第5話「静かに始まる逃亡計画」
最近、私は確信していた。
「……これ、包囲されてない?」
朝。
廊下に立つ見慣れない騎士。
昼。
必ず近くにいる侍女。
放課後。
なぜか偶然を装って現れる殿下。
……偶然なわけあるか。
「警護、増えてるよね……?」
小声でつぶやくと、侍女のマリアがにこっと笑った。
「殿下のご配慮ですわ」
配慮(監視)。
怖い。
私は部屋に戻り、扉を閉めてベッドに倒れ込んだ。
「……やばい。これは本気でやばい」
原作後半。
私が逃げようとして失敗し、
完全囲い込みルートに入るのを思い出す。
――今、その分岐点に立っている気がする。
「……やるしかない」
私は起き上がり、机の引き出しを開けた。
中には、こっそり集めた地図。
通行証。
平民用の外套。
変装用の眼鏡。
……準備万端。
「これで国外に出られれば……自由……!」
震える手で地図を広げる。
目指すは、隣国フェリス。
貴族制度が緩く、身分を隠せば暮らせる国。
「まずは学園を抜け出して、南門へ……」
頭の中でシミュレーションを繰り返す。
そのとき。
コンコン。
ノックの音。
私は飛び上がった。
「は、はい!?」
扉が開き、現れたのは――
「……リリアーナ」
エドワード様。
いつも通り優しい笑顔。
でも、今日はなぜか、目が鋭い。
「最近、元気がないね」
「そ、そうですか? 気のせいです!」
即答。
怪しさ満点。
彼は部屋に入り、そっと扉を閉めた。
……え。閉めた。
「何か、隠してない?」
一歩、近づく。
私は一歩、下がる。
「な、何も……!」
視線が、机の引き出しに向く。
……やめて。
私は慌てて前に出た。
「殿下! 今日はお忙しいのでは!?」
「君の方が大事だよ」
即答。
重い。
彼は、私の頬にそっと触れた。
「……どこかに行くつもり?」
心臓が止まった。
「え!? な、なんでそんな……」
微笑みながら、低く言う。
「……勘」
嘘だ。
絶対調べてる。
「リリアーナ」
額を合わせるほど近づいて。
「君が消えたら……僕は壊れる」
静かな声。
でも、狂気に近い。
「だから――逃げないで」
私は、笑うしかなかった。
「……そんなこと、しませんよ?」
嘘。
大嘘。
彼は満足そうに微笑んだ。
「よかった」
去っていく背中を見送りながら、
私は崩れ落ちた。
「……バレかけてる……」
その夜。
私は日記に書いた。
【逃亡計画:進行中】
【殿下、勘が鋭すぎる】
【早くしないと詰む】
私は決意した。
――三日後。
決行する。
絶対に。
今度こそ。




