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お弁当を届けてくれる奥さん

「ふぅ、今日も頑張るぞっ」


 ヒロタはゴム手袋をしてギルド内のトイレを掃除していた。便器の中でも比較時綺麗な部分は青い雑巾で、汚い部分は赤い雑巾で拭くなど、トイレ掃除にもルールがある。和式トイレに立つとセンサーが反応して水が流れてしまうので、センサー前を雑巾で隠し、水が流れないようにするなど工夫も必要だ。


 ゴシゴシとブラシで便器を掃除しながら、ヒロタは早く家に帰りたいなぁと思っていた。

 結婚する前は寂しい生活をしていた。

 だけど、アンジュが家に来てから毎日が楽しい。こんなにもハッピーな気持ちになるのだから、彼女には感謝しなくてはならない。


「マッジー? トイレ使えねぇの?」

「掃除中じゃーん。ッチ……最悪なんだけど」


 ヒロタがトイレ掃除をしていると。

 冒険から帰ってきた男達が中に入ろうとしていた。

 ヒロタは彼らの前に立ち、一言。


「すみません、ただいま清掃中でして……」

「はぁぁ? だったら早く掃除しろよボケ」

「は、はい今掃除しているところです」

「マッハで終わらせろっての……使えねー」

「はぁ、失礼しました」


 会話が成立しないので取り敢えず謝って掃除に戻るヒロタ。ギルド内にはよく脳筋バカやイカレ魔法野郎が『清掃中』と看板を立てかけているにも関わらずズカズカ入ってくるので、とても苦労する。


 お昼時間になり、休憩室に向かうヒロタ。

 今日のお昼はアンジュが作ってくれたお弁当だ。

 自分より先に起きて、せっせと料理を作っていたので食べるのが楽しみだ。


「あれ……? ない……」


 カバンの中を探しても、お弁当がない。

 どうやら忘れてしまったようだ。

 しまったとヒロタは思った。

 これでは午後の仕事まで身体が持たない。


「あれ、ヒロタ君。お昼ないの?」

「あ、はい……忘れてきてしまって」


 ギルド嬢のリリィが心配そうにヒロタに話しかける。銀髪の髪をしたエルフ族のリリィは最底辺階級のヒロタにも優しくしてくれる数少ない仕事仲間だ。


「大丈夫? 私のお昼ちょっと食べる?」

「い、いえ大丈夫です。リリィさんのお昼ですし、僕がもらうわけにはいきませんよ」

「そっかぁ。ふふ、ヒロタ君はいい子ねぇ」


 優しそうにウフフと笑うリリィ。

 関係者用休憩室の外――ギルド内では歴戦の戦士達が今日の魔物は強かっただの弱かっただのと盛り上がっていた。


「ちょっとお店行ってお昼買ってきます」

「大丈夫? お金ある?」

「う、正直あまり……」


 余計な出費はしたくない。

 だけどお昼を食べないと仕事にならない。

 どうしようかと考えていると、ギルドから騒がしい声が聞こえ始めた。

 

「何かしら、ちょっと見てくるわね」

「あ、僕も見てこようかな」


 リリィとヒロタは部屋を出て、ギルド内を覗いてみる。すると、そこには美しい女性が片手にお弁当を持ってキョロキョロしていた。……その女性はアンジュだった。


「お、おい誰だよあの可愛い子……」

「クソっ、可愛いな……お、俺話しかけようかしら」

「うわっ、こっち見たっ! 恥ずかしいよォ」


 ギルドにいる強者達がソワソワし始めた。

 アンジュのあまりの美貌に驚愕しているのだ。

 あとは揺れるおっぱいとか、プリっとしたお尻とか、ふわりと揺れる黒髪とか、全てが彼女を装飾し、近寄り難いオーラをまとっていた。


「ほら、お客さんよ。行ってあげなさい」

「は、はい……!」


 リリィに背中を押され。

 ヒロタはアンジュのもとに駆け出す。


「アンジュっ!」

「あ、ヒロタさん……!」


 ギルド内の強者達が一斉にヒロタを見る。

 清掃員用作業着を着たモヤシ体型の青年。

 そんな彼にだけ幸せそうな顔を向ける美人で巨乳の女。童貞の強者達には刺激が強すぎた。


「あのっ、お弁当……」

「ありがとう……僕の為に届けてきてくれたんだね」

「はい……きっと今頃お腹を空かしているだろうと思ったら、思わず来てしまいました」

「アンジュは良い奥さんだね。ありがとう……」

「いえいえ、まだまだ修行中ですので……」


 頬を赤らめ。

 そんな風に謙遜するアンジュ。

 幸の薄そうな細目をキュッと結び。

 プルっとした唇を幸せそうに緩める。

 ヒロタはアンジュの頭を撫で、一言。


「お弁当、いつもありがとうね。美味しく食べるよ」

「は、はい……一生懸命作りましたっ」

「アンジュのお弁当、いつも美味しくて元気が出るよ。本当にありがとう」

「そ、そんな……私こそ、ヒロタさんに元気をもらっています……」


 アンジュはやはり頬を赤らめ。

 そんなふうに謙遜するのだった。

 ……ギルド内の強者達は何だかとてつもなくドキドキしてしまい、アンジュが帰ったあとも口には出さなかったけれど、一日中彼女のことを考えるのだった。


※※※


「いっただきまーす」


 ヒロタはアンジュが作ってくれたお弁当を食べる。中身は卵焼きとウインナーが三つ。ご飯の上に梅干しが一つ乗っている。きんぴらごぼうもあるではないか。質素だけどとても美味しそうだ。


「あら、ヒロタ君のお弁当美味しそうね」

「はい。妻が作ってくれたんです」

「良かったわねぇ。羨ましいわぁ」


 リリィが微笑ましそうにそう言うと。

 ヒロタの同僚のシュウがやってきて。


「いいもん食べてるじゃないの」

「あ、シュウさんお疲れ様です」

「よー、お疲れ。今日も美味しそうなお弁当だね」

「はい。妻が作ってくれたんです」

「おー、いいなぁ」


 シュウはニコニコ笑いながら。

 隣の席で買ってきたパンを食べ始めた。

 ヒロタもさっそくお弁当を食べ始める。

 

「うん、やっぱり美味しいなぁ」


 アンジュのことを思いながら。

 楽しいお昼を過ごすヒロタだった。

 

※※※


「ただいまー」

「おかえりなさい、ヒロタさん」


 一日中働いて。

 ようやく家に帰って来るヒロタ。

 妻のアンジュが温かく出迎えてくれる。

 いつものようにモジモジとして。


「ん、おいで」

「は、はい……」


 ヒロタの胸にアンジュは頭を寄せ。

 そして彼の背中に腕を絡めてくる。

 

「よしよし、アンジュは可愛いなぁ」

「ふぁ、ヒロタさん」

「今日は職場のリリィさんがお菓子をくれたんだ。デザートに食べようね」

「はい……あ、プリンなんですね」

「アンジュ、プリン好きだろ。最近あまり買ってあげられなかったけど……」

「嬉しいです……ありがとうございます」


 二人はしばらく抱き合ったあと。

 楽しい夕食を過ごすのだった。

 今日もこの夫婦は幸せいっぱいである。






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