あの魔法少女もの的な
まどか的なキャラで書いてみました。コミックよかったです。
タカハシさんはルートセールスの営業社員である。現在30歳の独身。アパートで一人暮らしである。
タカハシさんの務めている会社は企業にOA機器のレンタルをしていた。
タカハシさんはレンタルしたコピー機のトナーや用紙の補充をするのが仕事で、毎日ルートを決めて営業車で一日中レンタル契約している事務所を回っていた。
この日は緊急にトラブルが発生したコピー機の点検修理依頼、代替機の確保をする要件が増えて、全てが終了した頃には午後十時を過ぎていた。
当然この残業はサービス扱いになっていた。日本企業ではよくあることである。
ならばと言うことで営業車で直帰することにした。そういうところはこの会社は融通が効くのである。
どのみち最終の事務所の所在地はタカハシさんの会社から最も遠い場所にあり、逆にタカハシさんが住んでいるアパートには近かったので時々こういう事をしていたのだ。
近いと言っても車で一時間かかる距離である。さらに町境あの場所を通過しなければならなかった。
東西に隣接する二つの町の境にはゴーストタウン化した工業団地群があり、その中を通過する道が最も近道だったのだが、そこは有名な心霊スポットでもあったのだ。
団地の屋上から白い何かが飛び降りる。だが地面には何も無い。
車で通過すると白い何かとすれ違う。気になって横を向くとそれが白い靄のような女性の姿らしい。
もっとも恐ろしいのは車の前に飛び出してくるものだ。
何かを轢いたのでは、と車を止めて後ろに行くと何も無い。
気のせいかと車に戻ると、後部座席に青ざめた顔の少女が座っている。その目は血走り、血の涙を流しているらしい。
だがタカハシさんはこういう話には全く疎かった。心霊など全く信じていなかった。
何度かここを通っているが何もなかった事も自信になっていた。そんなものは存在しない、である。
だが今回は違っていた。
外灯のない暗闇の中に突然一人の少女が車の前に立ちはだかった。
思わずABSが作動するくらいブレーキを思いっきり踏んで車を停止させた。
停車したのは少女の手前一メートルくらいの距離だった。
「何している!危ないだろ!」窓を開けタカハシさんは叫んだ。
少女は見た目十代半ば、オレンジ色に近い茶色の髪を両側でサイドテールにしてロールをかけていた。頭の上には小型のベレー帽のようなものをのせていた。
コスプレのような服装だった。胸を強調した某ファミレスのウエイトレスの制服のように見え、だが色はオレンジでなく黄色である。胸はブラウスから弾け出そうなほど巨乳だった。
ミニスカートからはむっちりとした太ももが伸びている。それをニーソックスが締め付けているのだ。タカハシさんは決してロリコンではないが、思わずそそられる魅力を少女は発していた。
「ごめんなさい。この先は今危険なので止めさせていただきました」
少女は申し訳なさそうに軽く頭を下げてきた。
「どういう事だ?この先に何があるんだ?それに君は誰だ?」
彼女を質問攻めにするしかなかった。こんな時間帯に人気のない(お化けの出そうな寂しい)場所にこんな(変質者に襲われそうな)姿の少女がなぜいるんだろう。そう思うのは当然の思考の帰結だった。
「そうですね。私から言えるのは、ここは危険だということと、私と仲間が危険を今取り除いているということです。あと私が何者かについては、ひ・み・つ、ということで」
「はあ?」
タカハシさんからすればさっぱり意味が分からない。何がひ・み・つ、だ。
その時少女の後ろから別の少女の声がした。
「莉美華さん、そっちに一体行きました!」
「はーい。分かったわ」
「え?」思わずタカハシさんは驚きの声に出してしまった。目前で気づかぬうちに少女の手にライフル銃があったのだ。一体いつの間に、というかその銃はどこにあったんだ?
「ああ。これはM1ガーランドというらしいですね。本物ではないですけど」
「莉美華さん!」
奥の少女の声と同時に莉美華の頭上数メートル上を何かが飛び越えてタカハシさんの車目がけて何かが落下してきた。白いモヤのような人形の何かだった。
「うわああああああ!」タカハシさんは絶叫した。ついに見てはいけないものを見たのである。
「あらあら。驚かせたみたいね」
莉美華がM1ガーランドを構え白い靄に向けてトリガーを引いた。
青白い炎のような弾丸が射出され白い靄に命中した。
「ファイナルブリッド・エンド。これで最後よ」
確かに靄は銃弾の着弾で四散した。
「……」タカハシさんはしばらく呆然としていた。
今のは一体なんだんだ。
「莉美華さん。大丈夫でしたか?」
奥で叫んでいた少女がやって来た。
ピンク色のゴスロリっぽいドレスを着た莉美華と同じくらいの年齢の少女だった。スカートの裾がチューリップの花の様に膨らみながら広がったデザインになっている。
少女の手には奇妙な形の弓が握られていた。まるで自然に伸びた植物の枝をそのまま弓にしたような形をしていた。
「一体、何が起こっている?」
彼女たちの見かけよりも、さっきの得体のしれないものを倒し今も武装しているコスプレ少女達に身の危険を感じていた。
「危険ではないですよ。私たちは」
タカハシさんの心中を知ってか知らずか、莉美華はニッコリ微笑んだ。
「あれ、見られてしまったんですね」ピンク色のドレスの少女もタカハシさんの方を見て笑いかけた。
「き、君たちは一体何だ?」
「そうね。どういったらいいものかしら…」莉美華は少し焦らすようにピンクのドレスの少女の方を見た。
「あえて言うなら魔法少女、ですか。莉美華さん」
「うん、そうね。魔法少女、か。大体あっているわ」
「魔法少女?アニメとかの、あれだと。君たちが?」
「ええ」莉美華が肯定した。「私の魔法名は結束。彼女は希望というの」
「結束と、希望…」
「契約時の代償の内容なんです」ピンク色の少女が言った。
「それで、あの白いものは、何だ?」
「あれは、絶望の像です。人間の心の闇の具象化、ということらしいです」
悪霊または魔女ともいわれ、邪悪な人間の闇がエネルギー体となったものらしい。こういうものは廃墟などの負の事象が進行しているところに集まってくるという。単体ならそれほど脅威にはならないが、集合し合体すると地域に影響を与えるほどの存在になるというのだ。事件事故が多発し、死人が出るようになるのだと。
タカハシさんにはやはりアニメの話にしか聞こえなかった。世界が違うのだ。認識の範疇を超えていた。
「信じていただかなくてもいいんです。どうせ記憶は消させていただきますから」と莉美華が言う。
「記憶を消す、だと」
「闇の記憶は折角今消滅させた闇を復活させる温床になるんです。記憶の中で生き残ってしまうんですよ。何せ正体が心の闇ですから」
莉美華がゆっくりとタカハシさんに近づいていく。
「おい。おれに何をする気だ?」
「ごめんなさいね。痛くないですから」
「あ、あああああ」
タカハシさんの体が麻痺したかのように動かなくなっていた。
これが、魔法だった。
ますがままに莉美華の手でタカハシさんの目は塞がれた。それと同時に意識が遠くなるのを感じた。深い眠りに落ちて行くような感覚だった。
「あれ、おれって…」
目が覚めると、団地群の真ん中で車を止めて居眠りしていた事を理解した。
「いつの間に眠ったんだ?まあいいいか。疲れていたんだな」
タカハシさんは車を発車させた。
この時の出来事はタカハシさんにとって唯一の不可思議体験となったが、何が起こったのかは何も覚えていなかった。眠っていたとしか言えないのだ。
一体いつの間に眠り込んだのかは、今でも思い出せなかった。
今でもこの時のことを思い出そうとすると、誰かと出会ったような記憶があるような、ないような、不思議な感覚に襲われる。だが思い出せないのだ。だがそれで良かった。
魔法少女の事は秘密なのだ。
最初は耳袋的なホラーにするつもりだったのですが、まどかのコミックを読んでいてつい影響されました。