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3章 僕の気持ちと目標

 家を出た時はまだ辺りは暗くて寒かった。会場に着く頃にやっと日が昇ってきて辺りを照らしてくれた。スタート地点の天神にはランナーがごった返していた。

「ランナーってやっぱりこんなにいたんだな」

 スマホを確認すると山下から連絡が入っていた。どうやら部長達と合流したようだ。僕も急いで合流しよう。

 人をかき分けて荷物を預けに行くと、トラックに番号別にどんどん積んでいてどれも数え切れないくらい積まれていた。

 預けて山下の所に行ってみると、みんな揃ってた。

「おはようございます」

「立花か。今日は頑張ろうな」

 部長がいつもより明るい口調で挨拶してきた。部長なんか痩せたというか、なんか走る前より全体的に絞まったような感じがするな。部長は挨拶をすると他の人と話を再開した。

 川崎さんはどこかな?探した所で何を話せば良いか分からないが挨拶だけはしたい。

「川崎さんだったら、ここにいないぜ」

 横から、山下が話してきた。

「彼女は、天神駅の反対側にいると思うよ」

 そういえば、目標タイムに寄って集合場所が違っていたんだった。当然、川崎さんは早い場所からのスタートだよな。

「そんな、気を落とすなよ。あれから話はできたのか?」

 山下には飲み会の後の事は話していた。それから今日まで一ヶ月以上、川崎さんに話しづらくなってしまっていた。

「こじらせてんな〜。軽く謝ればいいのに」

 山下はため息を付いた。

「そんな事言うなよ」

「ま、がんばんな。それはそうと格好とか靴とか買ったんだな」

 山下が僕の格好を下から上まで確認する。もちろん山下も部長もランナーの格好をしている。

「まぁな、大分したけどね。せっかくだしと思って」

 前に川崎さんに聞いていたものを基準に買ったと言ったら、また微妙な感じになりそうだから黙っていこう。

「お、スタートしたみたいだな」

 時計を見ると時間になっていた。僕達は後ろの方なのでスタートには大分遠い。部長達もなんだか緊張をしているみたいで少し面白かった。

 いよいよスタート地点が見えてきた。今日は朝はそこそこ寒いようだが、昼から気温が上がるらしい。倒れないようにしないと。

 スタート地点に近づくに連れて少しずつ周りが走り出した。

「山下。スタートダッシュはしないようにな」

「分かってるよ。みんなに釣られて、足が早くなってしまうって言ってたしな」

 飲み会の時、川崎さんが教えてくれた事だ。スタートはみんな勢いで走ってしまって、スタミナが切れるのが早くなってしうとの事だった。

「あくまでマイペースな。よしスタート」

 スタート地点の横では、ブラスバンドが盛大に音楽を鳴らしていて、ランナー達を送り出していた。

 僕と山下は一緒にゆっくりと走り出した。

 ハ、ハ、ハ、僕は小気味よく肩を揺らす。山下は走りながら途中に声援をしてくれる人と、リズムよくタッチしていく。山下のこの直ぐに楽しめる性格は見習いたいと思ってしまう。

「もうドームか、まだまだ行けるな」

 目の前にドームが見えてきた。まだ体も問題なく走れている。

「お、ファンランが此処までか。立花はまだまだ行けそうだな」

 ファンランは確か五キロで終わりだったかな。ということはもう五キロ走っているのか。

「山下もまだ余裕そうだな」

「まだまだ、行けるよ。無理しないペースだしな」

 それから僕達は順調に走ってきた。途中エイドと呼ばれる給水所で、飲み物や食べ物を取りながら二人で走っていると、二十キロの大学の折り返し地点を過ぎた所で、三時間くらい立っていた。

「立花、俺無理だ。先に行ってくれ」

 山下は足が上がらなくなって、重くなってきているようだ。

「分かった。ストレッチも忘れずに。山下も頑張れよ」

 山下は力なくガッツポースをした。僕は横目で山下を置いて走りだした。それから少し走った所で部長を見かけたが、死にそうな表情だったので、声をかけずに過ぎていった。

 部長や山下もそうだが、走っている人の顔の半分くらいは苦行をしているように辛い表情をしている。周りを見る余裕がないようだった。

 三十キロを過ぎたくらいで僕も足が棒のようになってきた。川崎さんに言われたように途中ストレッチをしていたが、ストレッチもきつくなってきた。足だけでもなく背中や腹筋が凄く痛くなってきた。

「もう無理」

 三十四キロを過ぎたくらいで走れなくなってしまった。あと八キロが凄く遠く思える。

 ハァ、ハァ、ハァ、体全体が凄くきつい痛い。マラソンってこんなに痛いのか正直舐めていた部分があった。

 気分を変えようとスマホでラジオを聴こうと、画面を付けてみると、目を疑った。

「川崎さん?」

 川崎さんから何度か連絡が来ていた。僕は慌てて内容を確認する為にアプリを開いた。

『急に連絡してすません。大丈夫ですか?』

『足、痛くなっていませんか?』

『楽しんで、走れてますか?』

 僕を心配してくれる内容だった。なんで?あの夜の事を怒っていないのか?スタートしてから五時間半、川崎さんはとっくにゴールはしているはずだ。僕はコースの端に止まって彼女の電話のボタンをタッチした。

「もしもし、立花さん?」

 久しぶりに聞く川崎さんの声だった。

「連絡ご迷惑でしたか?」

 彼女はどこか、遠慮している声だった。僕は慌てて否定する。

「いや全然、むしろ嬉しかったです」

「良かったぁ」

 ホッとした様子が声から伝わってくる。

「あの日から連絡しようかと迷っていたんですが、今日までできずにいました」

「僕もずっと誤りたかったです。お酒の勢いであんな事言ってしまってすいません」

「私は気にしていませんよ。立花さん。体は大丈夫ですか?」

 彼女の優しい声が体にしみる。

「僕はまだまだ、大丈夫です」

 僕は力一杯、元気な声を出す。

「そしたら、私ゴールで待ってますね」

 思いがけない言葉にびっくりする。

「そんな悪いですよ」

「私が待っていたいんです」

 力強い口調で彼女は言ったので、断りづらくなってしまった。

「分かりました。頑張ります」

「頑張ってください」

 僕達は電話を切った。そして僕は再び走り出した。体は全身痛かったが、なんだか心の隅っこにあったしこりがなくなった気がする。それから僕は走って、歩いて何度繰り返しただろう。もうすぐゴールが見えてきた。

「やっとゴールができた」

 ゴール地点に着く頃には、ほとんどのランナーが歩いていた。ゴールしたらタオルとメダルをくれたが、それをゆっくり確認する余裕はない。僕は近くの階段に座り込んで息を整えた。

 僕は荷物を引き取って、体が痛いながらやっとの思いで着替えてゴールの会場を出ると、軽やかに走ってくる人がいた。

「立花さん」

 心待ちにしていた彼女がいた。途中から彼女の顔が見たくて走っていた。

「なんとかゴールできました」

 僕はふらふらになりながら彼女に近づく。

「そうですね」

 彼女が僕の手を持ってくれた。

「お疲れ様でした」

 あぁ、彼女の顔を見ると、ほっとした気持ちになった。僕はいつの間にか彼女の事が好きになっていたようだ。

「川崎さんどうして急に連絡くれたんですか?」

 川崎さんは子供のような笑顔になる。

「一週間前くらいのラジオで、この間の飲み会の事みたいな投稿が読まれたんですよ。あれ立花さんですよね?」

 そういえば、山下に相談した後、ラジオにもどう話しかければ良いのかって投稿してたっけ。忙しくて忘れてた。

「あれ、読まれてたんですか」

 ラジオで初めて読まれたのがあの投稿だったとは、恥ずかくて川崎さんの顔が直視できない。

「あの投稿で、立花さんも同じように悩んでくれたんだなって思ったんです」

「飲み会の時はすいませんでした」

 僕は心から謝罪をした。体が痛くてうまく曲がらないのが悔しい。

「もう、私は気にしていませんよ。それと一つ質問して良いですか?」

 彼女は、僕の顔をまっすぐ見る。

「立花さん。マラソンは楽しかったですか?」

「はい」

 僕は力強く頷いた。彼女は優しく微笑んでくれた。

「そろそろ帰りましょうか」

 そうだ。此処は糸島だった。ここから家に帰るまでどのくらいかかるのだろう。

「近くの駅までシャトルバスがでているので、まずはそれに乗りましょう」

 彼女は慣れた様子でバスの臨時駐車場に向かう。駐車場に着くとランナーの殆どが、体が痛そうにしているのが解る。

「みんな一緒だな」

 横にいる川崎さんが普通にしているので走ったのか、疑問に思ってしまうくらいだ。

「どうしました?」

「普通にしているなと思って」

「慣れてますから」

 川崎さんは涼しい顔で言う。僕は川崎さんに助けてもらいながらなんとかシャトルバスに乗った。

 バスに乗って十分くらいした所で携帯が鳴った。覗いて見ると山下がゴールしたと連絡をくれた。川崎さんの事で忘れていたが、部長達は、ゴールできたのだろうか?スタートは一緒だったがゴールしたら各自解散だったから分からないな。

 もうすぐ駅に着く頃に、山下から写真が送られてきた。

「あ、みんなゴールできたみたいですよ」

 川崎さんと一緒に見た写真には、部長と山下、他にも五人写っていて遅い人たちとコメントも書いてあった。

 バスから降りた場所から駅まで少し歩かないと行けなかったので途中にあった公園で休む事にした。

「何か、飲み物買ってきますね」

 彼女は近くにある自販機で飲み物を買ってきてくれた。何事もなく普通にしている彼女が信じられなかった。僕もこんな風になりたいな。

「よし、決めた」

 川崎さんは缶コーヒーを開けた所で、こちらを見る。

「僕の目標川崎さんにします!」

「え!どういうことですか?」        

 川崎さんはどうしたらいいか分からず、急に顔が真っ赤になっていしまった。

「僕も川崎さんみたいに、走れる様になるってことです」

 その言葉にはにかんだ笑顔で答えてくれた。

 横に並べて走れるようになったらこの気持も伝えよう。

                         〜終わり〜

最後まで読んでいただきありがとうございます。

初マラソンの完走。そして、新たに生まれる気持ち。

立花の挑戦は続くことでしょう

この先が読みたい、別視点からのお話は?などのご意見ご感想ありましたら頂けると嬉しいです。

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