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反逆正義(リベリオン・ジャスティス)Phase One——Ten days in heaven(or in hell)  作者: 九十九 零
第1章 ヘブンインヘル転学編・非日常の始まり
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プロローグ 絶体絶命のアンフェア・プレイ

プロローグ 絶体絶命のアンフェア・プレイ

Unfair play in a serious crisis


「ぐわああああー!!!!!」

 巻き上がるほこりの煙の中で、また無実な一人が悲鳴を上げて息を引き取ってしまった。

 屋根の上でその無惨な光景を目撃した俺は、思わず息を殺す。


 これはゲームや映画のクライマックスシーンじゃない。正真正銘の「戦争」だ。火蓋(ひぶた)はいつの間にか切られ、この見知らぬ土地も戦いの煙幕によって汚されていく。

 中世のイギリスを彷彿とさせる美しい街並みとは不釣り合いな、(みにく)い形をしている近未来の機械があちこち機関銃やミサイルを撃ちまくって跋扈(ばっこ)している。この地獄絵図は、もはやテロと言っても過言じゃないだろう。


 街の住人たちは必死に抵抗しようと己の武器を振りかざすが、古き白刃や魔法では傷一つ負わせることもできず、歴然とした力の差の前ではあっけなく先端技術武器(ハイテクウェポン)餌食(えじき)となってしまう。

 

 だがこんな絶望的に不利な状況でも、立ち上がって残酷な運命に抗う人もいる。

「諦めちゃダメよ! 戦える人たちは敵を食い止めて、少しでも平民が逃げられる時間を稼ぐのよ!」

 その中には、金髪の美しい女性が一人いた。彼女は様々な輝く宝石が埋まっている(つるぎ)と盾を掲げながら、狼狽(うろた)える戦士たちを声高らかに鼓舞する。


「姫様の言う通りです! いくら敵が強すぎるからって、ここでへこたれっては、民たちに示しがつきませぬ!」

 白銀の鎧を身に包んでいる護衛隊の一人は、姫と呼ばれる女性の期待に応じるべく、仲間たちの士気を高めようと叫んだ。


「西洋の姫君よ、実に勇気のある勢いじゃな……じゃが、まだまだ油断はできぬぞよ!」

 キツネの尻尾が二本生えている小柄の少女が、刃物付きの扇子を格好良く構えながら、姫のほうを振り向くとニッコリと余裕の笑顔を浮かべる。


「そうですね……この世界の平和を守るためにも、ワタクシたちはこの手で何とかしなくては……!!」

 三人目の女性は、長い水色の髪を風に靡かせながら、手に持っている杖をしっかりと握り締めて、戦いの体勢に入った。その引き締まった眉間の先には、一体何が見えるのだろうか。


 そして三人は見えない自分の背中を大切な仲間たちを託し、敵への反抗を始めた。それぞれ得意の武器を自由自在に操り、鉄の甲冑(かっちゅう)を被った憎き敵を一掃するその颯爽(さっそう)な姿は俺の目に焼き付ける。


 自分の置かれている環境を思い出した俺は援護しようと、身に付けている武器を手に取った。だが……


「危ない!」


 どこからともなく響いてくる、焦りのこもった声。それを聞いた俺は声の源を探そうと後ろを振り向いたが、時は既に遅かった。

 何の前触れもなく飛んできたミサイルが俺の近くに爆発し、それによる爆風に巻き込まれた俺の体はふっ飛ばされ、更に無慈悲な重力の作用によって俺は地面に落ちてしまう。


「い、いってぇ……」

 何とか気絶せずに済んだものの、5階建ての建物から落ちた痛みもたまったもんじゃない。うう、腕の骨が折れそうだぜ。

 だが、更なる危機は俺を襲いかかる。


 鉄の甲冑を被った憎き敵の一体は、近くにいる俺の気配に気付き、おもむろにこっちに顔を向けてきやがった。

 まるで「貴様もこれでおしまいだ」と言わんばかりに、その目から放つおぞましい光線が、なめるように少しずつ俺に浴びせている。


 危機感で全身の血の巡りがおかしくなった俺は、震える手を恐る恐る持ち上げて、禁断の武器(フォビドゥン・アモー)である機関銃を目の前に自分を見下ろしている鉄の(けもの)に合わせて構える。

 引き金に触れている指は、未だに戦慄(せんりつ)が止まる気がしない。対峙する両方の目線が見えない光を放ち、きなくさい匂いを生み出す。


 たった一瞬だけで変化するかもしれない自分の命の脆弱さを、ここで思い知らされる。

 思えばすべての始まりは、あの夏休みの最後の日だった。自分を鍛えてくれるはずの場所が、まさかこんな生き地獄だったとは。

 あんたは一体なにを考えてやがるんだ、親父……?

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