんだ、こいつらにも効果があるはず!
俺はもう一度あの技を繰り出すべく、すべての力を右手に込める。さっきの練習のおかげか、稲妻が現れるスピードも速くなった。
最善のタイミングを測って、俺は熟練にスパークを空中に浮かべ、それを指差す。
「千里の一本槍!」
炎のような熱い自信を胸に、俺は技の名前を高らかに叫ぶ。稲妻が細長いレーザーのように、イカレた連中の方向に向かってまっすぐ飛んでいく。
よし、もらった! やつらは俺がこの技を出せることを知らないから、奇襲性は負けていないはず!
……しかし、現実はそう甘くはなかった。
やつらの頭はまるでセンサーでも内蔵しているかのように、さっと両側に移動して俺の出した稲妻を難なく避けやがった。稲妻は開いている正門を通って果てのない荒野まで飛んでいったが、当たらなければ何の意味もない。
「へー、そいつが貴様の『資質』かぁ……実に大したもんだぜ」
皮肉めいた獰悪な笑顔を浮かべているイカレ野郎は、俺の稲妻を眺めるとこっちを振り向いて、聞き慣れない言葉を口にした。だが俺が声を出す前に、あいつは話を続けた。
「威力、速さ、射程、どいつも申し分がねぇ……けどよぉ、そんな真っ正面から攻撃を仕掛けるようなザコは、貴様は初めてだぜぇ! そんなへっぽこな技で、この俺様を倒せるとでも思ってんのかよぉ! アホすぎて笑えねぇ!」
イカレ野郎は片手を額に当てると、頭を上げて不気味な笑い声を漏らしていやがる。言い方は実に気に食わねえが、確かにあいつの言う通りだ。
「まぁ、この俺様に反抗する勇気だけは褒めてやるよぉ。そして、ありがたく思うがいいぜぇ。なぜなら、貴様らはこれからこの恋蛇団のリーダー、加御栖 土具魔様の極上の炎に焼かれることになるからなぁ!」
耳障りな声と共に、土具魔と名乗ったイカレ野郎は両手を上げると、何もなかったはずの空に黒い炎に包まれている隕石が、数え切れないほどに浮いている。
思わずに目を疑いたくなるような光景を目にしている俺たちは、何もできずただ空を見上げるしかなかった。
何なんだよ、こいつらは! 先生でもないのにこんな力を使えるなんて!
「どうしたぁ、ビビって言葉も出ねぇのかよ! まぁ、この俺様の力の前じゃ無理もねぇか、かっははははは!」
イカレ野郎の何の哀れみもないふざけた大笑いは、俺たちの心をことごとく絶望の奈落に堕としていやがる。
「だーいじょうぶだ、痛みも感じさせずにあの世に送ってやるよぉ! 絶世の黒炎・落石雨!」
イカレ野郎は上げていた両手を勢いよく下ろすと、隕石群は雨のようにこっちに降り注いできやがる。何百もある炎の星を短時間にかわすのは、至難の業だろう。
くそっ、ここまでか……! 絶望的なこの状況じゃ、一体どうすりゃ逆転できるんだ……!
「えーい!」
「おりゃあー!」
突然、聞き覚えのある二人の声が、その颯爽な登場と共に黒くて熱い空に響き渡る。
土具魔「おい! なんでちょうどいいところに終わるんだよぉ! さっさと大人しく俺様にやられろよぉ!」
秀和「何でも思う通りになると思ったら大間違いだぜ。人生はそう甘くはねえからな」
目立「ヒャッハー! 調子に乗るからこうなるんだ! オレのような素質のある天才じゃないと、到底できないことだ……ぶぎゃあ! な、なにしやがる!」
土具魔「リーダーの前でよくそんな口が利けるな……いい度胸してるじゃねぇかぁ! 俺様は今機嫌が悪い、サンドバッグになってもらうぜぇ!」
目立「いってえよテメェ! オレのかっちょいい顔を傷つけやがって!」
土具魔「調子こいてるからそうなるんだよ、ザマ見やがれぇ!」
真寿司「あーあ、また始まった」
小柄女子「相容れぬ両極が新たな戦火を生む……新たな混沌の始まりぞよ」
秀和「あーもう、さっさと帰って昼飯にしようぜ」
目立「おぉい! 無視すんじゃねーよ!」
土具魔「まだ殺戮ショーは終わってねぇぞ、戻ってこいよ!」
秀和「知るかよ」




