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心中戦隊  作者: nasuda
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四 雲かモヤモヤか

 思った以上に捜査は難航した。

 まず、遺体が身元不明だ。

 その上、事件性の有無も不明だ。

 分かっているの死因だけ。

「遺体の血液を検査したところ、死因を一酸化炭素中毒と特定できた」

 捜査会議の席上、監察医から報告があった。

 そこまでは予想の範疇だった。しかし、続けて報告された、死亡推定時刻は予想外だった。

「死亡推定時刻は、遺体発見の一時間以内と思われる」

 会議室がざわめいた。

「つまり、犯行現場は港の近く?」

 あたしは、思わず呟いた。

 それを聞いて、明希が苦々しげに呟いた。

「あるいは、発見現場が犯行現場ということになる」

 それは荒唐無稽かも、と思ったが、少し考えてあり得ることに気がついた。

 港でライトバンまで行きながら殺して、置いてくれば可能だ。

 しかし、そうなるとライトバンの気密を高めるとか、犯人が酸素ボンベでも背負わないと犯行中に死ぬ、みたいなクリアすべき問題点がある。

 あとはでっかい風船に、被害者を入れて膨らませたとか?

 被害者に吸引マスクをつけさせた、とか。

 方法は色々あるけど、現実的じゃないような……。

 頭の中をハテナマークが飛び交っている間に、捜査会議は終わった。

 『当面は遺体の身元の解明に全力をあげる』

 という方針が会議で決まったが、それは捜査の行き詰まりを表していた。

 相変わらず拗ねている明希に、聞き込みに行くと伝えてあたしは出かけた。

 明希と言えばむにゃむにゃと、意味の意味のわからない言い訳すると、デスクに向かって何やら調べ物を始めていた。

 もう、ハッキリしてよね。

 自分だけ被害者みたいな顔して、もう。

 内心ぷりぷりしながら、聞き込みの担当エリアに向かった。

 現場から消えた車については、周辺の監視カメラを鑑識が調査中で、あたしは遺体の身元を調査していた。

 調査と言っても、似顔絵を見せて、この顔に見覚えはないですか? 最近行方が分からない人はいませんか? みたいな基本的な話を聞いて回る役割だ。

 制服警官も動員しているが、どうにも雲を掴むような話で、まったく手がかりがなかった。

 この日も西日が眩しい時間になっても、なんの手掛かりもなかった。これは望みうすかなー、と思いながら、あたしは聴き込みリストの最後の方にあるアパートに向かった。

「すみません、警察ですが」

「は?」

 ドアを叩くとお馴染みの反応があった。中年の女性だろうか、ドア越しに明らかに警戒した声が帰ってきた。

「なんですか? なんの用です?」

「行方不明の捜査です、少しお時間頂けますか?」

 ストレートに不審死の話をすると、警戒されて話を聞いて貰えない。こう言う時は、ソフトに言いかえるに限る。

「警察手帳は?」

 ドアの覗き窓越しに良く見えるように、警察手帳を掲げた。警察を名乗る訪問販売もいるので、まあこれはしょうがない。

「本物?」

 ドアが細く開いて、想像通りの中年女性が顔を覗かせた。

「本物ですよ」

 イラついてることを悟られない様に、笑顔で答えた。公務員は笑顔が大事、って警察学校でも教えられた通りの対応だ。

「婦警なの? 私服なのに?」

「一応刑事なので」

「あっそう」

 女一人だとわかると、途端に見下す。

 明希がいたら、嫌味の一つも言ってくれるのに!

「この似顔絵の人たちなんですが。見覚えはないですか?」

「ないね」

 にべもない。と言うか、全然見ちゃいなかった。この感じだと、見ても答えは変わらなかったろう。

「最近行方が分からないとか、帰ってこない人の話を聞きませんか?」

 ダメもとで、もう一つ質問した。

「帰ってこない?」

「顔を見ないとか、部屋の電気がつけっぱなしとか、そんな人なんですが」

「隣の大澤さんがさ」

「へ?」

 突然の答えに狼狽えて、変な声が出た。

「前から夜中に出かけたり、大勢が出入りしたりしてて。ありゃ、なにか悪いことしてるね」

「はあ……」

 聞きたいのは、そういうことじゃあないですけど。と言えればいいのだけど、そうもいかない。

「とうとう、最近見かけなくなって。見てよチラシが入りっぱなしでしょ」

 中年女性は、ドアから身を乗り出して、隣の部屋を指差した。

「確かに、チラシが溜まってますね」

 言われてみると、確かに長期不在っぽい部屋だ。

「大澤さんね、昼間っからぶらぶらしてて、仕事も分からないし、あれはなにか悪いことしてるね」

「なるほど」

 多少ピントがズレているが、これは有力な手掛かりかもしれない。

「早く捕まえてね」

「あ、はい」

 そう言うと、ピシャリとドアが閉まった。

 言いたいことだけ言ったのだろう、あたしはため息をつきながらアパートの管理会社に連絡を入れた。

 携帯で『大澤某』について確認をしていると、目の端でなにかが動いた。

 暗いし、話しながらだったのでよく見えなかったけど、人のようだった。

 電話を切ってから辺りを見渡して見たが、野良猫があくびをしてただけだった。

「気のせいかな?」

 モヤモヤっとしながら、あたしは本部に大澤についての報告をすることとした。

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