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反逆正義(リベリオン・ジャスティス)Phase One——Ten days in heaven(or in hell)  作者: 九十九 零
第4章 怒りの反撃編・信念の分岐点
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リボルト#17 束の間の憩い Part1 穏やかで賑やかな日常

アバン


千恵子「ん、んん……皆さん、おはようございます……あら?」


秀和「zzz……どうだ土具魔、俺のこの一撃はぁ……zzz……」

菜摘「も、もうこれ以上食べられないよ……zzz……」

美穂「イケメーン、イケメンいるのかしらぁ? zzz……」

名雪「この魔法で、悪いやつらを懲らしめてやるわ~えーい……zzz……」


千恵子「まあ、皆さんまだ眠っていらっしゃるのですね。よほど疲れているようなのですね」

涼華「あら、千恵子さんじゃない。おはよう」

千恵子「あっ、おはようございます、涼華さん。意外と早起きですね」

涼華「ふふっ、まあね~みんながどんな寝言を言ってるかと思うと、ワクワクしてつい起きちゃった♪」

千恵子「さすがにそれはちょっとよくないと思いますが……」

涼華「別に盗み聞きしてるわけじゃないんだから、気にしなくていいわよ。で、千恵子さんはそんなに早く起きて、何をするつもり? またお料理の準備?」

千恵子「はい、そうです」

涼華「料理ができるって大変ね~。それじゃ私はここでみんなの寝言を楽しんでるから、料理頑張ってね~」

千恵子「は、はあ……ありがとうございます」

(やっぱりこの人、何を考えているのか分かりませんね……)

リボルト#17 束の間の憩い

A brief rest


「……きなさい」

 朦朧(もうろう)とした意識の中で、誰かの声が聞こえてくる。

 俺はそれに答えようとするが、体がまるで石の下敷きになったように重くて、なかなか動けない。

「……でしょうか」

 さっきとは違う声が響く。聞き覚えがあるので、多分俺が知っている人だろう。敵じゃないことが分かって少しホッとしたが、やはりこの体の違和感には安心できない。

「……ですよ」

 ああ、このかわいい声は知ってる。碧だ。となると、やってきたのは真実の標の人たちか。きっと俺たちのことが心配で、様子を見に来てくれたに違いない。

 おい、ちょっと待て。なんだか足が急にくすぐったくなってきたんだけど。誰かの仕業なのか?

 そんなイタズラをする犯人を捕まえようと、俺はとっさに体を起こしてそいつの胸ぐらを掴む。


「いや~ん、いきなり女の子の胸を触るなんて、エッチ~」

 俺に捕まったのは茉莉愛だった。彼女はいつものノリでわざと艶めかしい声を漏らし、ハーレムものではよくあるシーンを演出する。とても上手とは言えないが。

「人の足をくすぐっておいて、よく言うぜ」

 俺は茉莉愛を掴んでいた手を放し、白目で彼女を見る。

「そんなことより、もう12時半なのよ! 一体昨日は何してたの!?」

 乱雑な食堂をあちこち見て、十守先輩は物凄く呆れた顔をしている。いつも大雑把そうに見えるのに、案外真面目なところもあるんだな。

「うふっ、これだけの枕が散らかっているから、きっと枕投げをしていたに違いないわね。しかも物凄く激しいやつね」

 靄は自慢の推理力を駆使して、一瞬だけでこの食堂で起きていたことを当てた。さすがと言わざるを得ないな。

「お恥ずかしいところをお見せしてしまい、誠に申し訳ございません」

 突然、後ろから氷のような透き通った声が聞こえる。振り向いてみると、そこにいるのは既に出来上がったお料理を運んでいる千恵子の姿だった。

「いいのよ。まあ、枕投げなんて結構長い間やってないし、なんだか懐かしい気分になるわよね~」

 散らかっている枕を見ながら、十守先輩は苦笑する。


「あっ、おはようございます、秀和君。よく眠れましたでしょうか?」

「ああ、おはよう千恵子。おかげでぐっすり眠れたぜ。それにしても、随分と早いじゃないか」

 千恵子に笑顔で挨拶され、清々しい気分になった俺も笑顔を浮かべて彼女に返事をする。

「もうお昼ですよ、秀和君。早くお昼ご飯を作らないと、皆さんが飢えてしまいます」

「まあ、それもそっか」

 納得した俺は、思わず頷く。

 それはそうと、彼女は一体いつ起きたんだ? あんなに遅くまで起きていたから、もし寝不足だったら肌に悪いし、体に色々支障を来してしまう。

 けど、昨日は事情があっただけで、別にいつもそんなに夜更かししてるわけじゃない。それなら別に、心配する必要はないんじゃないかな。

「おっはよございまーす、千恵子さん! 今日も相変わらず、いいスタイルしてますなぁ~」

 茉莉愛はいつの間にか千恵子の後ろに回り、両手を出すとそのふくよかな胸を掴もうとする。

 このままでは千恵子とお料理が危ない。助けないと!

 俺はすぐに立ち上がるが、次の瞬間に目を疑うような光景が起こった。


 なんと千恵子が膝を屈めると、宙返りして茉莉愛の背後を取った!

 あまりにも派手な動きに、俺は思わず見入ってしまった。その華麗な姿は、まるで空を飛ぶオオルリのように美しい。

「隙ありです!」

 そして千恵子は茉莉愛との距離を縮め、勢いに乗って手刀で茉莉愛の首筋を打った!

「ぐわはっ!」

 予想しなかった事態に茉莉愛は慌てふためき、まともに千恵子の攻撃を喰らった。

「もう、茉莉愛さん! もしお料理が零れたらどうするのですか!」

 倒れている茉莉愛を見て、千恵子は彼女を(たしな)める。確かに、もし茉莉愛のイタズラでお料理が地面に落ちてしまえば、千恵子の努力が水の泡になってしまうだろう。

 だが、あんな派手な宙返りをした千恵子は、よくお料理を零さなかったな。そっちの方が危険度がよほど高いのに。

「う、ううっ……ごめんなさーい……」

 さっきの一撃で立ち上がる気力を失った茉莉愛は、情けない声を漏らす。


「秀和君、わたくしは引き続きお料理を作りますので、お布団のお片付けをお任せしてもよろしいでしょうか?」

 千恵子が頼みごとをするとは珍しいな。でもこの状況だと、手が離せないのも確かか。

 いつも甘えてばかりじゃダメだよな。ここは彼女の要望に応えて、手を貸そうじゃないか。

「分かった、任せてくれ」

 まだ起きたばかりで少しだるい気がするが、俺はかろうじて体を動かして、床に敷かれている布団を持ち上げ、倉庫まで運び出す。

 もちろんこれだけの数になると一人で全部片付けるのが大変だが、他のみんなが協力してくれたおかげで、思ったより早く作業が終わった。

 その後俺たちは簡単な昼食を済ませ、自由行動をすることにした。何しろ連日の戦いで体も心も疲れている上に、今日も徹夜のせいで体がだるい。

 そして何より大事なのは、明日は例の舞台が完成する。万全な状態で挑むためにも、一時の休憩も必要になるだろう。

 俺はこの旨をみんな伝えると、彼らもそれに反対することなく、頷いて賛成してくれた。


「うん、それがいいと思うな~。アイツらのムカつく顔を見てると、いい気分になれないんだよね~」

 丈が短めのTシャツを着ている優奈は、だるそうに背筋を伸ばしてヘソを覗かせている。

 その仕草が直己の敏感な女子センサーを刺激し、彼は立ち上がって優奈のお腹を覗こうとするが、早くも名雪に発見され頬を(つね)られる。

「正直、俺は一刻も早くあの腐った連中を倒したいが、確かにお前の言うことも一理あるな。もし無理して戦いに負けてしまえば、元も子もない。特にあの矛理だけには、醜態を晒したくないからな」

 復讐に溺れている広多は、握っている拳を震わせながらそう言っている。よほど鬼軍曹にコケにされたことを根に持っているようだな。

 とはいえ、彼は俺の意見を受け入れず、一人でブラック・オーダーに戦いを挑むという無謀な行動に出なかったことから、彼も少し成長したのかもしれない。

「わたくしも戦いがあまり好きではないので、賛成です。穏やかなのが一番ですから」

 食器を洗っている千恵子も、こっちを振り向いて俺の提案に同意してくれた。

「えっ、そうなの? 千恵子ちゃん、戦う時の動きがあんなにキレキレなのに……」

 千恵子の言葉を聞いた菜摘は、驚きのあまりに目を丸くした。

「キレキレというより、ノリノリなんじゃないかしらね~。千恵子が敵を薙ぎ払っていた時、物凄くテンションが高かったわよ。まるで今まで溜まっていた鬱憤(うっぷん)を晴らすようにね」

 傍らにいる美穂が目を細めて、ニヤリと笑いながら千恵子を見つめている。

「美穂さん、そうやって勝手に他人の心を覗くのはよくないと思いますよ」

 自分の気持ちを見透かされて、千恵子は少し眉を(ひそ)めて不愉快そうな顔を浮かべる。

「まあまあいいじゃない、別に減るもんじゃあるまいし~」

 しかしそんな千恵子の言葉が大雑把な美穂に伝わらず、軽くあしらわれてしまう。

 そして次の瞬間に美穂がテレポートを使って、千恵子の後ろに瞬間移動した。

 あっ、そのパターンってまさか……


「えい!」

「ひゃあっ!?」

 案の定、美穂はまたしてもその細長い指を伸ばし、千恵子の豊かな胸を鷲掴みにする。

「あら、相変わらずすごいボリュームね~。また大きくなったんじゃないかしら?」

「い、いけません美穂さん……! 今、食器を洗っている途中で……ああん!」

 美穂の激しい攻勢に、千恵子はなす術もない。ただ刺激に身を委ね、体を震わせるしかなかった。

 それに何の前触れもなく漏れる千恵子の吐息は、この場にいるほぼ全員を気まずく感じさせる。

 このままではまずいと思い、俺は何とか話題を探す。

「おかしいな、さっき茉莉愛が襲いかかった時にはかわせたのに、なんで美穂の時はダメだったんだろう?」

「おっ、いい質問ですな! ワタシもすごく気になります!」

 首筋の傷を冷やすために氷嚢を当てている茉莉愛は、急に挙手して大声で質問する。

「さっきはお料理を持ってたからじゃないかしら? 千恵子はお料理のことになると、すごく真面目になるからね」

 友美佳は今までの出来事を思い返し、この結論を下した。

「それもありますけど、やはり美穂さんのあの瞬間移動も凄いですよね! 夢でも見てるんじゃないかって、つい自分の目を疑っちゃいましたよ!」

 一方冴香は、あまりにも人離れした美穂の神業に思わず興奮している。

 よし、これならみんなの注意をそらせるはず……


「このこのこのぉ~! 一体何を食べればこんなに大きくなれるの!」

 俺の必死の努力を余所に、美穂は千恵子の胸を揉む勢いを増していやがる。

「いやん……駄目です美穂さん! 皆さんに聞こえてしまいます……はあん!」

 もちろん千恵子がそんな感触に抵抗できるはずもなく、依然として桃色の喘ぎ声を漏らす。

 はあ、やっぱり直接に止めさせるしかないのか。とはいえ、あまり過激な手段を使うのが無理があるな……

 突然、ある閃きが頭を過る。あまりいいアイデアとは思えないが、とにかくこの窮地を打破しないとな。

「菜摘、ちょっといいか?」

「えっ、なになに秀和くん?」

 俺の声に反応した菜摘はこっちに近付いてくる。すかさず俺は耳打ちをして、菜摘に俺の計画を教える。

「……分かったか?」

「うん、任せといて!」

 俺の意図を理解した菜摘は、こくりと頷くと美穂の後ろに忍び寄る。

「み、美穂さん……はあ……もうそろそろその辺に……はああ……」

「まだまだこんなもんじゃないわよ! どれぐらい耐えられるか、今日こそじーーっくり、研究させてもらうわよ!」

「な、何の実験ですか……はう……!」

 千恵子はまるで猟師に捕まったウサギのように、一方的に弄ばれる。

 しかし次の瞬間に、すべての流れが変わった。


「わしゃわしゃわしゃ!」

「アハハハハハハハ!!! ちょ、菜摘!? なんでアンタがアハハハハハ!!!」

 菜摘に脇腹をくすぐられて、失笑する美穂。その指のテクニックは、プロのピアニストも顔負けするくらいだ。更に美穂が今日もヘソ出しルックスのため、その威力が一層強くなる。

 これで千恵子はやっと美穂の魔の手から解放され、すぐさまこの場から離れる。

「お助け頂き誠に感謝致します、菜摘さん」

「ううん、気にしないで、千恵子ちゃん」

 お辞儀で礼を言う千恵子に、菜摘は小さな微笑みで優しく返した。

「ちょっと菜摘! いい加減にしなさ……アハハハハハハ!!!」

 そしてしばらく、食堂は美穂の暴走した笑い声に包まれていた。少し可哀想だが、これも千恵子を(もてあそ)んだ罰だ。自業自得ということにしとこう。


「はあ……はあ……はあ……」

 菜摘がくすぐりの刑を止めた時、美穂は床に倒れ込んで情けなく息を切らしている。

「だ、大丈夫ですか、美穂さん?」

 そんな美穂を見て、冴香は彼女の隣でしゃがみながら心配そうにその様子を尋ねる。

「大丈夫……じゃないわよ……」

 美穂は笑顔を浮かべようとしているが、目はまったく笑っているように見えない。よほど疲れたんだろう。

「ご、ごめんね美穂ちゃん……ちょっと、やりすぎちゃったかな……?」

 思ったより大事になったのを見て、菜摘も少し申し訳なさそうにしている。

「バカ菜摘……よくも裏切ってくれたわね……」

 自分の親友に不意打ちをかけられて、美穂は眉を顰めて菜摘を睨みつける。「裏切る」とか言ってるけど、あれは本気で言ってるわけじゃないよな?

「ほ、本当にごめんね……あっ、そうだ! お詫びに一緒にお菓子でも食べよう? 私がおごるから!」

 菜摘は両手を合わせると、ウインクして舌をちょこっと吐き出す。その仕草は何とも愛らしい。


「……から」

「えっ、今なんて……?」

 美穂の弱々しい声を聞き取れず、菜摘は目を丸くして質問する。

「アイス10個じゃないとダメよ! アタシの気が晴れないから!」

「う、うん……それで美穂ちゃんが満足できたら、いいよ」

 菜摘は美穂の条件をあっさりと受け入れ、軽く頷いた。

 すると美穂はすぐさま立ち上がり、菜摘の手を握って移動し始めた。

「わわ!? 美穂ちゃん、どこ行くの?」

「アイスを食べるに決まってるじゃない! 早くしないとアイスが逃げちゃうわよ!」

「アイスに足がついてないから大丈夫だよ、美穂ちゃ~ん!」

「さあ、アイスの世界がアタシたちを呼んでるのよ、菜摘! さっさと行くわよ!」

「ダメだ、全然聞いてないよ……」

 こうして菜摘は美穂に無理矢理に引っ張られ、二人の姿は少しずつ遠くなっていく。


「あっ……」

 この騒ぎに気を取られていた俺は、ようやく我に返る。

 ふと腕時計を見ると、すでに午後2時を過ぎている。俺は改めて、時間の速さに感服した。

 さてと、今日は休みとはいえ、だらだらするのはもったいないよな。もっと有意義に使わないと。

 けど、まったくやることが思いつかないな……何をすればいいんだ?

 俺は手をポケットに突っ込むと、スマホの滑らか触感が指に伝わる。

 ゲームをやるか? いや、ゲームならどこでもできる。ここでしかできないことがしたいんだよな、俺は。

 俺はホーム画面を開くと、あちこちに並んでいるアプリのアイコンを眺める。すると、カメラのアイコンが目に映った。

 突然、あるアイデアが閃く。ここに来てから、俺はまだ写真とか撮ってなかったよな。せっかくだし、みんなとの思い出を残すのも悪くないじゃないかな。

 バッテリー残量も容量もバッチリだ。よし、早速やってみるか!

 俺は椅子から立ち上がり、共に思い出を作る仲間たちを探し始めた。

優奈「えっ、なになに? 秀和くんが写真を撮るの? いいわ~、この美少女優奈ちゃんが、特別に撮らせてあ・げ・る!」

美穂「ううん、アタシを撮りなさいよ! こんなナイスバディのモデル、めったにいないわよ~?」

宵夜「ええい、この凡人風情が! 我のように魔界のオーラを出せる者は、他におらんのだろう!」

愛名「あはは、張り切ってるね宵夜ちゃん! 私もコスプレイヤーとして、血が騒いできたよー!」

菜摘「私も撮ってほしいな、秀和くん! ポーズはこんな感じでいいかな?」

涼華「あら、もっと早く言ってくれれば、自慢の勝負下着を履いてくるのにね」


茉莉愛「ちょっと千恵子さん!? みんながあなたのボーイフレンドに、被写体になるよう頼んでるんですよ? 行かなくていいんですか?」

千恵子「大丈夫ですよ、茉莉愛さん。例えわたくしが頼まなくても、きっと秀和君がわたくしの写真を撮りに来てくれるでしょう」

茉莉愛「おお、すごい自信ですな……! これってもしかして『正妻パワー』ってやつですかね?」

千恵子「そうそう、正妻ぱわ……って、急に何を言い出すんですか、茉莉愛さん!」

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