第6話「裏切り者は誰?」
逃亡決行まで、あと三日。
私は、できるだけ“普通”を装って生活していた。
笑う。
話す。
隣に立つ。
――全部、演技。
(ごめんなさい、殿下……)
心の中で謝りながら、今日もエドワード様の隣を歩く。
「……最近、素直だね」
ふいに言われて、心臓が跳ねた。
「え? そ、そうですか?」
「うん。前より……可愛い」
にこ。
破壊力。
やめてほしい。
(罪悪感が増すだけなんですけど!?)
放課後。
私は図書館の奥で、地図を確認していた。
人目につかない場所。
……のはずだった。
「……ヴィクトリア様?」
ひそひそ声。
振り向くと、そこにいたのは――
セシリア。
「ど、どうしたの?」
慌てて地図を隠す。
セシリアは、不安そうに私を見る。
「最近……元気ないですよね」
「そ、そんなこと――」
「……逃げたいんですか?」
――え。
空気が凍った。
「……な、なにを……」
笑顔が引きつる。
セシリアは、ぎゅっと拳を握った。
「……殿下のこと、怖いんでしょう?」
図星。
私は言葉を失った。
「……私、見てたんです」
彼女は続ける。
「殿下が、どれだけヴィクトリア様を囲ってるか」
「警護も、行動も……全部」
……ヒロイン、察し良すぎでは?
「……原作ヒロイン、優秀すぎ……」
ぼそっと呟いてしまった。
「え?」
「い、いえ! なんでもない!」
私は、観念した。
「……逃げたいの」
小さな声で言う。
「このままだと……私、自分じゃなくなる気がして」
セシリアは、しばらく黙っていた。
そして――
「……私、手伝います」
「え!?」
「殿下は……好きです。でも」
彼女はまっすぐ私を見る。
「好きだからこそ……誰かを縛る人にはなってほしくない」
……天使。
「ありがとう……!」
私は思わず彼女の手を握った。
「でも……一つだけ条件があります」
「な、なに?」
セシリアは、真剣な顔で言った。
「……バレたら、私が裏切り者になります」
「え?」
「殿下に、私は嘘をつけません」
……つまり。
限界が来たら、吐く。
「で、でも……!」
「大丈夫です」
彼女は微笑んだ。
「それまでに、逃げ切ればいいんです」
……覚悟、強すぎ。
「決行は、いつですか?」
「……三日後」
「なら、準備は明日です」
その夜。
二人で作戦を立てた。
✔ 舞踏会のリハーサル日に人が集まる
✔ 南門の警備が薄くなる
✔ 使用人用通路を使う
「……これなら、いける」
私は、久しぶりに希望を感じた。
――知らなかった。
この会話が、
すでに“誰か”に聞かれていたことを。
暗い廊下の奥。
静かに立つ影。
「……やっぱりか」
低く、冷たい声。
「ヴィクトリア……」
握られた拳。
「……逃がさない」
愛情と狂気を宿して。
王太子は、すべてを理解していた。




