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反逆正義(リベリオン・ジャスティス)Phase One——Ten days in heaven(or in hell)  作者: 九十九 零
第4章 怒りの反撃編・信念の分岐点
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リボルト#15 相容れない三つの意志 Part5 先の見えない未来

「貴方たちは……ブラック・オーダー!」

 禍々しいオーラを放っている化け物たちの気配を感じて、千恵子の目付きも鋭くなり、奴らを睨みつけている。その瞳に燃えている怒りは、悪に屈しない勇気の証だ。

 俺はそんな千恵子を見て、さすがは俺の彼女だと思わずにいられない。

 そして他のみんなも恋蛇団の存在を忘れて、ブラック・オーダーの連中を見るなり怯え始める。

 まあ、久々にあんな化け物どもを見たら、普通そんな反応をするよな。さて、俺はリーダーとして、ここは格好いいところを見せないとな。


「これはこれは、世界一偉い先生方じゃねえか。こんなところで何の用だ?」

「とぼけてんじゃねえぞ! この前オレたちが大金を注ぎ込んで作ったゴールデン・オアシスをぶっ壊したのがてめえらだろう! どうしてくれるんだ!」

 20代ヤンキーは早速袖を捲り、喧嘩腰でこっちに近付いてきやがる。

「知るかよ」

 俺は舌を出して、わざとふざけた顔をする。

「てめえ、いい気になりやがって……!!! これでも喰らいやがれ!」

 俺の挑発に乗った20代ヤンキーはその顔を大きく歪め、拳を握り締めて俺を殴ろうとしやがる。

 ふんっ、かかってくるがいいぜ! 俺が自慢の稲妻でてめえを返り討ちして……


「いい加減にしなさい」

 ドレス女が後ろから20代ヤンキーに接近して、足をあげると、なんとそのかかとで20代ヤンキーのケツの穴に入れた!

「ぐおおおおおおっ!?」

 突然の痛みに襲われる20代ヤンキーは、力が抜けて地面にのたうち回る。その異様な光景を見た俺は、無意識に自分の尻を手で塞いだ。

「あっ、ずるいぞォ! オレェにはあんなご褒美をしてもらったことがねェのにィ!」

「何がご褒美だよ、このドスケベ野郎がっ! くそっ、足が治ったばっかりなのに、またあのクソガキのせいでケツが……!!」

 近くにいる筋肉野郎が、倒れている20代ヤンキーを見て羨ましがっている。まだドM根性が直っていないのか……いや、そんなはずはないか。

「この前も言ってたじゃない、ここでこの子たちを倒したら、せっかく作った舞台も台無しだって。本当に記憶力がないわね、あなたたち」

 ドレス女はため息を付くと、頭を横に振りながら20代ヤンキーを見下ろしている。その眼光は、まるでゴミを見るようだった。

 そう言えば、最近あいつらが姿をくらまして全然情報をくれてねえな。例の舞台に関しても、あと一週間待てとしか言われなかったし。サバイバルバトルからすでに5日が過ぎたから、残り2日ってわけか。

 でもまあ、せっかくだから、ここで何か情報を引き出そうか。


「その舞台ってのは、どんなものか気になるな。そろそろ俺たちにもチラ見せしたらどうだ?」

「おっ、いいことを聞くな、秀和! 何も知らずに行ったことのない場所に行くのが、やっぱ不安だもんな~」

 聡は俺の質問を聞いて、大喜びする。

 確かに彼の言う通りだ。もし行き先は恐ろしい野獣に囲まれているただの深い穴なら、ここに残る方がマシだ。

 だが、狡猾(こうかつ)なブラック・オーダーがそう簡単に教えてくれるだろうか?


「クックック、甘いな。先に情報を入手して、それで行くかどうかを決めるというのか? そうはいかんぞ」

 鬼軍曹はいやらしい笑い声を放ち、俺の質問への回答を拒否しやがる。やっぱりそううまくはいかねえか。

「ふんっ、商品を売る前にPRもしないというのか。貴様の頭は実に猿以下だな」

 広多はいつも通りに腕を組みながら、鬼軍曹をバカにしている。

「ほう、まだ生きているのか、貴様。これは少々驚いたな」

 広多の元気な姿を見て、鬼軍曹は平気を装っているが、その眉間は僅かに震えている。

 そういえば、あいつはサバイバルバトルの前に広多が死んでいたと思いこんでたっけ。本当に仲悪いんだな、この二人。


「あらぁ、別にいいわよ。その方がそそるし」

 しかしドレス女はあっさりと承諾した。その意味深な笑顔からすると、どうやらよほど自信作らしい。

「葉界、少しは私の都合を考えて欲しいものだな。これでは私の面目が丸潰れではないか」

「あら、相変わらずそういうところに拘るのね。でもね、レディの発言権を奪うのはどうかと思うわよ? あなた、紳士なんでしょう?」

 ドレス女は目を細め、鬼軍曹を見つめている。

「そ……その通りだな。せ、生徒たちに心が狭い人間だと思われれば、それこそ私のぷ、プライドが傷付くことになってしまう!」

 おいおい、随分と動揺してるじゃねえかよ、鬼軍曹。っていうかさ、てめえを化け物だと認識した時点でプライドもくそもねえんだよ。

「もったいぶらねえで、さっさと教えたらどうだ?」

 化け物たちのくだらないコントにいらつく俺は、不機嫌な声を発する。

「あら、せっかちな子たちね。いいわよ、教えてあげる」

 ドレス女はクスリと笑うと、俺たちが待ち望んでいた情報を口にする。


「次の舞台は、前のジャングルとは比べ物にならないほどの大きさよ。その名もエンタジア大陸よん」

「えんたじあ、大陸……何じゃそりゃ?」

 思わず耳を疑う。生まれてはじめて聞いた地名だ。たとえ地理に詳しい人でも、きっと首を傾げるだろう。

「エンタジア……大陸……」

 その言葉を聞いた碧は、何故か急に眉を(ひそ)めて、ゴクリと唾を飲み込んだ。もしかして何か知ってるのか?

「そ、それって……もしかして『異世界』なのか!?」

 突如聡は目を見開き、大声を上げる。こういう時に限ってあいつの思考回路が普段より働くな。

「あら、さすがはゲームが好きな子、話が早くて助かるわ。そうよ、普通ならあなたたちが決して行き着くことのない場所なのよ」

 ドレス女はポケットからスマホを取り出すと、俺たちに画面を見せた。そこに映っているのは、ゲームや映画でしか見たことのない中世紀の街並みだ。

「ここはその大陸にある国の一つ、『キングダム・グロリー』よ。あなたたちの新しい旅は、そこから始まるわぁ」

 ドレス女は立て続けに、俺たちの好奇心をそそる。

「行くぜ行くぜ行くぜー! こんなすげートコに行けるなら、もう一生ここから出なくていい!」

 完全に釣られた聡は、万歳の姿勢を取って大喜びする。こいつ、自分の使命をすっかり忘れてたんだろうな。


「聡、おまえテンション高すぎだろう……別にあそこに美女がいるとは限らないしさ」

 そんなハイテンションな聡を、女好きな直己は白い目で見つめている。

 だが、彼の考えもあっという間に変わってしまう。

「あら、この国のお姫さんは凄い美人なのよ」

「マジで!? おれもついていくぜぇー!」

 直己は両手を握り締め、ガッツポーズを取ると空を見上げた。

 やれやれ、本当は己の欲望に正直な奴だな。まだ写真も見ていないのに、よく「美人」の二文字だけで喜べるな。

「ふんっ、また随分大掛かりな舞台じゃないか。ただ俺たちに旅をさせたいとは思えんな」

 一方、広多は相変わらずブラック・オーダーを警戒して、彼らの陰謀を読み取ろうとする。

「あら、意外と鋭いのね。まあ、それはその時にまた教えてあげるわよん」

 ドレス女は言葉を濁して、はっきり説明しようとしなかった。こりゃ何か裏がありそうだな。


「そういうわけだ。もうこれ以上くだらん戦いを止めて、早く寮に戻りたまえ。負傷して二日後の異世界トリップに支障を来したくないのだろう?」

 鬼軍曹は依然としてそのムカつく顔を浮かべ、威圧感のある声を放つ。

「あっ、はーい! 今帰ります、今すぐ帰ります! ささ秀和、早く帰ろうぜ!」

 美人のことしか考えてない直己は、しきりに頭を下げながら、俺の腕を引っ張っていやがる。

「直己、お前は少し落ち着け」

 俺は直己を注意しようとするが、かえって逆効果になった。

「落ち着いていられるか! あそこに美人のお姫さんがいるんだぜ? あっ、さておまえは美女に興味がないっていうのか?」

「いや、そういうわけじゃ……」

「そうだよな、おまえそういうやつだもんな! 愛を欲するおれの気持ちがわかるわけがない!」

 俺の言葉を無視して、勝手に話を進めている直己。こいつは俺には彼女がいることを忘れたのか?


「お待ちください! この人達を見逃してよいのですか?」

 突然神崎が口を挟んできた。彼女は相変わらず仇敵を見るような目付きで、化け物たちを睨みつけている。

「時には赦すことも大事なのだよ、神崎くん。今の彼らは戦う意欲がなくなった以上、一々突っかかるのも大人げないだろう」

「で、ですが……」

 予想外の返答に、神崎は少し戸惑っている。

「なに、異世界に行けば、また彼らに罰を与えられるのだ。ここは少しの辛抱だ」

「……了解致しました」

 少し不服そうではあるが、神崎を始め、神威隊のメンバー全員は跪いて頭を下げると、鬼軍曹の指示に従った。

「はっはー、ザマ見やがれってんだ!」

 お調子者の直己は神威隊のいやしい姿を見て、踊りながら大笑いしている。

 しかし「口は災いの元」ということわざがある。彼のその心ない一言が、俺たちにとんでもない迷惑をもたらした。


「何をそんなに喜んでいる。そういえば、このくだらん戦いを引き起こしたのは貴様らではないか」

 直己の調子に乗った行動が鬼軍曹の機嫌を損ねたのか、奴はギロリと直己を睨んだ。

「これは、少しお仕置きが必要みたいね」

 傍らにいるドレス女も目を細め、何かを企んでいるように俺たちを見据えている。

 イヤな予感がした俺は、思わず鳥肌を立てる。

「直己! あんたが余計なことをするからよ!」

「うがはっ!」

 そしていつも通りに、直己は名雪のハリセンに見舞われた。

 さて、一体その「お仕置き」っていうのは何だ? まさか例の時計に電流を流すつもりか?


「おやおや、そう焦ることはない。寮に戻ればすぐ分かることだ」

 寮? 一体寮に何があったのか? もしかして燃やされて……いや、そんなバカな……

「こうしてはいられません! 早く戻りましょう!」

 寮の作った千恵子は心配のあまりに取り乱し、俺たちに帰るよう促す。

 それに応じた俺たちは他の連中に構う暇もなく、早速バイクに乗って寮に戻ることにした。

 その時、土具魔は俺に声を掛けてきやがった。


「おい秀和、今回は勝ったつもりでいい気になってるだろうけどよォ、次はそのエンタなんとかで、貴様らを燃やし尽くしてやるぜェ! ヒャーハッハッハッハァ゛ー!!」

 勝手にやってろ、イカレサイコパス野郎め。

 俺は尻目で土具魔を見やると、無言で正人が運転しているバイクのサイドカーに乗った。

 後ろに響くのは、吹き荒ぶ風の音に恋蛇団の野次馬。

 そして眩しい日差しを見る度に、全てを貫こうとする神崎の眼差しを思い出す。


 自由、秩序、混沌。この相容れない三つの意志が、まるで油、水と火のようだ。

 火が油に触れると炎上するが、水で消火しようとしても、火が消えるどころか、更に大火が生まれてしまう。

「はぁ……」

 先の見えない未来に悩まされている俺はため息をつくと、手の甲を額の上に置いた。

 どうやらこの戦いに終止符を打つには、まだまだ先が長いようだな……

次回予告


千恵子「一体わたくしたちの寮に、何があったのでしょうか……心配でなりません!」

碧「安心してください、先輩。温度の変化が探知されていませんので、多分火事ではないと思います」

千恵子「そうなのですか? それなら良いのですが……」

美穂「もう、あの化け物たち、本当迷惑なのよね……」


聡「異世界! 異世界!」

直己「びーじょ! びーじょ!」

名雪「本当に気楽なのよね、この二人は……自分の立場が分かっているのかしらね?」

友美佳「まあ、少なくとも真剣に悩んでるあたしたちよりはましなんじゃないかしら」


正人「ふぅー、久しぶりの戦いは気持ちいいぜ! 帰ったらシャワーでも浴びるか!」

雅美「お背中を流させていただきますわ、ダーリン!」

正人「や、やめてくれよ! みんなの前で恥ずかしいだろう!」

雅美「うふふっ、照れているダーリンもかわいいですわ♪」


千恵子「そう言えば、そろそろ日が沈みますね……そろそろ晩御飯の用意をしなくては……秀和君、何か食べたいものがありますか? リクエストは募集致しますよ」

秀和「そうだな……ビーフシチューがいいかな。カレーでもいいけど」

千恵子「ビーフシチューかビーフカレーですね。畏まりました」

菜摘「千恵子ちゃんのビーフシチューか、楽しみだね!」

哲也「僕もだ。千恵子くんの作ったお料理は絶品だからね」

秀和「そうだな。ところで菜摘、今日の戦いで気が晴れたか?」

菜摘「えっ? 何のこと?」

秀和「あのくそビッチを、コテンパンにしてやったことに決まってるだろう」

菜摘「ああ、あのことか……あんまり思い出したくないかなぁ……」

秀和「わ、悪い……言わなかったことにしてくれ」


広多「秀和、お前は気が晴れたのかもしれんが、被害者本人はそう思うとは限らんぞ。結局お前は自分の私欲を満たしただけに過ぎないのだ」

秀和「う、うぐっ……反論できねえ……」

絵梨香「はいstop! せっかくのいいatmosphereなんだから、余計なことはnothing! OK?」

聡「おまえはいっつもイヤミなことを言うんだよなー。カッチョーわりぃぞ、広多!」

広多「何だと? まだ俺に殴られ足りないのか、貴様」

聡「おっ、こっわー! 言葉で言い返せないから暴力を振るうなんて、大人げないぞ!」

広多「そこを動くな、今すぐ泣き面をかかせてやる」

聡「へへっ、当たらねーぜ!」

涼華「ちょっと、そんなに動いたら危ないわよ、二人とも?」


秀和「まったく、緊張感ねえな……まあ、いつも通りだからいっか」

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