第2話「好感度が下がらない件について」
――おかしい。
絶対に、おかしい。
私は自室のベッドにうつ伏せになりながら、心の中で何度目かのため息をついた。
「……距離、取ってるよね? 私」
昨日からずっと意識している。
・話しかけない
・目を合わせない
・隣に立たない
・用事がない限り近づかない
完璧な“疎遠プラン”だ。
なのに――
結果。
✔ 手を繋がれる
✔ 不安がられる
✔ 離れないでと言われる
……むしろ悪化してない?
「普通、冷たくされたら離れるでしょ……!」
ごろごろ転がりながら叫ぶ。
前世の恋愛常識、通用しなさすぎる。
私は天井を見つめた。
「……次の手を考えないと」
原作知識によれば、そろそろ“学園舞踏会イベント”が来る。
ここで私は、原作ヒロイン――セシリアと対立する。
そして嫌われる。
つまり。
「……セシリアちゃんと仲良くなればいいのでは?」
私は勢いよく起き上がった。
そうだ。
ヒロインと仲良くなれば、私は悪役ムーブしなくて済む。= 断罪回避 =監禁回避
完璧。
その日の昼休み。
中庭のベンチ。
私は、原作ヒロインことセシリア・ミルフォードを発見した。
淡い栗色の髪に、素朴で可愛い顔立ち。
……うん。ヒロインだ。
放っておいても愛されるタイプ。
「よ、よし……」
私は深呼吸して、彼女に近づいた。
「あの、セシリアさん」
「は、はい?」
彼女はびくっとして振り向いた。
……あ。怖がらせてる。
原作のリリアーナ、相当怖がられてたんだな。
「えっと……お昼、一緒にどうですか?」
一瞬、ぽかん。
それから、ぱぁっと笑顔になった。
「い、いいんですか……?」
「もちろんです!」
よし。第一関門クリア。
私たちは並んでベンチに座った。
「リリアーナ様って……怖い方だと思ってました」
「ですよね! わかります!」
「え?」
「いえ、何でもないです!」
自虐は封印。
私はお弁当を広げた。
「セシリアさん、料理得意なんですね」
「は、はい。田舎育ちなので……」
かわいい。
天使かな。
これなら断罪フラグ消えるのでは?
私は内心ガッツポーズした。
――そのとき。
「……楽しそうだね」
低くて穏やかな声が、背後から降ってきた。
……あ。
来た。
ゆっくり振り向くと。
そこには、微笑みを浮かべたエドワード様が立っていた。
目が、笑っていない。
「殿下!? ど、どうしてここに……?」
「君を探していたから」
即答。
重い。
エドワード様は私の隣に、当然のように座った。
ぎゅっと、私の手を握る。
「……紹介してくれる?」
「は、はい! こちらはセシリアさんで――」
「知ってるよ」
にこ。
「君と、よく話している子だよね?」
……え、見てたの?
セシリアは青ざめている。
「わ、私は……その……」
「大丈夫だよ」
エドワード様は優しく言った。
「リリアーナの“友達”だもんね?」
……圧。
圧がすごい。
「……友達、ですよね?」
私を見る。
逃げ道なし。
「は、はい……とも……だちです……」
すると、満足そうに微笑んだ。
「よかった」
そして私の耳元で、囁く。
「でも、君の一番は僕だよね?」
小声。低音。至近距離。
反則。
心臓に悪い。
(ダメだ……完全に好感度下がってない……!)
その夜。
私は日記に大きく書いた。
【作戦②:ヒロインと仲良く → 失敗】
次のページに、震える字で追記。
【エドワード様、思った以上に重い】
私はペンを置いて、天井を見上げた。
「……逃げるしかないのかな」
知らなかった。
この一言が、
後の“大逃亡編”につながることを――。




