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心中戦隊  作者: nasuda
8/10

八 意外な証人

うーん、やっぱ一人だと効率悪いよなあ。

 あたしは数日間、被疑者死亡で終わっている事件を一人で調べていたが、まったく収穫はなかった。

 明希がいると、効率とか関係なくばばっと解決しちゃうんだけど。

 あたしは主のいないデスクを、恨めしげに眺めた。

 やっぱ、あたしが折れるべきなのかな?

 と悩んでいると、ガヤガヤと騒ぐ声が聞こえた。

 何かなー、と振り向くと、なんかすごい騒ぎになっていた。

 ボサボサ髪でしかも無精髭を生やした、やけにやつれた全身タイツの男が、岩尾君にしょっぴかれていたのだ。

「ほら、さっさと歩いて」

「差別だ! 俺は被害者だ!」

 何やら揉めながら、取調室に向かうようだ。

 よく見ると、全身タイツもあちこちが破れていた。

 なんかの仮装?

 あたしは、半分野次馬気分で、岩尾君御一行に近寄った。

「岩尾君、どうしたの? それ?」

「食い逃げですよ、牛丼屋で散々食って逃げようとしたんです」

「牛丼屋?」

 散々と言うからには、特盛の一杯や二杯じゃないよね。

「散々って、特盛三杯とか?」

「特盛三杯と味噌汁四杯、それに卵五個とおしんこ六皿です」

 それはマジ散々だな。

「逃げようとしたところに、俺がちょうど居合わせたんで、しょっぴいて来ました」

 現行犯かー、腹一杯だと走れなかったろうに。

 そう思ってみると全身タイツの男は、少し脇腹が痛そうだ。

「じゃあ、岩尾君は食事まだ?」

「ちょうど食い終わってたんで、大丈夫っす」

 丈夫だなあ。変なところで感心してしまった。

「こっちは、一週間なにも食ってなかったんだぞ!」

「うるさい、いくらなんでも食い過ぎだ」

 全身タイツの食い逃げ犯、いくらなんでも怪しすぎないか? 目立つぞ。

「こっちは組織が壊滅して、仕事が無くなったんだぞ!」

「その話はさっきも聞いた、世界征服を目論む秘密結社だっけ?」

「そうだ! お前たちなんて粛清だ!」

「はいはい、でも潰れたんでしょ、秘密結社?」

「オレンジャーめ! 絶対に許さない!」

 全身タイツの男は往生際悪くジタバタとしていたが、ずるずると取調室に引っ張り込まれていった。

 秘密結社? オレンジャー?

 魔法少女だっていることだし、秘密結社の一つや二つ、あってもおかしくは無い。

 もっとも、魔法少女の方はお休み中だが。

 んんん? じゃ秘密結社はオランジャーとやらに潰されたって事か……。

 あたしはある事を思いつくと、捜査資料を掴んで取調室に向かった。

「岩尾君、ちょっと、いい?」

「何です」

 取調室に入ると、件の全身タイツ男は蕎麦屋のメニューを熱心に眺めていた。

「あ、まだなんか食いたいって言うんで、出前取るんですよ」

 あたしが状況が飲み込めない顔をしていたので、岩尾君が説明してくれた。

 まだ食うのか。

「それよりこの写真を見て」

「おい! まだ注文決めてねえぞ!」

 あたしは、タイツ男からメニューを取り上げると、港で見つかった遺体の写真を見せた。

「この写真を見て、質問に答えたらメニュー返してあげる」

「何だよ……」

 全身タイツ男は、ブツクサ言いながら、斜めに写真を眺めた。最初のうちは不承不承という感じだったが、いつしか食い入るように写真を見ていた。

「こりゃ、オレンジャーじゃないか!」

 全身タイツ男は、噛み付くように怒鳴った。

「忘れもしない、この顔! 俺たちの組織を壊滅に追いこんだ連中だ!」

 聞きもしないのに知りたいことを話してくれたので、話が楽だった。

「この人たちのことをよく知ってる?」

 あたしの質問に、全身タイツ男は、我に帰ったように少し考え込んだ。

「素顔……戦闘の時は全身装甲アーマーで顔が隠れてるが、素顔と名前まではわかってた……。『よく』、と言うのは素性の事か?」

「素性? 仕事……とかの事?」

 素性といわれると、戦ってたと言うことは、警官だと知っていた……とかそういうことだろうか?

「素性は組織でも掴みかねていた、アジトを探ったが潜入工作員は帰ってこなかった」

 全身タイツ男の返答に、あたしと岩尾君は顔を見合わせた。

「つまり、名前と顔しか知らない?」

「そうだ、何だお前ら、こいつらの正体を知っているか?」

 いやいや、ちょっと待て、軽率に警官だと教えてよいのか? なんかヤバい組織の元構成員だし。

 あたしは、コピーしたダムの爆破未遂の新聞記事を、男に差し出した。

「この事件に覚えは?」

「ああ、俺も加わった作戦だ」

 男は、チラリと新聞記事を見て言った。

「どんな作戦?」

 あたしはさりげなく新聞記事を引っ込めると、全身タイツ男に聞いた。

「この作戦は、先輩のザリガニ男さんが亡くなった。ダムを破壊して混乱を引き起こし、その隙にこの街を乗っ取る手筈だった」

 結構物騒な計画だな、おい。

「だが、奴らに……オレンジャーに邪魔されて、俺たちは追い詰められて全滅寸前だった。」

「それじゃ、何人か亡くなったの?」

 あたしの問いに、全身タイツ男は首を横に振った。

「いや、ザリガニ男さんだけだ。あの人が一人で体を張って、俺たちを逃してくれたんだ」

 良いやつだな、ザリガニ男。いや、でもダム爆破の未遂犯か、やっぱ悪人だよね。

「その、ざ、ザリガニ男が首謀者なの?」

「いや、ザリガニ男さんはこの作戦の指揮官だ、首領様から指令を受けて俺たちが実行した」

 失敗したが……。ボソリと、全身タイツ男は悔しそうに、付け加えた。

「それで、そのザリガニ男はどうしたの?」

「失敗を悟ったザリガニ男さんは、爆薬を背負ってダムで自爆した」

 その答えを聞いて、あたしは手元の記事を確認した。

『容疑者はダムに飛び込む寸前に、空中で持ってた火薬に点火して、自爆したものと思われる。』

 これだと、ダム施設に被害がないのでは?

「ザリガニ男さんが自爆する寸前に、あいつらがザリガニ男さんを空中に跳ね飛ばしやがって、あの人は最後まで作戦を全うしようとしてたのに……。ちくしょう!」

 タイツ男は、今や悔し涙を流し始めている。

 新聞記事を見ないで、ボロも出さずに答えられ、あまつさえ涙まで見せられた。これは信じた方が良さそうだ。

「岩尾君、もう少し詳しい話を引き出して」

 あたしは、取調室のドアを開けた。

「了解っす、先輩は?」

「楡松警部に報告してくる」

 警部いるんですか? と言う岩尾君の問いを背中で聞きながら、あたしはデスクに急いだ。

 連絡がつくかわからないが、とにかく状況を明希に伝えなければ。

 あたしはデスクに飛びつくと、急いで明希に電話をかけた。

『おかけになった電話番号は、電波の届かない……』

 あーもう、留守電かよ。

 あたしは、手短に状況を報告すると電話を切った。

 留守電を聞いて、明希が戻るまで何かしなきゃ。

 そう思って、手元を見るとメモがあった。

『港湾地区 下記の倉庫まで来て欲しい。 楡松』

 電話か何かの伝言だろうか、明希から倉庫に来いとの伝言だった。

 明希も何か掴んでいるのだろうか?

 あたしはメモを見ながら、じっと考えた。

 仕事上もパートナーだから、仕方ないけど。あたしって仕事になると、明希に頼りっきりだったな。

 今回も、明希が居てくれればと、何度思った事か。

 もう少し、明希の言うことも聞いてあげるべきだったかな。

 おそらく、捜査では少し先に行っているパートナのことをあたしは想った。

 あたしは、急いで準備すると何枚かの顔写真を持って取調室に行った。

「岩尾君、あたし少し出てくるから、この写真をそいつ(全身タイツ男)に見せて、見覚えが無いか聞いて」

「了解っす、先輩どこに?」

「港、倉庫の方に楡松警部が、行るってるらしいから」

 ちらっと、全身タイツ男を見ると天ぷら蕎麦とカツ丼を一心不乱にかき込んでいた。

 まだ食うのかよ!


プレビュー版はここまでです、コミケ102 二日目の頒布に結末部分まで公開します。

9/10公開予定です

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