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反逆正義(リベリオン・ジャスティス)Phase One——Ten days in heaven(or in hell)  作者: 九十九 零
第1章 ヘブンインヘル転学編・非日常の始まり
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リボルト#02 新たな出会いは、そこに絆がある Part5 トリニティノート

 そして、何かを思い出したかのように、先ほど無気力で座っていた千恵子がすっと立ち上がった。

「はっ、いけません、危うく大事なことを忘れるところでした!」

「なんだ? 大事なことって」

 展開が読めない俺は、千恵子に質問を投げた。すると隅っこに座ってお喋りをしてた女子三人組が、先立って返答してきた。

「今から、転校生くんを歓迎するためのパーティを開くんだよ! あたしたちのスペシャルライブもあるから、楽しみにしててね~♪」

 炎のように赤く燃え盛る、ツーサイドアップの髪型をしている元気そうな女子が、紫水晶のような瞳を光らせながら、片手をピースサインにして目の周りに当てるという、いかにも売り子アイドルっぽいポーズを取っている。

 って、たった俺一人だけのために、ここまで用意してくれたのか? やれやれ、誰のアイデアかは知らねーけど、ずいぶんと嬉しいことをしてくれるじゃねえか。

「えっと、まだ考えたばかりで、今まで歌ったことがないんですけど、精一杯歌いますので、是非聞いてくださいね!」

 頭の後ろに大きなリボンを付けていて、さらさらした長い黒髪を揺らしながら、もう一人の女子が礼儀よくをお辞儀をした。その健気で無邪気な笑顔が、頭の中にある煩悩や気疲れを忘れさせてくれる。

 へー、じゃ俺たちはその歌を初めて聞くメンバーになるのかな。こりゃラッキーだぜ。

「よ、よろしくお願いします……ふぇぇぇ」

 灰色のショートボブの三人目の女子が、蚊が鳴るような小さな声で挨拶をした後、なぜか急に何怯え始めて、視線を窓の外にそらした。

「ご厚意ありがとよ。ところで、君たちは誰なんだ?」

 またしても美少女から声をかけられた。しかも三連コンボ。これほど嬉しいことはねえな。けど、さすがに見覚えのない人にいきなりこんな風に話しかけられたら、さすがに俺も慣れないぜ。しかし、何とかして会話を繋ごうと話題を投げてみたら、相手がとんでもないリアクションをしてきた。

「「「「えええええええーーー!?」」」」

 まるで自分を知らない人がいないと思っているように、彼女たちは一斉に驚きの声を上げた。

 ……そして、もう一人。振り返ってみると、なぜか菜摘まで目を見開いて、「信じられない」と言っているような表情を浮かべている。

「どうした、菜摘? 何か変か?」

 そんな不思議な顔をされたら、さすがにこっちまで不思議に思えてくる。真相を知るべく、俺は菜摘に質問を投げた。

「だって、あの子たちは有名アイドルユニットの『トリニティノート』なんだよ!? 知らないほうがおかしいって!」

「いや、俺はアイドルにあんまり詳しくないし、興味がないからな。ただでさえ自分の趣味を追うのに精一杯なんだし、いちいち別の分野で気を取られる暇がないんだぜ?」

「ダメだよ、それじゃ! 視野が狭すぎると、いつか時代の波に取り残されちゃうんだよ?」

「時代の波か……いいか菜摘、ただ他人に合わせて自分らしさを失うのはよくないぜ。波に流されるんじゃなくて、自分が波になって周りを流すんだ。君だってモデルをやってるんだろう? だったらもっと注目の的になるよう頑張らねえと」

 何でも他人と同じになるのは、性に合わねえ。確かにみんなは同じく人間だが、自分らしさがないとただのロボットにすぎねえ。だから俺はあえて「流行(ファッション)」を避けて、自分が好きなようにやっていきたい。たとえ服のセンスがダサいと言われようが、自分さえ格好いいと思えばそれでいい。

「はぁ……やっぱそうなるよね。秀和くんにこんな話をした私はバカだったなぁ」

 観念した菜摘は、大きな溜め息をついた後、自分のピカピカと光っている髪に覆われている額を、パッと叩いた。まあ、これだけ長い付き合いだし、俺はどんな人間かは分かり切ったことだろう。

「そんじゃせっかくだし、アイドルに詳しい菜摘に、あの子たちのことを紹介してもらうことにするか」

 さすがにこのままだと気まずいから、菜摘にメンツを挽回するチャンスを与えてやろうか。

「ゴホン! それじゃ、よーく聞いててね。あそこの大きなリボンをつけている、黒い髪の子は、『トリニティノート』のリーダー、立花 冴香(たちばな さえか)って言うんだよ」

「改めまして、立花 冴香です」

 冴香と名乗った子は、あどけない笑顔を浮かべながら、またしてもペコリとお辞儀をした。

 そして、彼女は衝撃の一言を口走った。

「菜摘さんの写真が載っているファッション誌は、拝見したことがありますよ。どの写真もステキで、素質があると思います!」

「えっ、本当に!? いや~、そう言われると何か照れるねぇ~」

 どうやら本人も初耳だったようで、喜びのあまりに顔が一瞬赤くなり、頭を引っかきながら照れくさそうに笑っている。

「よかったじゃないか、菜摘。お互いファンになってさ」

「いや、でも、冴香さんのほうがもっと凄いんだよ!? ほら、色々歌ったり踊ったりするし、それにイベントもたくさんあるし……私なんか、ただ着替えて被写体になるだけだからさ……それに、雑誌に載ったのもあの一回だけだし……」

「そう自分を見下すな」

 俺は、柄にもなくオロオロしている菜摘の頭に、チョップを食らわした。まったく、こんなに慌てる菜摘を見るなんて、中学ぶりだな。せっかく自信を持てるようになってるから、親友としては励ましてやらねえとな。

「いたっ!」

「菜摘だって、菜摘なりに頑張ってるだろう? 苦労してるのはみんな同じさ」

「そうなんですよ! 菜摘さんのポーズやファッションのコーディネート、どれも素晴らしくて、私じゃなかなか真似できなくって!」

 冴香は菜摘の両手を握りしめ、尊敬の眼差しで彼女を見つめている。うんうん、互いを認め合う姿勢は、とても見上げたものだ。こういう雰囲気に包まれると、なぜか優しい気分になる。

「えっ、そうなの?」

「はい! これからも色々教えてくださいね、菜摘さん!」

「うん、もちろんだよ! よろしくね、冴香さん」

 へー、なかなかいい線いってるじゃないか。俺は二人を見守りながら、思わず口元を緩めた。

「あっ、ごめんごめん! まだ紹介の途中だったね。次はそこの赤い髪の女の子、歌音 優奈(かのん ゆうな)さんだよ」

 我に返った菜摘は俺に顔を向けて、派手な髪型をしている女子を手のひらで示して、その名前を教えてくれた。

「ハーイ、歌音 優奈だよ! 今日も元気満タン、ウルトラ絶好調~♪」

 優奈は名乗ったあと、いきなり歌い始めた。さすがはアイドルの魂がこもっているわけか。

「そして、あそこにいるのは真都 千紗(まと ちさ)さん……あっ」

 何かまずいものでも見たのか、突然言葉が詰まる菜摘。俺は教室の隅っこを眺めると、さきほどの灰色のショートボブの女子がなぜかしゃがんで頭を抱えている。具合でも悪いのか?

「ううう……いきなりこんなたくさんの人の前で歌わないといけないの……お、お願いだから嫌わないでぇ~」

 千紗と呼ばれている女子が、よほど緊張しているのか、ぶつぶつと何かを呟いている。どうやらアイドルの仕事にはまだ慣れていないようだ。俺はアイドルになったことはないから、その苦労を知るわけがないが、大変なのが承知の上だ。

「ち、千紗ちゃん! 大丈夫だよ、私と優奈ちゃんがいるから、そんなに緊張し……わっ!」

 冴香は千紗を鼓舞しようと肩を触ろうとしたが、千紗は感触に反応して、バネのように素早く立ち上がった。それを予想できなかった冴香は、驚いて乱れた歩調で後ろに下がった。

「ひっ! ごめんなさいごめんなさい! こんなダメなわたしでごめんねさい!」

 千紗はうわずった声で、平謝りしている。どうやら何か複雑な事情がありそうだな。

「もう、誰も責めてないから、安心していいよ! いつも通りやればいいんだよ、千紗」

 一方優奈は、持ち前の元気さで千紗をなだめている。こうして改めて見ると、うちのクラスって本当に凄いメンツが揃ってるな。

「う、うん……」

 千紗はようやく落ち着いたものの、鼻声が交じっているのが聞こえる。もしかして泣いたのか? 

 それにしても、この子は昔の菜摘にそっくりだな。今の菜摘を見てると、まったく想像できねえけどな。

「ん? どうかしたの、秀和くん?」

 俺の視線に気付いたか、アイドル女子三人組を見ていた菜摘がこっちを振り向いた。

「いや、なんでもねーよ。そんじゃ、そろそろ行くか。千恵子、パーティ会場はどこだ?」

 アイドルのインパクトはそこそこ強かったが、肝心な委員長を忘れた覚えはねえ。俺は扉の前で待ちわびた千恵子たちを見て、質問が聞こえるように大声を出した。

「先程の寮ですよ。では皆さん、ついてきてください」

 千恵子はそう言い、身体を翻して歩き出した。そして俺たちも彼女の後についていく。

 俺は一番後ろから、眩しい日差しに照らされているクラスメイトたちの背中を、この目に焼き付ける。何となく、彼らには少し近付いたような気がする。

 俺は右手を拳にし、それをじっと見つめている。そして自分に言い聞かせるようにこう言った。

「この絆を、大事にしないとな……」

 こうして出会えるのも、何かの縁だ。俺はここで、悔いのない人生を送っていきたい。

 待ってろよ、親父。あんたの言う通りに、立派な(おとこ)になってみせてやる!

「おい、何してるんだ秀和! 早くこっちに来るんだ~」

「ああ、わりぃわりぃ!」

 仲間に呼ばれ、俺は再び足を動かせる。大切な思い出を、この心に残すために……

次回予告


秀和「さすがはヘブンインヘルだな……個性派生徒、勢揃いだぜ」

哲也「そうだな。さすがに君も驚いただろう」

秀和「ああ。ところで、まさか歓迎パーティを開くなんて思わなかったぜ。俺一人のために大げさじゃねえか?」

菜摘「まあ、それはそうだけど、せっかくなんだから楽しもうよ!」

美穂「うんうん! ぱっーと盛大にやろうよ!」

千恵子「そうですね。わたくしも、久々に豪華なお料理を振る舞うことに致しましょうか」

美穂「おお、きたこれ! さては懐石料理? いやいや、ここは意外性を買って霜降りステーキとか……」

千恵子「うふふっ、ご想像にお任せ致しますね。ただし、食べ残されたのなら……後はご存知ですね?」(ゴゴゴゴゴ)

美穂「は、はひぃ……」

菜摘(九雲さん、食べ物への執念が強すぎる……!)

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