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反逆正義(リベリオン・ジャスティス)Phase One——Ten days in heaven(or in hell)  作者: 九十九 零
第2章 ヘブンインヘル転学編・波紋を呼ぶ奇跡
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リボルト#07 闇を切り裂く稲妻 Part8 手ごわいプレイボーイ

 見た限り、やつは20代の男性で、インスタンドヌードルのように伸びている金髪と、オカマっぽい中性な顔立ち、そして約180センチもあるその身体の曲線。フリルたっぷりの白シャツと、無駄に眩しい紫色のベストとズボンを着用している。いわゆるプレイボーイで二枚目のような第一印象だ。

「ようやくお出ましか、くそったれが」

 俺たちを散々苦しめた張本人を目の当たりにして、自ずと怒りが込み上げてくる。嫌みの満ちた笑みを浮かべて、俺はプレイボーイに向かってそう言い放った。


「おやおや、なんて下品な……先生に対して敬意もなしにそんな言い草をするとは、いい度胸をしているじゃあないか」

「化け物の分際でよく言うぜ。てめえらのような生徒を苦しませるやつには、敬意もくそもねえよ」

 今更まだ先生ぶってんのかよ。マジで反吐(へど)が出るぜ。

「おやおや、そうと来たか……先生達は、君達をもっと立派な人間に育て上げるための努力しているんだぞ。それも分からないとは、実に心苦しい」

 立派な人間に育て上げる……その言葉に反応して、俺は親父と別れた時のことを思い出す。

 そういえばそうだった。ここは生徒たちを親の思う通りに育て上げるための学校……のはずだった。それなのに、この三日間に起きている一連の出来事はなんだ? 授業どころか、いつ命を落としてもおかしくねえ絶体絶命の険悪すぎる事態になってるぞ。

 もしかして詐欺か? いや、詐欺にしては随分と大がかりすぎる。反抗すると電気が出る腕時計、設置すると武器が飛び出るバッジ、そして正体不明の化け物たち……どう考えても裏がありそうだ。一体こいつらは何を企んでるんだ?

 重なる謎に頭を混乱させられているうちに、時間があっという間に過ぎて、プレイボーイは俺の思惑をお構いなしに、また勝手に一人で演説を始めやがった。


「それにしても、君達は本当に可哀相な奴だね! 親が君達の考えを無視して、ただ自分の思う通りに変えたいだけ! 何故そうなるか分かるかい? 君達はあんまりにもダメ過ぎて、親がガッカリしているんだよ! だから仕方がなく、大金(たいきん)を払ってまで君達をこんなところに送り込んだのさ! 要するに最下層だ、落第者(ドロップアウト)なんだよ! どこかの超高校級の天才エリートしか入れない学校と逆でさ、ハハハハハ!!!」

 両手を上に向けて、顔を傾げながらウザいドヤ顔をしているプレイボーイのポーズは、あの鬼軍曹とそっくりだ。更にウザい演説の内容と相まって、俺たちの怒りゲージがますます溜まっていく。

「ふん、人のことを何も知らずに、よくここまでペラペラ喋れるな……正に愚の骨頂(こっちょう)だな」

 広多は目を閉じながら、プレイボーイを小馬鹿にしている。あいつの汚らわしい姿を、自分の目に映すのは屈辱(くつじょく)だと思っているのだろうか。

 それにしても、何気に意味深な言葉だな。やはり彼の過去が気になるな。


「愚の骨頂だって? ハッ! こう見えても、ぼくは君達より年上なのだよ! つもり君達より経験が多いってことさ! 間違えるはずがない!」

 うわ、出た。自分の古い経験を武器にして、新たな可能性を否定するようなやつ。確かに経験をたくさん持つのはいいことだけど、そうやって経験に頼ってばかりで、すぐ思い込むのは経験の怖いところだな。

 俺の親父も、昔よく自分の古くさい経験を自慢げに語って、俺が何か新しいチャレンジをしようとした時に、すぐ「私も昔同じことをして苦労をしてきたのだからお前に教えてやったのに、何故前に壁があるにも関わらずそこにぶつけようとしたんだ?」とバカバカしいことを言いやがる。ヒュームの経験論でも勉強してこいよ。

「ふん、やはり馬鹿には治す薬はないのか」

 そんな広多も、プレイボーイの傍若無人な態度に呆れて、頭を横に振って溜め息をついた。

「ぐぬぬ……なんて生意気な生徒なんだ! 仕方がない、この法島(ほうとう) 女好(めずき)は、君達に最後の授業をしてやろうじゃないか!」

 挑発され続けていたプレイボーイはついに我慢の限界に達したのか、両手を鷹の爪のように握って、俺たちを始末するために構え始めた。

 俺たちも応戦しようと武器を構えたが、次の瞬間にプレイボーイの取った行動は俺たちの全身に悪寒を走らせた。

「あっ、女子は殺さずにハーレムに入れてあげるから、怖がらなくていいからね!」

 なんとプレイボーイは女子たちにウインクをして、色目を振り撒きやがった。筋肉野郎とは違ってある程度イケメンなので、そこまでドン引きされることはなかったが、やはりさっきのバカげた話を聞いていたからか、女子たちはゴミを見るような目付きであいつを眺めている。

「え、ええい! こんな時に他の男子がいるから、ぼくの美しさに気付かなくなるんだ! 他の男子たちをやっつければ、きっとすぐぼくの魅力に……うわっ!」

 まだ現実を受け入れず悪足掻きをしているプレイボーイは、ナルシストモードを全開させていやがる。だがその隙に、見兼ねた広多は肉眼で捕捉できないスピードで、プレイボーイに接近してやつの身体に切り傷を入れてやった。

「ふん、貴様のような口の減らないお喋りな奴には、こうやって黙らせるのは一番だ」

 プレイボーイの熱弁に反して、広多の口調は氷のように冷たい。冷ややかな銀色の鎌の刃が、一切の容赦を見せず悪の手先に審判を下す。

 ボスの割に随分とあっけなかったなと思っていたその矢先に、戦況は俺たちの油断でどんでん返しになってしまった。

 先ほど広多の手で殺されたと思われているプレイボーイは、広多を翻弄するようにいきなり彼の後ろから姿を現して、無駄に華麗な回し蹴りを喰らわした。頭部に衝撃を受けた広多は、反抗する方法なく地面に向かって落ちていく。幸い美穂は機転を利かせて、超能力手袋で彼を浮かべることで、何とか重傷を負わせずに済んだ。


「おい、大丈夫か?」

 仲間を心配して俺は広多に声を掛けようとしたが、聡に先を越された。すっかり仲良しになったよな、この二人は。

「ああ、大丈夫だ。しかし何故だ? 俺は確か、あいつの身体を切り裂いたはず……」

 傷一つ負わずに宙に浮きながら、清々しい笑顔を見せているプレイボーイは、またしても俺たちを見下ろしていやがる。

「あれ~、おかしいよね~? ぼくを斬ったはずなのに、どうして無事なのかって、君達は今そう思ってるよね~? 何故分かるのかって? そりゃ顔に書いてあるからじゃないか~」

 プレイボーイは自分の作戦が成功した喜びのせいか、調子に乗ってやがる。それぐらい、子供だって分かるだろうが。一々俺たちを挑発して罠にハメようとしてやがるな、こいつ!

「いいよ、その理由を教えてあげるよ。それはぼくは、『質量の持った残像を生み出す能力』を持っているからさ!」

「な、なんだってー!!」

 プレイボーイがその理由を言ったとたん、うちのメンバーの一部が驚きの声を上げた。その時、プレイボーイは既に残像を生み出しながら、足も動かさずに、ただ浮いたままの状態で右往左往している。あまりにも不思議な光景に、みんなも思わずプレイボーイを追おうと視線を左右に動かしている。

「ほら、凄いでしょう? これは単なる手品ではなく、本物の魔術(マジック)さ! ぼくを攻撃しようとしたその瞬間に、気が付いたらもう遅い! そしてその隙に君達は訳も分からなくボロボロになって、ぼくに屈服するしかないんだ!」

 お喋りなプレイボーイは、惜しみなく自分の特殊能力は披露している。うん、いかにもすぐやられるような小物臭いな。だが、あいつはまだ奥の手を隠しているかもしれねえし、気をつけねえとな……

「まあ、元々これは女子とイチャイチャするための能力だけどさ。余計な男子どもを倒したら、後は女子の人数分の残像を作って、後はこ~んなことや、あ~んなことも……ひゃっひゃっひゃっひゃひゃ!」

 決めた。今すぐこいつを潰す。


 俺は両丁拳銃のバッジを設置し、照準を定めて掛け声もせずに、ただひたすら黙々とプレイボーイを仕留めることに集中している。だが狡猾(こうかつ)なプレイボーイは、フィギュアスケートのような素早くかつ滑らかな動きで、俺の攻撃を(かわ)していやがる。あいつを攻撃しようと引き金(トリガー)を引いても、結局そのスピードについていけず、どうしても残像に当たってしまう。

「てめえ、卑怯だぞ! さっさとこっちに降りてこいよ!」

 イラつく俺は、銃口をプレイボーイに向けながら、怒りのこもった声であいつにそう放った。もちろん、やつはそう簡単に降りてくれるはずがなく、げらげらと嫌味に笑った。

「バーカ! せっかくこんな凄い能力を持ってるのに、わざわざ使わずに死に急ぐバカはいるか! それにしても、実にいい顔だね~。そのままもっと足掻いて、何もできずに死んでいく君達の顔がどんなものか、実に楽しみだよ!」

 言うと思った。今は相手が優勢だからムカつくと思っているけど、もし立場が逆だったら、俺も同じことをしていたかもしれねえ。


「さーて、ぼくもいい加減避けるのが飽きてきたし、そろそろ本気と行こうかね」

 ついにプレイボーイは動きを止めて、なにやら大技を出しているように構え始めた。

 普通こういう場面では、味方は謎の力によって何もできず、ただ敵の変身や技を出すのを見守るしかできないけど、そんな理不尽なルールは俺たちには通用しねえぜ。

「よし、やつが止まったぞ! やるなら今しかねえ!」

 貴重(きちょう)機会(チャンス)逃さまいと、俺たちは憎きプレイボーイを目掛けて一斉に攻撃を仕掛けた。不意打ちを予想しなかったプレイボーイは、攻撃を避ける余裕もなくまともにそれを喰らった。白い(けむり)が湧き上がって、やつの哀れな姿を覆っていった。

 へへっ、これで俺たちの勝ちだ……ん!?

「やれやれ、マナーの悪い連中だな。人が大技を放つ時に、大人しく見守るのが常識じゃあないか。パパとママから聞いたことがないのかい?」

 んなわけねえだろう。むしろ敵が隙を見せる時にジャンジャン攻撃するのが普通じゃねえか……って、何でこいつは喋れるんだ? 俺たちの攻撃を喰らったはずじゃ……

「ああ、言わなくても分かるさ、君達が考えていることを。何でぼくは攻撃を喰らったのにまだ生きてるのかって? 残念だったな、そいつはトリックだよ」

 聞くだけでムカつくプレイボーイの声と共に、白い煙が少しずつ散っていく。そこから見えるのは、数え切れないプレイボーイのシルエットだ。そして煙が完全に散り去った時に、無数のプレイボーイの残像が空に浮いていやがる。

 ちっ、外したか。これだけ偽物がいれば、どれが本物がすぐに見分けられねえぞ。

 だが、狡猾なプレイボーイは、そいつが作り出した無数の残像と共に、ジェット機のような速さでこっちに迫り来やがる。

「上から来るぞ! 気をつけろ!」

 見れば分かるこのヤバい状況を、聡が大声で親切に解説してくれる。

 残像たちは一斉に、仲間たちに向かって攻撃を仕掛け始めた。残像たちが元にいた場所は、仲間たちにいる位置とかなり離れていたので迎撃する準備はできていたが、数があまりにも多すぎるため、目の前にいる敵と戦うだけで精一杯で、他の仲間たちをサポートする余裕がなくなってしまう。

 そして最後のプレイボーイは、ゆっくりと俺のほうに近付いてきた。さては本物かな?


「さーて、邪魔者もいなくなったわけだし、これでじっくりと君を(なぶ)り殺せるね。七宗罪(あいつら)から話を聞いたんだけど、君は今、教師達から目の敵にされてるからね。もし君をやっつけられたら、ぼくもあいつらの仲間に入れてくれるってさ。だから悪いけど、ここで死んでもらうよ」

「へっ、よくそんなことを口にできるな。俺たちはここから出るって決めたんだ、そう簡単にここでくたばるかよ」

「君の意思は聞いてないよ、脇役。こういう人の話を聞かないちびっ子には、ちゃんとしたお仕置きが必要みたいだね」

 プレイボーイは生意気な言葉を吐き捨て、パチンと指を鳴らした。すると、俺の右腕に激痛が走り出した。よく見ると、何故かレプリカの腕時計から眩しい稲妻を放っていやがる!


「バカな! これはレプリカのはずじゃ……くっ!」

「本当にバカだね、君達は。そんな小細工(こざいく)、気付いてないとでも思ってるのかい? でもおかげで君達はぼくの思惑通りに、罠にまんまとハマってくれたのさ。まあ、電気さえ通っていれば、暴走させるのも物凄く簡単なことさ! ハハハハハ!」

 苦しみに悶えている俺を見て、プレイボーイはげらげらといやらしく嘲笑(あざわら)っていやがる。くそっ、銃を握るのも(まま)ならねえ! この腕さえ動かせたら、今すぐ一発で眉間を撃ち抜いてやれたのに!


「秀和!」

「秀和くん! 大丈夫!?」

 親友の哲也と菜摘は、俺のことを心配して、今自分が戦っている相手のことを忘れてこっちに走ってくる。

 気持ちは嬉しいが、こんなに電気が出ていれば、あいつらを触るときっと感電させちまう!

「来るな! お前らも感電しちまうぞ!」

 電気に体力を奪われていく俺は、なるべく大声を出して彼らを呼び止めた。

「でも……!」

「俺を助ける前に、まずは自分をちゃんと守れ! って、後ろ!」

 菜摘の後ろから迫り来る残像を見て、俺は慌てて思わず注意した。しかし残像のスピードはあまりにも速すぎて、彼女は反応する余裕さえなかった。幸い哲也が軽やかなステップで菜摘と残像の隙間に入り、間一髪で菜摘を守った。

 仲間たちが無事なのはいいけど、俺も何とかしねえと……!


 俺は恐る恐る左手を動かして、この忌々しい腕時計を外そうとする。しかし腕時計はまるで磁石(じしゃく)のように、俺の腕にくっついてなかなか外せねえ。

「ハハハッ、無駄だよ! 今君の腕は、その腕時計と共に磁石の一部になったのさ! その電流が消えない限り、決して外すことはできない! さあ、そのまま苦しんで地獄に堕ちるといいさ!」

 もはや勝ったと同然と言わんばかりに、プレイボーイは頭を上げて、今までにない甲高い声で笑い出しやがった。

 くそっ、まだ最初の戦いというのに、こんなところで負けちまうなんて……! やはり広多の言った通り、こんなやつらに勝負を挑んだのは無謀だったのか?


 力尽きた俺は、やがて立ち上がる気力も失い、仰いだままで地面に倒れた。視線もぼやけ始め、意識も薄くなっていく。そして目に映るのは、俺を助けようとするも、立ちふさがる敵に邪魔されて願いが叶わず、焦りの色を浮かべている仲間たちの顔だった。特に聡は、腕時計を作ったことに責任感を覚えているのか、すぐにも泣き出しそうだ。

「くそっ、オレのせいだ! あんなガラクタを作るんじゃなかった! コンチキショウぉぉぉおー!」

 ……何言ってんだ。お前のせいじゃねえ。悪いのは、こんなくそ溜めみてえなトコを作った悪い大人たちなんだよ。

 って、そう言ってやりてえけど、もう口を動かす力がねえんだよな、俺は。もう、ここまでか……

 俺の壮大な冒険はここで幕を閉じると思っていたが、どうやら閻魔(えんま)はまだ俺を地獄に堕としたくねえらしい。その代わり、これから誰もが予想だにしなかった逆転劇が、密かに始まろうとしている……

聡「おいおい、マジかよ! 俺だけじゃなく、今度は主役の秀和がやられちまうのかよ! オレは決して、おまえのことを忘れねえ!」

秀和「おい、まだ生きてるぞ。それに主役はそんなに早く死んじまったら物語が終わっちまうぞ」

聡「あはは、それもそうだよな! となると、きっと起死回生の……」

秀和「はい、ネタバレ禁止。話はここまでにしとこう」

菜摘「うええええん! 秀和くん、死んじゃイヤだよおおおおー!!!」

秀和「だから生きてるって!」

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