リボルト#07 闇を切り裂く稲妻 Part7 脱兎組の大乱闘
さっきの森と違って、ここから先の道は石で出来ている。眩しい日差しに照らされて、黄色く光っている。まるで古い時代の祭壇みてえだな。
誰もいない静かな階段を登っている途中で、俺たちの緊張感は高まっていく。互いの心臓の鼓動がはっきりと聞こえるほどに。
ついに最上部にたどり着いた。目の前には、丸い広場がある。石の床に、ところどころ模様が入っていて、なんだか古代の寺っぽいな。
だがしかし、感心するのも束の間。周りにそそり立つ柱の上には、まだ見たことのない化け物が数え切れない程にいやがる。やつらは静かに俺たちを見下ろして、これから自分のエサになると言わんばかりに、音を立てながら舌を出し、いやらしく唇を舐め回す。
「うわ、すげえ数だな、こりゃ……」
いかにもヤバそうな雰囲気に、俺は思わずヨダレをごっくりと飲み込んだ。
「確かにそうだな。だが、ここで引き下がるわけにはいかなさそうだ」
哲也はまたしてもメガネを押し上げて、格好いいセリフを決めた。
「うん、迷ってちゃダメだよね! 私たちは、一人じゃないんだから!」
仲間たちと背中を合わせて、自分を言い聞かせるように菜摘は大声を出した。
「ええ、もうすぐゴールは目の前ですからね。だとすると、やるべきことはただ一つだけです」
千恵子は手に握っている包丁を構えて、真剣な眼差しを浮かべている。その口調から、彼女の決意が窺える。
「ああ、邪魔者を全部倒して、今までたまってきた鬱憤を晴らそうじゃねえか! さあ、脱兎組の力を見せてやるぜ! おおおおおおおーー!!!」
俺は前に走り出しながら、両手剣のバッジを設置した。そしてこっち飛び降りた一体目の化け物を目掛けて、容赦なく真っ二つに斬り捨ててやった。
「参りましょう、みなさん! 自由のために!」
先頭を切った俺に倣って、千恵子もイノシシ型の化け物に向かって前進し、瞬く間にそれを豚肉にした。さすが料理人、食材の扱いは慣れてるな。
「どうした? 武器を持ってないからって、油断したのかな? やれやれ、緊張して損したよ」
哲也は小型盾で敵の振り下ろした剣を一気に弾き、敵がよろけた隙に体当たりを繰り出した。リングアウトされた化け物どもは、重力に吸引され、地面へと衝撃して命を落とした。
「ほらほら、こっちだよ~」
菜摘はあちこち走り回りながら、ビー玉を落として転がしていく。それを気付かなかった敵たちは、ずっこけて山のように積もった。
「美穂ちゃん、今だよ!」
「オッケー、任せて頂戴! とっとと消えちゃいなさい、このキモい化け物どもめ!」
近未来風の手袋を付けている美穂は、超能力で敵を宙に浮かしつつ、やつらをリングアウトさせた。するとやつらも重力の吸引に逆らえず、格好悪い自由落下を遂げた。これは飛込競技の試合なら、絶対0点を出されるだろう。
「邪悪な魂に染まりし野獣どもよ、この赤き光に地獄へと導かれるがよい! 喰らえ、深紅の螺旋茨!」
「愛を忘れて悪事を働く悪い子には、この魔法少女マナがおしおきしちゃうよー! マナスペシャル・ラブラブビーム!」
宵夜と愛名は、いつも通りのハイテンションでアニメに出そうな口上を熟練に述べながら、初心者とは思えない動きで手に持っている武器を使って、化け物どもを一網打尽している。こいつら、本当に人間なのか?
俺はこのシュールの光景に呆れている途中で、突然どこからともなくキレイな歌声が聞こえてくる。
「白い日差しに 青い空
小鳥たちが 幸せの音を送っている」
俺は声がした方向に視線を送ると、そこには両手を胸の前に合わせながら、頷いたままの姿勢で歌っている冴香がいる。その祈っているような端正な佇まいは、正に歌姫そのものだった。
安らぎをもたらす冴香の歌声は、場の雰囲気を一気に変化させ、ひいては化け物どもまで戦うことを忘れて、リズムに合わせて頭を動かしている。
ここまではよかったんだけど、その安らぎは早くも優奈のギターによって壊されてしまった。
優奈が乱暴に振り回しているエレキギターは、無慈悲に化け物どもの脳天に直撃した。その弾みに響くエレキギターの音は、またひと味違う。
「冴香の歌も悪くないけど
あたしの曲がもっとス・テ・キ!
臨終を迎えるあんたたちに
餞別の一曲を 贈るわよ!
さあさあ 早くGO TO HELLしなさいよ!」
何のひねりもないド直球な歌詞に、俺たちは無意識にどん引きして鳥肌を立てた。なるほど、これが彼女のやり方なのか。
そしてその挑発的な歌詞が化け物たちの怒りを燃やしたせいか、やつらは止まっていた身体を再び動かして、俺たちに襲いかかってくる。
「ひっ! こここ怖いよぅ~」
凄い活躍を披露してくれた冴香と優奈に対し、千紗は相変わらず怯えていて、逃げることさえ忘れて尻餅をついている。反抗できないと判断した化け物の一部は、彼女をエサにしようと急速で接近しやがった。
だが彼女を知り尽くしている同じユニットのメンバーにとって、このような事態は日常茶飯事だろう。優奈は豊満な胸に挟んでおいたバッジを取り出して、千紗に向けてそれをパスした。
「千紗、このバッジを設置したら頭に被って!」
「えっ? う、うん……!」
緊張のあまりにぎごちなく返事した千紗は、そそくさと床に落ちているバッジを拾うとそれを設置した。すると、穴だらけの白いヘルメットが空中から急に姿を現して、千紗の頭上に落ちてちょうどハマった。
こうしている間に、化け物どもが千紗に迫った。やつらが一斉に飛びかかって、千紗を捕食しようとする。
「いやあああああああーーー! 来ないでえええええーーー!!!」
牙を剥いている恐ろしい化け物を目にした千紗は、自分の身を守るために思わず縮こまった。
絶望だと思われるその瞬間に、なんと千紗が被っているそのヘルメットの穴から、まるでハリネズミのように無数の黒い槍が飛び出した!
あまりの早さに、化け物どもはなす術もなく、ただそのまま黒い槍に直撃し、身体を貫かれた。そして工事現場を彷彿させるほどの、濃い黒煙が空に漂う。
おいおい、凄すぎるだろう、そのバッジ。しかもその使い方も彼女の行動にピッタリだし、さすがは同じ職場で共に過ごしてきた仲間同士だけのことはあるな。
だけど、まだ一つだけ問題は残っている。それは……
「何でそのバッジの使い方が分かったんだ?」
「説明書を読んだわよ」
俺の質問に対して、優奈は即答した。説明書なんかあったっけ? ブラック・オーダーは俺たちを殺すつもりでいるのに、そこまでお人好しでどうすんだよ。でもまあ、仲間が無事なら、それはそれでいいんだよな。
こうして俺たちの活躍が互いを励ます相乗作用となり、快進撃がしばらく続いた。見かけ倒しの「かかし」たちもあっという間に始末され、黒い霧になって散っていった。
「ふん、これで一件落着か。思ったより大したことないな」
「そうだな。どんなボスが出てくるかって期待してたけど、ただの雑魚戦かよ。まったく手応えがなかったぜ」
強い敵が現れず期待はずれの広多と聡は、肩の力を抜いて余裕の満ちた口振りをした。
確かにさっきの敵は結構弱かったけど、本当にこれは終わりなのか? ブラック・オーダーの奴らは、まだ全力を出し切ってねえ気がするぜ。
そんな俺の心配を裏付けるかのように、突然どこからどもなく発する聞き覚えのない声が、俺たちの安心感を破った。
「おやおや、まさかこれで終わると思ってるとは……ぼくもなめられたものだな」
異様に気付いた俺たちは、一斉に頭を声がした方向に向けた。そこには、宙に浮いている人がいやがる。
秀和「ついに姿を現したか、ボスめ。さては俺たちにボコボコにされるためにここに来たんだな」
???「言うね~まあ、君達は勝ったばかりでいい気になってるかもしれないけど、あんな連中の実力はただの最下層に過ぎないのさ」
秀和「ってことは、てめえもブラック・オーダーの中で最下層ってことだな? 俺たちがてめえを倒した後に、七宗罪に『やつはブラック・オーダーの中でもっとも弱い……』みたいな落ちとか」
???「ふん、何とでも言いたまえ」(怒ってはいけない、怒ってはいけない……ここは紳士らしく振る舞って、女子たちをぼくのトリコにするんだ!)
優奈「なにこいつ? 無駄に派手な格好してるわね……いかにも女の子と遊んでるような雰囲気ね」
???「ぎくっ!」
優奈「いい、千紗? 絶対こんなやつと付き合っちゃダメよ」
千紗「う、うん……」
???「ええい、黙って聞いてりゃいい気になるんじゃないよ! こうなったらズッポンポンになって、ぼくの魅力をアピールしないと!」
菜摘「きゃあああああーーー!!! へんたーい!!!!!」
???「あっ、違うんだ! 決してそのようなつもりじゃ……」
美穂「そんな言い訳が通用するとでも思ってんの! 消えなさい!」
???「うひゃあああああああーーー!!!」




