リボルト#16 闇に包まれた夜 Part1 地味な嫌がらせ
アバン
秀和「一体あいつら、寮に何をするつもりだ……?」
哲也「分からない。彼らの凶悪な性格からすれば、何をやっても不思議じゃないね」
直己「ドラマや映画でよく見てるけど、こういう場合は大体ペンキをかけられたり、燃やされたりして……」
千恵子「…………!! そ、そのようなことが……」(ブルブル)
秀和「おい直己、変なことを言うなよ! 千恵子が怯えてるじゃねえか!」
直己「いや、おれはただ思ってることを……そっちだって、何をしても不思議じゃないって言ってたじゃん!」
秀和「だからってそうストレートに言う必要がねえだろう! 空気読めよ!」
碧「落ち着いてください、先輩。きっと寮は大丈夫ですよ」
千恵子「え、ええ……ありがとうございます、碧さん」
碧「碧でいいですよ。先輩の方が上ですし」
正人「よし、そろそろつくぞ!」
千恵子「あっ、はい! それではまた後程、碧さん!」
碧「はい、分かりました」
(結局また「さん」付けで呼ばれちゃいましたか……よほど焦っているのですね)
リボルト#16 闇に包まれた夜
The night that surrounded by darkness
急いで寮に戻った俺たちは、何か異状はないか確かめる。
幸いなことに、外見からは特に問題はなさそうだ。ペンキをかけられたり、燃やされた痕跡が見当たらない。
だとしたら、一体奴らが言っていた「お仕置き」っていうのは何なんだ?
「なーんだ、ビビらせておいて特に何も起きないじゃん、心配して損したぜ!」
ほっとした直己は余裕そうな声を発し、爽やかな笑顔を浮かべている。
だがあのブラック・オーダーのやることだ、油断はできない。そう思った俺は、重い足取りで寮の玄関に入る。
それにしても、随分と暗いな。朝恋蛇団のところに行く前に誰かが電気を消したのか? 節電はいい心掛けだが、さすがにここまで暗いと電気をつけないと見えないな。
「あれ? つかねえぞ」
俺はスイッチを押したが、周りが明るくなる様子が一切なかった。イヤな予感がするぞ。
「これってもしかして……停電か?」
「そうとしか考えられないね」
俺の問い掛けに、哲也がメガネを押し上げるとそう答える。
「なーんだ、何かと思えばただの停電じゃねーか! ブレーカーを戻せばいいだろう!」
機械に詳しい聡は自信満々のドヤ顔を浮かべ、ブレーカーが設置されているところに移動する。
これなら電気が戻せると思われていたが、現実はそう簡単には行かない。
「んんー!???」
「どうした、聡?」
聡が発した奇声に、俺は思わず反応する。
「ブ、ブレーカーが落ちてねーぞ!」
「落ち着け。漏電遮断器やリミッターは?」
広多は珍しく嫌みを言わず、聡にアドバイスした。
「ちょっと待てよ……いや、そっちも変わった様子はねーぞ」
聡はスマホを懐中電灯として使い、ブレーカーに異状がないことを伝えた。
「ダメだこりゃ……これは停電より、送電停止と言うべきかな」
がっかりする直己は自分の手を額に置きながら、しゃがんでため息をついた。
「あんたが余計なことを言うからよ、このお喋りバカ!」
「ぐわはっ!」
先ほど直己が調子に乗ってたことを思い出した名雪が、再び容赦なくハリセンを振り下ろす。それに続く直己の悲鳴が、あまりにも滑稽だった。
「くそっ、これはやられたな……地味な嫌がらせとはいえ、電気がないと色々不便だぞ」
あまりにも急な出来事に俺は苛立ち、頭を引っ掻く。
「ど、どうしたらいいでしょうか……?」
千恵子はいつもの冷静さがなく、あたふたしている。もしかして彼女は黒いものだけでなく、暗いところも苦手なのか?
その時、どうやらムムは名案が浮かんだらしい。
「とりあえず、懐中電灯を用意しましょう! ショッピングモールにはまだ残ってるはずです」
「おっ、ナイスアイデアね、ムム! それじゃ、早速行くわよ!」
嬉しそうに声を漏らす十守先輩は、さっと身を翻してショッピングモールに移動し始めた。そして俺たちも彼女の跡を追う。しかし……
「ちょっと、何なのよこれー!!」
ショッピングモールに着いた十守先輩は、怒り狂った声を張り上げた。
何故かというと、それは照明用具のコーナーにあるはずの商品が全部消えたからだ。くそっ、どんだけ手回しがいいんだ、あいつら!
「あらあら、私たちの考えが全部読まれたのね。占い師にならなくて本当にもったいないわね」
「そうね、本当にもったいない……って今は感心してる場合じゃないでしょう、静琉!」
十守先輩は相変わらず静琉先輩の脱線発言に、ツッコミを入れる。こんな時でも落ち着いていられるんだな、静琉先輩は。
「そういえば、私たちの隠れ家はどうなるんでしょうか?」
碧がふと口にした質問が、十守先輩の神経を刺激する。
「そうだったわ! もしかしたらあそこも既にあいつらの手に……こうしちゃいられないわ、早く様子を見に行くわよ!」
落ち着きを失った十守先輩は、慌ててエレベーターの方向へと走り出す。俺たちも急いでついていく。
幸いなことに、隠れ家の電気はちゃんとついているようだ。まあ、それもそうか。あいつらは寮のことしか言ってなかったし。
「ふう~、ここの電気はちゃんと使えてよかったわ。一時どうなるかと思ったわよ」
災難を免れられて、十守先輩はほっと胸を撫で下ろした。
「それじゃ確認も済んだことだし、そろそろ晩ご飯にしちゃいますかっ!」
ネネはいつものように、はつらつとしたポーズと共に威勢のいい声を発する。
俺は腕を上げて時計を見ると、時は既に午後5時を過ぎたことに驚く。本当、時間の流れって恐ろしいほどに速いぜ。
それに突然、俺の腹が情けない音を出した。あれだけ激しい戦いをしたんだ、空腹になるのも無理はないだろう。
「秀和君、夕食のリクエストはおありですか?」
そんな俺を見て、千恵子は俺の耳元で優しく声を掛けてくれる。さすがは俺の彼女、気が利くな。
「そうだな……さっきは結構体を動かしてたから、ここはやっぱボリュームのある肉料理がいいよな! というわけで千恵子、ビーフシチューを頼むぜ」
「ビーフシチューですね、畏まりました。他の皆さんもそれでよろしいでしょうか?」
集団意識が高まった千恵子は、顔をみんなのいる方に向けて意見を聞く。
「いいえ、それだけでは足りませんわ! わたくしのような高貴な人間には、魚のソテーを食べなければ一日が始まりませんわよ!」
突然雅美は甲高い声を上げ、自分の要求を述べた。
「お魚のお料理ですね、畏まりました。ではお手伝いをお願い致しますね、雅美さん」
「えっ? わたくしもやりますの?」
千恵子の返事を聞いた雅美は、目を見開いて自分を指さす。その様子だと、どうやらお料理を作ったことがないようだな。
「はい、一人より二人で一緒に作ったほうが、もっと楽しいと思いますので」
「わ、分かりましたわよ……そこまでおっしゃいましたら、断る理由もありませんわね」
千恵子の力強い言葉に説得された雅美は、少し恥ずかしがりながら千恵子の頼みに妥協した。
「あの、先輩」
ショッピングモールに戻ろうとしたその時に、急に後ろから碧の声を聞こえる。
「おっ、今度は何だ?」
「さっき部屋から持ってきました。もしよろしければ、こちらをどうぞ」
碧はポケットから何かを取り出し、手を開いた。その上に乗っているのは、いくつかの筒状のものだった。
俺はその中の一つを手に取り、それが何かを確認する。底部にある大きなボタンを押すと、もう片方から眩しい光が差してくる。
「これってLEDライトか? わざわざありがとうな」
「いいえ、大したことはしていませんよ」
碧は恥ずかしそうに首を横に振っているが、俺はそんな彼女の愛おしい一面を見ると愛でたくなる。
「そう謙遜するなって。その気持ちだけでも嬉しいぜ」
俺はライトを持っていない手を伸ばし、碧の頭をそっと撫でる。
「先輩って、よほど私の頭を撫でるのが好きなんですね」
「えっ、もしかしてイヤなのか?」
「イヤ……じゃないです。ただ……撫でられる度に、顔が少し熱く感じます」
碧の声が急に震えている。よく見ると、その頬が赤く染まっている。あまりの可愛さに、俺は思わずドキッとした。
「そ、そうか……イヤじゃないならいいけど」
少し気まずい思いをした俺は、無意識に手を引っ込めた。
「秀和くん、何してるの~? そろそろ上に行くよー!」
「ああ、わりぃ! 今行くぞ!」
突然菜摘に呼ばれて、俺は慌てて返事をした。
「それでは行きましょうか、先輩」
「ああ、そうするか」
俺は碧の呼び掛けに応じて、エレベーターに移動し始める。
こうして俺たちは、いつもより少し贅沢な夕食を取った。うーん、ビーフシチューと魚のソテーを一度に食べられるなんて、今日はついてるぜ。
その後俺たちは食事の後片付けを済ませ、一旦寮に帰ることにした。
電気が使えず給湯器も稼働しなくなったため、ちゃんとしたシャワーを浴びたいのなら、十守先輩たちの隠れ家にあるバスルームを使うしかない。でもその前に着替えを持ってこないとな。
しばらくして俺は再び隠れ家に足を踏み入れたが、俺より先に直己たちが到着していた。
直己とお風呂。この二つのキーワードを思い浮かんだ俺は、反射的にイヤな予感がした。また覗きでもするんじゃないだろうな。
「お願いですよ、先輩! どうかここを通して下さい……うぎゃあ!」
土下座をして必死にバスルームに入ろうとする直己だったが、その片腕が十守先輩の足に固められ、彼にとてつもない痛みを感じさせる。
それにしても、よくそんな技が使えるな、十守先輩。プロレスでも見たことがあるのか?
「ちょっと、あんたね! 女性がシャワーしてるとこ、見せられるわけないじゃない!」
怒り心頭に発する十守先輩は直己に怒鳴りながら、足に入れる力を強くする。
「いやああああ~ん!!」
苦痛に苛まれる直己は、情けなく女々しい悲鳴を漏らす。
「あっ、秀和、ちょうどいいところに来た! 助けてくれぇ~!」
俺の存在に気付いた直己は、藁にも縋る思いで俺に助けを求める。
もちろん、ここは彼を甘やかすわけにはいかない。心を鬼にして、彼の要求を拒否しよう。
「それはできない。大体悪いのはお前だし、それに先輩に手を出すわけにはいかないからな」
「な、なんだって~!? この無情なやつ……あいたたたたたぁっ!」
案の定直己は俺を咎めようとするが、十守先輩の絶えない攻勢には敵わなかったようだ。
だがあの時の直己には、真の地獄は待っていることを知る由もなかった……
「どう? これでも中に入りたいというのかしら?」
「ギブギブ! もう入りませんから、早く放してくださいよ!」
「素直でいいわ。それじゃ、今回は見逃してあげ……」
「あっ、黒いパンツだぁ!」
まるで宝でも見つけたかのように、直己は嬉しさのあまりに無邪気な声を上げた。どうやらあいつは、十守先輩のミニスカートの下にある秘密の花園を目にしたようだ。
それを聞いた十守先輩は、一瞬動きが止まった。そしてその頬が、少しずつ赤くなっていく。普段はあんなに荒々しいのに、こういう乙女の一面もあるんだな。
ぎごちない動作で立ち上がった十守先輩は、自分のスカートの位置を調整すると、それを軽く叩いてほこりを払う。
そして、次の瞬間に……
「あたたたたたたぁー!!!」
「うぎゃああああああー!!!!!」
テンパってる十守先輩は、絶え間なく直己の頭を踏み続けている。その速さは、正にマシンガンのようだった。
やれやれ、黙っていればよかったものの、なんでいつも口が滑って余計なことを喋るんだろう……まあ、別にどうでもいいけど。
このまま直己は天に召されるのかと思いきや、またしても強運に恵まれるのがこの男だ。
「十守、シャワーが空いたわよ」
バスルームから出てきた静琉先輩たちはこの異様な光景を見て、驚きのあまりに目を見開いている。
「な……何してるの、これ?」
「そんなの決まってるじゃない。また直己が覗きをしようとしてるでしょう」
優奈と美穂は直己の惨状を目にしたにもかかわらず、二人は動揺するどころか、白目で彼を見下ろしている。
「こんなこともあろうかと思って、予め先輩に見張らせておいて正解だったわ。ありがとうございます、先輩。こいつ、隙あらば覗きをしようとするんですよ」
先見の明を持つ名雪は十守先輩にお辞儀をすると、優奈と美穂と同じように直己を見下ろした。
「いいのよ、これぐらい。でもまさか、かわいい後輩たちの貞操を守ることになるとはね~」
仁王立ちになっている十守先輩は、自慢げに笑っている。しかしその笑顔には、なぜか虚しく見えてしまう。
「あら、秀和くんじゃない。さっきのことを見たわよね? 君はあんなひどいことをしちゃ、ダメだからね?」
今更俺がここにいることに気付いた十守先輩は、突然恐ろしい眼光を放つ。そこまで言われたら、さすがに「ノー」とは言えないだろう。
「……肝に銘じておきます」
俺はゴクリと唾を飲み込むと、こう答えた。
「うんうん、いい返事ね。それじゃあたしはシャワーを浴びてくるわ!」
「はい、いってらっしゃい、十守」
吹っ切れた十守先輩は身を翻して、バスルームに移動する。そんな彼女を、静琉先輩が見送る。
さて、直己の調子はどうなってるかな? さっきから頭から血が出てるんだけど……
なんと直己は何事もなかったかのように立ち上がり、そのまま動き出す。ギャグ補正なのか。
「おい聡、この前に使ってた空を飛ぶカメラを貸してくれよ!」
おいおい、まだ諦めてねえのかよ。根性が強いのはいいことだが、発揮するところが違うぞ。
「空を飛ぶカメラって……『プライベート・サーチャー』のことか?」
「そう、それそれ! 先輩のムチムチとした体が見たいんだよ!」
「今は持ってるわけねーだろう。誰がシャワーを浴びる時に、あんな重いものを持ってくるんだよ!」
「そ、それもそっか……あははは……」
反論された直己は、気まずそうに苦笑している。
そしてしばらくすると、湯上がりの十守先輩がバスルームから出てきた。
「ふう~、今日の戦いで汗をいっぱいかいたから、やっぱこういう時はシャワーに限るわね!」
十守先輩の濡れた長い黒髪は、まるで鏡のように光を反射している。パジャマから覗く白い肌とはいいコントラストになっている。
この絵に出てくるような美しい光景をもっとこの目に焼き付けたいが、その願いも泡のように儚く散ってしまった。
「先輩、コイツさっき先輩のムチムチした体が見たいって」
聡が急に、直己が思っていたことをばらした。それを聞いた直己は、思わず跳ね上がって目を丸くした。
「おい聡、どうして仲間を売るようなことを……!」
「いや、どんな反応なのか見てみたいなーって」
「それだけ!? たったそれだけの理由で!?」
聡が直己の質問に答えたが、もちろんそんな適当な発言に直己が納得するはずがない。
「性懲りもなく、あたしの裸が見たいとね……あんた、いい度胸してるじゃないの」
シャワーを浴びてようやく機嫌が直った十守先輩は、またしても怒りに満ちた顔を浮かべている。
「い、いや、あの、その……」
「覚悟しなさい! ブラック・ライオン・スープレックス!」
「うわああああああ!!!」
後ろから体を固められた直己は、十守先輩に抱き上げられるとそのまま後ろに放り込まれた。やれやれ、かわいそうに。
「さて、アイツをほうっといて、シャワーを浴びようぜ」
聡は席から立ち上がると、自分の着替えを持ってバスルームに移動する。
「うう、おれも行く……んん?」
必死に立ち上がろうとする直己だが、その前髪が掴まれて身動きが取れない。
「あんた、まさかこれで終わりだと思ってるんじゃないでしょうね? まだまだお仕置きはこれからよ、それっ!」
「ぎゃああああああ!!!」
十守先輩にかわいがられている直己は、その悲鳴がしばらく止むことはなかった。
それを聞いた俺たちは3秒間の黙祷を捧げると、バスルームに忍び込んだ。
こうして俺たちは初めて誰かの悲鳴を聞きながら、シャワーを浴びている。
何なんだよこの初体験は。心霊現象じゃないとはいえ、やっぱ気味悪いよな、こういうの。
俺たちはシャワーを済ませると、疲れた体を癒そうと寮に戻ることにした。
電気が止められているから、面白いことが何もないんだって? だが今日の夜は、まだ始まりに過ぎなかった……
直己「な、なんでだぁ~! 毎回思うんだけどさ、作者がおれに対する扱いがひどくない?」
秀和「お前がいつもエッチなことをするからだろう? 変態って呼ばれないだけでマシだと思うぜ」
直己「ふんっ、みんないいやつぶっちゃって! 秀和だって、彼女のスベスベな肌が見たいくせに!」
秀和「いや、まあ……見たくないって言ったら嘘になるけど」
直己「そうだろう、そうだろう! だったら正直になって、おれと一緒に覗きをしようぜ!」
秀和「いや、これとそれは違うだろう。人前で怒られるようなことをするのは、どうかと思うぜ」
直己「ちぇ、つまんないな! じゃあおれが千恵子ちゃんのやわらか~い体を、独り占めしよっと!」
秀和「なに!? それだけは許さねえ! 千里の一本槍……」
直己「まあまあ、そう怒るなって! 千恵子の写真を撮ったら、秀和にも見せるからさ!」
秀和「そ、その手があったか……!」
直己「あっ、1枚千円ね」
秀和「たけえよ! やっぱりお前は痺れろ! 千里の一本槍!」
直己「ぐわああああああ!!!」