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「おはようございます炎、調子は如何ですか?」


聞き慣れない声に唸りをあげて目を覚ます。視界に映るのは狂気を感じる程に美しい男…俺の主となってしまった人間だった。


「…最悪だよ。はぁ、結局ツノどっちも取りやがって。何がしたいんだ」

「勿論コレクションですとも。美しい物は美しく飾るのが鉄則でしょう?」


知らねぇよそんな鉄則。これ見よがしに溜息を吐けば、“幸せが逃げてしまいます”なんて小言を一つ、俺の額へと触れる。


「…根元まで綺麗に取った筈ですのに、もう生えかけている。成程、治癒効果は魔導書に書かれていた通りのようで。何度でも神秘的な光景が見れるなんて、何たる幸せ」

「…」

「朝は御機嫌がななめなのでしょうか。嗚呼、それともお腹が空いているので?朝食にしましょう」

「要らん、俺の分は用意しなくていい」

「そんな事仰らず。人外も食べなければ生きていけないでしょう?」

「お前みたいな人間が用意するものなんて、鼻からゴメンだ。後で勝手に冷蔵庫を漁る」


だからさっさと帰れ、と布団から手を出した時にやっと気が付く。

手錠が付けられている。視認してようやっと金属特有の冷たさがじんわりと体を支配していく。


「な──」


違和感なんて一つも無かった、目の前の男に神経を注いでいたと言えば確かにそうだ。けれど、だからと言って手錠なんてものを付けられているのならば感覚で分かる筈なのに。やけに馴染みすぎている。自身の体にこの手錠が元からあったかのように、安心感さえ覚えてしまうのだ。さながら母体、丸くなって脅威なんて知らずに眠る赤子のよう。


「良く似合っています、貴方が眠りに着いた後に急拵えで造ったのですよ。…炎は赤色が映えますね。私と同じ色を身に纏う貴方の愛らしさと言ったら!」


男が俺の両手を片手で掴む。ツツ、と手持ち無沙汰な指が手錠をなぞり、上へ上へと登っていく。指の一本一本を見定めるかのようになぞり、爪先まで指という蛇が伝う。震えが止まらない頸動脈を触って、男は「可愛い」と一言、首元にキスを落とす。

気持ちが悪い、声にもならない声で手を振りほどこうとするも全く動かない。爪を食い込ませて動きを封じている訳では無いし、何か小道具に頼って痛みや魔法で封じている訳でも無い。ただ純粋に、力が強い。そもそもこの男は俺より背が大きいのだ。単純な体格差に、俺は手も足も出なかった。歯を食いしばる、彼の唇が這い上がってくるその感覚が気持ち悪くて堪らなかった。


「そんなに嫌なら魔法を使えば良いでしょう?“躾”を気にしないのであれば、ね」

「_!!」


クツクツと愉快に笑う男に、これ以上ない不快さを覚える。手首を掴まれているだけ、指先は自由に動かせる。指先一つ動かせるのならば、無口頭で魔法を出せる。火の玉でも軽く出せば彼は離れてくれるだろう。そんな事分かっているのだ。…分かっているからこそ、不愉快だった。

きっとこの男は、ロデリックは知っている。どれだけ抵抗しようと俺が魔法を自身に使わない事を。“躾”がどれだけ強烈なものかを。とどのつまり、俺は此奴に最後までされるがままだと。


「…顔に合わず、性格は最悪だな…!」

「ふふ、何とでも仰って下さいませ。私は私のやり方で貴方を愛し、美しいものを手に入れるだけです」


唇が重なる。キメ細やかで輝く唇は、離れ難いとでも言うように何度も何度も角度を変えて形を変えていく。


「さぁ、朝食にしましょう炎。それからお話をしましょうか、私の事についてと貴方の事についてをね」


両手が解放される。一発殴ってやろうとでも思ったが、やはり躾に後ろ髪が引かれてすんでのところで手を下ろす。その判断に満足したのか、彼は俺の右手を軽く引き立たせた。

布団を剥げば、ご丁寧に足首にも枷が嵌められている。嗚呼、手首同様全く気が付かなった。


(…狂った顔が見れる云々の話じゃねぇな、ったく)


溜息を吐く度に薔薇の香りが付き纏う。これに慣れる前に此奴が壊れますように、なんて誰に言うでもないそんな願いを胸に導かれるがまま歩みを進めた。



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