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心中戦隊  作者: nasuda
2/10

二 集まって輪になって

巨大な倉庫が立ち並ぶ港湾地区、巨人の家のようなそれらを抜けると、さらに巨大なブロックを思わせるコンテナが並んでいた。

 そして、積み上げられたコンテナの間、ポッカリとできた空き地が事件現場だった。

 見渡しても、巨大なコンテナの壁しか見えず、潮の香りだけが海に近いことを教えてくれた。

 現場に到着したあたしたちは、ひとまず鑑識の調査が終わるのを待つ間に、第一発見者の話を聞くことした。

「あねさん、お久しゅうございます」

 そう舌足らずに答えたのは、かつて『鏖殺みなごろしの龍』と恐れられた元ヤクザの幼稚園児だ。

 先日、年長さんになったらしい。

「あんた、こんな所でなにしてるの?」

「あい、かくれんぼです」

 そう顔を上げた視線の先には、かくれんぼしていた友人たちがギャン泣きしていた。

「あんたは怖くないの?」

「あい、慣れてますから」

 龍はかつて、警察さえも向こうに回す武闘派だった。それがアダとなり、以前この町に居た魔法少女たちにより、幼女に変えられた。

 この街はかつて魔法を使う少女達に守られていたが、色々あって彼女たちはお休み中だ。

 それでも魔法の力は生き続けていて、あちこちで騒ぎを起こしていた。

 さて魔法の効果か、彼は更生して彼女となり、平穏に暮らしている。

 本人が戻る気がないのか、魔法をかけた少女が亡くなったからか、その後も女児のまま成長を続けている。

「うわ! 未解決の殺人の告白?」

「そうじゃなくて! 倒れた人は見慣れてるってこと!」

 癇癪を起こした龍が、地団駄を踏んだ。

 日を追うごとに、彼女は精神年齢が肉体年齢に近づいていた。ふとした瞬間に、ほぼ幼稚園児になる。

 この時の彼女も、感情が爆発してギャン泣きする幼稚園児になりきっていた。

 いや、まあ幼稚園児なんだけど。

「関根君は、人を困らせるのが得意だね」

 ここぞとばかりに、明希はイヤミを言った。

「警部ほどでは」

 おー、そう来るかとあたしもイヤミで答えた。

 あたしたちの険悪な空気を察したのか、龍のギャン泣きが激しくなった。

「もー、あたし話さないんだから、いじわるばかりするー、あねさんがいじわるするー」

 鑑識を含めた捜査陣の目が、あたしに注がれた。

 いや、ちょっと待て。あたしのせいか?

 知らん顔している明希をひと睨みすると、あたしは龍に話しかけた。

「あー、ごめんね、ほら飴あげるからね」

 仕方なく、あたしは龍をあやす。ちなみに飴は、明希の機嫌をとる用のものだ。

 どうにか龍を泣きやませると、遺体発見の事情を聞き出した。

「あたしたちが、かくれんぼしてたらこっちからすごい勢いで車が出てきたの」

 見取り図を指差しながら、龍は答えた。

 その指さすところによれば、不審な車は、港から猛スピードで国道の方へ走り去った。ということになる。

「それで、あたし達は、こっちの方を見にきたの」

「なんでまた?」

「なんでって、なんか面白そうだし」

 龍は好奇心いっぱいの目で、そう答えた。

 子どもかよ! まあ一応子どもだけどさ!

「で、みよちゃんが死体をみっけて、悲鳴あげたの」

 みよちゃん、と言うのは向こうでギャン泣きを続けている友達のことらしい。

「それでサツに電話したの」

「急にサツとか言うな!」

 流石にあたしはツッこんだ。

「それに、ご遺体を虫でも見つけたみたいに言わないで」

「はーい」

 龍は不貞腐れたのか、頬を膨らませた。

「それより、車の特徴とか、ナンバーとかそういうのは覚えてる?」

「白のライトバン、後ろしか見てないけどハイエースかな?」

 ハイエースか、それくらいの大きさならなんであれ犯罪には便利で手頃だ。

 とはいえ、車種を限定するには証言としては少々心許ない。とりあえずは、周辺の監視カメラに期待することにした。

「終わったよ」

 タイミング良く、鑑識作業の終了が告げられた。

「あんたには、もう一回署の方で話を聞くから」

「えー!」

 あたしは苦労して、抗議のギャン泣きをする、竜をパトカーに詰め込んだ。

 ギャン泣きしている幼稚園児御一行を見送くってから、現場に戻った。

「これはひどいね」

 現場に戻ると、死体を眺めていた、明希が皮肉な声でつぶやいた。

 ジャージ姿の男女が、文字通り輪になって倒れていた。着ている紺色のジャージは何かの制服なのか、全員が同じものだ。

監察医センセイ、死因は?」

「一酸化炭素中毒だよ」

 監察医の答えは意外だった。

「ここで? ですか?」

「他所で死んでから運んだ、に決まってるじゃないか」

 明希が馬鹿にしたように言った。

「こんな開放空間で、一酸化炭素中毒になる訳がない」

「そうでもない」

 あたしたちのやり取りを聞いていた鑑識班長が、口を挟んだ。

「サンプルの分析待ちだが、遺体周辺の一酸化炭素濃度が高い」

「遺体周辺?」

 明希が怪訝そうに聞き返した。

「念の為、最初に計測したが遺体と地面の間なんかのポケットになっている所に一酸化炭素が滞留していた」

 他にも遺体の衣服などの影になっていた所からも、検出されたと班長は続けた。

「念の為、周辺のサンプルを検査するよ」

 しかし、こんな開放で、気体による中毒死などあり得るのだろうか?

「事故の可能性は?」

 明希の質問に、班長は首を振る。

「非破壊検査でもしないとなんとも言えないが、火山でもないから一酸化炭素ガスが自然に噴き出すワケはないな」

「コンテナの中に、不活性ガスとして入れられてたとか?」

「消火剤としてなら、あるかもしれない。しかし、ここで、死ぬ量とするとかなり膨大な物になるぞ」

 班長はぐるりと、コンテナの壁を見て行った。

「ここらの全部から消火剤が漏れたなら、あるかもしれないが、常識的にはあり得ないな」

「消火剤の可能性は薄い?」

 明希もコンテナの壁を見ながら言った 

「例えばコンテナの中に押し込まれてた。あるいは犯行現場にコンテナを被せた、みたいな密閉空間を作ったなら消火剤の可能性もあるだろうが」

「なるほど」

 明希はじっと、遺体を見つめた。

 男が三人、女が二人。歳は、二十代から三十代前半ぐらいに見えた。

 これといって、身体的に特徴があるように見えないが、袖から覗く腕はどれも筋肉質で鍛えられている見えた。

 女はショートヘアとセミロング、髪型で言えば男達には目立った際は見当たらない。

 全員が黒髪、見た感じは日本人のようだ。

「身元は分かりましたか?」

 あたしの質問にも班長は首を振る。

「遺留品は見当たらなかったよ」

 身元不明の集団。

「とりあえず、遺書がないんじゃ、他殺ですかね?」

「わからんよ、『男女』で倒れているんだ、恋愛のもつれから心中したのかもな」

 明希が当てつけみたいに言う。

 流石にあたしがムッとして睨むと、ついっとそっぽをむいた。

 思わずこのままそのチビッコい体を、海に投げこんでやりたくなった。

「まったく、五里霧中だな」

 あたしたちの間の険悪な空気を知ってか知らずか、班長がため息をついた。

 まったく、本当に、何もかも五里霧中ね!

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