ルームメイトのサトコさん
ルームメイト、喜寿のサトコさんとユキちゃんのお話。
私のルームメイトはサトコさんという。
今年喜寿を迎えた素敵な女性だ。
3年前、ひょんなことからこの下町の少し洒落たアパートに二人で住むことになったのだが、年の離れた私と彼女の暮らしはとても快適だった。
春には牡丹餅、夏にはかき氷、秋にはおはぎ。
サトコさんに教えてもらいながら季節の味に舌鼓をうつ日々。
冬には私の提案でアドベントカレンダーだってやったし、ブッシュドノエルもスーパーで売ってる渦巻のケーキを下地に作った。
全部手作りのおせちだって用意した。
毎日が楽しくて、仕事だってサトコさんがいてくれるから頑張れた。
こんな日がずっと続くって、疑いもしなかった。
なのに。
「ごめんねえ・・・ユキちゃん」
サトコさんは下瞼の縁に涙を浮かべて、そっと呟いた。
「サトコさあん」
私にいたっては大泣きだ。
サトコさんが、この部屋を出て行く。
今年もおせち作ろうね、って約束したのに。
「ずっと一緒に住みたかったのに」
ずるずると鼻をすすり上げて私は最後のワガママを言った。
「離れても、ユキちゃんは私の大切な子よ」
きめ細かな肌の優しい手が私の頭をなでる。
遠くに行くのだという。
「私ももう七十七歳だから」
独り身だから先を考えないとって、ユキちゃんにも幸せになってほしいのよってサトコさんは続けた。
「サトコさんはすっごく綺麗だよお、若いよう」
「嬉しいこといわないで、泣けてきちゃうわ」
それからしばらく、日がゆっくりと沈むまで私たちは泣き続けた。
こんな素敵なルームメイトはもう、現れないだろうなって思った。
あれから1週間後、サトコさんはスーツケースを片手に旅立った。
*
1年経った今でも、時折サトコさんは電話をくれる。
「あ、ユキちゃん元気ィ?」
パソコンの画面越しに私たちは会話をする。
「サトコさん、また十歳くらい若返ったんじゃない?」
画面に映る女性はどう見ても50代くらいのレディだ。
「今、ドバイなのよお」
12月に入ったとある日に、サトコさんは近所の神社でなんか困っている外国の紳士を助けたのだそうだ。
そこで、サトコさんに惚れ込んだ紳士の熱烈なアタックを受け、あっさり結婚してしまった。
初婚である。
まあ、彼はとんでもないお金持ちということだ。
今世界を二人で飛び回っている。
「・・・・・」
白鳥雪、27歳。
笑顔が魅力的なオフィスレディ。
今は一人暮らし。
ルームメイト・・・。
じゃなくて、
彼氏・・・。
「見つけるか」




