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45 デボネー卿の戦い

 デボネーは西門に走り、その途中で見知った顔の兵士が死んでいるのを何人も見かけた。

 巨大な斧を肩に担いで走り、西門が破壊されているのに気づいた。

 人間の形はしていても、デボネーよりも巨大な筋肉の塊が、木を根から抜き取ったような粗雑な武器で、兵士たちを蹴散らしている。


「ブリージア聖王国のデボネー、参る!」


 戦士の慣わしで名乗りをあげたデボネーに、巨大な人型は応じなかった。代わりに、声をあげた元気な獲物だと思ったのか、緑色の肌をした小鬼であるゴブリンや、頭部が犬に酷似した小柄な人型の魔物が群がってくる。


 デボネーは、巨大な斧を自分の体にまとわりつかせるように旋回し、足取りを止めずに魔物の死骸の山を積み上げた。

 巨大な魔物の正面に来て、デボネーが足を止める。

 厨房で会ったゴブリンキングと違って、皮膚は浅黒く、頭部に歪んだ二本の角が突き出ている。


 鬼とも呼ばれるオーガの亜種だと、デボネーは見て取った。

 斧を構える。オーガは木を捨て、腰布に挿していた粗雑な細長い鉄の板を取り出した。

 ただの平らな金属の板ではあるが、オーガの力で振るえば破壊兵器だ。

 デボネーは、オーガの向こうに、さらに巨大な魔物が群れをなしているのを見ていた。

 本当に、魔王軍の中央近くに転移してしまったのだ。


「参る」


 デボネーが構えるより先に、無造作に鉄板が振り下ろされた。

 巨大な斧を頭上で横薙ぎに振るい、オーガの持つ鉄板を破壊する。

 踏み込み、オーガの膝に巨斧を叩きつける。


 オーガが絶叫した。デボネーの斧は、膝の皿を破壊して止まった。

 足を切りとばす勢いで叩きつけ、止められたのだ。

 デボネーは、斧を引き抜こうとした。


「デボネー卿、武器です!」


 背後で兵士が叫ぶ。デボネーは怒鳴りかえした。


「魔物に、まともな武器を渡すわけには参らぬ。武器を隠すでござる!」


 デボネーの言葉を理解したわけではないのだろうが、オーガはデボネーの背後に目をつけた。

 巨大な斧を引き抜く。

 オーガは、兵士たちが抱えるデボネー専用の武器を狙ったのだ。

 デボネーの脇を抜けようとする。デボネーは、オーガの亜種の首に巨大な斧を打ち下ろした。


 オーガの首が転がる。

 城の外から、同族を殺されたことに対する怒りを表すかのように、雄叫びが上がった。


「ざっと20……これは、生きて戻れんでござろうな」


 デボネーが巨大な斧を構える。


「報告します」


 デボネーの背後で、兵士が膝をついた

 小柄で、情報の伝達を専門とする兵士だ。

 オーガの群れが、デボネーとの距離を詰める。


「手短に頼むでござる」

「南門、東門が破られました」

「これまででござるな」


 言いながら、デボネーは諦めていたわけではなかった。

 先頭のオーガに斧を叩きつける。オーガの腹を切り裂いた。

 オーガを一撃で殺し、次のオーガが拳をデボネーに伸ばした。


 避けられず、デボネーは顔を拳で打たれる。

 拳の威力も凄まじかった。

 のけぞりながら、巨大な斧の柄は離さなかった。

 引き寄せながら、体の位置を戻す。


 デボネーの頭部に、岩の塊がぶつけられた。武器として岩を掴んでいたオーガが振り下ろしたのだ。

 巨大な斧を振るう。

 オーガの足が飛んだ。

 デボネーの首に、オーガの手のひらがかかった。

 片足を失ったまま、オーガはデボネーの首を締め上げる。


「まだ……まだでござる!」


 遠のく意識をつなぎとめようとするかのように、デボネーは懐から短剣を取り出してオーガの腕に突き刺す。

 腹を打たれた。もはや、感覚もない。


「デルゴイ将軍、討ち死に! フォレマ将軍、討ち死に!」


 遠くで兵士が叫んでいる声がきこえる。

 その中に、自分の戦死も加わるのだろうか。自分の死は、友人のミランダには伝わるだろうか。

 ミランダまで、魔物の手は届くだろうか。


 遠のく意識の中で、デボネーは近衛隊隊士で同僚の女性で、自分とは似ても似つかない美しい容姿を持った友人を思い浮かべた。

 首の骨が折れる。

 そう思った瞬間、デボネーの体が、石畳に落ちた。

 何が起きたのか、わからなかった。


 目の前にいた巨大なオーガの亜種たちが、まるで魂を抜かれたかのように倒れていた。

 魂を抜かれただけではない。死んでいる。

 デボネーは、締め上げられた首をさすりながら、立ち上がった。


 まだ魔物はいる。その数は多い。

 だが、目を惹く巨大な魔物たちは揃って倒れ、動いている魔物の数は、元々の3分の1程度でしかない。


「まさか……まさか……」

「デボネー卿、これは……」


 デボネーは、背後の兵士を振り向いた。


「魔物どもを率いる、魔族が倒されたでござる! 魔族によって召喚された魔物が、召喚種の死によって絶命したに相違あるまい!」

「では……」

「油断めさるな! 突撃するでござる!」


 デボネーの雄叫びに、生き残っていた兵士たちが歓声を上げた。


~ジギリス帝国本陣~


 ジギリス帝国皇帝グリルデーバルト二世は苛立っていた。

 斥候部隊の報告によると、魔王軍の前面に壁を作っていた数百の古代マンモスが、突如出現したブリージア王城の下敷きになった。


 闇夜に迫った200のワイバーンが巨大な火球で散らされ、生き残りも次々と撃破されていった。

 多大なる戦果である。

 まともに攻撃されたら、勇者たち抜きでは全軍が壊滅していたかもしれない。

 しかも、殆どの勇者たちは何もしていない。斥候たちの報告を総合すると、全て勇者トラの仕業であるらしい。


「進め! ブリージア王城を孤立させるな!」


 皇帝の檄を受け、命令が伝達される。

 およそ10万の人間の軍隊が、力強く前進する。

 魔王軍も前進してきているため、ブリージア王城は遠い。


 両軍の前面の兵士たちは、すでに戦闘にはいっていた。

 勇者たちの活躍が報告される。


「勇者タケル、ゴブリンキング討伐!」

「勇者シノノメ、オーガ討伐!」

「勇者サタケ、オークロードに打ち取られました!」


 ひとりの勇者に、常に複数の斥候が付き、活躍と戦果を報告に来る。

 だが、直接女神が遣わしたという勇者に限っては、ワイバーン討伐以降の活躍が入ってこない。


「勇者トラはどうした?」


 戦況を見定めながら、皇帝が側近の戦士に尋ねた。

 側近の戦士は小さく囁いた。


「単独で敵地の奥深くに斬り込んだとの情報が入っており、現在は生死不明です」

「……勇者トラ、正気か?」

「それは図りかねます」

「だろうな」


 ジギリス帝国皇帝が、闇を睨みつける。勇者トラが本当に正気なのかどうかを尋ねたつもりはなかった。だが、正気かどうか判断できないのは皇帝も同意見だ。

 夜明けには遠い。


 ブリージア王城は、まだ魔王軍の最中にある。ジギリス帝国軍が全力で攻めたところで、王城まで押し返せるものかどうかも疑わしい。


「ちっ……デボネー卿も、これで最後か」

「陛下、魔王軍の中央部隊をご覧ください」


 ジギリス帝国皇帝が、ブリージア聖王国最強の戦士を惜しんでいると、すぐ前にいた王族付き魔法使いが指差した。


「余には見えん」


 あまりにも、暗すぎる。魔法使いは水晶球を差し出した。

 遠くの光景が玉の中に映る魔法道具だと、皇帝は知っていた。

 覗き込む。

 まるで壁のように立ち並び、森林地帯かと思われる巨大な魔物たちが、次々に倒れていく。


「なんだ? 何か起きた?」

「間違いございません。魔族が倒されました。魔族は例外なく魔物の召喚能力を持っていると言われております。自分の身を守らせる魔物は、特に強力な魔物を配置したはずです。何もせず、あれだけの魔物が倒れたのは、召喚した本人が死んだ以外には考えられません」

「よし、勝てるぞ」


 皇帝が顔をあげると、魔王軍の中央が、まるで楔を打ち込まれたかのように空白地帯となっていた。


「突撃せよ!」


 皇帝の怒声と同時に、周囲から鼓笛が鳴る。人間の声では届かない場所にまで命令を伝達するために、広い戦場ほど重宝される道具だ。

 魔王軍の中央が一斉に倒れたことは、全軍が気づくことになった。

 帝国軍の行進が加速する。


「勇者トラへの褒美、いかがいたしますか?」

「うむ。溺れ死ぬほどの猫ずなを与えてくれよう」


 ジギリス帝国皇帝は、ここ数ヶ月で初めて、心から笑顔を作った。

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