第8話「籠の中のお姫様」
――目を覚ますと、そこは見知らぬ天蓋付きの部屋だった。
白いレースのカーテン。
淡い薔薇色の壁紙。
窓から差し込む柔らかな朝日。
「……ここ、どこ……?」
私はゆっくりと身体を起こした。
ふかふかのベッド。
高級そうな調度品。
……明らかに“特別仕様”。
(これ……幽閉ルート突入では……?)
心臓がひくっと跳ねる。
――鍵付きの扉。
――窓には装飾付きの柵。
――廊下には気配。
完璧な“優しい牢屋”。
「……やっぱり……」
私は額に手を当てた。
コンコン。
ノックの音。
「……どうぞ」
扉が開き、入ってきたのは――
エドワード様。
いつもと変わらない、穏やかな微笑み。
「おはよう、ヴィクトリア」
「……おはようございます……」
私は警戒しながら答える。
彼は、ベッドのそばに腰を下ろした。
「よく眠れた?」
「……それは……はい……」
否定できないのが悔しい。
「ここは、僕の私邸だよ」
「……私邸?」
「誰にも邪魔されない場所」
=逃げられない場所。
私はごくりと喉を鳴らした。
「……私、帰れますか?」
彼は、少しだけ目を細めた。
「……帰るって、どこへ?」
優しい声。
でも、圧。
「……学園、とか……」
「ここで勉強すればいい」
即答。
「……家は……?」
「ここが、家になる」
即答(二回目)。
重い。
「……軟禁ですよね、これ」
ぽつりと呟く。
彼は一瞬、困ったように笑った。
「……監禁って言われるよりは、マシかな」
自覚あったんだ。
「ヴィクトリア」
真剣な声。
「……君を傷つけたくない」
「だから、できるだけ自由にする」
……できるだけ。
「でも――」
私の手を取る。
「離れる自由だけは、あげられない」
きっぱり。
私は、目を伏せた。
(……これが、原作の“優しい監禁”……)
部屋には、私の好きだった本。
甘い紅茶。
前に欲しいと言ったアクセサリー。
……全部、揃っている。
逃げ場以外は。
昼下がり。
私はソファで本を読んでいた。
「……不自由じゃないのが、逆につらい……」
すると。
「そう?」
隣に、エドワード様。
いつの間に。
「……ずっと、いるんですか」
「うん」
即答(三回目)。
彼は私の肩に頭を預ける。
「……ここなら、誰にも奪われない」
ぽつり。
私は胸が締めつけられた。
「……殿下」
「なに?」
「……私、物じゃないです」
一瞬。
彼の指が、止まる。
「……わかってる」
でも。
「……失うくらいなら、物でもいいと思ってしまう」
正直すぎる。
私は、そっと彼の額に手を当てた。
「……それ、病んでます」
沈黙。
次の瞬間。
ぷっと吹き出す。
「……はは」
小さく、笑った。
「……君に言われると、効くな」
少しだけ。
本当に、少しだけ。
氷が溶けた気がした。
私は、心の中で思った。
(……ここからだ)
(ここから、殿下を“まともな溺愛”に戻す)
私の第二目標。
――脱・監禁ルート。
ここから、再スタートだ。




