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63. 神秘の扉が開かれる時

「真実とは、時に――嘲笑のような声で告げられる。」


「徳川家康。……協力に感謝する。少なくとも、しばらくの間は――京都の安全が保たれるだろう。」

天皇陛下は、ほとんど独り言のような、しかし――その場の空気を震わせるような重い声でそう口を開いた。

私は、静かに頭を下げた。……礼儀としてではない。ただ――何と答えていいのか、分からなかったからだ。

かつての私なら、堂々と応えたかもしれない。……「大御所」の名にふさわしく、揺るがぬ威厳を持って。

だが今は――違う。

明らかに、何かが……変わった。

それを自覚している以上、私は遠回しを避け、――本題へと踏み込んだ。

「京都で……一体何が起きているのですか?」

その問いは、まるで香の煙のように空間に漂い、……なかなか消えることなく、空気を支配した。

公家たちの顔に、緊張の色が広がる。……中には、台詞を忘れた役者のように、お互いを見合う者もいた。

だが――その中で、ふたりだけが、まったく表情を変えなかった。

一人は、長い黒髪を揺らす美しい少女。……物静かだが、決して受け身ではない。まるで――結末をすでに知っている者のような、静かな存在感を纏っていた。

もう一人は、絵巻から抜け出したかのような古典的な装束を纏った老齢の陰陽師。……飄々とした態度。まるで、自分が仕掛けた罠のすべてを――把握している老猫のように。

そして、再び……陛下が口を開いた。

首筋を軽くかきながら、どこか困ったような顔で――

「説明が、ちょっと難しくてね。……どこから話せばいいか、私自身よく分からないんだ。」

私は、頷いた。

「最初からでなくても結構です。……私自身、この目で“妖怪”という存在を見ました。否応なく――信じるしかありません。」

その一言が、室内の空気を……一変させた。

小さな爆発のように、見えない衝撃が空間を駆け抜けた。

囁き。

……微かに漏れる息遣い。

いくつもの驚愕の表情が、静寂の中で――交錯する。

だが、あのふたり――あの少女と老人だけは、まるで時が止まったかのように……微動だにしなかった。

瞬きすらしない。……空気の揺らぎにも反応を見せず、ただ――そこに“いる”。

……ますます気になる。彼らはいったい、何者なのか。

そんな中、天皇陛下が――再び静かに口を開いた。

「ならば、話は早い。今、京都は“転生級”――すなわち、Aランクの妖怪によって襲撃を受けている。その妖怪は……“百鬼夜行”を率いている。」

その瞬間――

私、忠勝、正成の三人は、同時に……固まった。

私の拳が、ゆっくりと――握りしめられていく。

それは、数十年の戦場で培ってきた老兵の直感か……否、それ以上に、自分が“無力”であるという感覚に――初めて直面したからかもしれない。

忠勝が何かを言いかけたが、……私は手を挙げて制した。

彼が口にするであろう言葉は――分かっていた。

「なぜ、もっと早く――知らせてくれなかったのか?」

あるいは

「なぜ、我らに……出陣の機会が与えられなかったのか?」

だが――それよりも今、私の胸中にこだましていた疑問は……別のものだった。

「妙な質問に聞こえるかもしれませんが……」

私は、静かに言った。

「どうして今になって、“妖怪”なる存在が――これほどはっきりと目に見えるようになったのか?

……それに、私の目に映ったのは、たった四体の巨大な化け物だけでした。

その大きさ――二条城にも匹敵する、いや……それ以上の存在です。」

――沈黙が落ちた。

そして次の瞬間。

……笑い声。

それも、腹の底から湧き上がるような――大きな声で。

老人――あの陰陽師の装束を纏った男が、まるでお気に入りの戯曲でも観たかのように、大笑いを始めたのだ。

膝を何度も叩きながら……涙すら浮かべて、朗らかに笑っている。

あたかも――私の苦悩と困惑が、この世で最も面白い詩であるかのように。

「あっははははっ! 素晴らしい! 実に素晴らしい!

真実に迫る“大御所”の顔とは……まさにその表情だ!」

私は、その男を――鋭く睨んだ。

だが彼は、まるで意に介さず……むしろ私の凍った視線に、ますます喜びを覚えているようだった。

深く……息を吸い込む。

まるで心を落ち着けようとしているように見せかけて……

――実際は、思考を整えるための時間稼ぎだった。

この馬鹿げた現実を、どうにか頭の中で……整理しなければならなかった。

少なくとも、表面上は“沈着冷静な大御所”を――演じておきたかった。

……心の中では、先日“美雪”から届いた戦状布告の書状を読んで頭を抱えた若者と、たいして変わらぬ混乱の渦にいたとしても。

――あんな思いは、もう二度としたくない。

大陰命タオンミョウ、……渋川雅友殿。」

沈黙を切り裂いたのは、天皇陛下の――一言だった。

「せめて……家康に軽蔑されたと誤解されるような振る舞いは、避けていただきたい。」

その声音は――穏やかだったが、確かな圧が込められていた。

君が正気を捨てているのは分かっている……だが、他人を巻き込むな。

そう――言っているようだった。

その男、渋川雅友は、どこか半分冗談のような仕草で……頭を下げた。

「ご無礼を。……ただ、この状況が、あまりにも可笑しくてね。」

可笑しい――そう、確かに……そうだ。

まるで――家庭の悲劇を演劇に仕立て、観客の前で披露しているかのような、そんな……滑稽さ。

まるで――死の招待状が届いたときのような、じわじわと笑いが込み上げる……絶望。

「せめて……家康にこの状況の全容を説明して差し上げなさい。」

天皇は、再び――静かに告げた。

「……承知しました。」

そう答えた彼は、まるで――世界のすべての真実を掌に収めているかのような顔で、にやりと……笑う。

私は、改めて彼を――観察した。

その身体……武士というより、まるで神社に祀られる護法神が人の姿を取ったかのような……威容。

年老いた顔とは釣り合わぬ、異様に……研ぎ澄まされた筋肉。

血と沈黙を――糧に生きる存在。

常人の理から……外れたもの。

「お会いできて光栄です、大御所・徳川家康様。……私の名は、渋川雅友。年齢は百二十歳。……ただの“大陰命たいいんみょう”でございます。」

私は、その言葉を……処理した。

次に、それを――頭の中で並べ替えた。

そして……もう一度、処理し直した。

「……今、百二十歳と申したか?」

「信じられないのであれば……ここにいる皆さまにお尋ねになってください。」

まるで――「さっき米屋から餅を買ってきました」とでも言うかのように、渋川はさらりと……告げた。

私は、周囲に――目を向けた。

そして……驚くことに、誰一人として否定しなかった。

頷いている。

……疑うでもなく、不自然な表情を浮かべるでもなく。

「ええ、彼はそれだけの歳月を生きております」とでも言うような、ごく自然な……反応で。

私は、再び……ため息をついた。

「……分かった。ならば、すべてを分かりやすく説明してくれ。」

渋川は一度、……ゆっくりと目を閉じた。

まるで――自らの言葉が世界そのものを揺るがすことを理解しており、それでもなお……語る覚悟を確認しているようだった。

そして――案の定、また笑った。

だが、その笑いは……先ほどまでの陽気なものではない。

それはまるで、「この世界が最初から論理など存在しなかった」と認めるような……静かな諦めのようだった。

「大御所様。……一度でも、こう考えたことはありますか?」

「陰陽師たちは、実は――ずっと存在していて、そして“非常によく”……役目を果たしてきたのだと。」

それは、問いというより……やさしく刺さる告発だった。


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