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見つけた呪い

 結界が破れ、魔物に襲われていたミシェルちゃん。彼女を囲む魔物に相対した俺は、短剣を構えた。


「数はおおよそ20匹、見たところ機動力がありそうだな。さてどうする?」


 圧倒的数の不利。しかも背後にはミシェルちゃんもいる状態だ。これでは思い切り戦うこともできない。

 そんな時、正規の入り口から出てきた使用人さんが、大声を上げながら走り近づいてくる。


「ミシェルお嬢様〜!!!!」


 手を振りながら、無防備に近づく使用人さんに、魔物は反応を示した。視線を俺から移し、小さく唸り声をあげると、今にも使用人さんに向かい接近しそうな体勢をとる。


「まずい!(このままじゃあの人が! だけどここで剣を振ったらミシェルちゃんに)……仕方ない、ミシェルちゃん! ちょとごめん!」

「え、一体何を──ってっキャ!」


 俺は彼女を無理やり背中に抱え、使用人さんの元に接近した魔物の方へ全速力で近づく。そして鋭い歯が使用人さんの喉元を噛みちぎろうかと迫った時、俺は左腕を差し出した。


 そしてそのまま鋭い歯は俺の左腕を噛み付ける。肉が抉られ、燃えるように熱い。

 その攻撃に大きく声を漏らしそうになる。


「うぐぁっ! ……痛ったいなぁ!」


 左腕に噛み付いている魔物の首元に、俺は短剣を思い切り突き刺した。

 短剣を中心にして突風が巻き起こる。


「グギャァァァ!」


 魔物は耳障りな叫びを上げながら血を噴き出す。短剣から放たれた風に鮮血が舞い、とてもじゃないが子供に見せたい絵面ではないな。


 突きつけた魔物の声に反応し、その他19体が一斉にこちらに接近してくる。この状態でこの数相手は無理がある。


「悪いが今は、吹き飛べぇ!」


 迫り来る魔物たちを一旦退けるため、俺は魔物に突きつけた短剣を、その体を両断するように前方に振り払った。

 その瞬間、俺の想定通り前方に風が放たれ、迫ってきた魔物たちは後退を余儀なくされた。それと同時に俺に噛み付いていた魔物は霧散し、飛び散った血も消滅していった。


「はぁ、なんとかなったな。よし、今のうちにミシェルちゃんを安全なところに避難させないと」


 前方の魔物たちに意識を向けながら、俺は後方にいる使用人さんにミシェルちゃんを預ける。


「ミシェルちゃんをお願いします!」

「は、はい!」


 使用人さんは彼女を抱えると、一目散に屋敷の方に走っていく。これで気兼ねなく戦える。


 そう思った時、後方のミシェルちゃんから、大きな、震えた声が発せられた。


「あ、あの! その……腕……!」


 今にも泣き出しそうなその表情。魔物に襲われ、血飛沫を浴び、助かったとはいえ死にかけたのだ。そんな表情にもなろう。


 むしろ今泣いていないだけ強い子だと思える。


「ごめん、なさい……! あたしの、せいで」


 自責の念にどんどんとかられていくミシェルちゃん。

 俺は彼女に近づき、小さな頭をできるだけ優しく撫でた。


「安心して。俺があいつらを倒して、呪いの事件も解決して、この庭で安心して走り回れるようにするから!」


 その言葉を言い放った直後、吹き飛ばした魔物たちは憎しみに満ちたような瞳を向け、大量のヨダレと唸り声を漏らしながら一斉にこちらに飛びかかってくる。

 俺は背後にいる使用人さんに、大声で指示を出した。


「早く! ミシェルちゃんを連れて屋敷の中に!」

「は、はい!!」


 急いでもと来た道を走っていく使用人さん。抱き抱えられているミシェルちゃんはジタバタと暴れていた。


「ちょっと! なんであの人置いていくの! 絶対死んじゃうよ!」

「仕方ありません! 冒険者であるなら命を落とす覚悟くらいできておりますよ! それよりもまずはお嬢様の無事が最優先です!」

「そんな……!」


 どんどんと小さくなっていくミシェルちゃんは、その表情に不安を重ね、小さな手をこちらに伸ばしていた。

 恐らくあの子は、俺が死んだら『私のせいだ』と言って責め立てるだろう。


「あんな小さな子に、そんな思いさせらんないな」


 ズキズキと痛む左腕を庇いながら、俺は短剣を構える。そして、誰も死なせないため、威勢のいい言葉を言い放つのだ。


「さぁかかってこい魔物ども。1匹残らず通すかよ!」


 こうして俺は19対1という圧倒的な戦力差に、剣1本で挑むのだった。


 ✳︎


 ゼルさんがミシェルちゃんを救出しに向かってどれくらい経ったのだろうか? ワタシ達は屋敷のあらゆる場所を散策しているが、一向に呪いのアイテムは見当たらない。どれもこれもワタシのスキルに引っかからないただの高級品だ。


「ゼルさんが頑張ってくれているのに、ワタシが役に立てるのは鑑定する時だけなのに……!」


 そもそも、この一連の出来事は呪いのアイテムのせいではないかもしれないのだ。そうであった場合、依頼が達成できない上に、危険な状況は一向に解決しないという、最悪な場面になる。


 正直鑑定による目の酷使のせいで若干視界が霞んできたが、そんなことを言っている場合ではない。早く見つけないと。


「ご主人さん! 本当に心当たりとかはないんですか!? 


 屋敷のご主人さんは、曖昧な記憶をなんとか捻り出そうとしてくれているが、どうしても出ないらしく唸っている。


「う〜ん、先ほど言った壺、皿、宝石、指輪、ロケットペンダント、絵画、服。このどれかだとは思うのだが、その壺などがどの壺だったか……」


 こうなってはしらみつぶしに探すしかなくなる。ないに等しい記憶を頼りに行動していいことはないからだ。

 しかし時間がない。見つかる前にゼルさんが大変な目に遭ってしまってはワタシとしては意味がないんだ。


「(一体どうすれば? どうしたら見つけられるの? このままじゃーー)」


 わずかながらの諦めが浮かんでしまったその時、奥さんの方が何かを思い出したように声を上げた。


「そういえば、呪いが起き始めたのはロケットを購入してから1週間後、くらいだったと思うわ! その後に買ったのはロケットと指輪、それと壺だったと思うのだけれど」


「結構絞れましたね! あ、でも問題の壺は外れないんだ……」


 候補が半分以下になったことに歓喜しかけたが、物がたくさんある壺が候補から外れなかったのが痛い。

 結局これでは時間がかかりすぎてしまう。


「どうしよう……いや、どうしようじゃない! 早く探さないと!」


 ただでさえ時間がないかもしれないのだ。こんなところで落ち込んでいられない。


 ワタシは絞られた候補を探すため、再び足を進める。


 ーーと、その時だった。


「呪いが起き始めたのは、ロケットのせいよ!」


 大きな声でそう言い放ったのは、涙目で、肩で息をしながらこちらに走って来たミシェルちゃんだった。

 彼女は、自身の足の怪我など気にもせずワタシの元に近づき、服の裾を強く掴んだ。


「ミシェルちゃん!? ロケットのせいってどう言うことですか? あ、そういえば足の怪我、大丈ーー」


「あたしのことなんてどうでもいいのよ! それより、早くロケットを見にいってよ!! じゃなきゃあの人死んじゃう!!」


 ワタシの服を強く掴むミシェルちゃんは、小刻みに体を震わせ、せき止めていた涙を垂れ流しながら訴えかけてきた。


 この子の言うあの人とはゼルさんのことだろう。ゼルさんが危ない、その言葉と事実を知った時、ワタシはすぐさま行動を起こした。


「ミシェルちゃん、ワタシの背中に乗ってください! そして、ワタシをそのロケットペンダントのところまで案内してくれますか?」

「……うん! パパ、ママ、行ってくるね!」


 ご主人さんと奥さんはとても心配そうな表情をしている。当たり前だ。怪我をしている娘を動かすと言うのは、それだけで嫌な気持ちになるのだろう。


 しかしワタシは行かなくてはいけない。

 だからワタシは、力強い声色で宣言をする。


「安心してください! ミシェルちゃんにこれ以上怪我をさせませんし、呪いを解きます、外の魔物もゼルさんなら倒すので、安心してください!」


 胸に手を当て、必死に言葉を投げる。そんなワタシの言葉を支えるように、背後のミシェルちゃんは潤んだ瞳を両親に向けている。


 そして、その思いが届いたのだろう。ご主人さんは小さく息を吐くと、同じくらい小さく頷いた。


「お願いします。しかし、妻のスキルで見ることだけはご了承願いたい」

「はい、もちろんどうぞ! それじゃあ、行ってきます!」


「お姉ちゃん! まず2階に上がって!」


 奥さんが目を閉じた、つまりスキルを発動したのと同時に、ワタシとミシェルちゃんはロケットの元へと走る。坂道ダッシュが効いたのか、全速力で走り続けられた。


 そして数分後、ようやく件のロケットペンダントを発見する。中を見ると、幸せそうな加速の写真が入っていた。


「お姉ちゃん、それ呪いのアイテム、なの?」

「待ってくださいね…………よかった! 呪いのアイテムだ! なになに、効果は……なっ! 何ですかこの効果」


 呪いのアイテムを発見したのも束の間、ワタシはその呪いの効果に、思わず声を漏らした。


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