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反逆正義(リベリオン・ジャスティス)Phase One——Ten days in heaven(or in hell)  作者: 九十九 零
第4章 怒りの反撃編・信念の分岐点
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リボルト#17 束の間の憩い Part10 ゲーマーたちの熱いバトル

※このパートの最後に軽いネタバレがあります。ご注意ください。

 廊下を渡っていると、とある部屋から騒がしい声やゲームらしいSEが響く。きっとここだな。

 俺はドアを軽くノックするが、返事はなかった。まあ、あれだけ音が出ているから、聞こえないのも無理はないか。あるいはゲームに夢中で気付かない可能性もあるが。

 ドアを開けると、俊介、壊時、聡と直己の4人が俺に背を向けて、テレビ画面を凝視(ぎょうし)している。


「くっそ、また負けちまったじゃねーか、バーカ!」

 苛立つ壊時は、荒っぽくコントローラーを地面に叩きつける。

「おいやめろっ! それオレのものだぜ!」

 もちろん持ち主である聡はそれを良しとするはずもなく、慌ててコントローラーを拾い上げると壊時に怒鳴る。

「マスター、ゲームをする人はみんなあんな感じなんですか?」

 ユーシアは怒る二人を見て、恐る恐る俺に質問する。

「いや、そうとは限らないぜ。あの二人が異質なだけだ」

「そう、そうなんですか……」

 ユーシアは半信半疑で俺の返答を聞く。やれやれ、そんなに怯える様子じゃ、そのトラウマを癒すのも大変そうだな。

「ふふーん、悪かったな、またおれが勝っちゃって」

「君はほとんど何もしなかったじゃないか」

 ドヤ顔を浮かべる直己に、それを白い目で見ながら(たしな)める俊介。

 どうやら、ゲームの決着がちょうど着いたところのようだな。画面に映っている4人のキャラクターも、1人だけ嬉しそうに踊っていて、残りの3人が凹んでいる。

 さて、俺もこのまま黙らないで、このゲームパーティの1員に加わろうじゃないか。


「よう、何のゲームをしてるんだ? すげえ盛り上がってるみたいだけど」

「お、お邪魔してまーす……」

 俺とユーシアの声に気付いた4人は、ほぼ同時に顔をこっちに向けてくる。

「おっ、秀和じゃん! いいトコに来てくれたぜ!」

「おい聞いてくれよ、コイツせこい手を使いやがって! マジきたねーぜ!」

「これも作戦の一つさ! それを考えられなかったそっちが悪いだろう!」

「まあまあ、三人とも一旦落ち着いてくれ」

 四人が同時に喋り出すせいで、俺はたくさんの情報を処理できず、まったく状況が把握できない。

「悪いけど、一人ずつ話してくれないか? 全然意味が分からないぞ」

「それなら、俺が説明しよう」

 俊介は座椅子から立ち上がり、俺に状況を説明する。

「俺たちはさっき、『インパクト・ブロール』というゲームをやっていたんだ」

「ああ、あれか? 確か様々な武器や仕掛けを駆使する、最大四人参加できる乱闘ゲームだっけ」

 色んなゲームをプレイしてきた俺には、名前を聞くとすぐにその内容を思い出す。

「まあ、大体はそんな感じかな」

「で、その直己はなぜ怒られてるんだ?」

「彼はずっと高みの見物をしてたからな。俺たち三人が戦い合った後に、最後の一人が傷だらけになったところを襲いかかるんだ」

「なるほどな。だったら最初から直己をボコればいいじゃん」

「俺と聡はそう考えたんだが、問題は壊時の方だ。あいつはすぐ一番近くの相手に攻撃お仕掛けるからな」

 そう言うと、俊介は苦笑する。俺も彼に釣られて苦笑する。

「あはは、確かにあいつらしいな」

「そのおかげで、直己は3回も白星を勝ち取ったんだ。もっとも俺は普段あまりゲームをしないから、下手なのも否めないが」

「ああ、さっき花恋から聞いたぜ」

「そうなんだ。あの子はとても素直でいい子だから、よかったら仲良くしてやってくれ」

「ああ、分かった。そうするぜ」

 俺はコクリと頷いて、俊介の頼みを承諾する。


「ああー、また負けたぜ! おい秀和、アイツの鼻を折ってやれよ!」

 突然後ろから、壊時の荒っぽい声が響く。どうやら俺と俊介が話してる間に、三人がまた1ラウンドを始めたようだな。

「分かった分かった、今行くぜ」

「俺は飲み物を持ってくるから、君は彼らの相手をするといい」

「ああ、悪いな」

 こうして俺はテレビに移動して、聡たちと新しいラウンドを始める。

「さて、どのキャラクターにするか……ん?」

 俺は適当にコントローラーを弄ってると、カーソルがとある女性キャラクターに止まる。その容姿は、あまりにも千恵子に似ている。

 名前はターニップで、大自然を司る精霊か……もし千恵子が映画に出るなら、こういうキャラクターも似合うかもしれないな。

「よし、これにしよう」

「おい、お前男なのに女キャラ使うのかよ! ネカマかよ!」

「女キャラを使っちゃいけないルールはねえだろう! あとネカマと関係ねえし!」

 壊時に理不尽な言いがかりをつけられ、俺の気分は一瞬にして奈落の底に突き落とされてしまう。人に頼んでおいてその態度かよ。

「ふんっ、さりげなく彼女自慢かよ! これはモテないおれへの挑発と見ていいんだな!」

「何勝手に想像してんだよ、直己!」

 確かに俺はこのキャラクターが千恵子に似ているから選んだが、別に挑発しているわけじゃ……ったく、女のことになると途端に鋭くなるな、直己の奴。


「で、ステージはどうすんだ?」

 聡は俺に顔を向けて、質問を投げてくる。俺は何も考えずに、ただ本能に任せてこう答えた。

「考えるまでもねえだろう。武器や仕掛けが売りのゲームなら、やはり『武器庫』じゃないとな!」

 説明しよう。これはPC(プレイアブルキャラクター)の一人であるガンパウダー大佐が、世界各地から回収した様々な武器を集めている倉庫だ。もちろんゲームの中でも実際にそれらの武器を使うことも可能で、プレイヤーの間ではダントツ人気ナンバー1のステージだ。

 そして仕掛けといえば、レバーを引けば天井から降りてくるガトリングの乱射や、穴に爆弾を投げて別の場所に出現させるなど、忙しくなること間違いなしだ。

「へー、分かってんじゃん! オマエこのゲームやりこんでるな!」

「ふんっ、答える必要はねえな」

 聞き覚えのあるネタに、俺もまたネタで返す。

 こうして俺たちはキャラとステージを決めて、いよいよ乱闘が始まる。


「レディ……ゴー!」

 ゲームのアナウンスと共に、俺たちは自分のキャラクターを動かす。

 直己が操作しているのは、「アモエバ」という紫色のスライム野郎だ。トリッキーな動きが特徴で、相手の体を飲み込んでその姿や能力をコピーできるというえげつない技を持ってやがる。

 しかもこいつは無類の女好きで、女性を飲み込んではその姿に変え、自分の変化した体を触りまくる。なんというか、実に直己らしい選択だな。

 だが俺がいるからには、てめえの好きにはさせねえ! 何と言ってもこのターニップは、俺にとって千恵子のような存在だぜ! 絶対にその汚え技を喰らわせねえ!

 そのためにはまず、中央の貯蔵室にある「ゴールド・デストロイヤー」という超強力な銃を入手しないとな。しかしその銃はランダムでどこかのロッカーに隠されているため、運が試される。

 もっとも、その前に大きな難題があるのだが。


「おりゃああああー!!!」

 壊時の掛け声と共に、上半身が裸で髪が炎のように燃えている男性キャラクターが、俺の操作しているターニップを目掛け、空中で回転しながら噛ましてくる。相変わらず猪突猛進(ちょとつもうしん)だな。

 壊時が操作しているキャラクターは「ダニー・グレッグ」という名前で、修業中の武道家である。強さを求めるあまりに禁断の巻物を手に入れ、誤って地獄に落ちたが、逆に炎を操る力を獲得し、人間界へと舞い戻ったのだ。その後強者との手合わせを求めるために、現在世界各地に奔走している。

 これはどっちかというと、正人に似ているな。壊時がこのキャラクターを選んだ理由は、恐らく「炎が強そうに見えるから」だろうな。まあ、別にいいけど。

 そんな壊時の猛攻を、俺は宙返りで簡単に回避する。

「おい! なんでオレの攻撃をかわすんだよ!」

 自分の攻撃が外れて機嫌が悪くなったのか、壊時は俺に文句を言う。

「お前、さっき直己の鼻を折れって言っただろう! だったらせめて、今は協力するべきだろう!」

「知らねーよそんなこと! 俺に一番近いからいけねーんだよ!」

「理不尽じゃねえかお前! 道理で直己に勝てねえわけだ!」

「くそっ、またオレの痛いトコを……! こうなったら一発勝負だ……んっ?」

 俺に大技を繰り出そうとする壊時は、突如目を丸くする。

 無理もない。何故なら俺は壊時がぶつぶつ小言を並べているうちに、近くにあるロケットランチャーを拾ってあいつのキャラクターに発射したからだ。

「はっ、ロケランと来たかっ! 確かにすごい武器だが、オレには通じねえんだよ!」

 壊時は俺の攻撃を見て、余裕の笑顔を見せる。どうやらまだ何か策があるようだな。

 ロケット弾が壊時のキャラクターにヒットする直前に、なんとそいつは片手でロケット弾を受け止めやがった!

「ダニーの特技はなあ、一度だけどんな技でも跳ね返せる『覇王(はおう)震天撃(しんてんげき)』だぜ! お前が放つロケランでも目じゃねー!」

 壊時は誇らしげにそう言ってるが、俺は余裕の笑顔を浮かべている。


「な、なにがおかしいんだよ?」

 もちろん壊時はそんな俺を見て、落ち着いていられるはずもない。

「忘れたのか? ダニーの熱い体がこういう爆発物に触れると、どうなるのかを」

「あっ、まさか……」

「その通りだぜ」

 壊時はやっと俺の言葉の意味が分かったが、既に手遅れだ。大きな爆発音と共に、ダニーは空の彼方へと飛んでいく。

「ダニイイイイイィィィー!!!」

 敗北を喫した壊時は、声にならない声で悲鳴を上げた。

「力に溺れる者は、いつか己を滅ぼすのよ」

 俺はターニップのセリフを借りて、壊時に自分の敗因を思い知らせる。

「くっそー! お前ぜってー許さねー!」

 壊時は突如俺の胸倉を掴み、リアルファイトに移行しようとする。

 ああ、いるよな、ゲームで負けて直接相手プレイヤーを殴る奴。こういうどうしょうもなく腐った奴には、力でねじ伏せるしかなさそうだな。

「うるせえ! 静かにしてろ!」

「うがはっ!?」

 俺は指先で小さな電気を帯びた玉を作り、壊時の体に当てた。気絶した壊時は、そのまま仰向けで倒れる。

 これで奴もしばらく大人しくなるか。大丈夫、死にはしないって。

 そう言えば、ゲームの方はどうなってんだ? 俺が壊時に気を取られている間にも、聡と直己の奴はきっと動いているはずだ。まだ負けてないといいが……


「ぐへへへへへ……」

 その変態のような気持ち悪い声……まさか!

「あの千恵子のようなキレイな子……アモエバで飲み込むとどうなるかな……楽しみでしょうがないぜ!」

 直己の野郎、やはりそれを狙ってたのか! そうはさせねえぜ!

 奴の操作してるキャラクターはスライム、すなわち液体……よし、ならば凍らせてその動きを止めよう!

 俺はとっさに「アイス・フリーザー」を繰り出すが、アモエバがトリッキーな動きでいとも簡単にそれをかわす。

 肉眼で捕捉できないスピードで、アモエバは何度も奇妙な動きを繰り返す。見る見るターニップとアモエバの距離は、少しずつ縮んでいく。気が付けば、いつの間にか奴の姿がターニップの後ろに現れやがった。

「はっは! もらったぜ!」

「くっそ! 直己、てめえ……!!」

 陰謀を果たしかける直己は、ニタニタと笑う。もはや俺には奴を止める方法はないのか!?

 その時だった。ターニップとアモエバの間に、何やらデカいものが割り込む。もちろんアモエバはそれを予知できず、そのままデカいものを飲み込んだ。

 そう言えば、プレイヤーはまだ一人いる。それは……

「聡! 助けてくれたのか!」

「ああ、そうだ! もうこれ以上、直己を勝たせてたまるかよ!」

 聡が操作しているのは、「ステイブル」という巨大アンドロイドだ。世界の安定を守るために作られた存在で、人々に愛されているんだ。

「確かあのスライム野郎は、無機物が苦手なんだよな! ほら、アイツぶるぶるしてやがるぜ!」

「でもお前のポンコツロボットも、液体に触れたことでショートしてるぜ! もう戦闘不能になってるじゃん!」

「はっ、オレはそんなこと気にしねーよ! 本当は秀和とちゃんと戦いたかったけど、今はオマエさえ倒せればそれでいいんだよ!」

 聡の奴、俺のためにあえて自滅を選んだのか……今まで自分のことしか考えてなかったのに、ずいぶん成長したな。どうやらこの間のチームワークのおかげで、こいつを強くさせたようだな。

「ふん、強がちゃって! まあいいさ、次こそおれはあのべっぴんさんを……」

「悪いな直己、そのチャンスは二度と訪れねえよ!」

「なに!?」

 直己が聡に気を取られている間に、俺は既に例の「ゴールド・デストロイヤー」を手に入れた。攻撃力及び範囲も優れているこの銃で、あのスライム野郎をコテンパンにやっつけてやる!


「喰らえ直己! ゴールド・デストロイヤー!」

 俺は狙いを定めて、金色に光るレーザーをアモエバに発射する。

「まだだっ! まだおれには奥の手がある!」

 そう言うと直己は、素早くボタンを押す。

「ふん、無駄だ、このレーザーをかわす方法は……何だと!?」

 勝利を確信していた俺は、目の前に起きる光景を見て思わず驚愕する。

 なんとスライム野郎は床の下に隠れて、俺のレーザーをかわしやがった!

「知らなかっただろう? こいつは一定時間に地面に潜って、あらゆる攻撃を無効化する特技を持ってるのさ!」

 自分が無敵になることを知り、直己は慌てることなくスライム野郎の特技を紹介している。この野郎、そんな技を隠してたとは……

「こっちも攻撃できないのが玉に瑕だけど、まああの恐ろしいレーザーをかわせるだけでマシかな」

 こうして、スライム野郎はダメージを喰らわずに済み、床の下から再び姿を現す。

「ぐへへへへ、今度こそおれの究極の美のために、その体を捧げろ!」

「何が究極の美だ、バカバカしいぜ!」

 あんな気持ち悪い顔をしておいて、よく言うぜ。って、そんなことより、何か方法を考えないとまずいな。一体どうすれば……

「はっはっ! 喰らえーー!!!」

「そうはさせねえぜ!」

 俺は近くにあるレバーを引いて、天井のガトリングガンを起動させる。すると銃身は回転し、絶え間なく銃弾をアモエバに撃ち込む。

「いててててて! や、やめてくれぇー!!!」

「よし今だ! トドメを刺してやる!」

「ノォォォォー!!!」

 俺はアモエバがダメージを喰らって硬直している隙に付け込み、必殺技のコマンドを入力する。

「フローラ・レイジ!!」

 するとターニップは自分の剣を掲げて、彼女の周りに無数の竜巻が発生する。竜巻は様々な花びらに包まれており、何とも華やかな絵図を生み出す。

 それに対して、アモエバはまるで泥のように地面に伸びてやがる。なんて醜いんだ。

「身も心も(けが)れている者には、私に触れることすらできないわ」

 勝利したターニップはポーズを取り、このセリフを口にする。正にこの戦いをうまくまとめた一言だな。


「くっそ~! まさかこのおれが負けるなんて……」

 ついに初黒星を喫した直己は、悔しそうに喚いている。

「ズルばっかしてたからいけねえだろう。でもさっき聡の助けがなけりゃ、危ないどころだったぜ。ありがとうな」

「へへっ、いいってことよ! やっぱりゲームってのは、この方が燃えるからなっ!」

 俺に名前を呼ばれた聡は、誇らしげに笑っている。

「ああー、こんな結果認められない! もう一回、もう一回勝負だ!」

 直己は床を叩いて音を立てながら、再戦を申し込む。

「いいぜ、何度でも付き合ってやる。どうせ勝のは俺だからな」

「あの、マスター……」

「ん? どうしたユーシア?」

「壊時さん、まだ倒れているままなんですが」

「あっ、そうなのか……じゃあユーシア、こいつの代わりにやるか?」

「私ですか? いいですけど、私はやったことがないですよ?」

「心配するな、俺が教えるから。ますは操作方法だな。えっと、四角ボタンは攻撃で、×はジャンプ、丸は武器を拾う時に使う……」

 一通りゲームの内容をユーシアに説明すると、俺たちはようやく新しいラウンドを始める。


「きゃあ~! こっち来ないでください! 怖いです~」

「逃げないでくれよ、ユーシアちゃん~おれと楽しいことでもしようぜ……うがっ!?」

「はい、直己の負け」

「こいつ、本当懲りねーな」

 直己は今度初心者であるユーシアを狙おうとするが、今回も俺と聡の協力プレイで再び敗北する。

 その後も奴は何度も同じことを繰り返すが、もちろん勝つことはなかった。

「くそっ! なんで勝てないんだよ!」

「雑念が多すぎるんだよ、お前は。戦いに全然集中できてねえじゃん」

「そんな調子じゃ、本当の戦いで命を落とすぜ?」

「おいおい、縁起でもないことを言うんじゃない!」

「あの……別のゲームにしませんか? バトルものをずっとやっていると、さすがに疲れますね……」

 まだゲーム経験の浅いユーシアにとって、このような激しい内容はキツいだろう。もうちょっと緩い奴があればいいが……


「なあ聡、何かリラックスできるゲームはないか?」

「そうだな……これなんかどうだ? スゴロク形式のパーティゲームだけど」

「どれどれ……『フルーティ☆ミックス シャーベットデザートのはちゃめちゃ大冒険』?」

 見たことのないタイトルに、俺は思わず首を傾げる。でもまあ、スゴロクゲームなら大体ルールは同じだし、そこまで悩む必要はないか。

「わあ、かわいいパッケージですね! これにしましょうよ、マスター!」

「そうか。ユーシアがそういうなら、これにするか」

 俺がユーシアの要求を受け入れ、ゲームの箱を聡に渡す。

 どうやらこのゲームはストーリーがあるようで、トロピカル島の経済危機を解決するために、島の主であるドラゴンフルーツ大王は様々なフルーツを召集し、この島を一番繁栄させる者には永遠の富と名声を授けるというものだ。

 ありきたりではあるが、この手のゲームならばストーリーは誰にでも分かりやすいほうが売れるからな。むしろシステムのほうが、よほど重要視されているはずだ。

 ざっくり遊んでみたが、アイテムやミニゲームはかなり充実で、一周だけでは二度と同じイベントを見た覚えはない。

 キャラクターが土地を購入する度に、色がそのキャラクターのイメージカラーに変わるシステムも実に斬新(ざんしん)で、あっという間に様々な色が島全体を染め上げる。

 このゲーム、なかなか面白いじゃないか。ここを出たら買おうかな。


「ふう~思ったより結構遊んだな! ちっと休もうか~」

 ゲーム好きの聡もさすがに疲れたのか、彼は背筋を伸ばして大きな欠伸をする。

「そうだな、あまり電磁波を浴びすぎると、おれのかっこいい顔が台無しになるかもしれない!」

 ナルシストの直己は自分の顔をペタペタと触り、肌荒れがないかチェックする。

 そして二人は立ち上がって、俊介の部屋から出ようとする。が、その前に……

「そうだ、ここでスマホを充電しておくか! これが使えなきゃ話になんねーぜ!」

「あぶない、忘れるところだった! おれの夜のお楽しみはこいつにかかってるぜ!」

 聡はゲーム機のプラグを抜いて、代わりにスマホの充電器のプラグを差し込んだ。直己もすぐに聡に倣う。

 他人の部屋を、あたかも自分のもののように使う二人。本当は注意したいところだが、うちの寮は現在電気が使えない状況を考えると、仕方なく言い掛けていた言葉を飲み込む。

「そんじゃ、失礼するぜ!」

「またな、秀和! 今日は楽しかったぜ!」

「おう、じゃあな」

「また今度一緒に遊びましょう!」

 俺とユーシアは、部屋を出る聡と直己に手を振って別れを告げた。


「そう言えば俊介さん、遅いですね」

 ようやく俊介の存在を思い出したユーシアは、キョロキョロと周りを見回す。

「多分妹とお話でもしてるんだろう。そのうち帰ってくるだろう」

 ちょうどその時、ドアが開く音がした。

「ほら、噂をすれば」

「済まないみんな、花恋を見かけたから少し立ち話を……あれ、聡と直己は?」

「さっき帰ったところだ。ゲームをしすぎたから休むってさ」

「なるほど、確かに休むことも大事だな。ところで……」

「ん? どうかしたのか?」

「……なんで壊時はあそこで寝ているんだ?」

 未だに起き上がらない壊時を指差し、俊介は俺に質問する。軽く眠らせるつもりだったのに、まさかこんなに効くとはな。

「ゲームをしすぎて、興奮で気絶したって言ったら信じるか?」

「信じるさ。あいつらしい行動だな」

 何の疑いもなく、俊介は首を縦にする。なんか悪いことをした気分だが、半分は本当だから別に大丈夫か。


「それじゃ、俺はこいつを自分の部屋まで運ぶから、二人はここでゆっくりするといい」

 俊介は飲み物を置くと、壊時を起こす。

「俺も手伝おうか?」

「いや、大丈夫だ。これぐらい俺一人で片付けられる」

「そうか、分かった」

 俺とユーシアは、部屋を出る俊介を見送る。

 ただ待つだけでもつまらないので、俺は適当にぶらぶらする。その時は、俺は机の上に置かれているあるものに目を留めた。

「これは……家族写真ですね」

 ユーシアの言う通り、写真の中には微笑む4人が映っている。俊介とその妹の花恋、そして二人の父親らしき人物と……

「っ!? こ、これは……」

 ショックのあまりに、俺は思わず写真を手に取る。


「どうしたんですか、マスター?」

「こ、この女の人は……」

「花恋さんですよね? 俊介さんの妹さんが映っているのは、別におかしいことでは……」

「違う、もう一人の方だ。俺の記憶が間違えなければ……」

 俺は(つば)をゴクリと飲み込み、言葉を続けた。

「この人は、俺のお袋だ」

「え、えええええーーー!??」

 あまりにも衝撃的な事実に、ユーシアは思わず驚きの声を上げる。

 全身に走る悪寒が、鳥肌を立たせた。まさかここで離れ離れのお袋の姿が見られるなんて、思いもしなかったぜ……

雑談タイム


聡「あ~、やっぱゲームって楽しいもんだな」

秀和「そうだな」

美穂「ちょっと~、なんでアタシたちを誘わなかったのよ? こっちだってゲームがしたいのにな」

秀和「今度はみんなでやろうぜ。これだけ人数が多いと、きっと盛り上がるだろうしさ」

菜摘「さんせーい! 賑やかなほうがいいよね。それに冴香ちゃんと一緒にやりたいし」

冴香「私ですか? ふふっ、菜摘さんとゲームができるなんて、想像するだけで楽しそうです」

俊介「とはいえ、女子が好きなゲームは男子と違うんじゃないか?」

秀和「パーティゲームなら、割と万人向きだろう?」

直己「そう! でもテレビゲームばっかじゃつまらないから、アナログのやつを持ってきたぜ!」

優奈「これって、ツイスターゲームじゃない?」

直己「そうさ! テレビゲームばっかりやってると、体が(なま)るだろう? だからこういう体を動かすやつに限るぜ!」

友美佳「なるほど、考えたわね」

秀和「お前はただ、女の子たちに変なポーズを取らせたいだけだろう……」

直己「そう、その通り! ……あれ?」

名雪「なーおーき! そこに直りなさい!」

直己「うがはっ!」

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