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反逆正義(リベリオン・ジャスティス)Phase One——Ten days in heaven(or in hell)  作者: 九十九 零
第4章 怒りの反撃編・信念の分岐点
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リボルト#15 相容れない三つの意志 Part4 空を飛ぶ猛獣

「へっ、やっとマシなもんを出せるようになったなァ、おい!」

 静まり返った人込みの中で、土具魔のやかましい騒音が再び聞こえてくる。なんてしぶとい奴だ。

「けどなぁ、これぐらいでこの俺様を倒せると思ったら大間違いだぜェ!」

 倒れた雑魚の山の下から、土具魔がおもむろに姿を現す。なるほど、雑魚たちを盾にしたってわけか。相変わらず汚え手を使いやがる。

 一方、マトモに俺と千恵子の合体技を喰らった残りの連中は、地面に悶えながら音を上げている。


「くそがぁ……体が痺れて動けねえ……!」

「あ、あたくしの美しい肌になんてひどいことを……焦げちまったじゃねえか……ゴラァ……」

「オ、オレの自慢の爆弾が……」

「ビリビリビリビリビリ……な、何だかゾクゾクするワ……」

 土具魔を仕留められなかったのは実に残念だが、他の奴らの苦しむ顔が見れるだけで十分だぜ。

 ところで、神威隊の方は……?

 遠くから、例の稲妻の巨人が黄色い光を放っている。そいつが神威隊の前に(たたず)み、俺と千恵子の攻撃を無力化したようだ。

 昨日は俺の拳にすら抵抗できなかったのに、何故今日はあんな強い攻撃に耐え切ったんだ? もしかしてわざと手を抜いて、俺たちに神威隊が弱いと錯覚させるつもりか? なかなかやるじゃねえか。


「もう、これで満足ですか?」

 後ろから、怒りを帯びた神崎の声が聞こえる。俺は渋々と彼女のいる方へ向ける。

「見てください、あなた方に倒された方々を。何の面識もないのに、ただ彼らが恋蛇団(ウロボロス)という理由で巻き込みました。こんなことをして、恥ずかしいと思わないのですか?」

「お前はな、世間知らずにも程があるぜ。これが戦いというものなんだよ! たとえ今は知らなくても、恋蛇団の連中である以上、いずれ戦うことになる。だったら先に倒した方が効率的だろう?」

「そんなの、ただの言い訳に過ぎません!」

「じゃあ、お前らだって俺たちと面識がないのに、なんで昨日は喧嘩を売ってきたんだよ?」

「それは、あなた方が世界の均衡を壊そうとして、良識を持つ一人の人間として見過ごせないからです!」

 へっ、まんまと口車に乗せられやがって。やはりまだまだ甘いぜ、神威隊のリーダーはよ。

「だったら俺たちも同じ目的で、恋蛇団を止めてるんだよ! あいつらこそ、世界の均衡を壊す極悪人だぜ!」

「なっ……!」

 神崎の奴、驚いて言葉も出ねえぜ。実にいい気味だ。

「そ、そこの貴女、何か言ってやってください!」

「千恵子を頼りの綱にしても無駄だぜ。彼女はこっちの味方だからな」

 やれやれ、とうとう藁にも縋る思いで千恵子に振るのか。あまりにも格好悪すぎるぜ。まあ、千恵子はきっと俺のことを賛成してくれると信じてるけどな。

「お言葉ですが、秀和君のおっしゃることは何も問題がないと存じます。むしろ偽りの平和を求める貴女たちの方が、余程頑固な考え方をお持ちのようです」

 千恵子は凛とした口調で、神崎の無力な要求を一蹴(いっしゅう)する。その時の神崎の悔しそうな表情は、もはや顔芸レベルだった。

 それを見た俺は笑いを堪えようとするが、あまりにも面白すぎるためどうしても我慢できず、思わず噴き出した。


「ははははは! ほら見たことか!」

「くっ、無神論者(エイシスト)め……あんな純朴(じゅんぼく)で良識を持っている人を懐柔するとは、一体どんなマインドコントロールをしたのですか!」

 神崎はまたしても、仇敵を見ているかのように俺を睨みつける。そんな彼女の言いがかりを聞いて、俺は思わず眉をひそめる。

「はあ? 何言ってんだお前? そんな凄い技があったら、逆に教えて欲しいぐらいだぜ! 千恵子は自分の意志で、俺たちの味方になってくれたんだぞ!」

「秀和君のおっしゃる通りです。ご自分の思い通りに行かないからと言って、他人の非難をされるのはどうかと存じます」

 俺が悪口を言われて怒っているのか、千恵子も鋭い眼差しで神崎を見据えている。口調こそいつもと変わらないものの、その視線に秘めている怒りが感じ取れる。


「そっ、それはそうとして、他人の失敗を笑うなんて、卑劣すぎます!」

 ふん、気まずくなったら別の論点から俺を責めようってのか? バカバカしくて付き合ってらんねえぜ。

「卑怯なんかじゃねえよ。お前が先に俺たちを批判するつもりだったが、逆に俺に言い負かされただけ」

「な、何が言いたいのですかっ!」

 焦る神崎は、俺に詰問(きつもん)する。いいぜ、教えてやろうじゃねえか!

「他人への批判は、99%はブーメランだからな!」

 俺は気に食わねえあの土具魔の言葉を、高らかに叫ぶ。

 気に食わねえ奴を真似する気はないが、有意義な言葉を自分のものとして利用するのはまた別だ。

 だが、俺の発言を耳にした土具魔は黙るはずがなかった。


「おいおいおいおい! 俺様の名言をパクリやがって! 貴様はそれでもヒーローかァ!」

 へー、こうやってまた俺に罪悪感を背負わせる気かよ。だが今日の俺はひと味違うぜ。

「ヒーローだと? 俺はヒーローになるつもりはねえし、多分一生ヒーローになれやしねえ」

 そんな偉い存在に、俺はなれるはずがない。私欲を捨てるなんてできないし、何しろ自分のことだけで精一杯だ。

 別にヒーローが嫌いなわけじゃない。他の男子と同じく、俺もヒーローに憧れている。だがもし俺のような人間がヒーローになれば、それこそヒーローへの侮辱かもしれない。自信がない? まあそうかもな。

「けっ、開き直りやがって! まあいいぜ、どの道貴様はこの俺様に壊されるだけだからなァァァ!」

 そう言うと、土具魔はまたしてもあの忌々しくて黒いオーラを放ちやがる。さては憑依獣(パラサイト・ビースト)を出すつもりか!?


 予想通りに、奴の体に鋭い牙と爪が生え、そして豹の形をしたダークパープル色の炎がその頭上に迸る。

 憑依獣の放つ波動が俺の脈拍を加速させ、闘争本能が呼び覚まされる。

 ようやくこの時が来たか。だったら俺も……!

「秀和! この前のすげーアレで、アイツをやっつけてやれ!」

 突然、後ろから聡の大声が響く。そういえば、彼も俺の憑依獣を見たことがあったよな。

 その時、俺は一つ大事なことを思い出す。

 仲間たちの中で、まだ俺の憑依獣を見たことのない人もいる。もし彼らがそれを見れば、俺へのイメージダウンに繋がるかもしれない。前回は運よく事なきを得たが、今回はそうとは限らないぜ……!

 俺が躊躇(ちゅうちょ)している間に、仲間たちが俺に温かい手を差し伸べてくれる。


「心配しなくていいよ、秀和くん。私たちが側にいるからね」

「たとえ君がどんな姿になったとしても、僕は決して見捨てたりはしないさ」

「わたくしたちは秀和君のことを信じています。ですから秀和君も、わたくしたちを信じて下さいね」

「みんな……」

 仲間たちの温かい言葉が、俺の心を熱くする。

 そうだ、何も心配することはないじゃないか。俺たちの強い絆は、これぐらいのことで破裂するはずがない!

「ありがとう。それじゃ、行ってくるぜ」

「ええ、行ってらっしゃいませ」

 みんなに一礼すると、俺は土具魔のいる方へと走り出す。


「うおおおおおおおお!!!」

 恋蛇団に対する憎しみと相俟って、体内に暴れている憑依獣はいつもより制御が難しく、まるで檻から放たれた野馬(やば)のように飛び出た。

 先ほどの雨とは違い、辺り一面の空気が俺の放つ炎により熱くなる。その変化を感じ取った仲間たちが、こっちに視線を向けてくる。

「な、何ですのあれは……!?」

「なんて凄まじい炎だ……一体何者だ、あいつは!」

 まだ俺の憑依獣を見たことのない人たちが、驚きの声を上げている。

「いっけー、秀和! 恋蛇団をコテンパンにしてやれ!」

「負けないで、ヒレカツくん! 格好いい必殺技を決めちゃって!」

「やっちゃいなさい、秀和くん! 負けたら承知しないからねっ!」

 意外なことに、応援してくれる人もたくさんいる。そうか、ここまで俺のことが信頼されてるのか。本人が自分のことを案外よく知らない、なんてこともあるよな。

 だったら、もう迷う必要はねえだろう。今やるべきことは、たった一つだけだ!

 そして俺はみんなの声援に応えるように、親指を立てた。


「へっ、今回はすんなりと憑依獣を出しやがったかァ! そうこなくちゃ面白くねえよなァ!」

 土具魔は相変わらず、余裕ぶった笑顔を見せてやがる。何度見てもムカつく顔だぜ。

「勘違いするんじゃねえぞ……俺はてめえと遊びたくて憑依獣(こいつ)を出したわけじゃねえ。むしろその逆、俺は一刻も早くてめえとのくだらねえ遊びを終わらせてえんだよ」

「けっ、なんだ、そういうことかァ! てっきり俺様と遊ぶ気になったのかと思ったぜェ! やはり貴様はつまらねえやつだなァ!」

「つまらねえ奴で悪かったな! だが安心するがいいぜ、絶対に退屈させねえぞ! てめえが悲鳴を上げるぐらいにな!」

「へっ、そいつは楽しみだなァ! そんじゃさっさとやろうぜ、新しい殺し合いをよォ……!!」

 興奮する土具魔は気持ち悪そうに舌を出し、瞳孔を拡大しやがる。

 だがそんな顔ができるのも今のうちだぜ。すぐに泣き面をかかせてやるよ!

「ああ、望むところだぜ!」

 俺は大きな機関銃を二本呼び出し、手が滑らないようしっかりと握り締める。

 だがそんな俺を見た土具魔は、不敵に笑い出す。

「へっ、またそんなオモチャを使いやがって! この前に苦戦してたのを忘れてたのかよォ!」

 確かに、あの時俺が勝った決め手は銃器ではなく、口から吐き出したエネルギー波だった。だが最初にそれを出すのはまだ早い。下手したらまたP2切れになって、疲れて何もできない可能性もある。ちゃんと使うタイミングを見極めないと。

 まずは銃器で奴の行動を牽制しながら、P2を十分に(たくわ)えておいたほうがよさそうだな。

「その手には乗らねえぜ! どうせ俺に大技を出させるよう挑発しておいて、力尽きたところで俺を叩き潰すつもりだろう!」

「へっ、思ったよりバカじゃねえみてえだな、そこは褒めてやるぜ!」

「てめえだけに言われたくねえぜ、この殺人しか考えてないサイコパスが!」

「あぁん? もう一回言ってみやがれ、貴様!」

 痛いところを突かれたのか、土具魔は機嫌悪そうに俺を威嚇しようとする。その周りの黒いオーラも、さっきより濃くなった。

 ふんっ、いつもあんなに偉そうにしてたくせに、すぐにこうやって興奮しやがる。もう少し怒らせてやるか。


「ああ、何度でも言ってやるぜ、このサイコパスが! いや、朝倉英治ちゃんよ!」

「またその忌々しい名前をォ……貴様、ぜってーぶっ殺してやるぜェェ゛!」

「かかってきやがれ、できるものならな!」

「けっ、身の程知らずがァ……後で泣き面かくんじゃねえぞ!」

 そう言うと、土具魔は自身の周りにたくさんの長くて黒い腕を生み出しやがった。実に気色悪いぜ。

「あの生意気な野郎をやっつけちまえ、ジャガーノート!」

 土具魔は俺を指さすと、黒い腕たちが一斉に俺に向かって迫ってきやがる。

 へっ、いくら来ようが、この「歩く武器倉庫ウォーキング・アームズ・ストアハウス」の前じゃまったく歯が立たないことを教えてやるよ!

 手にしている機関銃の引き金(トリガー)を引き、俺は飛んでくる黒い腕たちを一本ずつ粉々にする。

 ふんっ、あれだけ格好を付けといて、結局大したことねえじゃねえか。


「後ろだ、秀和!」

 突如哲也の声が後ろから響く。俺はそれに反応して後ろを振り向くと、なんとそこにも黒い腕がうじゃうじゃいやがる。まるでゴキブリでも見たかのように、俺は思わず鳥肌を立てる。

 しかも、その手のひらからビームみたいなものが放たれる。そんな攻撃方法もあんのかよ!

 俺は間一髪ビームを避け、すかさず忌々しい腕を排除したが、安心するのはまだ早い。何しろあの土具魔のことだ、きっと俺が後ろを向く隙に不意打ちを仕掛けてくるに違いねえ。

 機関銃を逆さまに持つと、俺は後ろを向いたままでそれを肩の上で発射した。だがそれも土具魔の予想内らしく、奴は腕を盾にして俺の銃撃を防ぎやがった。

「はっ、後ろを向けば俺様が気付かないとでも思ってんのかよ!」

「てめえこそ、後ろから不意打ちをしてくれるとは卑怯だな。まあ、実にてめえらしい作戦だけどな」

「へっ、戦いに卑怯もクソもねえんだよ! 戦いにおいて結果こそ全て! 要は勝てばいいんだよ!」

「その点に関しては、否定のしようがねえな」

 土具魔の態度はいちいち気に食わねえが、たまには正論を言うから認めざるを得ない。

 その時、例の均衡の守り手が邪魔に入る。


「なんておぞましいオーラ……このような邪悪な存在は、あってはならないものです! 神の意思に従い、これよりあなた方の浄化を行います!」

 神崎は手中の杖を掲げて、またしても式神を召喚しようとする。くそっ、ただでさえ土具魔の相手をしてるだけで精一杯なのに……!

「ひゃうっ!?」

 しかし突然、神崎が珍しく艶っぽい嬌声(きょうせい)を上げた。一体どういうことなんだ?

「なーんだ、胸を触っただけでこんなに震えるなんて、アンタもまだまだ未熟なのね」

 よく見ると、いつの間にか美穂が神崎の後ろに現れて、彼女の胸を揉みほぐしている。さっきまでの緊張感は一体何だったのか。

「それにしても、意外と固いわね……普段ストレスがたまってるんじゃないかしら?」

「な、何をするつもりですか……!! 卑猥行為で訴えますよ!」

 羞恥心で頬を赤めている神崎は集中力が切れたため、式神が出せなくなっている。よくやってくれたぜ、美穂。

「ここは日本じゃないから、ストーカーが犯罪じゃないって言ったのはどこの誰かしら? だったらセクハラも犯罪にならないわよ! それそれそれ~!」

 調子に乗ってる美穂は、神崎の胸を揉む力の大きさを増していく。

「いやあああああー!!!」

 ついにあの堅物の神崎も、降参して女の子らしい声を漏らした。


『何ぼさっとしてるのよ、秀和くん! 今のうちに早くやっちゃいなさい!』

 美穂の焦る声が、再び俺の脳内で響く。そうか、美穂がくれたこのチャンスを無駄にするわけにはいかない!

 俺は土具魔の方を見ると、奴も興味津々とあの二人の戯れを観賞していやがる。よし、今のうちにアレを……!

「ユーシア、出番だぜ!」

「はっ、はい!」

 俺はユーシアを呼び出すと、碧に新しく作ってもらったジェットウイングのチップを下にある「B」のスロットに挿入する。

 するとユーシアの背中に機械の翼が生えて、そのまま直進する。そして彼女が俺の近くまでやってくると、後ろから両手で俺を抱き締めた。俺もその推進力にあやかって、両足がだんだん地面から離れていく。

「おい、なんじゃそりゃ……うおっ!」

 高速で接近してくる俺とユーシアに驚く土具魔は、この奇襲への対策を練る余裕もなく、マトモに俺たちによる体当たりを喰らった。

 続いてユーシアは飛ぶ方角を変え、俺たちは空へと上昇する。


「おいおい、貴様は高いところが苦手なんだろう!? こんなことして大丈夫なのかよ!」

 土具魔はしわがれた声で俺に叫ぶ。こいつ、どこまで俺の情報を知り尽くしてやがるんだ。

 だが、これで俺がビビると思ったら大間違いだぜ!

「へっ、てめえを倒せるなら、これぐらいの問題はどうってことねえぜ!」

「俺様への憎悪が、恐怖をも超越したってわけかァ! 結局貴様は俺様と大して変わらねえな、おォい!」

 この野郎、またそういうムカつくことを……! そんなに俺に倒されてえのか! いいぜ、ならお望み通りにボコボコにしてやるよ!

「ユーシア、今の高度は?」

「えっと、およそ300メートルです!」

「なにぃ!?」

 俺は思わず驚きの声を上げる。もうそんなに高くまで来ちまったのかよ!

「へっ、やっぱビビってるじゃねえか! 貴様はしょせんチキンだな!」

 かつてゴールデン・オアシスで土具魔が俺に言った挑発の言葉が、再び俺の神経を刺激する。

「だから、俺の好物はヒレカツだっつーの!」

 いきり立つ俺は力を込めて土具魔を振り回すと、そいつを乱暴に投げつける。

 重力の作用により、土具魔は見る見る落ちていく。空中にいる今の奴なら、身動きが取れないはず。この一度きりのチャンスを、ちゃんとものにしないとな。

 興奮している俺は開いた口にP2を溜め、この一撃ですべての決着を付けようとする。

 だが土具魔のあのゴキブリ並みの生命力を考えると、一撃じゃ倒せない可能性が高い。ならば、ちゃんと追撃も与えてやらねえとな。

 俺は両手の指を動かし、その隙間に赤い球体を生み出す。そして少しずつ両手を離していき、球体も空間の増大により大きさを増す。

 よし、そろそろ頃合いだな。それじゃ行くぜ!


紅炎槍襲弾レッドファイア・スティンガー!」

 まずは口のエネルギーはを放出。直線に飛ぶそれが、外れることなく土具魔に命中した。

 よし、メインディッシュは振る舞った。次はデザートと行こうか!

「続いてはこれだ! 深紅の破壊星クリムゾン・デストロイヤー!」

 俺は片手を振りかざして、先ほど生み出していた巨大な赤い球体を土具魔のいる方向に放り投げる。その落ちていく様子が、まるで隕石のようだった。

 そして球体が土具魔に直撃し、少しずつ消えていく。やがてそれが爆発し、空を赤く染めていく。

「血の色に染まった空で懺悔するがいいぜ、このサイコパス風情がっ!」

 今までの鬱憤(うっぷん)を吐き捨てるかのように、俺は最後の力を振り絞って叫んだ。

 だがすぐにやってきたのが、全身に渡る疲労だ。鉛が入っているかのように、四肢が重くて思う通りに動いてくれない。

 幸い俺の側にはユーシアがいる。でないと今頃俺は真っ逆様になって、空から落ちていただろう。


「わあ~、今の凄かったですね、マスター!」

「まあな。だがその分、体が凄く疲れてるから、しっかり俺を降ろしてくれよな、ユーシア」

「あっ、はい! 了解しました!」

 今は高空にいるため、正直怖くてたまらないけど、ここはユーシアのことを信じて、彼女に任せよう。その間に俺は目を閉じて、地面に降りるのを待とう。

 しばらくすると、足が何かに触れる気がする。俺は恐る恐ると目を開けると、周囲にいるのはいつもの人集りだ。それを見た俺は、思わずほっと胸を撫で下ろす。


「お帰りなさいませ、秀和君」

「ああ、ただいま、千恵子」

 千恵子の美しい笑顔を見た俺も笑顔で返すが、先ほど連続で大技を2つも放ったため、腕も足も疲弊して震えている。

「わわ、大丈夫なの秀和くん? 体が凄い震えてるよ!」

 俺の異様に気付いた菜摘は、慌てて俺の側に駆けつけてくる。

「ああ、大丈夫だ。あのサイコパス野郎を倒せるなら、これぐらいはどうってことねえぜ」

「あれだけ強力な攻撃を受ければ、理論的には二度と立ち上がることができないだろうね」

 哲也が遠くに立ち込める煙を見つめながら、メガネを押し上げるとそう言った。

「だが理論が通じないのが、あいつのいやなところなんだよなぁ~」

「おい直己! 余計なことを言うんじゃねえ!」

 直己の悠長な口調に、俺が反発を覚える。確かにあいつの言うことは一理あるが、それが的中したところで何のメリットもない。

 そしてすぐさま煙が立ち込めている方向から、何やら足音がする。何だかイヤな予感がするぜ。


「すべてが予想通りに行くと思ったか、あぁん!?」

 聞きたくもないあいつの荒々しい声が、またしてもこのキレイな青空を汚す。体のほとんどが黒焦げになり、片足を引きずっているにもかかわらず、本人はまるで何事もなかったかのように、こっちに近付いてきやがる。

 しかも、奴の後ろには他の恋蛇団の連中もいる。その恐ろしい目付きは、まるで俺たちを食い物にしようとするハイエナのようだ。

 だが、こんなことで狼狽える俺じゃねえ。俺はかろうじて手を動かして、ポケットの中からスマホを取り出すとそれを弄り始める。


「狩りの始まりだ、シャープシューター」

 俺は事前に打っておいたメールを呼び出し、とある人物に送信した。

 すると早速、遠くから「バンバン」と大きな銃声と共に、恋蛇団の連中が一人ずつ倒れていく。

「おい、どこから撃ってきやがった! 奴を探せ!」

「くっそ、また卑怯な真似をしやがって……ぐわっ!」

 恋蛇団の連中は銃を撃った張本人を探し出そうとするが、生憎それもかなうはずもなく、あちこち見ているうちに飛んでくる銃弾にやられる。


「い、一体誰がやったの、これ?」

 事情を知らない友美佳は、周りを見渡して銃を撃った人の正体を突き止めようとする。

「拓磨に援護射撃してもらっているんだ。人目の付かないところに待機させておいて、いざとなったら遠くから敵を狙撃できるのさ」

 銃の扱いに長けている拓磨なら、これぐらいは朝飯前だろう。

「何故レッド・フォックスの隊員を、お前が指揮している?」

 このことに疑問を持つ広多は、相変わらず冷ややかな声で俺に質問をする。

「指揮じゃなくて、依頼しているんだよ。同じ戦線に立つ仲間である以上、いかにその人の価値を最大限に発揮させられるのも肝心だぜ、広多」

「ふっ、お前にしてはよく考えているじゃないか」

「それ、俺を褒めてるんだよな?」

 広多のその上から目線の発言は、どうしても素直に喜べない。

「それはお前の想像に任せる。俺から教えても何の意味もないからな」

 広多は意味深な言葉を残すと、身を翻して俺から離れていった。相変わらず素直じゃねえな、こいつも。


「けっ、クソがァ! 俺様の大事な戦力がァ……! どいつもこいつも、使えねえクズばっかりだぜェ!」

 予想外の事態に慌てている土具魔が、珍しく焦った表情を顔に浮かべている。ははっ、ざまみやがれってんだ。

「まあいい、俺様一人だけでも、貴様らを全員倒すのに十分だぜェ……! まずは貴様からだ、秀和!」

「まだ強情を張りやがって……いい加減自分の弱さを認めろよ!」

「ええい、うるせえェ! 貴様だけは、必ずこの俺様がぶっ潰してやるゥ!」

「へっ、そのズタボロの体でか? 冗談はそのブサイクな顔だけにしとけよ、このサイコパスが!」

「あぁん? 貴様、またふざけたことを……後で後悔するなよォ!」

「それはこっちのセリフだぜ! 絶対にてめえをボコボコにして、俺たちを怒らせたことを後悔させてやる!」

 こうして逆上(ぎゃくじょう)した俺と土具魔が口喧嘩を続け、相手を徹底的に叩き潰す決意を示している。

 だが、それもあくまで口頭だけの論争であり、行動に移すことができなかった。なぜなら……


「おやおや、しばらく会わないうちに、まさかこんなことをしてくれるとはな。大した奴らだ」

「本当、せっかちな子たちね……あなたたちの保護者がこの光景を見れば、どう思うのかしらね」

「………………っ!! この声は……」

 聞き覚えのある声に俺たちは思わず眉をひそめ、緊張して体が固まる。

 ついに、「奴ら」も黙っていられないのか……

秀和「おい、なんだあの声はっ! まさか……」

千恵子「ついにお出ましのようですね、ブラック・オーダー……!」

聡「散々オレたちをもてあそんでおいて、今更何のようだよ!」

菜摘「ううっ、何だか怖いなぁ……もしかして喧嘩ばっかしてて怒らせちゃったのかな?」


祭「ふっ、ふふふ……ついにあなた方に審判を下す時が来ました! 大人しく罰を受けるがよいのです!」

美世子「その通りよ! これ以上はあなたたちの好きにはさせないわ!」


秀和「すげえ喜んでるぜ、あいつら……」

広多「ふんっ、俺たちは何もやましいことをしていない。あんな(ろく)でなしに怯える必要もあるまい」

正人「ああ、そうだな! オレたちはこんなところで、諦めるわけにはいかないんだ!」

雅美「さすがダーリン、格好いいですわ~!」


十守「あたしもあいつらに、色々苦労させられてたわね……また無性に人を殴りたくなってきたわ!」

静琉「あらあら、そんな醜い化物を殴っても全然面白くないのに。そんなことより十守、私と一緒においしいチョコでも作りましょう?」

十守「ちょっと静琉、ちゃんと状況が分かってる?」


土具魔「けっ、また邪魔者が入ってきやがって……! これじゃ楽しい殺戮ゲームが楽しめねえじゃねえか、おい!」

乱「そうヨ……土具魔さまの邪魔をするやつらには、痛い目に遭うわヨ……それより、早くタスケテ……」


秀和「やれやれ、ますます面白くなってきたじゃねえか」

哲也「この状況に置かれていてもなお、君はまだそんな余裕が見せられるとはね……本当に感心するよ」

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