映画館退席RTA(リアル タイム アタック)
「終わったー」
タツヤはエンドロールが流れ始めると同時に席を立った。
「早いですねー。
エンドロールが流れ始めたと同時に席を立ちました。
隣にいる彼女さんも不満顔です」
実況の山口が言う。
「いや、RTA走者としてはまだまだですね。
これでは一般的なお客さんと大して変わりません。
記録を出すのは難しいと思います」
解説の田中が言う。
「え? これで一般レベルなんですか?」
「ええ、RTA走者はもっと早い段階で席を離れます。
少し戻してみましょう」
田中が言うと、映像が少し前に戻る。
「ほら、見てください山口さん。
ラストシーンが終わる前に席を離れる人がいるでしょう。
映画が終わる前に席を離れないと、
RTA走者としては認められないと思います」
「厳しい世界なんですねー」
「もう少し戻してみましょうか」
さらに数分前。
「ほら、あそこにこっそり席を離れる人がいるでしょ。
最後まで我慢しきれずバックレるタイプですね。
あまりに退屈すぎて逃げたのかもしれません」
「彼が今回の優勝者でしょうか?」
「いえ……」
さらに数分前。
「おや、中途半端なところで抜け出す人がいますね」
「彼はソシャゲのイベントに集中したいようです。
映画が終わるまでトイレにこもるつもりでしょう」
「うわぁ、すごいですね……」
「世の中には彼を上回る走者がいるんですよ」
「え? 本当ですか?」
「はい、オープニングまで戻してみましょう」
「オープニング⁉」
映画の始まりまで戻る。
「ほっ……本当だ!
映画が始まると同時に席を立って――
ああっとっ! そのまま戻らない!」
「これが退席RTA世界覇者の実力です」
「彼は何をしに映画館へ来たんですか⁉」
「分かりません……。
ですが、もしかしたら雰囲気を味わいに来たのかも」
「ふいんきですか⁉」
「はい、映画が始まる前の広告を見て満足するタイプです。
なかなかいませんよ、こういう人」
「もはや寄付をしに来た人ですね。
映画業界を救いたいんでしょうか?」
「ある意味、ヒーローかもしれませんね」
「よかったー! この特典、欲しかったんだよねぇ」
ホクホク顔で映画館を後にするマモル。
彼の目当ては10回同じ映画を見ることでもらえる限定グッズだった。
「これで皆に自慢できるぞー!」
嬉しいそうにするマモルだが、ここへ来るまで長かった。
このグッズは特別な想い出になるだろう。
グッズと抱き合わせでコンテンツを売る時代。
映画館で退席RTAが流行るのも時間の問題かもしれない。
誤字報告ありがとうございます。
ふいんき、はわざとでございます。
恐縮ですが、表記はこのままにさせて頂きます。
ご指摘ありがとうございました!