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反逆正義(リベリオン・ジャスティス)Phase One——Ten days in heaven(or in hell)  作者: 九十九 零
第1章 ヘブンインヘル転学編・非日常の始まり
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リボルト#04 謎だらけの現実 Part1 作戦会議

アバン


秀和「さて、ついにここまで来たか……ワクワクしてきたぜ」

哲也「気が早すぎだろう……まだ最終決戦じゃあるまいし」

秀和「けどよ、最終決戦に行くまでに、この一話一話の積み重ねはとても大事なんぜ?」

哲也「ふふ……まあ、確かにそうだな」

秀和「というわけで今回はこの学校の謎を暴くぜ! みんな、俺についてこいよ!」

菜摘「すっかりリーダー気分だね~、秀和くんは。冴香さんといい勝負になりそう」

秀和「おいおい、止してくれよ。いくらリーダーとはいえ、さすがにアイドルには勝てねえぜ」

菜摘「そう自分を見下すな!」(チョップ)

秀和「いてっ!」

菜摘「ふふーん、この前のお返しだよ」

秀和「うう……こいつは一本取られちまったな」

リボルト#04 謎だらけの現実

Reality which is full of mysteries


 時を刻む針が進み、あっという間に日付が翌日へと変わった。俺は今、哲也と菜摘と肩を並べ教室に向かって、日差しに照らされて純白に輝く廊下を、もの凄いペースで歩いている。

「さて、さっさと教室に戻って、作戦会議を始めるか」

「そうだな。もうこんな時間だし、グズグズしてる暇はないな」

「うん、九雲さん、きっと待ちわびてるんだろうね~急がなきゃ!」

 説明しよう。朝食を取った俺は、まだ私服のままだということに気付いた。この件を哲也と菜摘に話したら、なぜか二人が俺を近くのショッピングモールに連れて行った。二人の話によると、新しい服装の購入は、全て6階にある洋服屋で行うことになるらしい。

しかし洋服屋と言っても、商品がまったく並んでおらず、ただ数台のプリクラ風の機械が見える。その中に入って自分の着たい衣装を設定すると、機械が自動的に着替えてくれるという仕組みなんだ。

 まったく、相変わらずこういうことだけは凝ってるんだな、ヘブンインヘルは。普通制服は学校がデザインを決めて、教員が生徒たちに支給するものなんじゃねえのか? まあ、こういう自由な校風は嫌いじゃねえけどな。

 というわけで、俺は適当に機械を弄って、自分が一番かっこいいと思うコーディネートを決めた。色は赤と黒しか選べないが、俺の好みの組み合わせだから別に気にしてなかった。

 確認ボタンを押すと、数本の光が俺の体に浴びせた。そして俺の体が、さっき自分が設定した制服に包まれている。ワーオ、こりゃすげえ。

 もちろん、元の私服は事前に脱いでおいたから、体が締め付けられるようなことはなかった。

 制服に着替えたとはいえ、かなり離れた場所に移ってしまったため、だいぶ時間を費やしてしまった。一応千恵子たちに断っておいたのだが、あんまり待たせすぎるときっと怒られるだろうから、俺たちは急いで校舎に向かって走った。

 そして2ーDのプレートが俺たちの視線に入ると、俺は真っ先にドアを開けた。

「わりぃ、待たせたな」

「いいえ、大丈夫ですよ。どうぞおかけになってください」

 昨日の件で千恵子が俺に対する好感度が上がったおかげか、彼女は怒りの顔色を見せる代わりに、穏やかな微笑みを浮かべている。

 俺たちは感謝の気持ちを示そうと頷いた。自分の席を見つけてそれに座ると、左側から声が聞こえる。

「おっ、なかなかサマになってるじゃない、転校生」

 俺は声がした方に視線を向けると、そこにはセーラー服を身に包んでいる女子が座っている。

 思い出した。昨日俺と哲也が抱き合った時に、都会とか言い出したやつだ。さっぱりした茶色のストレートヘアも、いかにも田舎者っぽい。

 だが、出身はどうであれ、それは俺が他人を評価する基準にはならねえ。まずは声をかけてそいつの素性を知っておかないとな。

「おう、ありがとな。わりぃな、昨日は色々あったから、なかなか声をかけるチャンスがなくてな。もう知ってるとは思うけど、改めて自己紹介をしておこうか。狛幸秀和だ、よろしくな」

「いいのよ、気にしないで。あたしは(たかむら)友美佳(ゆみか)よ。よろしくね、狛幸くん」

 山から吹いてきた風のような爽やかな声を鳴らして、友美佳は手を出してきた。俺は彼女の手を握り、友好の証を示した。思ったより話しやすい子だな、うん。

「僭越ながら聞くけどさ、友美佳は田舎から来たのか?」

「ええ、そうよ。どうして?」

「いや、田舎から来たわりに、標準語がうまいなーって」

「ああ、そういうことね。あたしは上京する前に、塾を通って標準語を勉強してたのよ」

「なるほどな。都会に来て一旗揚げようってんのか?」

「当たり! よく分かったわね」

「普通分かるだろう。田舎の人は9割お金を稼ぐために都会に来たんだろう? 憶測だけど」

「あはは……まあ、否定はしないわ」

 友美佳は苦笑しつつも、この事実を受け入れた。どうやら自分が置かれている状況を快く思っていないみたいだ。

「そんな顔するなよ。夢を持つのはいいことなんだぜ? 別にバカにしてるわけじゃねえから安心しろ」

「そ、そうね。ありがとう」

 俺に励まされた友美佳は、ひそんでいた眉間を緩めた。

「大丈夫ですよ、今はむしろ田舎の方がいいですから~ほら、都会はビルしかないですし、自然に触れたくて田舎に行く人が多くなってきたじゃないですか」

 今度は俺の前に座っている、フリルたっぷりの裾が地面に引きずっているドレスを着ている女子が、おっとりした声を出している。その大きなボリュームと鮮やかな赤色が、自分の存在感をアピールしている。しかも車椅子の上なので、占拠する面積を更に増している。どうりで俺の席が狭いわけだ。

「そりゃそうだけどさ、百華(ももか)、都会の人たちが田舎(こっち)に来る度にリゾート地とか建てようとするのよ。おかげさまで森や畑がどんどん減っていくわ。もうウンザリ!」

「あらまあ、それは大変ですわね」

 百華と呼ばれた車椅子の女子が、高貴な装束にぴったりな上品な言葉遣いや振る舞いをしている。そう、俺の隣にいる質素な友美佳とはまったく反対だ。にもかかわらず、二人は何のわだかまりもなく、まるで普通の友達のように会話をしている。まあ、それはそれでいいことなんだけどな。

 それにしても、森林伐採か……いつか俺たちにいる世界も、あの学校の外にある荒野へと変わり果てるだろうな。笑えねえ話だ。

「はい、それではみなさん、突然ですが会議を始めたいと思います」

 教壇に立っている千恵子はパパっと手を鳴らし、俺たちの注意力を集中させている。彼女の真剣な顔を見て、俺はすぐ状況の深刻さを感知し、肘を机について前屈みの体勢で彼女を見つめている。

「既にご存じとは思いますが、わたくしたちこの1年、先生のいないままで何事もなく過ごして参りました」

 千恵子はゆっくりした口調で、事情を説明している。しかしその中には、凛々しい威圧感を通り越して言葉にできない悲しみが感じ取れている。

「ですが、この状況はあまりにも不自然すぎます。これは教師が仕事への放棄、責任への逃避とも言えることです! 他の生徒達が学業に励み、短い青春を有意義に過ごしているのに、わたくしたちはただ怠惰(たいだ)の中に安逸を貪り、時間を無駄してしまっているのです! それは人生において、嘆かわしいことではありませんか? 残念極まりないことではありませんか? みなさん、よく考えてください。自分は何のためにここへやってきたのでしょうか? 今一度、自分の歩むべき道を見つめ直すべきではないでしょうか!」

 千恵子の語りは、とてつもない情熱がこもっている。その語りが終わったとたん、彼女は腰帯に挟んでいる扇子を取り出し、そしてそのまま一気に教壇を叩きつけた。大きな物音が、俺たちの心を揺るがしている。

 そして、静まりかえった教室に、小さな拍手音が響き渡る。真っ先に拍手しているのは冴香だった。さすがはアイドルユニットのリーダー、慣れてるな。

 もちろん他のみんなもその音を無視するわけがなく、次々へと拍手を始めた。あっという間に教室が沸騰し、熱気に包まれる。昨日千恵子と言い争いをしてた聡や美穂たちまでも、手のひらをリズムよく音を出している。なんだかんだ言って、悪いやつじゃないんだよな、うん。

「そこで、わたくしは今から教務室に参り、先生達に抗議したい所存です。みなさん、わたくしにご協力頂けないでしょうか?」

 千恵子の両手に、一枚の封筒が握られている。端正な書体で「抗議書」の三文字が大きく書かれ、その中に含んでいる怒りが影のように蠢く。

「九雲さん、ナイスアイデア! 私、応援するよ」

 千恵子の勇ましい姿に感動されたか、菜摘は持ち前の笑顔を浮かべて、千恵子の意見を賛成している。

「そうよそうよ! ずっとここに閉じこめられて、まるで監禁と同じじゃない! あいつらのせいで、おちおちアイドル活動もできないんだから!」

 正直に自分の意見を言うアイドル・優奈は、不機嫌に両手を大きく振り上げ、心に溜まっている不満を零す。

「まあ、オレは別にどうでもいいけど、今持ってるゲームは全部クリアしたし、早く新しいのを買わないと(おく)れを取っちまうからな」

 ゲームに夢中の聡は、相変わらず欲望本意の発言だな。本当にあいつらしいぜ。

「ふん、幽閉(ゆうへい)されるぐらいで狼狽(うろた)える我ではないわ! だが、力を貸すのは(やぶさ)かではあるまいぞ」

 今日も吸血鬼の格好をしている宵夜は、いつも通りにハイテンションに高笑っている。しかしその手が震えているのは見え見えだ。やはり中身は女の子だな。

「……みなさん! 本当にありがとうございます」

 みんなのやる気満々の発言を聞いて、千恵子は思わず笑顔になって、おかみさんならではのお辞儀をした。

「それでは、早速教務室へ……」

「いや、ちょっと待て」

 体を動かして早速教務室へと向かおうとする千恵子を、俺が呼び止めた。

「どうかなさいましたか、狛幸さん? まさか貴方がわたくしの意見に反対するのではないでしょうね」

 一歩しか前に進めずに立ち止まった千恵子は、眉間を(ひそ)めて俺を貫くほどの視線で見つめてきた。信頼している相手には、裏切られたくないだろうな。

「違う、そうじゃない。いきなりそんなものを突きつけられても、はいそうですかってそっちが素直に認めるとでも思っているのか?」

「と、言いますと?」

「君のやる気と姿勢はとても見上げたものだ。けどな、ただ前に突き進むだけで成功できるとは言えねえぞ。その前にまずは証拠集めだ。その方がもっと有効だと思うぜ」

「なるほど……確か一理ありますね」

 納得した千恵子は片手を丸めて、口元を当てている。

 その時、何かを思い出した友美佳は、俺に質問を投げてきた。

「でも、証拠集めと言っても、どうすればいいのよ? これだけ広い校舎だし……」

「いい質問だな、友美佳。けど、そう難しく考えることはねえぞ。昨日この廊下を歩いてた時に、俺はずっとおかしく思っていたんだ。なぜ教室の廊下側の壁は曇りグラスになってるのか? なぜ扉にあんなデカい文字が刻まれているのか? きっとその中には、俺たちの知らない真実が隠されているはずだ」

「そうなの? ただ先生たちの悪趣味なんじゃない?」

「そう簡単に憶測に任せて、問題を片付けるのはよくないぞ。常識の枠にはまって思考を停止させたら、人生で色々損しちまうぞ、友美佳」

 友美佳の浅い発想を、俺は得意げに否定した。もし鏡があれば、あの時自分のドヤ顔を見てみたいもんだ。

「アンタさっきも憶測してたじゃない」

「うがっ!」

 想定外のツッコミでダメージを食らった俺は、体のバランスを崩して机へと倒れ込んだ。

 う、迂闊だった……俺としたことが!

「そ、それはそれ、これはこれだ!」

 俺は苦し紛れに、言い訳をするしかなかった。

「でも、教室が曇りグラスで隠されていたら、中の状況は確認できないでしょう? どうすればいいの?」

 ずっと黙っていた千紗は、オロオロと手を上げながら発言した。内気な彼女とは思えない冷静かつ理性な質問だ。

「それなら大丈夫だ。『アレ』は用意してある。聡!」

「ああ、『アレ』だろう? 今出してやるから待ってろよ!」

友美佳「あれ? もう終わり? アレって一体何なの?」

秀和「そう焦るな。先に言っちまうと面白さがなくなるだろう」

百華「まあ、アレですね?」

友美佳「えっ? 百華知ってるの?」

百華「はい、知ってますよ~男の子がアレを言う時に、多分アレのことなんですよ~」

友美佳「結局何なのよ、も~う!」

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