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反逆正義(リベリオン・ジャスティス)Phase One——Ten days in heaven(or in hell)  作者: 九十九 零
第2章 ヘブンインヘル転学編・波紋を呼ぶ奇跡
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リボルト#07 闇を切り裂く稲妻 Part10 初戦の終わり

 突然、祭壇がゴロゴロと揺れて、俺たちの足取りを乱す。こんな突発状況を予想しなかった俺たちは、再びパニック状態に陥る。

「何だ!? 地震か!?」

 ボスを倒すとステージが崩壊するパターンは、今までゲームや映画とかで何度も体験してきた。だけど、今回はあまりにも前触れがなかった。それに、まさか自分の身に起きるとは思わなかったぜ。

 そしてまるで俺たちの疑惑を先読みしたかのように、計ったタイミングで空から声がした。

「ああ、言い忘れていた。ボスを倒すとステージが崩壊するので、早めに逃げたほうがいいぞ、くっくっく」

 あっ、鬼軍曹のムカつく声だ。

「おせーよ!」

 今更感ハンパない情報を耳にした聡は、声を上げて愚痴を零した。

「早く階段に戻って下に降りよう!」

 千紗は俺たちが昇ってきた道を指で示し、慌ただしい声を出す。

「駄目です! このような激しい揺れでは、足を踏み外して階段から転落してしまいます!」

 こんな状況でも、千恵子は落ち着いて周りの状況を冷静に分析している。だが、これでは逃げ場が完全に封じられちまう。どうすりゃいいんだ?

 そう悩んでいるうちに、地面はいつの間にか傾き始めやがった。見えない重力の渦に引き込まれ、俺たちの体はみるみる(がけ)(ぷち)に近付いていく。あっという間に俺たちはリングアウトされ、気が付いたら足元にとてつもない違和感を覚える。

「「「きゃああああああああああーーー!!!」」」

 甲高い悲鳴と共に、俺たちはなす術もなく自由落下していく。下の森の樹木も、だんだん大きく見えてくる。10階のアパートも相当するこの高さだ、落ちたら一溜まりもねえだろう。

 何か解決策はないかと、俺は急いで手をポケットの中に突っ込んだ。手が感じるバッジの感触に、俺はあることを思い出す。

 そうだ、まだワイヤーガンを使ってなかったぜ! これなら何とかなるはずだ!

 俺は急いでワイヤーガンのバッジを設置し、何か引っかけるものはないかを探している。すると、近くにある長い木の枝が、力を貸すと言わんばかりに俺の目に映る。

 この二度と来ない絶好のチャンスを逃がすわけにはいかねえ。俺は迷わずに枝に向けてワイヤーを発射し、何とか無事に巻き付けることができた。しっかりとした枝に引っ張られた後に、俺はそれにぶら下がっている。

 ふうー、危なかったぜ……ん?

 突然空から、人の叫び声がフェードインしてくる。

「きゃああああああああああーーー!!!」

 俺は見上げると、そこには急降下している菜摘がいる。助けないと!

 俺は力を込めて木の(みき)を蹴った。その反作用によって、俺の体が逆方向に動いて菜摘のほうへと近付く。そして彼女とすれ違った瞬間に左手を出して、しっかりと彼女の腰を掴んだ。

「よし、捕まえた!」

「秀和くん!? あ、ありがとう~」

 またしても俺に助けられた菜摘は、安心して大きな息を吐いて、俺に寄りかかる。彼女の頬は、リンゴのように赤く染まっている。やれやれ、こんな時でも乙女モード全開だな。彼女のかわいい顔を見て、俺は思わずほっとする。

 だが、天からの授けものは彼女だけじゃなかった。またしても、上からは人の悲鳴が聞こえる。今度は千恵子だ。

 仕方なく、俺はもう一度木の幹を蹴って、千恵子を助けようとする。右手はワイヤーガンを持っているので、俺は腕をなるべく広げて千恵子を挟めるように最大限の努力をした。

「よっと! ふう、間に合ったぜ」

「こ、狛幸さん……お助け頂き、誠にありがとうございます」

 俺に助けられた千恵子は、菜摘と比べて態度こそ控えめだったものの、ドキドキしている様子は菜摘とそっくりだ。そんな彼女を見て、俺も思わずうっとりした。

 だが二度目があれば三度目もある。今度は冴香の悲鳴が空に響き渡る。

 さて、どうする? 菜摘と千恵子を下ろすわけにはいかないし、かといって冴香を見殺しにするわけには……ったく、一か八か!

 再び俺は木の幹を蹴って、冴香を助けるために彼女に近付く。けど、俺の両手は既に人を抱えていて、これ以上のスペースがない。

 どうすればいいんだ? こんな時こそ、常識に囚われずに頭をフル稼働させねえと!

 限られた時間に、俺はこの先の結果を考えられる暇がなく、頭を真っ白にしてただ仲間を助けることに集中して行動に出る。

 気が付いた時に、冴香は俺の目の前に止まっていて、安心した笑顔を浮かべている。

「あっ、秀和さん! 助けてくれてありがとうございました~」

 ふう、作戦成功だ。仲間の無事を確認した俺は、思わず大きな息を吐いた。

 しかし、これで一安心と思いきや、何故か近くから物凄く熱いオーラを感じる。新しい敵か?

 俺は頭を動かして周囲の状況を確かめると、何故か菜摘と千恵子がこっちを睨みつけてくる。

「どうしたんだ、二人とも? 俺なんかまずいことでもしたか?」

 まだ状況を理解できていない俺は質問したが、二人は何も言わずにただ黙って俺の足を指差した。

 足? 足がどうかしたのか……あっ。

 よく見てると、俺の両足が冴香の背中に回って、彼女の体を絡めているじゃないか。両手が空いていないため仕方ないと言えば仕方ないけど、思春期である少年少女から見れば、どうしてもいかがわしく見えてしまう。

 更に両手にも絶品な美少女を抱えているし、こりゃいかにも妄想が膨らみそうな光景だ。冴香も意識し始めたのか、頬が急に赤くなってきたが、満更(まんざら)でもなさそうだ。そして密着した彼女の柔らかい胸から、ドクンドクンと心臓の鼓動が伝わる。

 それに比べて菜摘と千恵子の二人は、ただ俺の手に抱えられているだけで、冴香のような興奮感が一層弱くなる。俺のこの体勢があまりにもアレなのか、それとも冴香が羨ましく思っているのか、二人は俺を非難するような眼光をこっちを凝視している。

 そして次の瞬間、二人はついに怒りを爆発させて、手を上げてきた。

「もう、私の前で冴香さんとこんなことを……!! 私はまだなのにーー!秀和くんのバカぁーー!!」

「は、はしたないですよ狛幸さん! そんなことして恥ずかしくないですか!? 罰を受けてください!」

 おいおい、いくら何でも理不尽すぎるだろう!? 俺はただみんなを助けたいだけだぜ?

 ……なんて、そんなことを言っても、きっと聞く耳を持ってはくれないだろう。

 迫り来る二つのビンタが、熱い闘気を帯びて俺の顔に烙印(らくいん)を残そうとしている。しかし俺の鋭い反射神経によって、無意識に頭が下に動いてビンタを避けた。目標を失った二人のビンタは、勢いが止まらずそのまま互いの顔に当たってしまう。

 キレイな顔に痛みが走る二人は、悲鳴を漏らしながら痛みを和らげようと自分の頬をさする。あちゃー、悪いことをしちまったな。こうなると分かっていたら、このまま動かないで二人のビンタを受け止めるべきだったな。後で埋め合わせをしとこねえとな。

「うふっ、うふふふふ……」

 それに対して、冴香は何故か急に笑い出した。一体どうしたんだ?

「冴香さん! 何がおかしいの!?」

「立花さん、お気持ちは存じ上げておりますが、さすがに他人の前で不幸を笑うのは、いかがなものかと」

 もちろんそんな冴香を見ている菜摘と千恵子は、いい気分にはなれなかった。だが俺からすれば、冴香はそんな腹黒い子とは思えねえな。きっと彼女なりの理由があるだろう。

「い、いいえ! 私は決してそのようなことを……! ただ……」

 誤解を招いてしまったのか、冴香は慌てて顔を横に振って説明しようとする。

「ただ?」

「ただこうして見てると、これって青春だなーと思って」

「どういう意味でしょうか?」

「ほら、私ってアイドルじゃないですか。毎日お仕事で忙しくて、学校に行くお時間がほとんどなくって。でも、ここで皆さんとひと味違う毎日を過ごせて、有意義な人生を送っているなと思うんです。まあ、学校っていえばちょっと変ですけどね」

「そ、そうなんだ……」

「なるほど、確かに充実した人生を過ごすことほど、幸せなことはありませんね」

 冴香の情熱のこもった言葉に、菜摘と千恵子はさっきの出来事のほとぼりを忘れて、頷いて納得しているようだ。

「はい。だから、こうして皆さんに出会えた奇跡に、感謝しないとですね」

 冴香は迷いのない眼差しで、真っ直ぐこっちに見つめている。その瞳に、輝かしい未来への期待が見えている。やはり、俺の思った通りだな。

 って、それはそうと、俺は自分がまだ一気に三人も抱えていることを思い出した。正直、ここまで耐えられる自分が逆に恐ろしいぜ。そろそろ体力も限界だが、まだ地面までには距離があるな……誰か助けてくれ!

「冴香、感謝する前に、まずは助けを呼んでくれ! このままじゃみんな落ちるぞ!」

「あっ、はい! すみませーん、誰かいませんかー?」

 アイドルの冴香は、持ち前の明朗な大声で助けを呼ぶ。静かな森に、彼女の声がこだまする。そしてすぐさま草を踏むせわしい足音は、だんだん大きくなっていく。

「おーい、助けに来たぞ……ってなんだその格好は!?」

 助けに駆け付けてきた聡は、抱き合っている俺たちを見て驚きを隠せず、思わず大声を出した。まあ、こんな尋常じゃない状況を見たら、無理もないか。

「わお、凄まじい四角関係! これは薄い本が厚くなりそうだね」

 片手を額に当ててこっちを見ている愛名は、何かが閃いたようで、とんでもない予言を口走る。いつかコミケで、こいつが書いた俺たちの同人誌を読む日が来るだろうか。

「ちょっと、何してるのあなたたち! 早く離れなさいよ!」

 今度は風紀委員の名雪が、早くも俺たちのあられもない姿に呆気(あっけ)を取られて、事情も考えずに俺たちをキツく怒鳴りつけた。

「そうしたいのは山々なんだけどさ、まずは俺たちを下ろす手伝いをしてくれよ! もう疲れてきて力が入らないぜ~」

「まったく、よくあんな格好で長い間も持てたな……今助けてやるから、ちょっと待ってろよ」

 聡は呆れつつも、手中のスマホを操作し始めた。しばらくすると、聡の前に緑色のキューブが現れて、風船のように少しずつ、俺たちに向かって浮かび上がってきた。

「何だ、それは?」

「エアブロックだ! そいつでおまえたちを下に運んでやるから、とりあえず飛び降りてくれ!」

 へー、そんなこともできるのか。聡が持ってるそのスマホは恐らくあのバッジから出たものだと思うけど、最近の技術ってすごいもんだな。

「それじゃ、そろそろ下ろすぞ。準備はいいか、冴香?」

「はい、いつでも!」

「よし、三つ数えたら足を離すからな……1、2、3!」

 俺はやっと足を束縛感から解放させ、冴香をエアブロックに下ろした。半透明に光るそれが、しっかりと冴香をキャッチした。その性能の安定さを見届けた俺は、安心して大きな息を吐いた。

「さて、俺たちも降りるか。手を離すから気を付けろよ」

 そう言うと、俺はまた三つ数えて、スタミナを使い果たした両手を離し、菜摘を千恵子をエアブロックに下ろした。最後は俺もワイヤーを銃口に納めて、一緒にエアブロックに降りた。

 四人が無事エアブロックに乗ったことを確認した聡は、またしてもスマホを操作してそれを逆方向に動かした。少しずつ、エアブロックが地面に近付いていく。

 動きが止まったエアブロックから飛び降りて、俺たちの足がようやくこの大地に触れることができた。今までと何の変哲もなくただ普通の地面だが、これほど大事に思えたことはなかった。しばらく、空から落ちるのはごめんだな。

 そして空から、とっくに忘れられていた七宗罪(ギルティ・セブン)(わずら)わしい声が、再び響き渡る。

「おめでとう、生き残った生徒諸君。これにてチュートリアルを終了させてもらう。かなり苦戦していたと思うが、あいつはブラック・オーダーでは低いランクの(たぐ)いだ」

 そういえばそうだった。この戦いはやつらにとって、まだただの初心者レベルに過ぎなかった。これから先が、もっと強い敵が現れるかもしれねえな。

「そうそう、次の舞台(ステージ)なんだけど、ちょっと今は色んな準備をしないといけないから、一週間ぐらい待ってて頂戴」

 なんだ、まだ準備はできてねえのかよ。まあ、その間にゆっくり休んで精気を養うとするか。

「待ってろよォ……次に会ったら、てめえェらの最期だぜェ! いひひひひひィ……」

 その言葉、そっくりそのまま返してやるぜ、筋肉野郎め。

「さて、もう帰りたくてしょうがないと思っているだろうから、今から帰り道を出すぞ」

 狂科学者の声がしたその瞬間に、俺たちの目の前に白い渦巻きが現れる。SFやファンタジーでよく見る時空をワープするための隧道(トンネル)かな?

「ふう、やっと帰れるか。もうクタクタだぜ」

 疲れ切った俺は肩をがっくりと下ろし、力を振り絞ってそう言った。

「油断するな。やつらの罠かもしれん」

 用心深い広多は、俺の後ろから注意してくれた。やれやれ、いくら何でもそれは考えすぎだろう。

「大丈夫だろう。あいつらは俺たちを殺すつもりなら、とっくに殺してただろう。とりあえず俺は早く帰って、腹一杯めしを喰いてえんだ。あとさっぱりしたシャワーも浴びてえ。というわけで、俺は失礼するぜ」

 俺は根拠のない自信を胸にしまい、広多の注意を無視して早く渦巻きの中に入ろうとする。

「相変わらずマイペースな奴だな。まあ、正直俺も疲れているがな」

「だったら余計なことを考えずに、さっさと帰ろうぜ」

「ああ、そうだな。珍しくお前と意見が合っているとはな」

「なんだ、文句でもあんのか」

「いいや、別に」

 帰りの直前に、まさかこの二人の会話が締めになるのが、おそらくここにいる全員の予想を覆しただろう。とはいえ、他の仲間たちがそれぞれ自分の会話に夢中になっていて、それどころじゃないよな。勝利に浸って喜びの声を上げている人もいれば、九死(きゅうし)一生(いっしょう)を得た奇跡から思わず涙を零す人もいた。

 様々な想いがこの場で交わり、渦巻きと共に運ばれていく。これにて、一つの戦いが終止符を打った。

秀和「ふう、やっと終わったか……マジで疲れたぜ」

哲也「お疲れ様、秀和。それにしても、大した活躍だったな」

秀和「そうだな、まさか想像以上にスケールが大きかったとは……これからも油断できねえな」

哲也「それもあるけど、一番印象が強かったのは、やはりあの……」

秀和「もう忘れてくれ。『アレ』は俺にとってただの黒歴史だ」

哲也「何の問題でも? 一気に美少女を三人も抱くとは、さすがと言わざるを得ないじゃないか。僕もさすがに驚いたよ」

愛名「ふふん、これからのラブ路線も見逃せないね♪」

秀和「またお前か……よりによってこんなタイミングに」

愛名「大丈夫、ラブ路線は万年不変の王道なんだから!」

秀和「それ、フォローのつもりか? やれやれだぜ……」

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