第1話「断罪エンドを思い出しました」
今から読み始める方は改稿版のほうを読むことをお勧めします。
――最悪だ。
よりにもよって、思い出すなら今じゃなくていいでしょう。
私は鏡の前で、自分の顔をじっと見つめていた。
銀がかった金髪に、淡いローズ色の瞳。
高級そうなドレスに、やたら広い部屋。
……はい。どう見ても一般OLの部屋じゃない。
「つまりここは……乙女ゲー世界?」
ぽつりと呟いた声は、やけに可愛らしく響いた。
私はヴィクトリア・フォン・ローゼンベルク。
侯爵家令嬢。王太子の婚約者。
そして――
「断罪&監禁エンド担当の悪役令嬢……!」
思わず頭を抱える。
前世で何周もプレイした乙女ゲーム
『聖なる薔薇と運命の恋』。
私はそこで、ヒロインをいじめ、最後に破滅する役だった。
しかも問題はそこじゃない。
問題は――
エドワード王太子ルートのバッドエンド。
裏切られ、断罪され、地下離宮に幽閉。
優しく微笑みながら言われるのだ。
『君は、僕のものだから』
……怖すぎる。
「いやいやいや、無理無理無理!」
私は全力で首を振った。
あんな甘い顔であんなこと言うヤンデレ王太子に
閉じ込められる人生なんて、絶対に嫌だ。
「よし。決めた」
私は鏡に向かって拳を握った。
「目標:断罪回避! 監禁回避! 平穏人生!」
まずやるべきことは一つ。
――エドワード様と距離を取る。
原作では、私は彼に執着しまくって嫌われ役を全うしていた。
なら逆にすればいい。
近づかない。関わらない。期待しない。
完璧だ。
私は満足げに頷いた。
……このときはまだ。
その作戦が、最悪の方向に転ぶことを、
まったく理解していなかった。
翌日。
王立学園の中庭。
私はいつもならエドワード様の隣を歩いている。
……が、今日は違う。
わざと距離を三メートル空けて歩いていた。
「……ヴィクトリア?」
後ろから、低くて優しい声。
ひぃ。
反射的に背筋が伸びる。
「な、なんでしょうか。王太子殿下」
完璧な他人行儀。
振り返ると、そこには相変わらずの美形がいた。
金髪碧眼、王子スマイル完備。
これで中身が激重執着系なのだから、詐欺である。
「今日は……少し距離があるね?」
「そ、そうですか? 気のせいでは?」
にこっと営業スマイル。
逃げろ私。ここでデレたら終わる。
すると、エドワード様は少しだけ目を細めた。
「……昨日、何かあった?」
「い、いいえ! 何も!」
即答。
すると彼は、ふっと微笑んだ。
「なら、いい」
そのまま私の手を取る。
「え?」
「離れる必要はないよ」
ぎゅ。
しっかり指を絡められた。
……え、作戦失敗してない?
心臓が跳ねる。
「殿下、あの、その……」
「ヴィクトリアが遠いと、不安になる」
静かな声。
けれど、重い。
めちゃくちゃ重い。
「だから、離れないで」
私は笑顔のまま、心の中で絶叫した。
(もう始まってるーーー!!)




