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街へ出かける

 アンジュの種族はみな黒髪赤眼であり、ニンゲン達からは好奇の目で見られることがあった。アンジュは自分の容姿が嫌いだった。こんな醜い目の色で産まれたことを、憎んだこともある。


 そんなアンジュはヒロタと出逢い、人生が180度変わった。ヒロタはアンジュの目の色を嫌うことなく、優しく接してくれたのだ。それに夜は激しく求めてくれるし。


「アンジュ、アンジュ」

「ふふ、どうされましたか」

「そろそろ……」

「ふふ、どうぞ出してくださいまし……」


 ヒロタと身体を重ねる時間は彼女にとって何よりも心地よい時間だった。好きな人と好きなだけ愛を交わせる。最高としか形容できなかった。


「はぁ、アンジュ」

「ヒロタさん、可愛いです……」

「アンジュも可愛いさ」

「褒めたって何も出ないですよ。ふふ……」


 ヒロタに褒められて。

 アンジュの頬は緩みっぱなしだ。

 彼と過ごす日々の中で、何回笑ったか。

 多すぎて数える暇もなかった。


「明日、仕事休みなんだ。だから、久しぶりにどこか出掛けようよ」

「いいですね……ヒロタさんと一緒なら、どこでもきっと楽しいです」

「アンジュと一緒なら僕も……どこだって」

「ヒロタさん……」


 再び身体を重ね。

 お互いの愛を交わすのだった。


※※※


「わーっ、ヒロタさんっ。こっちこっちです」

「はは、待ってよアンジュ」


 街へ出かける。

 辺りには重そうな装備をした冒険者が物を売っている商人と値段交渉をしていたり、あるいは物乞いが金のありそうな客に食べ物をねだっていた。

 アンジュは結婚記念日にヒロタが買ってあげた洋服を身に付け、子供のような無邪気な笑顔で目を輝かせながら売っている商品を眺めていた。彼女の目にはどれもこれもが宝物に見えるのだろう。


「これっ、可愛いですっ」

「あー、髪飾りか。そういえばアンジュは持ってなかったっけ」

「は、はい……この前全部売ってしまったので」

「……そっか」


 ヒロタは申し訳なさそうに。


「いつか、買ってあげるからね」

「い、いえ……私は別に」

「欲しい、よね。そうだよね、アンジュもオシャレとかしたいもんね」

「……っ」


 アンジュはうつむき。

 目の前の髪飾りをジッと見つめた。

 本当はすごく欲しい。けれど、無駄な出費はしたくない。ヒロタだって欲しいものがあるのに、自分だけワガママを言う訳にはいかないのだ。


「市場、離れよっか」

「……そう、ですね」


 貧乏夫婦は手を繋ぎながら。

 その場をあとにするのだった。


※※※


「お花さんが咲いてます」


 花畑に着くと。

 アンジュが細目を幸せそうに緩めてそう言った。

 赤青黄色と様々な色の花が寄り添って咲いているこの花畑は、夫婦にとって思い入れのある場所だった。


「付き合い始めた時さ、ここでアンジュが転んで怪我しちゃったんだよね」

「そんなこともありましたね……お恥ずかしいです」

「今も傷跡が残ってるんだよね」

「はい……」


 まだ夫婦が結婚する前。

 二人はこの花畑に来たことがある。

 その時にアンジュが転んで、大怪我をした。

 ヒロタはアンジュを背負い、必死で病院まで運んだ。治療費はヒロタが払った。貯金を全部使ったけれど、それでもヒロタが後悔することはなかった。自分の為に使うよりも、アンジュの為に使った方が絶対にいいと思ったのだ。


「傷、痛むかい?」

「……いえ、もう痛くありません」

「歩くのは平気なんだね」

「ええ、ですからお外に出かけるのは楽しいです。それに、ヒロタさんがいますから……」

「アンジュ……」


 ヒロタはアンジュの頭に手を乗せ。

 彼女を撫でるなどした。

 幸せそうに目を緩ませるアンジュ。

 サラサラの黒髪ロングは撫でると気持ちいい。

 瞳の奥が赤く光り、彼女を妖しく彩る。


「えへへ、ヒロタさん」

「アンジュの瞳は綺麗だね」

「そう、でしょうか……」

「僕はそう思うよ」

「他の人は怖いと言います」

「怖くなんかないさ。とっても綺麗で、ずっとずっと見ていたいよ」

「っ……えへへ」


 ほにゃりと表情を崩し。

 幸せそうに微笑むアンジュ。

 今日だけは自分の瞳の色が誇らしい。

 だって、大好きな夫が綺麗だ綺麗だと褒めてくれるから。……と、その時ヒロタが何かを見つける。


「ん? これは……?」

「どうされました?」

「なんかお花の隙間に落ちてる。これは、鍵かな」


 花と花の間に光るものが落ちていた。

 よく見ると、それは鍵だった。

 名前が書いてあった。先程寄ったお店の名前だった。二人は顔を見合せながら。


「届けてあげよう」

「届けてあげましょう」


 同じこと言ったもんだから。

 何だかおかしくなってしまって。


「ふふ、同じこと言っちゃいましたね」

「ははっ、そうだね」


 こんな風に笑い合い。

 先程寄った店に戻るのだった。


※※※


「へい、いらっしゃい。おや、さっきの子達か」

「さっきは何も買わずにすみません。あの、花畑のほうでこの鍵を見つけたんですけど」


 ヒロタが鍵を渡すと。

 商人のオジサンはアッと声を上げ。


「おー! これ探してたんだよっ! ありがとう!」

「いえ、私達は大したことは……」

「いやいや、これがなかったら大変なことになってたよ……! 本当にありがとう……」

「いえいえ、そんなそんな……」


 感謝の言葉を述べるオジサン。

 二人はただひたすらに謙遜するだけだ。


「じゃ、僕達はこれで……」

「待ちなよ。お礼がしたいな」

「え? お礼、ですか」

「おうっ! うちの商品、いくつかあげるよ!」

「ほ、本当ですか?!」


 ぱあっと花が開いたような笑顔になるアンジュ。

 商人のオジサンは低い声で笑ったあと。


「ほれ、持ってけ!」

「こ、こんなにいいんでしょうか」

「ずっと売れてなかったからなぁ。ちと流行遅れだが、宝石も付いているんだぜ」

「すごい……ありがとうございます……!」

「本当にありがとうございます……」


 二人は何度もお礼を言って。

 宝石付きの髪飾りを幾つか受け取るのだった。



 その後、家に帰り。


「ヒロタさん、ヒロタさん」

「おー、さっそく身に付けているね」


 黒髪に似合う髪飾りを身に付けるアンジュ。

 サファイアの宝石付きのキラキラした髪飾り。大人っぽい顔立ちのアンジュが身に付けると、余裕のあるお姉さんのような印象を受ける。妖しい色気もふわりと漂い、ヒロタはすっかり見惚れてしまった。


「あの、ヒロタさん」

「ん、おいで」

「はい……」


 綺麗になった妻をヒロタは抱きしめる。

 今日のアンジュはいつもより可愛かった。

 もしかしたら久し振りにヒロタとデートをして、テンションが高くなっていたのかもしれない。


(アンジュ、楽しそうで本当に良かった……)


 ヒロタはそんなアンジュの様子を嬉しく思い。

 自然と頬が緩むのだった。今日も夫婦は幸せいっぱいである。 




  

 





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