そいつは危険人物です
「な、何をおっしゃってるのかしら?」
アリアがやっとのことで出した声は自分でも驚くほど頼りないものでした。
「ごまかしはききませんよ。昨夜のこと、私が何も知らないとでもお思いなのですか?」
もはやエルダーの顔からは笑顔が消えておりました。
自分に向けられる眼差しに耐えきれずアリアは俯きました。
しかしエルダーはそれを許さず、片手でアリアのあごを掴み上へ向けさせました。
アリアは驚きエルダーを見つめます。
「私は甘くはありませんよ。アリア嬢。あなたが今ここで真実を言わないならこれを今すぐあなたの父君にお渡ししてもいい。」
「も、もし言ったら?」
「それはその時の状況によるでしょう。しかしあなたにとって言わない場合の状況よりもはるかに良いと思いますよ。」
エルダーは言えば悪い扱いをしない、そうアリアは解釈しました。
「か、彼は私を助けてくれただけよ。」
アリアはエルダーを睨むように言いました。
「あなたが来る前に私にはたくさんの縁談話が来ていたの。でも私は結婚したくなくてどれも選ばなかった。それに業を煮やしたお父様とお母様の計らいであなたがここへ招待されたの。私には秘密でね。私にはぎりぎりまで秘密にしておいて突然言われたの。でも私、結婚とか恋愛もする気がないのにって思ってその時家から逃げだしたのだけどその後変な人に絡まれちゃって、そこを助けてくれた人なの。それで私が困ってること全部話したら恋人のフリをしてくれたってわけよ。」
「私はずいぶんあなたに嫌われているようですね。」
アリアは説明のためにすべてを言ってしまいましたが、言われてはっと気付きました。
こ、これってまずかったかしら?まずかったわよね!!どうしよ・・・!!
「そ、それはあなただからというわけじゃないわ。」
弁解のためにそう言ったのですが、エルダーはつ、と目を細めてアリアから手を離しました。
アリアは自分の体から力が抜けていくのを感じました。
「まだ肝心なことを聞いてませんね。あなたは彼が好きですか?」
「・・え?」
「恋人のように思っているのですか?」
「い、いいえ。彼とは・・・フリだけで、本当の恋人じゃないわ。」
そうよ・・。彼はただ私に優しかっただけ。だからフリまでしてくれたんだわ。額のキスも・・・。
アリアはその時のことを思い出し、何故か急に切なくなりました。
「そうですか。それは良かったです。」
エルダーが最初に会った時のような笑顔でそう言いました。
「な、何が良かったのよ。」
「いえ、こちらのことです。」
「それで、その人。どうなっちゃうの・・・?」
「さぁ・・。彼は数年前からたびたび出没する強盗でして・・。」
「ご、強盗!?」
「そうです。と言っても盗みは裕福な家からしかしないし、盗んだものはすべて貧しい家へ置いて行くのですが。それ故に街では英雄なのですよ。彼の全く素姓の知れない謎めいた雰囲気にも魅かれる者は大勢いるのですが。」
「そう・・ですか。」
「おや、顔色が優れないようですね。」
「すいません。調子が悪いので、これで失礼いたします。」
なかば逃げるようにしてアリアは客室をでました。
今のエルダーの話を聞いてアリアは悪い予感がしたのです。
まさか・・ね。でも、だけど、彼は私がベルゼンの者であることを知ってしまったし・・・。
悪い考えが頭の中でぐるぐると回ります。
アリアはいつの間にかビセを信じたいと思うようになっていたのでした。
そしてその気持ちがある故につらくもありました。
ビセが家を狙って私に近づいたのかもしれない・・・と。
あけましておめでとうございます
今年もよろしくお願いします