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反逆正義(リベリオン・ジャスティス)Phase One——Ten days in heaven(or in hell)  作者: 九十九 零
第4章 怒りの反撃編・信念の分岐点
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リボルト#17 束の間の憩い Part11 同じ母を持つ二人

※このパートにネタバレが含まれています。ご注意ください。

「ふう……」

 どれだけ時間が経ったのか、まだショックから抜け出せていない俺は、大きく溜め息をつく。気付いたら、足元にはすでに空になったペットボトルが何本か置かれている。

 どうやら俺は驚きのあまりに、俊介が持ってきた飲み物を全部飲み干したようだ。

 俺の記憶では、お袋は俺の小さい頃から家から出て行ってしまったんだ。それ以来何の連絡も取れず、親父と二人っきりで過ごしている。

 もちろん、お袋との思い出はほとんどない。彼女に関する持ち物はたった1枚の家族写真と、彼女が残していった星のネックレスだけだ。ネックレスは身につけてはいないが、部屋のナイトテーブルの引き出しの中に入れている。


 改めて俊介の家族写真と、財布に入れていた自分の家族写真を見合わせる。これが見間違いだったら一息つけるが、やはりそうじゃなかった。

 その時、俺はふとお袋が家を出て行った時の言葉を思い出す。

「もうウンザリだわ! こんな子供を生んでしまったなんて、私の一生の最大の過ち(ミステイク)よ! こんな家、出ていってやる!」

 そうか……お袋は俺の考え方を理解できず、嫌気が差して家を離れたんだよな……こんなところに送られてきたのも、きっとその理由なんだよな……

 だからこうして、もっと普通の俊介のお家を選んだのか……やっぱ俺ってダメな奴だ……


「結局見てしまったのか、その写真」

 突然、後ろから聞き覚えのある声が聞こえる。条件反射で後ろを振り向くと、そこには俊介が佇んでいる。

「俊介……まさか最初から、知ってたのか……?」

 俺は恐る恐る(くちびる)を動かし、俊介に真相を尋ねる。

「ああ、その通りだ。済まない、今まで黙っていて。いきなり話したら、信じられないと思ってな」

「そうか……まあ、それもそうだよな」

 聞きたいことがたくさんあって、頭の中が混乱するからか、俺は適当に言葉を返すと、再び沈黙を守った。

 しばらくすると、俺はようやく心を落ち着かせて、俊介に質問をする。


「お袋は……今元気に過ごしているか?」

「ああ、写真を見れば分かる通り、とても元気に過ごしているんだ」

「そうか……ならよかった」

「他に何か聞きたいことは?」

 まるで俺の心を読んでいるかのように、俊介は俺に次の質問を促す。

「お袋は、俺のことを話したことは?」

「もちろんあるさ。そうじゃないと君のことも分からないだろう?」

「ははっ、だよな……で、なんて言ったんだ? きっとボロクソに言ったんだろう? 俺は変な奴だとか」

 嫌な記憶を思い返しながら、俺は乾いた笑いを浮かべる。お袋に見捨てられたのだから、これぐらいは当然だよな。

 しかし、俊介の返事は俺の予想をいい意味で裏切った。


「いや、そうじゃない。むしろ逆だったぞ」

「……えっ?」

 思わず耳を疑う。まさかお袋が俺に対する印象は、マイナスじゃないというのか?

「とても優しくて、他人を思いやる心を持つ……正に今、俺の目の前にいる君じゃないか」

 俊介は爽やかな口調で、俺を褒め称える。ただのお世辞だと思っていたが、その目は真っ直ぐで、何の偽りもない。

「やめてくれよ、恥ずかしいだろう」

 そして俺は照れ隠しに、すぐにいつもの口癖が出てしまう。

「本当のことを言ったまでさ。何もそんなに、自分を否定することはないだろう」

「そ、そうだな……ただ昔のことが、まだ頭の中にまとわりついて……」

「昔のこと?」

「ああ、まだ言ってなかったっけ。昔の俺は……」

 こうして俺は、俊介に自分がお袋との出来事をざっくり説明する。


「なるほど、そんなことが……それで君は自己嫌悪になったのか」

「まあ、そうだな……けど俺は、こういうルールに縛られない人生が好きなんだよな。困ったもんだぜ」

「他人に迷惑をかけなければ、それはそれでいいんじゃないか?」

「それは、そうだけど……」

 おかしいな、これは一体どういうことだ? あの時お袋が言ってたことは、俺の聞き間違いだというのか?

 きっとそうに違いない。何しろ十年以上のことだし、記憶も曖昧なものだから、間違えてもしょうがないはずだ。


「そうだ、秀和。俺は君に謝らなければならない」

「何だ?」

「母さんが君から離れて、色々辛い思いをしただろう。本当に申し訳ない」

「いや、別に俊介が悪いわけじゃ……」

「謝るだけじゃ気が済まないだろうと思うから、思いっきり俺をぶん殴っていいんだ」

 そう言うと、俊介は顔をこっちに寄せてくる。

 正直、俺は俊介が羨ましい。お袋は俺じゃなく、彼を選んだのだから。とはいえ、彼は土具魔のようなクズと違ってすごくいい人だから、殴る気がまったく起こらない。


「それじゃ、手を出してくれないか?」

「いいけど……顔より手を殴りたいのか?」

「違う、お前と握手するためだ」

 俺は自分の手を伸ばして、俊介が出した手を握る。

「この俺を……許してくれると考えていいのか?」

「許すも何も、お前は別に何も悪いことをしてないだろう」

「しかし、俺は君の母さんを……」

「お袋が勝手に出て行ったんだ。そう罪悪感を抱える必要はない」

「そ、そうか……」

「なんか俊介は、俺に似ているな」

「ああ、そうかもしれないな。そもそも母が同じだから、ある意味兄弟のようなものだな」

「ははっ、そいつは言えてるぜ。じゃあ花恋は、俺の義理の妹?」

「確かにそうなるな。花恋が知ったらきっと喜ぶさ」

 こうして俺と俊介の会話が弾み、やがて笑い声が部屋に満ちる。


「そうだ、せっかくだから一緒に写真を撮らないか?」

「ああ、いい提案だな。仲良くなった記念にはちょうどいい」

 俊介は頷いて、俺の隣に近寄る。俺もすかさずスマホを出して、ユーシアに渡す。

「後はどうするか分かるよな、ユーシア?」

「もちろんです! 任せてください!」

 今度ユーシアは手際よく写真を撮ると、スマホを俺に返す。

「うん、なかなかいいアングルだな。それにしても今回はよく転ばなかったな、ユーシア」

「もう、毎回転ぶほどドジっ子じゃないですから!」

「ははっ、そうだな、悪かった」

 ユーシアの涙の反論に、俺は苦笑を(こぼ)しながら認める。

「それじゃ、俺の分も頼む、ユーシア」

「あっ、はい! がんばります!」

 俊介も自分のスマホを取り出して、ユーシアに写真の撮影を任せる。これもさっきとほとんど同じ上出来だった。


「そう言えば、俊介。いきなりだけど、一つ聞いていいか?」

「何だ? 遠慮なく何でも聞いてくれ」

「俊介は、何でここに送られてきたんだ? 俊介は俺と違って、その……『ヘンテコ発想』とかなくてさ」

 そう、俺はここに送られた理由は、大人たちが理解できない「ヘンテコ発想」のせいだ。それなら何故、俊介がここにいるんだ?

「俺の場合は少し違うかな。『送られてきた』というより、『俺が自らここに来た』んだ」

「どういうことだ、それ?」

「机の上にあるもう一枚の写真を、もう見たのか?」

「ああ、チラッと見てたけど、すごくかわいい女の子だな。あっ、まさか彼女は……」

 何かに気付いた俺は、目を見開く。

「その通りだ。彼女は、俺のガールフレンドだ」

「へえ、そうなのか。名前はなんて言うんだ?」

咲見(さきみ) (つばめ)だ」

「いい名前だな。で、彼女は俊介がここに来る理由に何の関係が……」

「彼女は、能近助平に囚われているんだ」

「な、何だって!? あのドスケベの変態筋肉野郎に?」

 思いもしなかったタイミングに、あの化け物の名前を耳にした俺は思わず大声を出す。

「ああ、その通りだ。あまりの美しさに気に入られ、どこかの牢獄に監禁されているらしい」

「なんてことだ……」

「そう言えば、君も彼女がいるんだな。次のターゲットにされる可能性もあるから、気をつけたほうがいいぞ」

「ああ、ご忠告ありがとうな」

 俺の千恵子もなかなかの美人だから、あんな変態野郎に目を付けられてもおかしくない。だがあんな奴なんかに、千恵子を指一本触れさせやしねえ!


「それにしても、大変だったな……彼女、見つかるといいな」

「ああ、ありがとう。燕のことを、必ずあの檻から解放してやる!」

 俊介は拳を握り締め、自分の決意を高らかに叫ぶ。やはり俊介はいい奴だな、うん。

「それじゃ、俺はそろそろ失礼するぜ。まだ他に写真を撮ってない連中もいるからさ」

「ああ、分かった。ペットボトルはそのまま置いていっていいぞ」

「いや、俺が捨てるぜ。あっでも、これを使ってオブジェを作ることも……」

 俺はペットボトルを拾い上げると、何か使い道はないかと考え始める。まあ、後で考えてもいいか。

「そう言えば、秀和」

「ん? どうした俊介?」

「君のその『ヘンテコ発想』、きっといつか役に立つさ。もっと自信を持っていいぞ」

「……ああ、そうする。それじゃまたな、俊介」

「うん、いつでも遊びに来るといい、秀和」

 俊介と楽しい会話をして、今日はまた友達が一人増えたな。いや、最初に手合わせをした時からもう友達か。いずれにしても、さっきの会話で絆が強まったのもまた事実だ。


 さてっと、次は誰と話をしようか? そう言えば、さっき正人たちが訓練してるのを見かけたけど、そろそろ終わる頃なんじゃないかな。

 よし、そうと決まったらすぐ行こうか!

 俺とユーシアはトレーニングルームに向かい、足を動かす。

雑談タイム


直己「なにぃー!? 俊介まで彼女がいるのかよー! この裏切り者ぉー!!」

秀和「お前、またそこに着目して……」

直己「だってそうだろう!? 彼女のいない男は、イチゴがついていないケーキのようなもんだろう!」

俊介「済まないが、その例えはよく分からない……」

名雪「大体ね、直己がエッチなんだからいけないのよ。いっつもいっつも、変なことばっかり言って」

直己「そいつはとんだ言いがかりだね! そもそも男子なら、みんなエッチなのさ! そうだろう?」

秀和「俺とお前を一緒にすんな」

直己「ほーら、またそうやっておれを除け者にして! じゃあ秀和はなんで、おっぱいの大きい千恵子を選んだのさ!?」

千恵子「えっ!?」

秀和「おい直己、いい加減にしろよ! さっきゲームで負けたからって、こんなこと言って俺を困らせるのはひどくないか!?」

俊介「ああ、俺もそう思う」

直己「知ったこちゃないよ! とにかく彼女がいるからいけないんだ!」

秀和「てめえ、俺に千里の一本槍を出させる気か?」

直己「うわこわっ! 言い返せないならすぐ暴力を振るう!」

俊介「君が名雪に殴られた時は、満更でもなさそうだが」

直己「そ、そんなことないけど?」(目逸らし)

秀和「あっ、てめえ今目逸らしたな」

名雪「なーおーきー! あんたなんて失礼なこと言うのよ! 早く謝りなさい!」

直己「うわがっ! な、なんだこのデジャヴ……」

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