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47 勇者トラ、戦争を終結させる

 オリハルコンゴーレムの群れを抜けると、金属の檻で作られたケージに人間たちが飼われていた。

 手足と首に枷がある。その先に、黒い光沢を放つローブをまとった細い体の持ち主がいた。

 頭に輝くティアラを乗せた、髪の長い人の形をした何かだ。手には、ごてごてとした飾りのついた杖を持っている。


 勇者トラは、オリハルコンゴーレムの群れを抜けた段階で、足を止めた。

 杖を持った者を警戒したのだ。


「トラ、魔族だニャ」

「はい」


 勇者トラが口を開き、くわえていたケットシーがぼとりと落ちた。


「なんなの? あんた」


 魔族は、甲高い声を出した。


「女の魔族だニャ。男より残酷だニャ」

「はい」

「失礼ね。ファイヤボルト」


 魔族の女が唱えた言葉に乗り、杖から青白い炎がイナズマの速度で迫った。

 つまり、避けることは不可能だ。

 武装を解いていた勇者トラの前に、青白い炎が渦を巻く。


「ニャ」


 ルフが伏せた。勇者トラは、自分の前に魔法陣を展開させた。

 そのやり方は、賢者カミュに習った。ドラゴン族の賢者カミュは、ドラゴン特有の魔法しか使えなかった。


 だが、ドラゴン族は独特の魔法術式で世界の支配者の一画を占めている。

 目の前に魔法陣を展開し、魔力を叩き込む。

 避けることはできないはずの炎のいかづちが、勇者トラの前で弾けるように止まった。


「フーッ!」


 まだ光が治らないうちから、勇者トラは威嚇の唸り声を発した。

 全身が鎧に覆われるのを待たず、勇者トラは地面を蹴っていた。

 勇者トラがどう動こうと、異次元ポケットから直接転移する鎧は的確に体を覆う。


 ケージの人間たちを飛び越え、魔族に迫る。

 魔族が杖を地面に突き立てる。

 杖中心に、巨大な水晶が出現した。

 勇者トラを包み込む。


「トラ! 封印されるニャ! 逃げるニャ!」


 地面で伏せていたルフが、魔族が放った魔法の正体を看破した。

 体に水晶を張り付かせながら、勇者トラは右手を伸ばした。

 かつては、前足だった手である。

 指先に爪が伸びた。

 魔族の女は飛びすさっていた。


「ちっ、こんな奴がいるなんて、聞いていないわ」


 女は上空に、翼の形をしたなにかを投げた。

 まっ暗い夜である。それが翼の形をした魔道具だとわかったのは、勇者トラだけだろう。

 女が投げたのと同時に、女の体が引き上げられた。


 だが、勇者トラはそれを許さなかった。

 帰還の魔道具と思われるなにかが発動した瞬間、効果を発するより先に、全身にまとわりつく水晶をものともせず、勇者トラは地面を蹴った。


 地面から上空に飛び、魔王領に飛んで帰ろうとした魔族に追いつき、魔族の女の細い首に食らいつき、噛みちぎった。

 魔族の女は、なにが起きたのかわからなかったはずだ。

 帰還の魔道具を使用し、身を委ねた瞬間に、首を噛みちぎられたのだから。


 地面に魔族の首が落ちる。

 その顔は、なんの表情も表してはいなかった。

 ただ魔王領に帰るだけのつもりで、突然死んだのだ。

 勇者トラは地面の首を広い、落ちた体から心臓をえぐり出して共に異次元ポケットに収納した。


 ※


 夜が明けた。

 人間の領地を奪うための侵攻に名乗りをあげた5人の魔族は、全員が狩られていた。

 終結した魔物の半数、強力な魔物の全てが、召喚主の死亡と共に動きを停止した。

 生物に近い魔物は死亡し、無機物に近い魔物は地面に転がった。


 ジギリス帝国の皇帝が総攻撃を命じ、一気に人間の軍隊が前に進んでいくのを、勇者トラはブリージア聖王国の王城にあるもっとも高い塔の上で眺めていた。

 勇者トラが登った塔の上といえば、塔の屋根の上である。

 誰にも気づかれず、ただ従魔のルフとオーロラだけを連れていた。


「とりあえず、女神様の悪夢は回避されたってことだよな?」


 オーロラが朝日を浴び、七色の光をさらに輝かせながら勇者トラの頭上を旋回した。


「当然だニャ。勇者トラは、役目を果たしたニャ」


 ケットシーのルフの肉球が頬に触れる。

 魔王軍の戦力のほとんどを一人で剥ぎ落とし、勇者トラはのんびりとまどろんでいた。

 まだ戦いは続いている。

 人間が大量に死んでいる。


 魔物たちが騒いでいる。

 だが、勇者トラにはどうでもいいことだった。

 勇者トラは、魔王を倒すのだという使命を女神から与えられた。

 召喚した人間たちからは、魔族を葬ることを託された。


 戦場に魔王はいない。ならば、勇者トラにこれ以上やることはない。

 役目を果たしたと自覚している勇者トラは、いずれ魔王に挑まなければならないことは理解しながら、まだ柔らかな太陽の光を受け、ひだまりで丸くなった。


「トラは大活躍だったから、きっと人間の王とか皇帝から、ご褒美がもらえるニャ」

「そうだな。トラは何が欲しいか、考えておいたほうがいいぜ」


 ルフとオーロラが勇者トラに寄り添って寝ながら話していた。

 勇者トラはひだまりでまどろみ、従魔たちの言葉に耳を動かした。

 何が欲しいか。


「……砂」


 トイレがあれば安心なのだ。


 ひだまりの勇者はネコ砂がお好きなのである。

最後までお付き合い頂き、誠にありがとうございました。

まだまだ勇者トラの冒険は続きますが、物語としては本話で完結となります。

個人的には好きなんですが、なかなか難しいですね。

更新が止まっている作品を、しばらく続けていこうと思います。

よろしければ、そちらもご覧ください。


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