リボルト#17.5 新たな旅路へ
リボルト#17.5 新たな旅路へ
A new journey
……9月10日。ついに、この日がやってきた。
戦いの支度を済ませた俺たちは、早々に校舎の地下にある例の謎空間で待機している。
緊張や興奮のあまりに俺たちは全神経を張り詰め、念入りに武器の手入れをする。そのため、みんなもいつもより無口になってしまう。
それなのに、肝心の先生、いや化け物たちがまだ来ない。どれだけ俺たちを焦らせば気が済むんだ。
突然、足音が聞こえてくる。だがそれは余裕のある遅い感じではなく、ガラガラと車輪のような音が聞こえる。もしかして……
「すみません、遅くなりました!」
ローラーシューズで急いでやってきた碧は、慌てて俺たちに頭を下げて謝る。
「気にするな、碧。まだ間に合ってる」
「そうですか……ふう、それならよかったです」
額に汗を流している碧は、安堵の笑みを零す。
「わあ~碧ちゃん、今日も可愛いね~」
冴香は碧を見るなり、すぐさまその頭を撫で始める。
「もう、冴香先輩~くすぐったいですよ?」
まだ撫でられるのを慣れないのか、碧は少し恥ずかしそうに後ずさる。
「あはは、ごめんなさいね」
冴香は笑いながら、お詫びの言葉を送る。
「で、何してきたんだ、碧?」
「ちょっと大事なものを取りに……皆さん、よかったらこの飴をどうぞ」
碧は手に持っているカラフルな袋から、碧は紙に包まれている飴をたくさん取り出した。
「はい、先輩に一つ」
「ああ、ありがとう」
俺は碧から手渡してきた飴を受け取り、何の迷いもなくそれを食べた。
「冴香先輩も、どうぞ」
「うふふっ、ありがとうね碧ちゃん」
冴香も同じく飴を喜んで受け取って、包み紙を開けて口にする。
そして碧は、一人ずつみんなに飴を渡していく。ほとんどのみんなは飴を食べたが、中には甘いものが苦手な人も。
「広多先輩、どうしてそれを食べないのですか?」
「……俺は甘い物が苦手だ。それ以上の理由は必要ないだろう?」
「ですから、これは私が心を込めて作ったものなんです……」
「何故そこまで俺にせがむ? まさかお前は、この飴に毒でも……」
「……っ!! 広多先輩、酷すぎます……!」
心ない言葉に傷付けられ、碧は突然泣き崩れた。やれやれ、まだ出発前だというのに、この調子じゃまずいだろう。
「おいおい、その言い方はないだろう。俺はもう食べたのに、全然平気だぜ?」
「だからって、他人に好きでもないものを強要するのは……」
「碧ちゃんは、ただみんなに気分転換をして欲しいと思ってるだけなのよ。別に減るものじゃないし、食べてみたら?」
靄も広多を説得しようと、話に割り込んでくる。
「まったく、どいつもこいつも……分かった、食べればいいだろう」
こうして広多は渋々と、碧からもらった飴を食べる。
「……この味、案外悪くないな」
「でしょう? 何事も試す価値があるのよ」
広多の反応を見て、靄は満面に笑みを湛えている。
そっちの問題はどうやら解決したようだ。しかし……
「なあ、碧……大丈夫か?」
やはり碧の方は心配なので、俺は彼女の様子を確認する。
するとどうだろう。先ほど泣き崩れていた彼女は急にウインクして、いたずらっぽく舌を出した。
「大丈夫ですよ。心配してくれてありがとうございます、先輩」
「なんだ、嘘泣きかよ……全然気付かなかったぞ」
「こうでもしないと、お芝居をした意味がないじゃないですか」
「ははっ、それもそうか。さすがだな」
俺は笑い声を発して、碧の演技に感服する。
「あっ、そうでした。先輩にはこれを渡さないといけませんね」
碧は上着のポケットから、何枚かのチップを俺に渡す。
「これは……ユーシアに使うものなのか?」
「はい、そうです。効果はこの紙に書いてありますので、時間がある時に読んでくださいね」
「ああ、分かった」
チップと共に一緒に渡された紙を、俺は受け取ってポケットに入れる。
そう言えば、さっき冴香を見て思い出したんだけど、千紗の調子はどうなっているんだ? あれだけ酷い咳が出てたし、無事ならいいけど……
「よう、千紗」
「あっ、おはよう秀和くん」
「体調の方はどうだ? 昨日はすごい咳だったけど、もう大丈夫なのか?」
「う、うん……大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」
「そうか、それならよかった」
千紗の赤い頬と元気そうな顔を見て、俺はほっと胸を撫で下ろす。
「二人とも、昨日の介護は大変だったんだろう。お疲れさま」
俺は冴香と優奈に顔を向けて、二人に労いの言葉をかける。
「まあね~。何回もタオルと水を交換したから、本当に大変だったのよ~」
優奈は両手の指を絡めて、それを頭上にあげると大きく背伸びした。すると彼女は、視線を冴香の方に移す。
「でも冴香がいてくれて助かったわ。おかげで休む時間も稼げたし」
「いえいえ、それぐらい大したことじゃないよ」
「本当にありがとう、冴香ちゃん、優奈ちゃん」
二人の介護に、千紗は感謝する。その笑顔は、虹のように輝いている。
「えへへ、どういたしまして、千紗ちゃん」
「いいのいいのー! 千紗が元気になってくれたら、あたしはそれでいいの!」
千紗の笑顔に影響され、冴香と優奈も笑顔を浮かべる。やはりこの三人の友情は本物だ。
しかし早くも、このいい雰囲気は奴らの出現により無情にぶち壊された。
「おやおや、この期に及んで、まだ喋る余裕があるとはな。余程私達は威厳がないように見えるな」
「……! この声は……!!」
もはや条件反射になったかのように、鬼軍曹の声に反応した広多は目に角を立て、その出所を探そうとあたりを見回す。
階段の方を見ると、七宗罪、いや六宗罪の連中がゆっくりとこっちに近付いてくる。奴らは顔を上げながら、俺たちをゴミのように見下ろしている。やっぱり何度見ても気に食わねえ野郎どもだぜ。
「どう、昨日はちゃんと休めたのかしら? 先生はあなたたちの健康を思うと、心配で心配で眠れなかったわん。ほら、肌もこんなに……」
ドレス女は突然、何故か泣き出した。だから何度も言っただろう、突然の先生アピールはやめてくれって。今まで一度も、先生らしいことをしてなかったくせに。
こうして彼女の嘘くさい演技を見ていると、ますます腹が立つぜ。同じ嘘泣きなのに、碧のそれとは大違いだ。
「ふん、どうせお前は『ようやく自分の舞台で大暴れできる』とでも思ってんだろう? 本気で俺たちの心配をしてるんじゃなく、ただ役者が欲しいだけじゃねえか」
「…………くっ!」
自分の考えていることが俺に見透かされ、ドレス女は何も言い返せず、悔しそうな声を漏らすしかできなかった。へっ、ざまみやがれってんだ。
「おめェ! 幌美様に、恥を掻かせやがってェー!!」
この光景を見た筋肉野郎はもちろん黙っていられず、すぐさま拳を上げて俺を殴ろうとする。
「まあ、そう焦らなくていいわ。いずれ彼らは、私たちをバカにしたことを後悔することになるんだから」
先ほど悔しそうにしていたドレス女は、早くも余裕の表情を見せる。
「能近……お前はよくも燕を!」
突然、後ろから俊介の怒りに満ちた声が聞こえる。そう言えば、彼の恋人はあの筋肉野郎に捕まっているんだっけ。
しかし筋肉野郎の返答は、俺たちの予想外だった。
「あァん? だれだおめェ?」
なんと筋肉野郎は首を傾げて、まるで初めて見たかのように俊介を見ている。
「……!! お前、あの時のことを忘れたというのか……! 許さないぞ……!」
筋肉野郎の態度は、俊介に更なる刺激を与えた。怒りに燃えている彼は、武器である機巧六星を呼び出し、筋肉野郎を攻撃しようとする。
「落ち着け俊介。今じゃ分が悪い」
俺は俊介の肩を掴み、彼の攻撃意欲を低めようとする。
「けど……!」
「気持ちは痛いほど分かるけど、今はあいつらが全員集まっている。バラバラになったほうが、撃破もしやすいはずだ」
俺は奴らに聞こえないよう、小声で俊介に耳打ちする。
「俺も最初に奴らに会った時は、俊介と同じようなことをしようとしたが、どうやらそれは得策じゃないようだ。今は我慢しようぜ」
「……そうだな。君の言う通りにするよ」
俊介は俺の意見に納得し、武器をしまう。
「諸君、準備はいいかな? では改めて、第1回反抗戦の開戦式を執り行う」
鬼軍曹はそう言うと、前のサバイバルバトルのようにとある映像をタッチし、それを拡大させる。そこには、以前にも写真で見たことがある中世紀の街並みだ。
「前にも話したとは思うが、貴様たちの今回のステージは、『エンタジア大陸』という場所だ」
「分かっていると思うけれど、今回の場所はただの無人島のようなちっぽけなスケールじゃないわよん。その何百倍、いいえ、何千倍もあるのだから」
「そして貴様たちのスタート地点は、この『キングダム・グロリー」だ。なかなかいい場所だろう?」
「まあ、もうすぐ私たちの手で滅びちゃうのだけれどね。うふふふっ」
何を考えているのか、ドレス女は突如不気味な笑い声を漏らす。
「さて、説明は以上だ。他に何か質問は?」
鬼軍曹のその発言聞くと、俺は手をあげた。
「ほう、てっきり誰も質問してこないと思っていたのだが……まあいいだろう。質問は何だ、少年?」
「本当にてめえら全員を倒せば、ここから出られるんだよな?」
「ああ、もちろんだとも。倒せればの話だがな」
「ふん、必ず倒してやるぜ。後で約束を破るんじゃねえぞ……もう一つ、今回は何かルールがあるのか?」
「いや、今回はそういったものはない。貴様たちがやるべきことはたった一つ。私たち全員を倒すことだ」
「ルールがないだと? 随分と緩いな」
あまりにも意外な答えに、俺は思わず目を見開く。
「くっくっく、どうせルールを作ったところで、貴様がまた抜け穴を探すだろう。だからいっそのこと、ルールは廃除することにしたのだよ」
くそっ、そこまで考えやがったのか。だが逆に考えれば、こいつはむしろチャンスかもしれないな。ルールがなければ、もっと自由に動けるしさ。
「もっとも、ルールがなくなったところで、貴様たちに勝ち目がない事実に変わりはないがな」
そう言うと、鬼軍曹はまたしてもウザい顔を浮かべる。決めた、次会ったら絶対にあいつの顔面をぶん殴ってやる。
「まだ質問があるか、少年?」
「いや、もういいぜ」
「そうかそうか。では、そこの画面に飛び込むがいい。新たな世界が待っているぞ!」
鬼軍曹が手を広げると、街並みの映像から渦巻きのようなものが現れる。あれが入り口ってわけか。
「さあ、みんな、そろそろ行くぜ! 準備はいいか?」
リーダーである俺は仲間たちの士気を高めるため、彼らに振り返って大声で叫んだ。
「ああ、いつでもいけるぜ! オレのすごい技を、トコトン見せつけてやるぜ!」
「早くいこうぜ! びーじょー! びーじょー!」
「俺たちの自由のために、この戦いは負けるわけにはいかん……覚悟していろ、矛理」
「どんな困難が待ち受けているか分からないけど……頑張らなくちゃっ!」
「うふふっ、きっと刺激的な旅に違いないわね。考えるだけでぞくぞくするわ」
「大丈夫ですよ、秀和君。わたくしたちが付いていますから」
仲間たちのやる気がこもった返事が、俺を勇気づけてくれている。
……もう何も迷うことはねえ。いざ、新たな旅路へ出発だ!
「おおおおおおおおおー!!!」
この勇気を胸に抱き、俺は躊躇なく渦巻きの中に飛び込む。すぐさま仲間たちも、俺の後を追ってくる。
そしてだんだん視界が黄金の光に奪われ、何も見えなくなる。
どんな試練が、待ち受けているのだろうか。
これから出会う人たちと、どんな思い出を残すのだろうか。
俺たちはちゃんと、生きて帰れるのだろうか……?
全てはまだ、未知数に過ぎない。だがその中には僅かな可能性がある限り、俺はそれを手放すつもりはない。
さあ始めようか、俺たちの新たな旅を。
そう、すべては正義と自由のために!
Phase One 完
反逆正義(リベリオン・ジャスティス) Phase II
~革命の反旗(レボリューション・スタンダード)~へ続くーー
お祝い会
秀和「おめでとう、作者! よくここまで頑張ったな!」
千恵子「本当に、さすがとしか言いようがありません」
哲也「まだ第一段階だが、それでも大したものじゃないか」
菜摘「すごい、すごいよ~! パチパチパチ~♪」
作者「それもみんなのおかげだよ。みんなが一生懸命に頑張る姿が、俺の心を動かしてくれたから」
秀和「またまた~。俺たちが頑張れたのも、作者の君が頑張ったからだろう?」
哲也「キャラクターと作者は、お互い依存し合う存在だからね」
千恵子「応援してくださった読者の皆様にも、感謝しないといけませんね」
菜摘「うん、そうだね! ここまで読んでくれて、本当にありがとう!」
作者「さて、ここからは忙しくなるぞ! フェイズ1の修正や、フェイズ2のプロットや設定とか……」
秀和「話がまとまるように繋いでいくのが、簡単の仕事じゃないよな」
作者「そうなんだよ。ただキーボードを打つだけの簡単なお仕事じゃないからね」
聡「でも先のことを考えると、ますます楽しくなってきたじゃねーか! ほら、アニメ化やマンガ化、そしてゲーム化なんかもあったりして……!」
作者「その前に本を出さないとね。何事も順番があるってことさ」
聡「ああ、そうだった!」
広多「ふんっ、何回も新人賞に参加して、一次選考すら通らなかったお前が? 到底無理な話だ」
正人「お前! こんないい時に、水を差すようなことを言うんじゃない!」
広多「……事実を言っただけだ。まあ、本当にアニメ化があるなら、俺も協力してやろう」
聡「やっぱりおまえも目立ちたいだけじゃん!」
広多「お前、また痛い目に遭いたいのか?」
友美佳「もう、こんな時まで喧嘩しちゃって……もうちょっと仲良くしなさいよ」
百華「うふふっ、どんな時でも決して自分のスタイルを崩さない……こんなフリーダムな感じが実にいいですね。あっ、そう言えば知ってました? アイスクリームにからしを混ぜると……」
冴香「そう言えば、次のフェイズはファンタジーストーリーになるのかな?」
優奈「そうらしいわよ。『みんな大好きファンタジー!』とか言う人もいるし」
千紗「こ、怖い人がいないといいんだけど……」
涼華「まあ、悪い奴はどこにでもいるわよ。自分を守るための技を、習得した方がいいわよ」
千紗「た、たとえば……?」
涼華「相手は男なら簡単よ。股間を狙って蹴り一発、すぐにダウンよ」
千紗「ええっ!? そ、それはちょっと……」
作者「まあ、どんなことがあっても、前に進むしかないよな」
秀和「ああ、その通りだ! 諦めれば、すべてが終わりだぜ!」
正人「オレたちの活躍は、まだまだこれからだぜ! こんなところで終われるかよ!」
秀和「というわけで、続きも期待してくれよな!」
作者「それじゃみんな、一緒にアレをやろう!」
秀和「おう!」
全員「最後までお読み下さり、誠にありがとうございました!!!」