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勝負師

作者: 櫛引祐二




初デート

密かに思いを募らせていた、

憧れの女流雀士と


奮発するぞ

なぜなら今夜は、支給日の夜

後先のことは考えない

いや、もはや、

考えても仕方ない境地にまで来てしまっている

新大久保の、チーズタッカルビが美味いと噂の店


チカチカ光る街のネオンが、

なんだかいつもただ通り過ぎている時より、

鮮明に、濃く映る




心病んですぐ仕事辞めてしまって、

実は俺、生活保護者なんだ


え?


自己破産してるんだ


え?


実は、俺、今、家が無いんだ


え?


家族とも、友達とも、誰とも繋がってないんだ


え?





俺と、、、、結婚してください



ちょっと、、私、先に帰るね





コインロッカーから、預けていた、

パンパンに膨れ上がったリュックサックを取り出す


衣類と、最低限の生活必需品と、機能してないような貴重品と



そりゃあそうだよ

負けたけど、読みはバッチシ当たった感覚

はははははっ、、



笑えない



今夜はもう、大人しく、

行き付けのカプセルホテルに戻ろう









無心に、陽の光を浴びる


東京の、何往復も歩いた街並み


中野の天神神社、ブックファーストの2階トイレの階段前のスペース、高円寺駅のロータリー、阿佐ヶ谷の高架下ストリートのベンチ、二つのトイレ、


重たい荷物を、よっこらしょ、と背負い、

テクテク、よちよち、歩き、

誰にも相手にしてもらえず、

東京の慣れた街を、右往左往して、

ただただその日をやり過ごす

そんな毎日



ふと、

自分の人生の虚しさに、押し潰されそうになる


いつからこうなったんだっけ

何でこうなったんだっけ


死んでしまいたくなる

フッと、消えてしまえるなら、、、、、



いや、、、





心にも魂にも、絶対、寿命はある


耐えられるもの、耐えられないもの


年々、しんどいな、耐えられそうにないな、っていうものが、少しずつ、少しずつ、心を浸食していっているように感じる


違うのかなあ


僕の魂の時間は、あと何秒刻んだら使えなくなるんだろう

いや、この体に魂を留めておく必要がなくなった時に、人は、形上は、死ぬってことなのかな

心は、魂だけは、、、、、、




わからない






全部、失い続けるんだろうな

人生の好機も、友達も、家も、若さも、自信も、恋人も、家族との絆も、信頼関係も、仕事も、何もかもを


そう、何もかもを、、、







今日も、日課の、、、歩く


雨の日は最悪だ、傘を差さなきゃ、ただでさえ、荷物が重たいのに

チェックインの時間まで、

どうしよう



ずっと2ヶ月間、

パンパンのリュックを背負って、都内を、

新大久保から中野、中野から高円寺、阿佐ヶ谷、また逆方向に、阿佐ヶ谷から大久保、高田馬場、そして新宿、たまに宿の安さを求めて、その時だけは電車移動で、水道橋、などと、歩き回っていたら、肩や心臓が、体内の血管、臓器が、キューっと、潰れてしまいそうな、とてつもない、今まで味わったことのない痛みを伴う体になってしまった

リュックサックを、重たい物を、背負えない体になってしまった


ただでさえ、昔タバコの吸い過ぎで、

不整脈持ちの体なのに、、、

これから、この荷物、移動、どうすればいいんだ、、





ふと、最近の自分にとっては、

体が休まる天国の電車内で、

小さめのキャリーバッグを携えた、

ゴスロリ風ファッションのギャルを目にする




キャリーバッグ、、、、、




ドンキホーテで、小さめの、1番安い、人生で初めての、キャリーバッグを買った






今までの負荷が、まるで嘘のようになった






中野区役所の食堂前のソファーで、

100円の、

紙コップのコーンポタージュスープを啜る

体が、少し、温まる

最近ずっとお腹の調子が悪いので、

昼食は、この一杯で済ます

食堂は、出禁




人生の、全ての関係が、全ての関連が、切れた

仕事も、もう、4年以上まともに働いていない


全部、偶然のことだったのかな

全部、偶然の成り行きなのかな


いや、自分から手放した、自分から、切った

きっと、自分の心が弱くて、そうせざるを得なかった

居なくなるしか、なかった



僕は、ただ、麻雀がそこそこ上手い、

麻雀が好きなだけの男


最下層、地下、アマチュア雀士



そして、プロ雀士には、憧れも嫉妬もある



最もキラキラしたステージから、有名プロ雀士に、和了り牌の、綾の牌をタネに、今の対局のことを言っているように見せかけ、僕にしか分からない感じで、ディスられる


明らかに、僕に向けた煽り

声色が、表情が、違う、変に強調されている


きっと、少し前に、アパートから出されてすぐの時に、なけなしのお金で出た、ワンデー大会の放送対局の映像を見たんだろう

バカにしたいんだろう、負けて可哀想に、と、

お前は弱い、と



それで、良い、、、これで、良い


僕も、前に、彼のことを傷つけた


それで良い







もう、失い過ぎて、なにが負けでなにが勝ちか、わけが分からない


あるとすれば、まだ、この、そこそこ健康な、体

心は、ズダボロ


考えたくない




寧ろ、「人生勝ち負けじゃない」

それだけを矜持に、今まで、今日までを、生きてきた



でも、もう、分からない

自分以外のものに、

生かされてきただけだったのか

絶望を、感謝を、どうすればいいのか

誰かのためとは、本当に、

誰かのためになるとは、どういうことなのか

正しさとは、優しさとは何なのか

自分を、どう発展させていけばいいのか

そもそも、そもそも、全て間違いなのか


その時、その時の、麻雀の勝ち負けこそが、だけが、俺の人生の勝敗だ


もう何も、考えたくない


考えたくない







ある日、担当のケースワーカーさんに、何度目かの、保護施設への入居を勧められた

もう、カプセルホテルに泊まるお金も無かった


結局、僕には、ホームレスになる根性もなかった

お金のことを考え、路上睡眠に挑戦した日もあった、でも、駄目だった


人の目が気になる、車の音が気になる、外気が気になる、犬や、誰かに襲われるかもしれない、晩夏でも、外は、夜は、以外と寒い、暖かい、布団で寝たい、地面は、当たり前に衛生が悪い、こんなことをしていたら、きっと、すぐに体を壊してしまう、いつの間にか、季節は、もう、肌を切るような寒さの、12月、、、




怖い、、、、、




この身の上になってから、

3ヶ月も経ったんだ、、、



近いいつか、また、麻雀を打ちに行ける、

それが何より大事で、施設に入った方が良い、と判断した


僕は、ケースワーカーさんの勧めに従った






勝ちか負けかなんて分からない、いや、きっと負け、

だが、、、





幸せだ





施設といえど、街に出て、散歩して、帰って来れる、

戻れる場所がある


個室部屋で、暖かいベッドがある、テレビもある、

朝食も夕食も出る


お風呂に入れる、洗濯も出来る、無料で


夜、夜食を、コンビニに買いに行ける






夜、夢を見れる






どこかの学校の中を、天井を、くまなく、

枝渡りしている夢だった

鉄骨から鉄骨へ

LUNA SEAの、JEJUSを歌いながら

一人で、お猿さんのように、

空中をブランブラン、大独唱しながら




案の定、自分の歌声で目が覚めた

施設の皆さん、

夜中の2時45分に、ごめんなさい





それにしても、チーズタッカルビは美味かったなあ、、、






明日、競技麻雀を打ちに行ける







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