リボルト#15 相容れない三つの意志 Part3 天穿つ雷雲の竜槍(ドラゴン・スピア)
「ぐわあああああ!!! き、貴様ぁ……!!」
土具魔の顔が、苦痛により醜く歪んでいる。それを見た俺は、驚きつつも思わず口元が緩む。何だ、こいつにも痛みが感じられるのか。
「アァ、なんてステキな鳴き声……もっと聞かせてください、土具魔さま!」
くそビッチは土具魔の怒鳴りをまったく気にせず、恐ろしい赤目で奴を見つめている。
おかしいな。さっきまであんなにオロオロしてたのに、何故か急に強気になったな……そう、まるで別人に変わったかのように。
「調子に乗るんじゃねェ、このくそアマがァ!」
「きゃあっ!」
いきり立つ土具魔は、乱暴に黒炎を放ってくそビッチを攻撃する。それを受けたくそビッチが、後方へと飛ばされる。
するとどうだろう。なんとくそビッチの周りから青いP2のようなものが飛び散り、小さな女の子の姿に変化する。
あっ、あれは妙じゃないか! なるほど、彼女が資質でくそビッチに変身して、土具魔の油断を誘ったところで攻撃したってことか。
なんて大胆かつ危険な作戦だ! 下手したら土具魔に殺されるかもしれないというのに……
うん? ってことは、本物のくそビッチは……
「だ、ダレカタスケて……」
奴は未だに釘ボールの下敷きになり、弱々しい声を漏らしている。知ったことじゃねえけどな。
「妙さん! 大丈夫ですか?」
近くにいる小春はいつもの落ち着きがなくなり、心配して妙の側に駆けつける。
「な、何とか……でも、これで勝ったよ、私たち」
妙は少し痛そうに顔をしかめるが、頑張って笑顔を作ろうとしている。
確かに胸にナイフが刺さっていれば、それはかなり大きなダメージになるが、果たして……?
「けっ、これで勝ったつもりかよ、こんなオモチャで!」
土具魔が不機嫌そうな声を発すると、胸に刺さっているナイフを抜き出し、それを乱暴に地面に捨てた。
たくさんの血が出ているが、それでも奴の行動には何の支障もないようだ。
「う、うそでしょう……ナイフに刺されてまだ生きてるなんて……」
そんな元気に動く土具魔を見て、妙は恐怖で目を見開く。
「おいおいおい、そこの嬢ちゃん、まさかこの俺様はナイフの一突きで死ぬとでも思ってんのか! 俺様もなめられたもんだなァ、おい!」
傷を負ったにもかかわらず、土具魔はペラペラと喋りやがる。そして奴は赤い目を光らせ、次の標的を定め始めた。
「けど俺様に不意打ちをかけるとは、その勇気だけは褒めてやるぜ! 記念に最高の死に方にしてやるよォ!」
土具魔は再びあの忌まわしき黒炎を纏い、妙と小春を攻撃しようとする。しかもその時、奴の胸に流れている血が何故か止まっている。
そういえば、映画とかで熱々の焼き鏝で止血するシーンを見たことがある。まさかあれもそうなのか?
……って、今はそんなことを考えてる場合じゃねえ! 早くあの二人を助けないと!
「そうはさせませんわよ! ギガス、やっておしまいなさい!」
雅美は二人の身を案じて、早速ギガスに命令して土具魔を止めようとする。しかし……
「バァァァーン!」
巨大な爆発音が、空に響き渡る。ギガスの体には、あちこち炎が燃え盛る。
「わかひゃひゃっ! こんなデカいおもちゃ、壊し甲斐があるぜ!」
なんと空中には、爆弾魔が飛んでいやがる。いや、正確に言うと爆弾魔が空を飛ぶ凶牙の肩を掴みながら、爆弾を落としていやがる。
凶牙の野郎め、やっぱりあいつも来てやがったのか。
「ちょっ、何ですのあの人たち! わたくしのギガスに酷いことをするなんて、許せなくてよ!」
自分の大切な相棒がいじめられて、さぞ機嫌が悪いだろうな。焦っている雅美が攻撃するようギガスに指示を出しても、いかんせんギガスの体が大きく動きも鈍いため、自由に空を飛び回る二人を命中するのはほぼ不可能だ。
そう、まるで蚊を探すために苦労する人のように。
だがこっちの戦力はまだ他にもいる。あれで勝ったと思えば大間違いだぜ。
「Fire!」
大きな掛け声と共に、地面から一本のロケット砲が二人に向かって飛んでいく。だが惜しいことに、二人はそれに気付いてしまい、横に位置をずらしやがった。
「Damn it! はずしたか~」
絵梨香が舌打ちをすると、ロケット砲をリロードする。だがすぐに新たな邪魔者がやってくる。
「調子に乗るんじゃねえぞ、ゴラァ!」
あのじゃじゃ馬の鬱陶しい声が聞こえてきて、俺は思わず眉をひそめる。奴はまたしても片足を高く上げると、それを地面に叩きつけた。鋭いかかとにより生まれた割れ目から、無数の鉄針が絵梨香に向かって動く。
「おっと、危なかった! 危うく串刺しにされるところだった~」
「ちっ、胸の脂肪が無駄にデカいのに、よく動きやがる! あんたをバーベキューにして喰えば、その胸の脂肪があたくしに移るかもしんねえなっ!」
「What!? なんて恐ろしいことを考えてるの、この人……発想がterrorist並みね!」
「あんたらのような胸のデカいやつらは、女性の天敵だぜ! 生かしておくかぁ、ゴラァ!」
「Girlのことを女性のenemyというのは、どうかと思うよ! やはりアナタは、頭がstrangeね!」
「イチイチ変な英語を挟むんじゃねえ、このエセ外国人がぁ! とっととくたばりやがれっ、ゴラァ!」
じゃじゃ馬がもう一度かかとを落とし、割れ目から炎を噴出させる。それでも絵梨香は軽やかな動きで難なく全部回避した。
「くそっ、全部かわしただと……! やっぱりあんたは気に入らねえなぁ、ゴラァ!」
じゃじゃ馬の目つきが怖くなって、絵梨香を睨みつける。だが絵梨香も負けまいと、足に付けている両丁拳銃を手にする。
「アナタこそ、他人の戦いを邪魔するなんて、it's so terrible!」
絵梨香の眼光もさっきより鋭くなり、どことなく怒りが感じている。そして次の瞬間、彼女は銃口を横側に向け、トリガーを引いた。
「う、うわぁ……」
銃撃を喰らった恋蛇団の雑魚の一人が、弱々しい声を漏らして倒れた。絵梨香の目は前に向いているのに、よく命中したな。
「次にbulletを喰らうのは、アナタだよ!」
絵梨香は銃口をじゃじゃ馬に向け、攻撃宣言を告げる。その言葉に、とてつもなく強い戦意がこもっているのが分かる。
「へっ、やれるもんならやってみろっ、ゴラァ!」
だがそれで動揺するじゃじゃ馬じゃない。彼女もまた血相を変えて、絵梨香を迎撃する体勢に入る。
って、今はそれどころじゃなかった! それより土具魔の方はどうなった?
「けっ、どいつもこいつも見栄ばかり張りやがって、大したことはねえみてえだなァ!」
おいおい、こいつも戦いに見入ってたのかよ。っていうか、一番見栄を張ってるのはてめえの方じゃねえか。
「さーて、それじゃそろそろあの獲物たちを焼き殺すとするか……ん?」
歪な笑顔を浮かべて、妙と小春を黒炎の餌食にしようとする土具魔は、突然不思議がっている。
何故なら、さっきまで妙と小春がいるはずの場所に、既に二人の姿が消えているからだ。これは一体どういうことだ?
「あっ、あそこを見て!」
菜摘が指さす方向に、俺たちは見上げる。なんと空には蝶の羽根が生えている涼華が妙と小春を運びながら、こっちに飛んできている。涼華のその姿は、まさに妖精そのものだった。
具体的に言うと、妙は後ろから涼華を抱きつき、小春は涼華に抱えられている。重くないのか?
「はい、これで大丈夫よ」
ゆっくりと地面に降りてくる涼華は、丁寧に二人を下ろした。
「ありがとう、涼華ちゃん! 助かった~」
土具魔の魔の手から逃れることができ、妙は安心して大きな息を吐く。
「ありがとうございます、涼華さん。ワタシは傷を負っていないので、わざわざワタシまで運ばなくても……」
「そんなのダメに決まってるでしょう。私は仲間を見捨てるような冷たい人間じゃないわよ」
いつもふざけているようにしか見えない涼華は、珍しくこのような熱い言葉を口にする。やっぱり俺と彼女は、どこか共通点があるんだよな。
「それにしてもよく二人も運べたな、涼華。他の子だったら絶対落ちてたぞ」
「あら、心配してくれてるの? うふふっ、やっぱかずくんに惚れてよかったわ」
「おい、いきなり変なことを言うなよ!」
流し目を使ってくる涼華を直視できず、俺は思わず目を逸らす。またすぐこうやって俺をからかって……!
「けっ、また俺様の獲物を奪いやがって! ちょームカつくぜぇ!」
機嫌が悪くなった土具魔は、何もない地面を蹴ると、黒炎を飛ばして近くにいる恋蛇団の雑魚を燃やした。
「うぎゃああああ!!!」
「へっ、やっぱ悲鳴ってサイコーだぜ! ヒャーハッハッハッハッ!」
こいつ、相変わらず狂ってやがるぜ。
「だがこれだけじゃ物足りねえ、物足りねえんだよォ!」
……だろうな。あんなイカレたサイコパス野郎は、たった一人を殺したところで満足するはずがねえ。
すると奴は新たな獲物を狙い澄まし、ついに視線を千恵子に止めやがった。
「…………っ!!!」
それに気付いた俺は、思わず息を凝らして土具魔を警戒する。
「へっ、貴様の大事な恋人を燃やせば、どんな悲鳴で叫んでくれるだろうなぁ! 楽しみだぜ!」
「この俺が許せるとでも思ってるのか、土具魔ぁ!」
俺の焦りがP2を活性化させ、両手の稲妻が不規則に光っている。
「貴様の許可なんざいらねえんだよ、弱虫がァ! 俺様の邪魔をするなら、貴様もまとめて燃やすまでだぜぇ、ヒャッハー!」
「ちっ、何とも言いやがれ! 大体さ、てめえは自分の彼女がやられても全然気にしねえのに、なんで俺の彼女にこだわるんだよ!?」
「貴様は俺様のものを傷つけたから、その相応の報酬を払ってもらうだけだぁ!」
「何だよそれ」
「貴様は俺様の居場所を壊したから、俺様も貴様の居場所を壊す! 今度は女を壊したから、貴様の女を壊してやる! なぁに、痛いのは一瞬だけだからなぁ、ヒャーハッハッハッハッハッ!」
土具魔はとんでもねえことを口にすると、頭を上げて高笑いをする。
なるほど、「目には目を、歯には歯を」って奴か。別に土具魔は自分のものが壊されたから根に持ってるんじゃなくて、俺にも同じ苦しみを味わってほしいってわけか。なんて恐ろしい奴だ。
「とーいうわけで、今からそこの小娘を燃やし尽くしてやるぜ! 灰も残さずになぁ、へっへへへ!」
土具魔は両手に忌々しい黒炎を纏い、こっちに接近してきやがる。
この時、あることが俺の脳裏に浮かぶ。
……もし千恵子が、消えるとしたら?
今までに考えたことがなかったことだ。いや、考えたくもなかった。
……自分の大好きな人が、消えるなんて考えられるかよ!
もう二度と、彼女の笑顔が見られない。
もう二度と、彼女の愛おしい声が聞けない。
もう二度と、彼女の温もりが感じられない。
もう二度と、彼女の作ったおいしいご飯が食べられない。
もう二度と、彼女と愛し合えない。
残るのは、ただ俺の虚しい叫びと悲しい涙だけだ。
「秀和君、秀和君、秀和君……」
千恵子の声が聞こえる。だがそれは本物ではなく、俺が目を閉じた時に浮かぶ彼女の幻だ。しかもそれが何度も俺の頭の中でこだまして、俺の理性を狂わせる。
そして神崎のあの言葉が、再び俺の前に浮かび上がる。
「あなた方が希望を与えたことにより、彼らは自分の判断力を鈍らせ、自分の命を守るより犬死にすることを選びました」
そうだ、千恵子もまた俺がもたらした希望を信じてくれて反逆の道を選んだ一人だ。もしここで彼女を死なせてしまえば、きっと彼女も俺を信じたことを後悔するだろう。それだけは絶対にイヤだ。
そう思うと、ますます千恵子を失いたくなくなった。だったら、たとえこの身が滅んだとしても、千恵子を守り抜いてやる!
「うおおおおおおおおおぉぉぉー!!!!!」
頭が真っ白になった俺は、何も考えずに土具魔の真っ正面に回り、反撃を試みる。だが取り乱した俺は動きに大きな隙ができてしまったため、うまく体勢を整えられず、肩に土具魔の攻撃が当たってしまう。
「ぐわあっ!」
衝撃により、俺は後ろに大きく飛ばされた。だがすぐに、背中から柔らかい触感が伝わってくる。
後ろを振り向くと、何やら泡のようなものが俺を受け止めている。もしかしてこれって……
「無茶しすぎですよ、秀和君!」
俺の安否を心配している千恵子は、慌ててこっちに駆けつけてくる。
「何故、何も考えないで突っ走ったのですか!? いつもの秀和君らしくないですよ!
「君が俺だったら、同じことをしていただろう?」
俺は当たり前のように、千恵子の質問に答えた。自分の好きな人を守るのに、理由なんていらないだろう。
「確かにそれはそうですが、もし秀和君に何があったら、わたくしは……!」
千恵子の声が、明らかにいつもより上擦っている。そしてその目には、わずか涙が見える。
ったく、愛する人を守るはずなのに、逆に泣かせてしまったじゃねえか。俺って最低だな。
「すまねえ……千恵子が危ない目に遭うと思うと、つい熱くなっちまってさ……」
俺は少し間を取ると、一生絶対に口にすることはないと思っていたこの言葉で、自分が千恵子に対する気持ちを伝える。
「だって千恵子がいねえと、俺は生きていけねえから」
臭い台詞だと思われるかもしれないが、これが俺の本当の気持ちだ。だったら隠さずに全部打ち明けようじゃないか。
だが意外なことに、千恵子の返事はこれだ。
「……何を言っているのですか」
「えっ?」
千恵子は俯いて、その体が震えている。そんな普段では目にかかることのない彼女を見て、俺は思わず驚く。
「それはわたくしも同じ気持ちです! 秀和君がいないと、わたくしは生きようなんて思えません!」
突然千恵子は頭を上げると、その目に溜まっている涙は溢れんばかりに流れている。
「あっ……そ、それもそうか……」
そんな簡単なことを、なんで俺はすぐに気付かないだろう。本当にバカだな、俺は。
「それに、どんなことがあったとしても、わたくしはずっと貴方の側にいることを忘れないでください。ですから、一人で抱え込まないで、わたくしに頼ってください」
そういうと、千恵子はその温かい手で俺の手を優しく取った。
……また同じことを言われてしまった。それってつまり、俺はまだ千恵子のことを頼り切っていないってことか?
大切な人が傷つくのが怖くて、つい一人で無理してしまう。その結果として、自分が傷ついて他のみんなを悲しませてしまう……ダメじゃねえか。
よし、決めたぜ。ちゃんとお言葉に甘えて、とことん頼らせてもらうぞ。
「分かった。それじゃ早速協力して、あの憎いサイコパスをやっつけようぜ」
「はい! ですが、お肩の方は……?」
千恵子は心配そうに俺が怪我したところを見つめる。だが不思議なことに、体の回復力が思った以上に強く、肩の痛みがだいぶ薄れてきた。
そういえば、以前にも似たようなことがあったな。まあ、悪いことじゃないし、これ以上考えても仕方ないか。
「ああ、それならもう平気だぜ。ほら、動かしても大丈夫だし」
千恵子を心配させまいと、俺は腕を車輪のように振り回している。
「そうなのですか……それならいいですが」
「ああ。それじゃ、そろそろ『アレ』を付けるとするか。哲也、菜摘!」
俺は後ろを振り向いて二人の名前を呼ぶと、ポケットから例のリストバンドを取り出して腕に付ける。そして哲也と菜摘もすぐに俺の意図を理解し、頷いてそれを装着した。
一方、ずっとリストバンドを付けている千恵子も、袖を捲ってそれを見せつけた。
「「「「鋼の金剛石、絆の強さは誰にも壊せない!」」」」
俺たち四人は腕を掲げて、高らかに魂の言葉を叫んだ。槍のように鋭い眼差しは、憎き敵を貫こうと突き進む。
だが案の定、向こう側がこんな俺たちの熱い思いを見下ろして嘲笑う。
「けっ、何が絆の強さだァ! あれだけズタボロになったくせに! すぐに分からせてやるよ、貴様らの絆はどれだけ弱いってことをなァ!」
「はっ、どれだけ硬いものだろうが、このオレが自慢の爆弾で全部ぶっ飛ばしてやるぜ!」
「光橋哲也ぁ! 今度こそテメェをぶっ倒して、秀和を連れ戻して楽しい時間を過ごすぞ!」
「菜摘、あたくしの人生をメチャクチャにした借り、必ず返してもらうぞゴラァ!」
「は、早く助けて……」
まあ、こうなったのも想定内だ。だったら、行動で示してやろうじゃねえか……!
「哲也、菜摘、援護を頼む! 俺は千恵子とデカい奴を一発ぶちかますぜ!」
「ああ、分かった。さあ行くぞ、菜摘!」
「うん、了解だよ、哲也くん!」
俺の指示を受けた哲也と菜摘は、ためらうことなく前に出た。
さて、二人が時間を稼いでくれる今のうちに、早く千恵子と合体技を出さねえとな。何しろあの二人じゃ、四人相手はさすがに無理があるぜ。
「準備はいいか、千恵子?」
「はい、いつでも行けます!」
「よし、それじゃ俺の手を握ってくれないか?」
「はい、喜んでそうさせて頂きます」
千恵子は俺の要求をすんなりと受け入れ、俺が出した両手を優しく握ってくれた。
ああ、なんて温かいんだ。両手が触れ合っただけなのに、まるで全身がその温もりに包まれているみたいだぜ。きっと千恵子も今、俺と同じ気持ちなんだろうな。
こうして俺と千恵子はお互い目を閉じて、勝ちたいという同じ思いを浮かべながらそれを形にする。
「いでよ、紫の稲妻! 敵を蹴散らす獅子と化せ!」
俺の前に現れた電気の玉が、獅子の姿に変化して空の彼方へと登っていく。
「現れなさい、蒼の雫! 闇を濯ぐ鶴に生まれ変わって!」
千恵子は俺に倣い、青い水玉を生成するとそれが鶴に変化して、俺が出した獅子を追いかける。
そして獅子と鶴が交わって、やがて翼の生えたドラゴンが出現する。その咆哮があまりにも雄々しく、この空に響き渡る。
「な、なんだありゃ!?」
その存在感があまりにも大きすぎるため、誰も無視することができなかった。この場にいる全員が戦うことを忘れ、思わず空を見上げてしまう。
さて、そろそろこの戦いに決着を付けないとな。手を繋いでいる俺と千恵子は互いの真摯な目を見つめ合い、軽く頷くと視線を前に向ける。
「「天穿つ雷雲の竜槍!」」
息が合った俺と千恵子の掛け声と共に、天に登ったドラゴンが一気に急降下し、こっちに迫ってくる。同時にドラゴンの翼から激しい水流が放たれ、まるで豪雨のように俺たちのいる方へ降り注ぐ。
そして、次の瞬間。
轟く雷鳴と共に、ドラゴンの開いた口からレーザーのような眩しい稲妻がすさまじい勢いで迸る。その範囲があまりにも広く、俺たち以外の連中がことごとくその攻撃に当たり、断末魔のメドレーを奏で上げる。
だがそれだけで終わらないのが、この技の凄さだ。続いてドラゴンが高速で突進し、人込みを体当たりで掻き分けていく。何人かがその衝撃に耐えられず、高空へと飛ばされた。
ついにドラゴンが再び空へと飛び上がり、雲に潜り込むと姿を消した。それはまるで映画のワンシーンのように、壮観の一言に尽きる。
「やりましたね、秀和君」
予想以上の戦果を見て、千恵子は俺に微笑みを見せてくれた。ああ、いつ見ても美しいな。
「ああ、二人の思いが共鳴した結果だな。ありがとう、千恵子」
そんな千恵子に、俺も笑顔で返す。そして彼女に感謝の言葉をかけた。もし彼女がいなかったら、今の俺にはこんな力が出せなかったのかもしれない。
「いいえ、お礼を申し上げるのはわたくしの方ですよ、秀和君」
「そうか。じゃあその気持ちを、ありがたく受け取っておくぜ」
一体何に対してのお礼なのかは分からないが、そんな細かいことはどうでもいいぜ。今は喜ぶだけで十分だ。
二人の絆が一層強まった俺と千恵子は、とうに恐怖心を忘れてただ前を見つめている。
さあ、跪くがいいぜ、敗者ども。俺たちの絶大な力の前で、戦き続けろ……!
聡「な、なんだこりゃー!? またすげー技を出したな、おい!」
直己「すごくかっこよかったぜ! もう一回見てみたいなぁ~」
秀和「おいおい、これは見せ物じゃねえぞ?」
哲也「またしてもこんな派手な技を……君は実に技の達人だね、秀和」
菜摘「すごーい! さすが秀和くんと千恵子ちゃんだね!」
千恵子「そんな、大したことではありませんよ。わたくしだけでは、こんな強力な技を思い付けませんでした。全ては秀和君のおかげです」
秀和「千恵子、褒めすぎだろう……これは半分君のおかげだぞ」
千恵子「まあ、それもそうでしたね。では、素直にお礼を申し上げますね、秀和君」
秀和「ああ、その方がいいぜ」
土具魔「貴様ら……よくも俺様たちをォォ……! ただで済むと思うなよ!」
目立「そうだそうだ! このオレの格好いい顔を傷つけるとは、いい度胸だぜ!」
凶牙「許せねー……マジ許せねーぜ! 覚悟しろよテメェら!」
召愚弥「オメェらのおかげで、また新しい傷ができちまったじゃんか、ゴラァ!」
乱「は、ハヤクタスケテ……」
秀和「ちっ、懲りねえ奴らだぜ……しょうがねえ、完膚なきまで叩き潰してやるぜ!」
千恵子「ええ、そうですね。わたくしたちの絆の強さを、見せて差し上げましょう」
哲也「あまり悪いことをしすぎると、必ず罰を受けることも教えないとね」
菜摘「うん、そうだね! みんながいるもん、負ける気がしないよ!」
秀和「さあ……反逆の時間だ!」