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あなたは何をしに、この学舎に来ているのですか?

作者: 千椛

「公爵令嬢だからって、そんなに偉いんですか!?」


 ようやく少し空き時間が取れたので、カフェテラスでお茶を楽しんでいましたら、やたらと派手なピンク色のドレスを着た令嬢が、わたくしに質問してきました。確かこの方は、半年ほど前にこの《公立第一学舎(がくしゃ)》の第五学年に編入されてきたバウデ男爵家の…誰でしたっけ?まぁ、良いでしょう。


「わたくしが偉いかどうかを聞いているのなら、この学舎(まなびや)においては、間違いなくわたくしは偉いと言えます。それが何か?」


「えっ?!⦅普通、ここは否定する所じゃないの?⦆えっと、それは、その・・・そう、偉いからって、何をしても許されると思っているんですか?!私に対する嫌がらせを、今すぐ止めてください!」


 突然何を言い出すかと思ったら、理解の範疇外の発言ですわね。


「あなたに対する嫌がらせとは?」


「私の私物を隠したり、焼却炉に放り込んだりすることです!」


「あなたの私物?それはどこに置かれていたのですか?」


「とぼけないで下さい!そんなの、私の机の上に決まってるじゃない!」


「私物を机に?では、それはわたくしではありません。この学舎において、私物は全て決められたロッカーで管理することになっています。それ以外の場所に置かれているものは、定期的に清掃人が回収し、忘れ物専用箱で2日間保管、その後持ち主が引き取りに来ない場合は、焼却処分することが校則で決まっています。おそらく、そうやって処分されただけでしょう」


「えっ、なにそれ…⦅そんな校則知らないし!だけど、物が無くなったって騒いでも、同じクラスの連中が同情してくれない理由が判ったわ…⦆」


「この学舎に入学する際に渡される生徒心得に書かれていますよ。お読みにならなかったのですか?では、わたくしからも質問です。あなたは何をしに、この学舎に来ているのですか?」


「えっ?あ、えっと、私は、身分に関係なく、色んな⦅イケメンで高爵位で金持ちな⦆人と仲良くなりたくて…」


「そのような事は娼婦や女給にでも出来ること。ならば、それになれば宜しいのでは?わざわざこの学舎に来る必要はありません」


「そんな、ひどい…私が元平民だからって、バカにしてるんでしょう!」


 もしかしてこの方、言語の理解能力に問題があるのかしら?


「わたくしは、平民をバカにしたのではありません。あ・な・た・に提案しただけです。そこを間違えないで下さい。この学舎にも多くの平民がいます。そこのあなた、あなたは平民でしたね?この学舎に何をしに来ているのですか?」


「わ、私は故郷の川に丈夫な橋をかけたくて、建築と土木を学びにきました。あと、将来的には誰も見た事の無い形の建物を建ててみたいです」


「そこのあなたは?」


「俺、いや、私は実家が商会なので、貴族の方達の嗜好や、いろんな地域の特産品を知りたいのと、できるだけたくさんの外国語を学んで、他国との交易に役立てたいです」


「このように、ここにいる平民の学生達は、皆、目標を持ち、それに向かって学び、努力しています。そんな彼らをバカにするような事をわたくしは致しません。では、もう一度聞きます。バウデ男爵令嬢、あなたは何をしに、この学舎に来ているのですか?」


「……⦅金づるを捕まえるためだなんて、こんな状況で言えるわけないでしょ!⦆もぅ、そんな屁理屈ばっかり言ってるから、いつまでたっても第二王子の婚約者候補なのよ!だから王子と仲の良い私に嫉妬して、意地悪ばっかり言うんでしょう!」


 あぁ、思い出しましたわ。この方、最近第二王子やその友人達と仲の良いというミリエル嬢ですね。一年ほど前に、ご両親の再婚を機に男爵籍に入られたのでしたっけ。


「それも間違っています。わたくしが彼の婚約者候補なのではなくて、()()わたくしの婚約者候補なのですよ。しかも、それも3ヶ月前に外したので過去の話です。わたくしは現在、隣国の王弟殿下との婚約が内定しております。なので、あなたに嫉妬などという感情を抱く理由など存在しないのですよ」


「⦅嘘ぉ、あの超イケメンで金持ちって噂の?て言うか、王子に聞いていた話と全然違うじゃない!どうなってるの?!⦆そんなはず無いわ!だって、実際私は⦅同じクラスの女子に無視されるっていう⦆嫌がらせをされてるもの!たとえ貴女自身がしてなくても、きっと誰かに頼んでやらせてるに違いないわ!」


「そんな暇な人は誰一人いないと思いますわ。特に明日から学年末の試験ですからね。試験範囲が発表されてからこの二週間、皆さん必死で勉強されてますし」


 学年末テストは、学年や専攻にもよりますが、一日三から四教科のテストが三日間かけて行われます。おかげでわたくしも、しなくてはならない事が山積みで、ようやく取れた休憩時間でしたのに…。


「別にそんなに必死にならなくても、貴族なら、全員卒業できるのに……」


 あら、この方、根本的に色んな事が判っておられないようですわね。


「それも間違ってますわ。貴族の子弟は全員無試験で入学できますが、この()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ため、貴族は全員ここの卒業生だというだけです。学年末で総合成績が下から5番目までに入った貴族の子弟は自動的に退学となりますし、高位貴族はCクラスに落ちた時点で、やはり退学となります。その後は貴族籍を廃され、平民として暮らすしか無くなりますから、皆さん一生懸命なのですよ」


 長年、有名無実化していたこの制度も、ここ二年間程は正常に機能していますしね。


「ちょ、ちょっと待ってよ!何で貴族だけが退学なのよ!そんなの、おかしいわ!」


「厳しい試験に合格して入学してきた、平民の生徒への当然の配慮ですわ。彼ら彼女らの中には、働きながら勉強している者もいます。そのような者の中には勉強時間が中々取れない者も居ますからね。もっとも、定期テストで最下位を二回連続で取った場合は、例外無く退学になりますが。

逆に、幼い頃から家庭教師がついて勉強している者達は ある程度出来て当然。出来なければ、そこで切り捨てられます。でもおかしいですわね。今言った事は全て、入学時に渡された生徒心得に書かれていますのに。必ず目を通すよう、言われていたはずですが?」


 わたくしの言葉に、周りの生徒達がうなずく。


「ちなみに、あなたが仲良くされている方達ですが、今回のテストの結果によっては退学もあり得るので、気を付けるようお伝え下さい」


 まぁ、一昨日あたりに届くよう、それぞれの保護者に宛てて手紙を出しておいたので、おそらく今頃は家ぐるみで試験対策に必死になっている頃でしょうが。


「え?!だって、王子様や、宰相様の息子なんだから、そんな事ある訳が…⦅あいつら、ここ二、三日見かけないと思ってたら、もしかして私をほったらかして、自分達だけで勉強してる?⦆」


「王族であれ、例外はありませんよ。なにより、幼い頃から英才教育を受けているはずの王族が、Cクラスになるなど、本来有ってはならない恥ずべき事態です。したがって、そのような者はさっさと切り捨てられて当然です」


「そんな…彼らはみんな、⦅私に⦆優しくて⦅顔と金払いと便利が⦆良い人なのに…」


「優しい愚か者など、国の中枢にとっては害悪でしかありませんわ」


「そんなの、ひどい…そんな考え、絶対間違ってます!私、今からこの学舎の偉い人にお願いしてきます。きっと⦅おじさんだろうから、色仕掛けより、泣き落としで⦆話せば判ってくれるはずよ!」


「その必要はありません。なぜなら、この学舎の理事長は、わたくしですから。言いましたでしょう?この学舎において()()()()()()()のだと。ちなみに、ミリエル・バウデ男爵令嬢。貴女も退学寸前ですから、試験、頑張ってくださいね」


「えっ、ウソ…⦅悪役令嬢が理事長って、なんの冗談よ!?おまけに退学なんてなったら、せっかく上手くいってた玉の輿計画が、おじゃんになるじゃない!⦆ わ、私、帰ります!⦅とりあえず、同じクラスの平民生徒を捕まえて、テスト範囲を聞き出して、出来ればノートを借りて、それから…あぁ、もういっそカンニングした方が早いかも?!⦆」


 あら、慌てて帰って行かれましたわね。でも、今から勉強されて間に合いますかしら?確かあの方、前回の試験でビリから二番目だったはずですもの。


(それにしても・・・)


 わたくしが飛び級システムを利用して卒業するまでの四年間、テストの問題用紙の横流しから、賄賂を貰っての点数のかさ上げ、はては平民の生徒への嫌がらせに至るまで不正の証拠を集めまくり、文部大臣に提出し続けた結果、大幅な職員の入れ替えが行われたのが二年前。そして、その功績を認められたわたくしは、卒業後わずか半年でこの地位についたのですが、第二王子(おバカさん)達は未だに自分たちが優遇されると思っていたようですね。当たり前の様にテストの問題用紙を寄越すよう、職員に圧力をかけて来たと、昨日報告がありました。


(おそらく、今頃はジリジリしながらテストの問題用紙が届くのを待ってるでしょうが、そんな物が届く事などありませんのに…ふふっ)


 問題用紙は全てわたくしが自宅である公爵邸で管理しておりますし、問題を作成した教師達は情報漏洩できない様に、神前魔法で契約済みです。

 もっとも、彼らや彼らの家族がごねた時用として、学舎中に設置していた記録用の魔道具を手分けしてチェックし、圧力をかけたという動かぬ証拠を集めると同時に、カンニング防止の魔道具の設置をしなければなりませんでしたが、それも先ほど終わったと報告を受けました。


(後、しなければならないのは、魔道具がきちんと作動するかのチェックと、圧力をかけられた職員の保護ぐらいかしら?)


 さて、お茶も飲み終わりましたし、そろそろ仕事に戻るといたしましょう。

評価及びブックマーク、ありがとうございます。


感謝しかありません。


誤字報告、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] なんとも鮮やかです。面白かったです。短編の醍醐味が詰まっていました。
[良い点] オーバーキルな『ざまぁ』が無い事。 第二王子と愉快な仲間たちはともかく(言動からみると転移者っぽい)ピンクは、一夜漬けでも頑張ればひょっとしたらもしかしたら一つぐらい順位あがるかもしれない…
[一言] 貴族を現代の官僚、知事、大臣候補と考えると当たり前なんだよなあ。 年取ってダメになっていくのは仕方ないにしても、せめて若い時代は優秀であるのは必須だよ。
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