六 さとされて、さとらされて?
「そんなにイライラするなら、仲直りすればいいじゃない」
七海は、三杯目のジントニックを、作りながら言った。
「それは嫌」
今日も『プラム』のお客さんは、あたし一人だ。
「あたしから仲直りしたら、あたしが悪いみたいじゃん」
港で変死した五人が、公安で何をしていたのか? 明希はそのあたりに何かあると考えているようだ。
ここのところ、あたしにも行き先を言わないで、署にはほとんど顔を出さなかった。
「いないから、イライラしてるんでしょ?」
「悪い?」
「子供ねぇー」
七海は呆れたように言った。
「まさか、ここに来たら明希ちゃんに会えると思った」
「冗談でしょ?」
「図星じゃないの?」
七海はカウンターに頬杖をつくと、聞いてきた。
「そもそもの喧嘩の原因は、何なの?」
「あたしの作るご飯、味が薄いって」
「それだけ?」
「それだけ」
まあ、それだけじゃなくて、溜まっていた明希への不満が爆発したところもあったけど。
「で、どうして欲しいの」
「謝って欲しいの、大事にして欲しいの」
それを聞いて、七海はヒョイっとあたしのジントニックを取り上げると、一口飲んだ。
「今日はもう帰ったら?」
「なに、聞くだけ聞いておしまいなの?」
「うちは相談所じゃないの」
七海は、腕組みをしながら続けた。
「あんたも、明希ちゃんも事件抱えて大変なワケじゃない。明希ちゃんだって謝りたいけど、今は余裕がないのあんたが一番わかってるんじゃない?」
「でも……」
突き放されたようで、あたしはちょっと泣きたくなる。
「大丈夫よ、明希ちゃん、最近お店にも来ないから、事件はもうすぐ解決よ」
七海はそう言うと、ジントニックを飲み干した。
「ついでに仲直りも近いわ」
「それ……」
「なに? アタシの感よ」
「じゃなくて」
「なによ?」
七海は心底不思議そうに、あたしを見た。
「あたしのジントニックなんだけど」
「奢りなさいよ、これくらい」