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反逆正義(リベリオン・ジャスティス)Phase One——Ten days in heaven(or in hell)  作者: 九十九 零
第2章 ヘブンインヘル転学編・波紋を呼ぶ奇跡
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リボルト#07 闇を切り裂く稲妻 Part9 力の覚醒

 意識を失ってからどれぐらい経ったのだろう。暗闇に包まれていた視線に、ぼんやりと光が差し込んでくる。俺は周囲の状況を忘れて、ただ身体を起こすことだけに集中している。そしてまもなく、周りの騒がしい音が俺を呼び覚ます。

 そうだ、俺はさっきプレイボーイに激しい電気でやられて、それで眠っていたんだ! あいつは今どこにいる?

 俺は頭を素早く動かして、キョロキョロとあちこち見回す。どうやらあいつは残像たちに紛れ込んで、仲間たちを攻撃しているようだ。くそっ、調子に乗りやがって……!

 怒りに満ちた俺は、思わず右手を握り締めた。だが、その感触に何か違和感を覚える。俺は手のひらを開いて、それをじっと見つめる。

 おいおい、何じゃこりゃ? 俺の右手から、稲妻を放っているぞ! しかもさっきと違って全然痛くねえ! もしかして、これって超能力ってやつか? なかなか信じがたい話だけど、せっかく手に入れたこの力は使わない手がねえ。ってか、もうこの手しか残されてないだろう。

 仲間を助けたい一心に、俺は何も考えずにただ右手を開いて、憎きプレイボーイを撃ち落とそうとする。すると右手が俺の考えていることに呼応しているかのように、稲妻が光の速さで(ほとばし)った。紫色の鋭い光は、まるで槍のように残像の一つを貫いた。

 その絶大のインパクトは、仲間たちとプレイボーイの注意力をこっちに引いた。

「秀和くん!? 無事でよかったぁ~! うえええん……」

 盾を構えている哲也の後ろに隠れている菜摘は、こっちを振り向いて俺の生存を確認して、嬉し泣きをしている。

「秀和、生きてたのかよ! 今の技はおまえが出したのか、すげーな! どうすれば出せるんだ!?」

 俺の生き生きとした姿を見た聡は、さっきの泣き面が一転し、喜びの満ちた顔を浮かべている。ゲームでしか見られない派手な技を目の当たりにして、興奮が抑えきれないようだ。

 話したいことは山々だけど、今はもっと大事なことをやっておかなくちゃならねえな。

「話は後だ! 今はこのムカつく野郎を倒すことが先決だぜ。巻き込みたくねえから早く後ろに下がってろ!」

「う、うん!」

 号令を受けた仲間たちは、一斉に向こうからこっちに走ってくる。だがプレイボーイものんびりせずに、仲間たちの後を追う。

 よし、仲間たちはプレイボーイの残像たちとの距離が長くなってきた。攻撃するなら今はチャンスだぜ。

 俺は再び手のひらをかざして、稲妻を放つ。狡猾なプレイボーイはまたしても、残像を盾にしながら動き回ってやがる。

「なかなかやるじゃあない、君。まさかまだ生きてるなんて、まるでゴキブリ並みにしつこいよ! でも、いくら(よみがえ)ろうと、ぼくの残像の前では歯が立たないのさ! さあ、どれが本物か分かるか~い?」

 プレイボーイは飽きもせずに、俺への挑発を続けていやがる。その余裕の笑顔を見ていると、思わず腹が立つ。

 へっ、残像さえあれば無敵だと思っているのか。いくらすげえ技でも、必ず弱点があるさ。今からそれを証明してやるぜ。

「確かに、てめえの残像がすげえぜ。どれが本物かまったく見当もつかねえ」

「ふふん、やっと能天気な君も飲み込めたようだね。それじゃあ、大人しくぼくにやられ……」

「だったら、一つも残さずにぶっ倒すまでだ!」

「なにっ!?」

 俺は適当に残像を一つ選んで、そいつに向かって稲妻を放った。黒い霧になって散る前に、もう一つの残像を攻撃する。一つ、もう一つ、その繰り返しだ。

 ゴキブリのように目障りな残像たちは、光の速さで一つ一つ消えていく。さすがにプレイボーイはこの事態を対応する術もなく、俺の稲妻を躱すだけで精一杯だった。

 そしてついに全ての残像が消えて、広い空にはたった小さなプレイボーイの姿しか残っていない。

「う、うそだ……ぼくの残像がぁ……」

 優勢から圧倒的に不利な状況に陥ったプレイボーイは、開いた口が塞がらずにただ茫然としている。ふん、いいざまだな。

「形勢逆転だな、マヌケ。自慢の残像が全部消えたご感想は?」

「ぐぬぬ……残像を消しただけでいい気になるんじゃないよ! き、君達があんまりにも不甲斐ないから、ちょっと手加減してあげただけだ!」

「ふーん。その割に随分と悔しそうじゃねえか」

「ええい、うるさい! くそっ、話は全然違うじゃあないか……」

 プレイボーイは大声で反論すると、舌打ちをしてつぶやいた。一体何の話だ?

「もう、こんなのやってられるか! ぼくは逃げるぞ!」

 先ほどの勢いはまるで嘘だったかのように、形勢が不利と見て弱気になったプレイボーイは、背中を見せて向こうへと飛んでいく。その時も、やつは残像を作ることを忘れていない。俺たちの攻撃を防ぐための盾か。

「あっ、逃げる気だぞ、アイツ!」

 それを見た聡は、空を見上げるとプレイボーイを指さして、またしても親切に実況してくれてる。

 逃がすものか。散々俺たちを痛い目に遭わせたくせに、そう簡単には済まさねえぞ!

 俺は全ての力を右手に集中して、さっきの稲妻であいつにトドメを刺そうとする。稲妻も俺の想いに応じて、眩しさを増していき、ビリビリと電流の激しい音を放つ。

 勝つんだ、俺。勝って、そしてみんなと一緒に帰るんだ。自由のために、未来のために……!

 俺は難なく稲妻を一つのスパークに固めて、目の前に浮かべた。続いて右手を握り締めて、それを勢いよく振るって、スパークにぶつける。

 そして、まるで昔からこの技の存在を知っていたかのように、俺は高らかに名前を口にした。

千里(せんり)一本槍(いっぽんやり)!」

 俺の声が消えたとたん、スパークから一本の稲妻が迸り、鋭い槍のようにプレイボーイに向かって飛んでいく。(とどろ)く雷鳴が、その強さを主張している。

 鋭い槍は、続け様にプレイボーイの後ろにある残像の壁を串刺しのように一つずつ貫いていき、やがて一番前の本体に近付く。ついにやつも余裕を無くし、その顔に焦りが見える。

「な、なんだそのチート技はぁ!? たかが一介(いっかい)の生徒の分際で、なんでそんなことができるんだ……うわあああああああああ!!!」

 無慈悲な稲妻の槍は、容赦なくプレイボーイの心臓を貫き、致命傷を与えてやった。生命機能が停止したやつは、あっという間に黒い霧となって散っていった。

「勝った……のか?」

 思ったよりあっけない勝負に、俺は驚きを隠せなかった。今までの苦労は一体なんだったのか。改めて稲妻を放っている自分の右手を見つめると、思わず息を飲んでしまう。

 静かな空に、ただそよ風の吹く音が聞こえて、俺たちの勝利を謳歌(おうか)している。ついさっきまで、俺たちはここで戦っていたとは思えねえな。

 しかしこの静寂(せいじゃく)は、早くも仲間たちの歓声によって破られた。

「秀和くぅぅぅん!」

 菜摘の喜びの満ちた声が、俺を現実に引き戻した。視線を彼女のほうに向けると、その顔に浮かんでいるのは極上(ごくじょう)の笑顔と、真珠(パール)のような純潔(じゅんけつ)な涙だった。

 全速力でこっちに走ってきた菜摘は、さっきの戦いでたまった疲れを忘れて、力一杯で俺を抱き締めて、顔を俺の胸に埋めた。

「もう、心配しちゃったよぉ……もう秀和くんの声が聞こえないとか、笑顔が見れないとか、慰めてもらえないとか、そう思っていたら、私心配で心配で……う、ううえええん!!」

 様々な気持ちを心に交えている菜摘は、その言葉が支離滅裂になっている。あげくに涙腺(るいせん)が崩壊して、大声で泣き出した。それは一人の親友としての配慮(はいりょ)か、それとも恋する乙女の思慕(しぼ)か。今の俺には、それを見極めることができない。

 そんな彼女の愛おしい姿を見ていると、俺は思わず彼女の頭を優しく撫でてあげた。

「すまねえ、心配かけちまったな。それに、ありがとう」

 なんて返せばいいのか分からなかったものの、俺はとりあえず一番無難そうな言葉で返事した。

「君が倒れていたのを見て、菜摘は何もできずただ(ひざまず)いてたんだ。彼女を守るのが凄く苦労してたけど、幸い間一髪のところに君が起きてやつを倒してくれたんだ。礼を言わせてもらうよ、秀和」

「もう、哲也くんったら! そんな恥ずかしいことを言わなくてもいいのに~」

 俺が意識を失っていた間の状況を説明してくれた哲也に対し、菜摘はムスッと頬を膨らませてそうつっこんだ。

「別にいいじゃないか。僕だって、菜摘に早く元気になってほしいんだ」

「そ、そうなの……でも、さっき哲也くんが守ってくれなかったら、私はもう……ありがとうね」

「いいってことさ。昔からのよしみじゃないか」

 哲也と菜摘のやりとりを見て、心が和んだ俺は思わず微笑んだ。ああ、これぞ青春って感じだな。

「あの、狛幸さん」

 突然、後ろから聞き覚えのある優しい声がした。俺は声がした方向を見ると、そこには千恵子が優雅に立っている。

「良かったですね、御無事で」

「そうだな。一時どうなるかと思ってたけど、奇跡が起きてくれて本当によかったぜ。もしかして千恵子も、俺のことを心配してくれてたのか?」

「そんなこと、当たり前じゃありませんか。リーダーのいないチームは、チームとは呼べませんから」

 ああ、そっちのことか。まあ、いかにも千恵子らしい答えだけど、もう少し私情を挟んでくれてもいいのにな……

 しかし、千恵子の答えはそれだけで終わらなかった。

「それに……」

「それに?」

「貴方様が居なくなれば、わたくしは、寂しくなりますから……」

 いつも凛々しい千恵子の声が、何故か急に弱まっていく。明後日の方へと向く彼女の視線と赤く染まった頬が、何かを暗示しているようだ。

 彼女の真摯(しんし)な言葉が、俺の心を動かした。俺は一歩前に出て、左手を彼女の肩の上に置いた。

「そうか。そんな風に思ってくれて、ありがとうな。でも安心するといいぜ。俺たちの冒険は、まだまだこれからさ。それまでに、たくさんの思い出を作っていこうぜ」

「は……はい!」

 俺の情熱のこもった言葉に、千恵子は大きく頷いた。その満面の笑みは、まるで宝石のように輝いている。

 この無人島の敵を全滅させたことにより、事態も一段落したと思われた。しかし、そんな俺たちには、次の危機が襲いかかる。

友美佳「またいいところで終わっちゃったわね……それにしても、『次の危機』って何かしらね……気になるわ」

秀和「まあ、作者はアクション映画が好きだからな。こんなんで終わったら面白くねえだろう」

聡「個人の趣味を満足するために、オレたちを犠牲にするのかよ……」

秀和「違う、断じて違う! これはあくまで娯楽(エンターテインメント)のためだ! それに、困難を乗り越えたほうが、その分成長も大きいじゃないか!」

広多「確かにそうだな。機械ばかりに頼って、体が鈍ってしまえば人間もそこまでだ」

聡「んだとー!? おまえ相変わらずムカつくな!」

広多「何だ、やる気か?」

聡「おう、やってやるぜ! オレのスマホとおまえの鎌、どっちが強いか確かめようじゃねーか!」

秀和「相変わらずだな、このコンビは」

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