第4話「彼女しか、見えない」
――エドワード・アルヴェイン視点――
……最近、ヴィクトリアの様子がおかしい。
いや、正確に言えば――
“前よりも、遠くなった”。
話しかければ笑ってくれる。
一緒にいれば、ちゃんとそばにいる。
それなのに。
どこか、逃げようとしている。
そんな気がしてならなかった。
初めて会ったのは、幼い頃だった。
薔薇園で迷子になって泣いていた彼女。
小さな手で必死に涙を拭っていた姿が、
なぜか頭から離れなくなった。
――この子を、守りたい。
そう思った瞬間から、
世界の色が変わった。
婚約が決まったとき、嬉しかった。
ようやく、そばにいられると。
なのに――
「最近、僕を避けている?」
ある日の放課後。
執務室で、側近のルイスにそう漏らした。
レオンは少し困った顔をする。
「……殿下。過保護すぎでは?」
「違う」
即答。
「彼女が離れそうなんだ」
「……それは、殿下の思い込みでは?」
違う。
絶対に違う。
あの微妙な距離。
作り笑顔。
必要以上の丁寧さ。
全部、わかる。
彼女は、心を閉じ始めている。
――許せない。
誰かが、彼女を不安にさせた?
誰かが、奪おうとしている?
考えただけで、胸がざわつく。
舞踏会の夜。
彼女が他の男に声をかけられた瞬間。
……頭が真っ白になった。
「彼女は、僕の婚約者です」
自然に口から出た。
理性よりも先に。
あの男が、彼女を見る視線が――
不快でたまらなかった。
テラスでの会話もそうだ。
「怖かった」
あれは、嘘じゃない。
本当に怖かった。
彼女が、自分の手からすり抜けていく未来が。
――失うくらいなら、閉じ込めた方がいい。
一瞬、そんな考えがよぎった。
……いや。
だめだ。
彼女は、檻の中の鳥じゃない。
自由に笑うからこそ、美しい。
だから、僕は選ぶ。
囲い込むのではなく、
“逃げられないほど愛する”道を。
その夜。
僕は密かに命じた。
「ヴィクトリアの警護を、二倍に」
「……警護、ですか?」
「あくまで、さりげなく」
表向きは、護衛。
実際は――監視。
彼女が、どこにも行けないように。
同時に、情報も集めさせる。
最近の行動を。
交友関係。
相談相手。
全部。
だって――
彼女は、僕の未来だから。
執務机の上には、
彼女の笑顔が描かれた小さな肖像画。
それを指でなぞりながら、静かに呟く。
「……どこにも、行かせない」
優しく。
愛おしく。
そして、誰よりも深く。
彼女を想いながら。




