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幼児を狙う牙

 呪いのアイテムを探すため、主人の案内のもと屋敷を捜索していた俺たち。

 何かきっかけがわかれば早かったのだが、主人や奥様は何が原因なのか心当たりがないのだという。


 そのため、結局は屋敷にある壺やら家具やら、あらゆるものという物をしらみ潰しに鑑定していくしかなかった。


「エノ、目は大丈夫か? ずっと凝らしているのは疲れるだろ?」

「大丈夫ですよ。まだいけます!」


 俺の問いに対し微笑みながら返答するエノ。疲れていないはずはないと思うのだが、彼女の言葉を否定して止めるのも少し違うだろうと思い、言葉を飲み込んだ。


 それにしてももとよりそういうものだとはわかっていたものの、今回俺は本当に何もしていない。その上で無理をさせているのだろうから気が引ける。


「最近購入したもので怪しかったものや、いつもとは違う場所から入手したものなどはありませんでした? もしこの短剣と同じ製作者のものであるのなら、盗まれてどこかに売られていた可能性もあるので」


 俺は少しでも役に立つため、なんとか有益な情報を聞き出そうと主人を尋ねる。

 主人は隣を歩いている奥様と顔を見合わせ、あれだろうかこれだろうかと色々話し合ってはいるが、どうしても答えが見つからなかった様子。そしてもうわけなさそうにこちらに顔を向け直した。


「あまりピンとくるものがなくてね。申し訳ないが物を買う時は基本衝動なんだ。あまり考えて買ってはいなくてね。すまない」

「いえいえ。そもそも本当に呪いのアイテムによるものなのかもまだ確定してないので。一応先ほどの話に上がった物を教えてもらっていいですか? もしかしたらそこにあるかもしれないので」


 こうして主人からいくつか可能性のありそうな物を教えてもらう。

 壺、皿、宝石、指輪、ロケットペンダント、絵画、服など。


「結構たくさんあるんですね。この中で件の呪いをかけそうなものは……指輪とか絵画かな?」


 しかしこれはあくまでも予想でしかなく、根拠はほとんどない。

 なんとなくのイメージでしかないのだ。


「まぁものは試しだ。すいませんが宝石の場所に案内してもらえますか?」

「あぁ構わないよ。それでは早速──ぅっ!」

「な、どうしましたか!? 何が急に」

「少々お待ちください」


 言葉の途中で急に悲痛の声を上げた主人。そしてこれまたいきなり膝を抱えながら座り込み始めた。それと同時に使用人の1人がどこかへ走っていった。救急箱を取りに行ったのだろう。


「今度は膝か……」

「あら、またですか。あの子ったら何してるのかしら」


 困惑する俺たちとは真逆に、なんだか慣れた様子な主人と奥様。奥様はまるで皿が割れた程度のように落ち着いて、主人のズボンをまくり上げ、膝を露出させた。


 するとそこでは、そこまでひどくはないものの、転んで擦り切ったような跡ができている。明らかに今できた傷だ。


「これが、呪い……!」

「本当に突然現れるのですね。驚きです」


 何か予兆があるわけでもなく、本当にいきなり傷が生まれた。いつ傷つくのかわからないというこの現状に過度なストレスを感じ、食欲が落ちるのも無理はない。


「この傷は娘さんが作った傷、なんですか?」

「あぁ、この呪いがかかるのは私たち家族だからね。屋敷にいる使用人たちの傷は共有されないんだよ」


 今の発言から考えて、この傷の発生元は娘さん、ミシェルちゃんだということは確定した。先ほどの口ぶりから他に子供がいるということはなさそうである。


「家族にだけ発動する呪い。絵画とかの設置型であればこの屋敷全体を呪いそうだし、やっぱり指輪のような個人でつけるアイテムなのか? にしてもなんで家族だけ……」


 考えれば考えるほど頭が混乱してきた。結局呪いのアイテムを見つけることでしかこれは解決しないらしい。

 とはいえこれが単なる呪いであった場合、ミシェルちゃんに言われた通り、『お役に立てずに申し訳ない』と言って立ち去ることしかできなくなる。これはある種賭けなのだ。


「そういえば、娘さんは今どこに? どこかで転んでしまっているということですよね?」

「そうだね。あの子が泣いてないか心配だ。すまないがカルネ、スキルであの子の様子を見てくれないか?」

「えぇもちろんよ。少し待っててね」


 奥様はそっと目を閉じる。千里眼というスキルを使うための動作なのだろう。

 主人は奥様がスキルを使うのとほぼ同時に戻ってきた使用人に手当てをしてもらいながら自身の妻をじっと待つ。


 ──とその時だった。奥様は勢いよく目を開眼させ、いきなり狼狽え始める。そして震えながら主人に抱きついた。


「どうしたんだカルネ? 客人の前で──」

「あ……あの子……ミシェルが……!」


 自分の伝えたいこともままならない奥様。俺が声をかけようと思ったが、それでは何も変わらないと判断した。

 そのため主人に用件を伝える。


「奥様に何があったのか聞き出してもらえませんか? 娘さんが危険な状況かもしれません!」

「わ、わかった。カ、カルネ、一体何があったんだ? ミシェルがどうしたんだ?」


 出来るだけ落ち着いた声色で語りかける主人。相変わらず涙を浮かべながら震えていた奥様だったが、途切れ途切れながらも自身が見た光景を告げる。


「ミシェルが、転ん、でて……その……結界が破れて、目の前に小さいけど魔物の影が……ぁ、ミシェル……!」

「まさか、結界が破れるだなんて! ……そういえば、この間ミシェルが引っ張った時はまだ呪いがなかった」


 どうやら呪いで強化された体は、結界を破るには十分すぎる物だったらしい。

 今の話を聞くに、ミシェルちゃんは転んで結界を破ってしまい、破ってしまったという罪悪感、そして近づいてくる魔物の気配に怯え動けなくなっているのだろう。


「結界の場所はどこですか!? 俺が近づく魔物を討伐します!」

「しかし、娘が原因のことで君を巻き込むわけには──」

「──死にますよ」


 恐らくこの人は善意で言っているのだろう。しかし、そんな甘ったれた考えが家族を殺すのだと、身に染みる前に知らなくてはいけない。


「魔物は人を殺す。躊躇なく、残酷に。このままだとあの子は死ぬ。そして呪いのかかっているあなたも一緒にね。そして残った奥様は絶望し命を絶つでしょう。あなたのその甘い考えが、家族を殺すぞ!」

「……ッ!」


 少々きつい物言いになってしまったが、後で謝罪でもすればいい。まずは考えを改めてもらうことが最優先だ。


 この思いが届いたのか、主人は眉間に皺を寄せながら近くの使用人に命令する。


「君、ゼル君を結界の下まで案内してくれ!」

「かしこまりました! こちらです」


 俺は使用人案内のもと、結界に向かって駆け出した。その時、背後から2人の声が投げかけられた。


「娘を、頼む!」

「お願い、します!」


 屋敷の主人とその奥様が一介の冒険者に頭を下げる。それほどまでに大事な存在なのだと確認し、改めて絶対に守らねばと決意した。

 そして俺は万が一に備えエノに指示を出す。


「エノは引き続き呪いのアイテムを探してくれ! 主人に傷が連動するリスクは避けられるのなら避けたほうがいい」

「わかりました! こっちは任せてください!」


 その言葉を受け、俺は使用人と共に結界の元へと向かった。広い屋敷ということもあり、想像していたよりも時間がかかってしまった。

 5分ほど走った頃、もうすぐ着くという使用人の言葉を受けた俺は、走りながら窓も外に視界に移した。その時、数匹の魔物がミシェルちゃんに近づいている様子を発見した。


 その魔物は全身黒い毛に覆われており、手が長く4足で歩いているものもいれば、2足でにじりよるモノもいた。そして赤い瞳でミシェルちゃんを見つめるその目は、まさに獰猛(どうもう)という言葉が当てはまるものだ。


「背に腹は替えれないな。使用人さん!」

「は、はい!」


 使用人は目の前の光景を認識するも、戦う術がないのだろう。ただ震え怯えるのみだった。

 左手を見れば小さくだが扉が見える。恐らくあれが結界に一番近い扉なのだろう。しかし、今はそんな場所にまで言っている時間はない。


 俺は呪いのアイテムである短剣を懐から取り出し、壁に向かって振りかぶった。


「弁償は後でしますので! ご容赦を!!」


 近くにいるミシェルちゃんに吹き飛ばした残骸が当たらないよう、ガラス窓に対し上に掬い上げるように斬り上げた。

 割れた窓ガラスは発生した風に乗って宙を舞い、運よく彼女を取り囲む魔物たちに直撃する。

 突き刺さり血を流す魔物たちは、2・3歩後ろにのけ反った。


「ヒッ! 今度はなんなの!? 怖いよぉ……パパ……ママ……!」


「パパとママじゃなくて申し訳ない」

「ッ! あんた……!」


 倒れたまま泣きじゃくるミシェルちゃんのそばに飛び移り、できるだけ優しい声色と表情で頭を撫でた。


「もう大丈夫だ。お兄ちゃんが君をこいつらから守ってみせるよ! 安心して。もう俺の前で──誰も魔物に殺させない……!」


 俺はミシェルちゃんの頭から手を離し立ち上がる。そして、怒りの眼差しとともに眼前の魔物に刃を向けるのだ。

 無力(ガキ)だった頃に立てた誓いを果たすために。

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