第9話「優しすぎる独占」
私の“半幽閉生活”は、思っていたよりも――快適だった。
……悔しいことに。
朝は、好きな紅茶と焼きたてのパン。
昼は、栄養満点のランチ。
夜は、静かな音楽と読書時間。
そして、常に。
エドワード様付き。
「……殿下、近いです」
ソファに並んで座りながら、私は小声で言った。
「そう?」
肩が触れている距離で、首をかしげる。
「……普通、この距離は“近い”って言います」
「恋人同士なら普通だよ」
さらっと言う。
……恋人認定、いつの間に?
「……私、承諾してませんが?」
「心はしてる」
即断。
怖い。
でも、声は優しい。
私は、ため息をついた。
「……殿下。私、一人の時間も欲しいです」
彼は、ぴたりと動きを止めた。
「……嫌?」
不安そうな目。
反則その二。
「い、嫌じゃないです! ただ……」
「ただ?」
「……ずっと一緒だと、考える時間がなくて……」
沈黙。
彼は、少しだけ視線を落とした。
「……考えたら、離れてしまう?」
胸が痛んだ。
「……違います」
私は、そっと彼の手を握った。
「考えたいのは……殿下と、どう一緒に生きるか、です」
一瞬。
彼の目が、大きく見開かれる。
「……本当?」
「本当です」
逃げない。
誤魔化さない。
私は、決めた。
ここからは、正面突破。
「……でも」
私は続ける。
「閉じ込められるのは、嫌です」
「選べない人生も、嫌です」
はっきり言う。
彼は、苦しそうに眉を寄せた。
「……怖いんだ」
低い声。
「君が、いなくなるのが」
「……私も、怖かったです」
静かに答える。
「だから、逃げました」
彼は、唇を噛んだ。
「……ごめん」
小さな謝罪。
初めてだった。
私は、胸が熱くなった。
「……殿下」
「なに?」
「……鍵、外してくれませんか」
沈黙。
長い、沈黙。
やがて。
彼は、ゆっくりと立ち上がった。
机の引き出しを開ける。
……鍵束。
私は、息を呑んだ。
彼は、それを見つめながら言った。
「……約束して」
「なにを?」
「……黙って消えないって」
私は、まっすぐ見る。
「約束します」
彼は、目を閉じた。
――カチャリ。
小さな音。
鍵が、外れた。
「……ありがとう」
私は、思わず涙ぐんだ。
彼は、そっと私を抱きしめる。
「……それでも」
耳元で囁く。
「独占は、やめないけどね」
「……そこはやめてください」
「無理」
即答。
私は、思わず笑った。
――優しすぎる独占。
それは、
檻から“手を繋ぐ関係”へ変わる、第一歩だった。




