キルギス国への船旅
ハバナ国からキルギス国へ-ヘレナ視線
婚約式から2日後。
私はキルギス国へ行く船に乗っていた。
キルギス国へは3日間の船旅だ。もちろん船には乗った事があるが、船で宿泊をしながら外国に行くのは初めてだ。
船に乗り込んで、まずは案内された部屋にいたが、侍女のアンが荷物を整理している間に暇になってしまい、今は部屋を飛び出して船の中を探検している。
侍女のアンに落ち着いてくださいと言われたが、この船にいるのは3日しかないのに時間が勿体無い。
船内をウロウロしていたら、船の甲板に出た。真ん中には大きなマストを支える柱があり、見張り台がついているようだ。
「あそこに登ったら。キルギス国が見えるかしら?どうやったら見張り台に登れるんだろう?あ、柱に梯子がついているのね」
いくら私でもこれは見つかったら大目玉を喰らう事はわかる。
キョロキョロと周りを見回したが、幸い甲板には人はいない。スカートだと難しいかなと梯子に足をかけた瞬間、後ろから低い声が聞こえた。
「まさか、見張り台に登ろうとしてないだろうな?」
後ろを振り向くと、マストを支える太いロープの後ろに隠れる様に座っているフィリップ様がいた。
相変わらず、突き刺す様なアイスブルーの目で私を見ているが。顔色もなんだか青い。元々フィリップ様は色白だがそれ以上だ。
「フィリップ様、もしかして船酔いですか?」
。。。。。フィリップ様は返事をしない。
しかし吐き気に耐えている様な感じがする。私は慌てて近くにあったバケツを出し出す。
「吐いちゃった方が楽になりますよ」
しかし、フィリップ様はバケツと私を交互に見ている。
「え?吐くのが恥ずかしいとか思ってないですよね、私はお兄様が飲みすぎた時の介抱で慣れてますから、気にしないでどばーーーっと」
フィリップ様はなんて事言うんだと言う顔をしていたが、限界だった様だ。
フィリップ様がバケツに顔を突っ込んでいる間、私は背中をさすってあげた。
「フィリップ様、外の空気を吸った方が気分がよくなる場合もありますが、お部屋に戻って横になられた方がいいですよ、私がお手伝いしますから」
「従者を呼ぶから良い」
「今の状態で呼べないでしょ、とりあえず部屋の近くに行って、従者の方を一緒に探しましょう」と私はフィリップ様の腕を私の肩に置いた。
フィリップ様はビクッとして、抵抗しようとしたが力が入らないようだ。
フィリップ様の部屋は甲板から一つ下の階にあった。慎重に階段を降りて、フィリップ様の部屋のドアをノックしたが、部屋の中には従者の方はいなかった。フィリップ様を探しに行ってすれ違いになったのかもしれない。
フィリップ様をソファに寝かせて、テーブルにあったお水を渡す。そして上着のボタンを緩めようとすると、「な。何をしてるんだ!!!!」とフィリップ様が叫んだ。
「体を締め付けるような服を着ていると、船酔いに悪いんですよ、そんな首までしまってるシャツやキツキツのベルトをしてたら、船酔いじゃなくても気持ち悪くなりますよ」と言いながら私が続きをしようとすると。フィリップ様は逃げようとして、ソファーから落ちそうになった。
「自分でやるから、大丈夫だ。未婚の女性がみだりに男の部屋に入って、体を触るべきではない」
「私はフィリップ様の婚約者ですし、これは医療行為です。そう言う事を考えているフィリップ様の方がスケベですよ」
「は??な??私がスケベ?そんなわけないだろう」
「フィリップ様がスケベなんですか?」とそのタイミングで従者の方が帰って来た。
もうフィリップ様は怒りすぎて、顔は真っ赤だ。
そのおかげで顔色は大分良くなったみたい。
従者の方にに私の侍女がよく効く船酔い止めを持っているので、後で届けさせると伝え、私も部屋に戻る事にした。
「フィリップ様、今度は体調のいい時にお部屋に呼んでくださいね」と言って、フィリップ様が何か言う前に部屋を飛び出した。
さあ、面白くなってきたわ。




