1話 スキル《無視》の青年、追放される
「ゼル、お前はもう必要ない。さっさと荷物をまとめて出ていってくれ」
宿の宿泊中、俺の所属するパーティーリーダーのマルクに突然飛び出され、これまた突然衝撃的な言葉を投げられた。
マルクは男性にしては長い金の髪を耳にかけながら笑っている。彼の背後には、同じパーティーメンバーである大男のラージ、そして紅一点のアルラもいた。
「あ、あの、出てけってどういう……しかもなんで今日なんだよ? 明日はようやく……!」
マルクの発言を理解したくない俺は、たどたどしく疑問をこぼす。そんな俺に、マルクは嘲笑を向けながら答える。
「言葉が伝わんなかったか? 追放、消えろ、去れ、クビ、邪魔、不要、なんて言えば伝わる?」
「……ッ! もういいよ、わかった。でもなんでだ? 何がいけなかったんだ? 今更償うのは無理かもしれないけど、せめて謝罪させてくれ」
マルクがあそこまでの言葉を並べ、俺をパーティーから外すと告げる。そこまでいうのだから何かしらの原因があるのだと思った。そしてその理由はおそらく俺にあるのだろうと。
その原因を知り、謝罪し、できれば残留させて欲しかった。なぜなら明日は、俺が子供の時から目標だったものになれるのだから。
マルクは嘲笑を浮かべながら返答をする。
「謝罪ねぇ。やっぱ気づけてなかったんだな。まぁいいさ。これまで貢献してくれた礼だ、順を追って説明してやる。まず、明日は何の日だったか覚えてるか?」
「あ、当たり前だろ。明日は俺たちのパーティーが国直属の魔王討伐パーティー、通称『勇者パーティー』に選ばれたことを国民に知らせる就任式だ。忘れるわけがない」
この世に魔物という人々に害をもたらす生物たちを生み出す存在、『魔王』。その魔王を討伐するパーティーに俺たちは選ばれた。逆に言えば、それ以外のものは魔王を討伐することができない。
それはなぜか、しごく単純なことである。単純に倒す手段が存在しないからだ。
マルクは話を続ける。
「そうだ。俺達は名誉ある称号を手に入れる。そして、お前が腰に提げているものはなんだ?」
「これは……聖剣だ」
今俺が身につけている大剣。これは聖剣といい、この世で唯一魔王を倒すことのできる武器だと言われている。何百年も深い森の奥に隠されていたこの剣を見つけ、手に入れたことで俺たちは勇者パーティーに選ばれたのだ。
そんな聖剣をなぜ俺が所持しているのか? それは、この剣を手に入れた時、『ゼル、この聖剣はお前に任せるぞ』そう言われたからだ。冷静に考えればこの時点でおかしいのだが、仲間に信頼され、頼られたということが嬉しく、そこを考えることをしなかった。
「そうだ聖剣だ。そんな大事なもんをなぜお前に持たせ、使わせていたか分かるか?」
「それは、俺を信頼してくれてたからじゃ──」
その時、マルクの背後から大きな笑い声が漏れ出した。それはパーティーの紅一点、アルラからだった。
アルラは肩を大きく、そして何度も揺らし、黒く長い髪と体を震わせている。口元を手で押さえているが、その嘲笑は止まることなく溢れ出している。
「アルラ……お前何を笑ってるんだ? 何が、おかしい?」
「ぷふっ……ぷははははははっ! ごめんもう無理! 我慢できない! し・ん・ら・い! はははっ! してるわけないじゃんっ!」
アルラはとうとう堪えようともせず、腹を抱えて笑い始めた。その光景を見た瞬間、俺の中でグシャリと何かが壊れていく音がした。
「おいおいアルラ、そんな笑って──ぷっ! 笑ってやんなって。可哀想だろ?」
そう言って彼女の肩を叩いたのは筋肉が肥大しすぎている大男、ラージ。笑うなといった彼だが、一瞬吹き出したことと、現状で体が震えていることからその言葉が薄っぺらなものだと簡単にわかった。
さらに腹を抱えるアルラは、なおも大笑いをしながら残酷な言葉を告げる。
「だってさぁ、あんたみたいな雑魚信頼するわけなくない? あんたのスキル、なんだっけぇ? ゴミとか?」
ニヤニヤと嘲笑を浮かべながらにじり寄るアルラ。確実に煽っているその声色は、とてもじゃないが仲間に向けるものではない。
俺は彼女の質問を受け、拳を背後でそっと握りしめた。奥歯を噛み締め、眉間に皺を寄せる。そしてしばらくの間の後、小さく答えを呟いた。
「『無視』、だよ」
「そうだ無視だぁ! 自分より雑魚の魔物に気づかれなくなるってだけの雑魚雑魚スキル! いやぁほんっとかわいそ〜」
スキル、それは10歳ごろになると全ての人に発現する固有の能力。その能力の名は右腕に刻まれる。
このギフトの強さが個人の強さだと言われている世界において、俺の無視は雑魚と言われるに確かなものであった。
これが発現した時は絶望したものである。
しかし腐るままではなく、できるだけこのスキルを使えるものにするため、俺は鍛錬を積んだ。その甲斐あってか、剣の腕や体術だけならそこそこの強さがあるが、結局のところ強スキル持ちには敵わない。
俺が打ちひしがれていると、永遠に笑い続けるアルラを下げ、マルクは話を続けた。
「今のアルラやラージを見てわかったとは思うが、俺たちはお前のことを仲間だなんて思ったことはない。初めからな。ではなぜそんな奴に聖剣を持たせたか、それは聖剣によからぬ噂があったからだ」
「よからぬ、噂? なんだそれは? 聞いたことがないぞ」
「そりゃそうさ、普通は耳にすることなんてない。俺だってたまたま手に入れただけでな。で、その噂だがな、その聖剣には呪いがかかっていると言われている。使用者の力を大幅に上げる代わりに、魔物を大量に呼び寄せるというな」
ここまで聞いて、俺は理解した。俺がパーティに入れたわけ、そして聖剣を持たされていた理由。
わかったからこそ、もう聞きたくない。他人の口から正解を告げられたくない。
そんな思いは、マルクに届くはずがない。彼は容赦なく残酷に言葉を告げた。
「お前は、その呪いが本当なのかどうか確かめるため、お前を実験台にさせてもらった。いやぁ探すのに苦労したんだぞ、いい人材。適度に強く、パーティーを組んでいない、そしてお前には身内がいないときた。完璧だと思ったよ、感激した。だから俺はお前に声をかけたんだよ『一緒にパーティーを組まないか?』ってさ」
その瞬間、ずっと鳴り響いていた鈍い音は止んだ。砕け切ったのだ。
絶望感とはこういうことをいうのだと体感する。もはや怒りなど感じず、自分に対して馬鹿らしくなってくる。
俺は俯きながら、気づけば小さく言葉を漏らしていた。
「俺さ、嬉しかったんだよ、パーティーに誘ってくれて。それまで誰も組んでくれなかったからさ。聖剣を預けられた時、本当に受け入れてもらえたんだと思った、泣きそうになったよ。……でも、全部嘘だったんだよな?」
「あぁ、嘘だ。俺たちはお前を仲間だとは思っていないし、聖剣は文字通り預けただけだ。ほら、返してくれ。力ずくは、お互い嫌だろ?」
甘い表情で微笑みながら手を差し出すマルク。女性を落とす甘い笑顔だが、今の俺には悪魔の微笑みにしか見えない。
背後のアルラとラージもニヤニヤとこちらを見つめている。
一瞬聖剣を持ったまま逃げようかとも思ったが、強ギフトを持つ彼らに勝てるわけがない。一瞬で捕まり、殺されるのが安易に想像できる。
「わかったよ、返す」
俺は腰から剣を離し、マルクの手に乗せた。大剣を外したというのに、俺の体は重いままだ。
聖剣を受け取ったマルクは、鞘から刀身を露わにし、こちらに向く。
「この柄にある青い石に血を擦りつけりゃ契約成立だっけか?」
「あぁ、そうだよ」
もうどうなろうが知ったことではない。俺は正直に答えを教える。
マルクは指先を少し切り、流れる血を青い石に押しつける。すると、先ほどまで青いだけだった石は目映い青の光を放った。マルクを新たな契約者と認めた証だ。
瞬間、マルクの強さが跳ね上がったのを肌で感じる。それはアルラとラージも感じたらしく、先ほどまでのニヤついた表情とは打って変わり、目を丸くしていた。
「す、すげぇ! これが聖剣の力ってやつか! さすが伝説の武器だぜ」
「ほんと、今まででも十分強かったのに格段に成長してる(でもなんだろ? あの雑魚が契約した時の方が成長度はすごかったような……気のせいよね)」
追放宣言を受け、理由を聞き、聖剣を返した。もうこれでここにいる理由は皆無だ。俺は踵をひる返し、宿を出ようとした時、マルクから呼び止められた。
「おいゼル、よかったらこれを持ってけよ。餞別ってやつだ」
そういうとマルクは1本の短剣を投げ渡した。刃先から柄まで全てが漆黒の短剣。見た目の判断だが、とても高価そうなものだった。
「これは……?」
「この間盗賊連中を捕らえたろ? その時の戦利品さ。なんでも、腕のいいドワーフが作ったものらしい。一級品だ。お前、聖剣使っててろくな武器持ってないだろ? やるよそれ」
そんな貴重なものをなぜ追放する人物に渡すのか分からなかったが、まともな武器を持っていないのは事実だ。ここはもらっておくしかない。
俺は徐に短剣を懐にしまい、今度こそ部屋を出た。
「ありがとうな。有効に使わせてもらうよ。……それじゃあ」
こうして俺は最後の別れを告げ、部屋を出た。この宿に泊まっていたが、流石にもう無理だ。
俺は宿も出て、泊まる場所を失う。
そこで俺は、知り合いが経営している隣町の宿に向かうことにした。すでに当たりは暗かったが、そこ以外に今の時間から泊めてくれそうな場所を知らない。
2時間ほど歩き、ようやく件の宿に到着する。ダメもとで扉を叩いた。
中から出てきた女性経営者、ロジャは、一瞬困惑した表情を浮かべたが、何かを察したのか泊てやるといってくれた。
その好意に甘え、俺はすぐに部屋に行き、倒れるように寝転ぶ。
そして眉間に皺を寄せながらたった一言呟いた。
「──くそ」
俺は静かに天井を見上げるしかなかった。
✳︎
ゼルが出て行った直後、マルクたちは先程の部屋で話をしていた。
「なぁマルク、あんな高そうな短剣くれてやる必要なかったろ? もしかして道具に情でも湧いたか?」
「バカねラージ、偽物に決まってるでしょ。じゃなきゃただの実験体にくれてやる意味なんてないもの」
それもそうか、とラージは頷く。しかしその推測をマルクは微笑みながら否定する。
「いいや、ありゃ本物さ。本当に一級品だよ。保証する」
「はぁ? まじでなんであんな奴に!」
「そうよ、短剣なら私とかにくれてもよかったでしょ?」
なぜゼルにくれてやったのかと軽く揉める2人。そんな彼らの考えなど予測していたと言わんばかりに、マルクは肘を突き、余裕の態度を見せる。
「そう慌てんなよ。実はな、あの剣には呪いがかかっている。聖剣とは違いマジもんのな。その呪いは『斬った対象と同じダメージを使用者も受ける』というものだ。盗賊どもで試したから間違いない」
その言葉を聞いた2人は、少しの間の後、顔を見合わせ、互いに笑い合った。
「はははっ! つまりその短剣で魔物を殺しゃ、自分も死ぬってわけか!」
「はははははっ! ほんとあんたって性格悪っる!」
腹を抱えて笑う彼ら。そんな彼らをと共に微笑を浮かべ、マルクはそっと1言呟いた。
「これで、お前の死因は自業自得だ。魔物と戦って死ぬ、冒険者らしい最後じゃないか」
使用すれば死ぬ。そんなものを持たされたとは知らないゼルを、彼らは一晩中嘲笑し続けるのだった。
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