表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/14

一方勇者パーティーは

 ゼルとエノが遭逢し、スキル無視の別の能力が判明したその頃、王宮のとある1室で若い男女3人が向かい合うように話をしていた。


「今日は最高の日だぜ! なにせオレたちが魔王を倒す勇者パーティーに選ばれるんだからな! これでオレたちは時代に名を残すことになるぞ!」

「時代に残るのはどうでもいいけど、最高の日ってのには同意ね。魔王を倒せば栄誉と名声で一生遊んで暮らせるでしょうし。しかも聖剣を手に入れた時点で魔王は倒したも同然。唯一懸念していた呪いの話も、あの実験体を使うことで無いって証明できたしね」


 彼らはゼルの元パーティーメンバーであり、魔王を倒すことのできると言われる聖剣を手に入れたことで勇者パーティーとしてこれから国民に発表されるのだ。

 大柄の男ラージ、紅一点のアルラは、追放したゼルの話で盛り上がる。


「ねぇ、私たちが魔王を倒したらさ、あのゴミに何か送ってあげようよ。一応役には立ったんだしさ」

「おっ、いいじゃねぇか! あの雑魚へのプレゼントだろ、そうだな……倒した魔王の歯でもやるか! あいつ泣いて喜ぶぞぉ〜! はっはっはっはっ!」


 ラージは品のない大きな声で高笑いし、そんなラージの提案にアルラは足を何度もジタバタさせながら払えおかかえていた。


「ははははっ! いいねそれ! 去った仲間にも贈り物をしてあげるなんて私たちったらやっさしい〜!」

「全くだ! お前もそう思うよな? マルク!」


 ラージが笑いながらマルクの方に視線を向ける。当然のように乗っかってくるものだと彼は思っていたのだが、なぜかマルクは気の抜けた雑な答えを返した。


「……あぁ、そうだな」

「なんだよマルク、ノリ悪いぞ? これからオレたちを祝福する式典があるってのによぉ。全国民がオレたちを讃え始めるんだぜ、テンション上がんなねぇわけないだろ」

「あぁ、そうだな」


 ラージはなおも反応が曖昧なマルクに怪訝な視線を向ける。自身の知っているマルク像とは少し違う今の様子に、ラージは拍子抜け言いたげに肩をすくめた。

 マルクの様子がおかしいのはアルラも気が付いたらしく、少し俯いているマルクの顔を覗き込んだ。


 するとーー


「う〜っわ、何その隈!? 真っ黒じゃん! なに、緊張して眠れなかったの?」

「うわっ、マジでえらいことになってんぞ。もしかしてワクワクして眠れなかったとかかぁ?」


 心配そうに見つめるアルラと、揶揄(からか)うようにニヤつくラージ。そんな2人に一瞬鬱陶しそうな目を向けたマルクだが、その視線はすぐに外し、代わりに目頭をキュッと押さえつけた。


「緊張もある、ワクワクもしている、それは確かに間違いないが、この隈はそれとは別だ」

「別? 遅くまで遊んでたとか?」

「そういえば、昨日マルクの部屋の方から大きな音がしていたなぁ。もしかしてそれが原因か?」


 マルクは昨晩のことを思い出しながらため息をつく。


「あぁ、実は昨夜俺の部屋の窓に飛行系魔物が何匹も襲ってきてな。窓を突き破ろうと何度も何度もくちばしで突いてきやがるせいで寝れやしなかったんだ。んで、ガンガンガンガンウッせぇから聖剣を使って襲ってきてた奴らを討伐したんだが……その後も何匹も襲ってきやがったせいで全く寝れやしねぇ」


 窓を叩く音がまだ頭に残ってしまっているマルクは、眉間に皺を寄せながら頭を掻く。寝れていないこと、そして睡眠を魔物に邪魔されたことが相当なストレスでなっているようで、無意識に足を何度も揺らしている。


「魔物がねぇ。私たちのとこには1匹もこなかったけど、なんでだろ?」

「まるでマルクの部屋に引き寄せられたみたいだな。もしかしてマルク、餌と勘違いされたかぁ?」

「笑えない冗談はやめろラージ。その思考に至る度に腹が立ってくるんだ」


 苛立ちを込めた眼差しを仲間に向けるマルク。元の目つきの悪さに今は目下の隈が追加され、さらにその威圧感を増している。


「わ、悪かったよ、そんな怒んなって。冗談だろ? しかし、餌とかじゃねぇんならマジでなんなんだろうな? 魔物が引き寄せられる……話に聞いてた聖剣の呪いみてぇだ」

「……ッ! 聖剣の呪い……」

「それ私も思った。まぁこの件が呪いのせいってのはないんだけどね。それを証明するためにわざわざ使えないゴミをパーティーに入れてたんだから。ね、マルク」


 アルラに尋ねられたマルクは、呪いという言葉に一瞬頭を悩ませる。そしてぶつぶつと小声で呟いていた。


「聖剣の呪い、そんなのはあるはずがない。それはあいつを使うことで証明されたんだ。もしかしてあいつは呪いを受けない体質? いやそんなはずは……くそっ、もう1人くらい使って実験するべきだったな。早まったか?」


 マルクとて聖剣の呪いはないと思っている。それはほぼ確信のレベルでだ。しかし、昨夜の出来事がその確信を若干とはいえぐらつかせているのも事実だ。

 そんな彼に対し、ゼルのスキルが呪いを無視できるものだと当然知らないアルラとラージは、これが聖剣の呪いによるものだとは全く思わない。なぜならそれはゼルを使って実証済みだと確信しているからだ。


「おいおい気にすんなよ。昨日がたまたまだっただけさ。それとも何か? あの雑魚に呪いをどうこうする力があったってか? オレは流石にそうは思えねぇな」

「そうそう、あんなゴミにそんな力ないよ。それにクビを宣言したときにあいつの顔、あれは演技とかじゃなさそうだったけど? マジで惨めだったし」


 2人の言葉を受けたマルクは聖剣を見つめながら考える。これは本当に呪いの剣ではないのか? と。


「(ゼルの野郎にそんな力はないはず。スキルは無視だ、あのゴミスキルにそんな力があるとは到底思えない。それにラージのいう通りたまたまという可能性は否定できなしな)……今はそんなこと考えるだけ無駄か」


 欠片ほどの疑いも持っていない2人の言葉を受け、若干の蟠りを残しつつも納得したマルクは、とりあえず一旦聖剣の呪いの有無については忘れ、これから始まる自分たちを讃える式典の開始を待つことにした。


 気持ちを切り替えてから暫しの時を経て、3人が談笑をしていると、部屋の扉が4回ノックされる。そしてそのノックに追随するよう外から声が投げかけられた。


「皆様、式典の準備が完了致しましたので、お呼びさせていただきに参りました」


 その声に反応しマルクは扉を開けると、そこに立っていたのは眼鏡をかけた青髪の男。腰に長細い剣を提げ、前をベルトで止められた軍服を着ている。その軍服の胸には、十字の剣を象った徽章が付けられていた。

 見覚えのない顔に対し、マルクは素性を尋ねる。


「あんたは?」


 名を尋ねられた青年は、1歩足を下げながら頭を下げる。


「申し遅れました。私、王国直属騎士団団長ーーカヌマ・パトリエと申します。これより騎士団はあなた方勇者パーティーの忠実なる部下となります故、どうぞお見知り置きを」


 この挨拶で自分たちの部下になる男なのだと知ったマルク達は、一気に調子に乗り出しながら部屋を出る。


「なるほどオレたちの部下か! これからはオレたちの足を引っ張らないよう精進しろよ! はっはっはっ!」

「そうそう。魔王倒せんの聖剣持ってるあたしらだけなんだからさ、せいぜい命懸けで守ってよねぇ」

「ま、そういう訳だ。よろしく頼むぜ」


 通り過ぎざまに全員に肩を叩かれたカヌムは、僅かだがその肩を見つめ、そして眼鏡を指で掛け直した。マルクたちの方に向き直り、穏やかそうな笑顔で対応をする。


「……はい、よろしくお願いいたします。(冒険者風情がたまたま剣を見つけただけで偉そうに……聖剣の七光のくせに、自分たちがすごい人物だとでも思っているのか? こんな奴らが勇者とは伝説が泣く)」


 マルクたちの大きな態度に苛立ちを覚えながらも、流石にそれを顔に出すことはせず、冷静に対応にあたるカヌム。


「それでは勇者様方、会場までご案内いたします」


 彼らを扇動しながらカヌムは王から賜ったとある命を思い出していた。それは勇者たちに関するとある命。彼は現在その命を下すべきなのかという判断も任されている。


「(王よ、貴方の命、すぐに実行することになりそうです)」


 うっすらと笑みを浮かべる彼の顔を、ベラベラと話しながらついていく彼らに気づく術はない。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ