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反逆正義(リベリオン・ジャスティス)Phase One——Ten days in heaven(or in hell)  作者: 九十九 零
第2章 ヘブンインヘル転学編・波紋を呼ぶ奇跡
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リボルト#07 闇を切り裂く稲妻 Part12 仲良しガールズトーク

 寮に戻った俺は、汗まみれの制服を脱ぎ捨て、オシャレな私服に着替えた。うーん、スッキリするぜ。

 早速扉を開けて廊下に出ると、そこには俺より先に着替え終わって本を読んでいる哲也がいる。

「よう、ずいぶんと早いじゃないか」

「まあね。シャツとズボンだけだから、そんなに時間がかからなかったんだ。ところで、菜摘と千恵子くんは?」

「まだ姿が見当たらないけど、女子って着替えは長いからな……んで、何の本を読んでるんだ?」

「アドラー心理学の本さ。たまには勉強も必要だからね。それに、色んな悩みを持っている僕たちには、この本は正にうってつけだ」

「ふーん、なかなか面白そうじゃん。今度貸してくれよ」

「ああ、構わないさ」

 ちょうどその時、近くの扉から音がした。さては着替えが終わったのかな?

「な、菜摘さん、押さないでくださいませ……」

「ほら、早く早く! いつものキレイでかっこいいオーラを出しちゃって!」

 声がした方向を見やると、そこにはキレイな白と青色のワンピースとバイオレット色のボレロを身に包んでいる千恵子と、彼女の背中を押しながらこっちに走ってくる元気な菜摘がいる。その絵になる華麗な姿(シルエット)に、俺と哲也は思わず目を見開いて凝視してしまう。

「あっ、秀和くんと哲也くんだ! どう、千恵子ちゃんのこの格好?」

 千恵子の後ろに隠れていた菜摘は、ぴょこっと頭を乗り出す。その可愛らしいドヤ顔は、何ともあざとい。

「ああ、凄くキレイだぜ。ドレスとボレロの組み合わせは優雅さをうまく(かも)してる」

「そうだな。まるでお姫様みたいだ」

「そ、そうなのでしょうか……? 恐縮(きょうしゅく)です」

 俺と哲也の褒め言葉を聞いた千恵子は、恥ずかしがって思わず顔を赤く染めたみたいだ。

「ふふん、何を隠そう、実はこの服はわた……」

「ああ、菜摘が選んだんだろう? 分かるぜ」

 菜摘が自慢げに話している時に、俺はさりげなく彼女を遮って、自分の推理を述べた。

「うそ!? なんで分かったの?」

 どうやら俺の推理が当たったらしい。菜摘は目を丸くして、不思議そうにこっちを見ている。

「菜摘が凄く嬉しそうだからな。普通ならまずは自分の服を見せるだろう?」

「それに千恵子くんも物凄く恥ずかしがっているしね。明らかに菜摘に着せられているようにしか見えない」

「はい……このようなお洋服は滅多(めった)に着ませんので、どうしても落ち着きませんね」

「おお! さすがだね、二人とも! まるであの名探偵コンビみたい! えーっと、名前はなんだっけ……」

 肝心なところを忘れた菜摘は、思い出そうと人差し指を口元に当て、上目遣いをしている。

「ホームズとワトソンですよ、菜摘さん」

「そうそう、それだよ! さすが千恵子ちゃん、博識だね~」

「いいえ、それほどでも。わたくしも、ただお名前ぐらいしか存じ上げておりませんので」

 すっかり仲良しになった菜摘と千恵子は、いつもより会話が弾んでいる。その微笑ましい光景を見ている俺と哲也は、無意識に口元を緩めている。

「それじゃ、そろそろ打ち上げ会に行くか」

 俺は足を動かして移動しようとするが、菜摘が大声を出して俺を呼び止めた。

「ちょっと待った! 私のかわいい私服が見たいって言わないの?」

 やっぱそう来たか。本当に女子ってオシャレが好きだな。まあ、さっき埋め合わせをすると決めたし、ここは空気を読んで菜摘を喜ばせなきゃだな。

「おおー、待ってたぜ! YO、YO、チェッキアウ!」

 雰囲気を盛り上げようと、俺は急にDJっぽく喋りながら、上半身を後ろに回して両手の人差し指を前に出すという格好いいポーズを決めた。

「じゃんじゃーん! どうかな、似合うかな?」

 装いを換えた菜摘は、ドドンと速やかな足取りで前に出て、俺たちに見せびらかそうとくるりと身を翻した。

 上にはコーヒー色のベストと赤いシャツ、そして下には茶色のミニスカートと膝までにあるブーツ。銀色に光るダイヤモンド型のネックレスや、ポップなブレスレットなどの小物も、いい味を出してる。エレガントな千恵子とは大きく違った(おもむき)だ。

「うん、動きやすそうでオシャレだな。千恵子の服を選んだのと同じ人とは思えないぜ」

「僕も賛成するよ。もしかしたら、お洋服屋さんの店長になる素質があるかもしれないんじゃないかな」

 菜摘の素晴らしいファッションセンスを、俺と哲也は褒めずにいられなかった。それを聞いた菜摘は、先程の意気揚々(いきようよう)とした勢いがなくなって、急にもじもじして謙遜し始めた。

「き、気持ちは嬉しいけど、さすがにそれはちょっと買い被りすぎなんじゃないかな……」

「そんなことありませんよ。わたくしもその素敵な才能を持っていらっしゃる菜摘さんのことが、羨ましく思っております」

「ち、千恵子ちゃんまで……」

 意外の人からの賞賛(しょうさん)が、菜摘に更なる混乱をもたらす。やれやれ、そこは胸を張るとこだろう。

「さて、菜摘の私服(ファッション)堪能(たんのう)したことだし、そろそろ行くとするか」

 そんな菜摘を助けようと、俺はさりげなく一言を挟んで、早くこの会話を切り上げた。

「そ、そうだね! 早く行こう」

 (わら)にも(すが)る思いで、菜摘はロボットのような機械的な動きで、ガタガタと階段へと向かっていく。彼女の背中を見守っている俺たち三人は、顔を見合わせてクスッと笑った。

 菜摘の後を追って、俺たちはショッピングモールにたどり着く。手間取ったせいで遅れてしまったのか、仲間たちは既に入り口の前で俺たちを待っている。

「あっ、来たわね」

 俺たちの到来を、美穂が笑顔で迎える。

「わりぃ、待たせちまったな」

 打ち上げ会をやると決めたのに、さすがに遅れてくるのはちょっとまずいか。俺は苦笑しつつ謝った。

「いいのよ、どうせ菜摘が着替えるのに時間がかかっちゃったんでしょう?いつものことよ」

 美穂は怒る様子がまったくなく、逆にこの事態を最初から予想していたようだ。まあ、菜摘と同じモデルをしてるんだし、ある程度は分かるよな。

「美穂ちゃん、お待たせ~わあ、美穂ちゃん凄い大胆!」

 親友と出会って嬉しそうに前に出た菜摘は私服に着替えた美穂を見て、思わず口を大きく開けて驚いている。

 美穂が着ているのは、大きく開いた紫のジャケットと、それを際立てる金色のビスチェだ。下には股上の浅い、色は黒のデニムホットパンツとベルト付きの白いブーツを履いている。その過激な格好じゃ、男子の視線を釘付けにするに違いない。

「ありがとうね。菜摘も、なかなかサマになってるじゃない」

「えへへ、そうなの? ありがとう、美穂ちゃん~」

 意気投合の二人は、嬉しそうに笑い声を零しながら、お互いのファッションを称えている。千恵子はその微笑ましい光景を、かたわらで見守っている。

「わたくしも、いつかあんな風に楽しくお話ができればいいですね」

「まあ、焦ってもしょうがない。千恵子は本気で誰かと仲良くなりたいと思っているのなら、きっといつかその願いが叶うと思うぜ」

 彼女が密かに胸の奥に秘めている小さな願い事を、俺は全力で支持している。友達と仲良くなると、人生も彩るからな。

「ええ、確かにその通りですね」

 俺の気持ちを受け取った千恵子は、コクリと頷いた。

「それじゃ、行ってこいよ」

「えっ? で、ですが、まだ心の準備が……」

「願うだけじゃ何も変わらないぜ? まずは自分で行動しないと!」

「は、はぁ……」

 まだ戸惑っている千恵子は俺に背中を押されるがまま、あたふたと前に歩き出す。すると失速しかけていた千恵子は、菜摘の隣で何とかブレーキをかけた。

「お、お邪魔致します!」

 このような場面に慣れていないのか、千恵子は目を大きく見開き、肩も(すく)めている。ふーん、前の真面目だった時は普通に話せるのに、こういう日常的なガールズトークは苦手なんだ。また新しい一面を見付けたぞ。

「あら、委員長じゃない。なかなかステキなドレスね」

「は、はい! 菜摘さんが選んでくださったんです」

「『菜摘さん』? 『端山さん』じゃなかったの?」

 些細(ささい)な変化を、繊細(せんさい)な美穂は見逃さなかった。彼女はそれに気付いて、少し驚きの色を見せた。

「はい、みなさんともっと仲良くなりたいと思いまして、まずは呼び方から換えないといけないと、気合いを入れました! 改めて宜しくお願い致します、美穂さん」

「へー、形から入ってるのね。やればできるじゃない。それじゃあ、アタシも遠慮する必要もなさそうね。アタシのほうこそよろしくね、千恵子」

「はい、有り難う御座います、美穂さん」

 とはいえ、千恵子の適応力もかなり強く、早くもこの会話に馴染めたようだ。よし、その調子で頑張れよ。

「んで? そのドレスって、菜摘が選んだって?」

「そうだよ! えへへ、結構似合うでしょう?」

「ふーん、なかなか悪くないわね。でも、ここのほうがもうちょっと開いたらね……」

「えっ?」

 美穂の意味深な笑顔に隠されている意味を、千恵子はまだ知らない。そして美穂は慣れた手付きで、千恵子の胸元にあるボタンを外し、布を一気に両側に広げた。何という早業(はやわざ)だ。

「ひゃあっ!? な、何をなさるのですか、美穂さん!? せ、セクハラですよ!」

 自分の恥ずかしいところを乱暴に晒されて、千恵子は慌ててそれを隠しながら、美穂を睨みつけている。

「だってさ、せっかくそんないいのを持ってるのに、見せないなんてもったいないでしょう? 見た感じ、千恵子はアタシより胸が大きそうね~」

「や、止めてください美穂さん! 破廉恥(はれんち)ですよ!」

 じっと見つめている美穂の熱い視線を意識している千恵子は、顔がますます赤くなっていき、恥ずかしさのあまりに声が上擦(うわず)っている。

「別にいいじゃない、減るもんじゃないし~」

「もう、止めてあげてよ美穂ちゃん! ごめんね千恵子ちゃん、美穂ちゃんはただふざけてるだけで、悪気はないんだよ!」

 それを見かねた菜摘は、二人の間に入ってこの混乱した状況を治めようとする。

「そうよ、仲良くなった記念のスキンシップってやつ! 菜摘にもしてあげたっけ」

「そ、そういうものなのですか、女子同士の交流は……?」

「うん、そういうものよ」

「いやいや、合ってるけど違うから! あんまり惑わされないでね、千恵子ちゃん」

 無邪気な菜摘は、千恵子が間違った知識を覚えるのがさすがにまずいと思ったのか、片手を横に振るってツッコミを入れた。

「何よそれ、まるでアタシが悪いみたいじゃない! そんな菜摘に、わしづかみの刑よ~!」

 本性を現した美穂は、両手の指を鷹の爪みたいに曲げて、菜摘に向かって突進する。そんな菜摘の表情は一瞬にして怯えた顔になって、涙を目に浮かべながら逃げていく。

「えっ、なんで私が!? いやあああ~」

 ……なんか状況が一気に脱線しちまったぞ、おい。

「ふん、とんだ騒がしい連中だな。やはり俺には女同士の馴れ合いが理解できん」

 後ろから、まさかの広多の感想が聞こえる。もしかしてさっきからずっと見ていたのか。

「何という狼藉(ろうせき)……私があの輪に入らなくてよかったわ」

 未だにこのテンションについていけない常識人である名雪は、呆れた白目で千恵子たちを見つめながらそう(なげ)いた。

「名雪もあの子たちと一緒にお喋りすればいいのになぁ。いつもと違う一面が見たかったのに」

 一方、直己は腕を組んで、とても残念そうに溜め息をつく。

「冗談じゃないわ。私は風紀委員よ? 他人と楽しくお喋りしてたら、風紀委員の名折れになるわ」

「でもその前に、名雪は一人の女の子だろう? 他のみんなと同じく、楽しく過ごす権利だってあるじゃん」

 おお、すげえな。俺が今正に言おうとした言葉を、あの直己が代弁してくれたぜ。意外といい一面あるじゃん、あいつ。

「なっ……!」

 そして名雪は何故か急にびっくりと仰天して、顔が赤く染まった。

「というわけで、まずはこのおれから……ガハッ!」

 調子に乗ってまたしても名雪に近付こうとする直己だったが、素早いビンタを喰らった彼はボールのように空中で三回転し、俺の前に倒れ込んだ。

「な、何バカなことを言ってるのよ! 大体あんたは男なんでしょう! もう、知らない!」

 そう言い放つと、名雪はふんと鼻から不機嫌そうに声を漏らすと、そそくさとショッピングモールの中に入った。

「おれ、なんか変なこと言ったかな……?」

 ダメージを受けて立ち上がる気力もなくなった直己は、仰向いたままで俺に問いかける。

「知るかよ。こういうタイプの女子は、一筋縄(ひとすじなわ)じゃいかないからな」

「ううっ、やっぱりそうか……もしかしておれ、嫌われてるのかな……」

 取り付く島のない直己は、弱気になり始めた。恋する少年も、楽じゃねえよな。

「まあ、一つだけは言っておこう。お前がさっき言ったことは、間違ってないと思うぜ」

「ははっ、そうか」

「ああ、少なくとも俺はそう思うぜ」

 そんな直己を、俺は慰めた。冷め切った彼の心に、せめて希望の炎が残ることを祈って。

 そしてついに打ち上げ会の開始を告げようと、あの二人が動き出す。

秀和「やっと打ち上げ会が始まるのか。こうして雑談するだけで結構時間がかかると思ってたけど、意外と暇を潰せたな」

哲也「まあ、いいんじゃないか。何しろあの激戦が終わった後だし、息抜きも必要だからね」

菜摘「私も賛成! そしていよいよピッツァが食べれる~! もう、お腹ペコペコだよ」

美穂「たくさんトッピングを乗せて、お腹いっぱい食べようじゃない」

千恵子「お二人とも、食欲旺盛ですね。たくさん食べるのはいいことですが、あんまり度を過ぎないように気を付けてくださいませ」

美穂「でもね、たくさん食べないとすぐ疲れるし、何しろ『ここ』が成長できないわよ」(胸を指差しつつ)

千恵子「お、大きければいいってものじゃありませんよ、美穂さん」

美穂「あら~、声が震えてるわよ千恵子? やはりアンタも気になってるんじゃないの~?」

千恵子「そ、そのようないかがわしいことを決して……!」

美穂「ごまかしても無駄よ。アタシには第六感シックス・センスがあるから」

千恵子「さ、さすがですね……」



友美佳(誰も「あの二人」について聞かないのかしら……? まあ、前に会ったことがあるかもしれないだろうし、よしとするか)

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